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「中国政府に逆らうわけにはいかない」IOCが女子テニス選手の安全を一方的に宣言したワケ

プレジデントオンライン / 2021年11月27日 11時15分

中国の女子プロテニス選手、彭帥さん(右)とテレビ電話で会話する国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長=IOCウェブサイトより - 写真=©IOC/Greg Martin

■不倫告白の投稿後、彭帥さんは消息不明となった

中国の前の副首相との関係を告白したのち、行方が分からなくなっていると伝えられている女子テニス選手・彭帥(ポン・シュアイ)さん(35)について、国際オリンピック委員会(IOC)は11月21日、トーマス・バッハ会長がテレビ電話で30分間にわたって話し、「無事を確認した」と発表した。

IOCの発表によれば、彭さんは「北京の自宅にいる。安全で健康だ」と説明したうえで、「いまは私のプライバシーを尊重してほしい。友人や家族と過ごしたい」と話したという。さらにバッハ会長は、北京オリンピック開催前の来年1月に北京市内での夕食に彭帥選手を誘い、本人も受け入れたという。

彭さんは、自分のSNSのアカウントに「(中国の)元政府高官と不倫の関係にあった。性的関係を強要されたこともある。彼が天津市の首長だったときに関係ができた。彼からは引退後に再び連絡が入り、テニスをした後、彼の自宅で再び関係を持った」という投稿後、消息不明となり、安否が心配されていた。

■「家で休んでいるだけ」というメールを公開したが…

事実関係をあらためて振り返ってみよう。11月2日、彭さんは中国版ツイッターの微博(ウェイボー)の個人アカウントで、張高麗(ジャン・ガオリー)前筆頭副首相(75)と不倫関係にあったと投稿した。すぐにアカウントは削除されたが、この話題はネット上に拡散した。

中国外務省の汪文斌(ワン・ウェンビン)副報道局長は翌日3日、投稿の内容について「私は聞いていない。これは外交問題ではない」と強調した。

張氏は2012年~2017年にかけ、習近平(シー・チンピン)政権の最高指導部メンバーである中国共産党の政治局常務委員を務めた政府高官だ。一方、彭さんは2013年のウィンブルドン選手権と翌年の全仏オープンの女子ダブルスで優勝し、ダブルスでは元世界ランキング1位という著名選手だ。

元政府高官と著名女子テニス選手の不倫関係。普通の国であれば大騒ぎになる事案だが、中国国内では告白騒動はまったく報道されず、ネット上の関連情報もすべて遮断されている。

さらに中国国営中央テレビ(CCTV)系列の中国国際テレビ(CGTN)は、彭さんのものとするメールをツイッターで公開した。そこには「私は行方不明ではなく、安全でない状況でもない。家で休んでいるだけで、全て順調だ」と記されている。

こうした中国当局の説明を信じることはできない。中国は香港や新疆(しんきょう)ウイグル自治区での人権弾圧が国際問題になっている。人命を軽視し、党や国家を重視するのが中国にとって当然の行為なのだ。それだけに彭さんの安否が懸念される。

■IOCも中国も北京五輪が危ぶまれることは避けたい

女子プロテニスを統括する女子テニス協会(WTA)は11月14日、問題の投稿に対して「深い懸念」を示し、中国政府に真相を調査するよう求める声明を発表した。アメリカ政府や国連人権高等弁務官事務所も彭さんの安全に関し、懸念を表明した。

IOCも最古参の委員が来年2月の北京冬季五輪開催について言及し、「人権の問題であり、すぐに良識的なやり方で解決しなければならない。IOCが厳しい態度を取る可能性がある」と語った。だが、その後IOCは、バッハ会長がテレビ電話で彭さんと会話し、「健康で安全だ」と発表した。

IOCも中国政府も、北京冬季五輪開催が危ぶまれるような事態はなんとしても回避したい。IOCは五輪でカネを稼ぎ、中国は五輪で世界に権威を示そうと考えている。両者の利害は一致している。IOCは中国に協力して火消しに動いたのだろう。実際、テレビ電話には中国のIOC委員も参加していた。彭さんがどこまで自分の気持ちを伝えていたかはかなり怪しい。

中国・北京の人民大会堂
写真=iStock.com/tcly
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tcly

■「IOCは中国政府との共通の利益を重視している」

アメリカ国務省のネッド・プライス報道官は11月22日の記者会見で「彭さんについて注目している。(テレビ電話での)彭さんの言葉が強制されたものかどうかは現時点で確信できない」と述べた。下院外交委員会の共和党トップのマイケル・マコール議員はこの日IOCを批判する声明を出し、「IOCは中国共産党による彭さんの虐待に加担した。選手を守ることよりも中国政府との共通の利益を重視している」と訴えた。

こうした批判に対し、中国外務省の趙立堅(ジャオ・リージエン)副報道局長は23日の定例記者会見の中で「悪意のある騒ぎ方は止めてもらいたい。今回の騒動を政治問題化してはならない」と強調した。

今回の騒動には「中国内部の権力闘争」との見方もある。習近平国家主席が自らの権力を固めるために李克強(リー・クォーチャン)首相の排除に動いており、李氏との関係が強い張高麗氏が標的となり、彭さんとの不倫関係を利用されたというものだ。しかし、辻褄の合わないこともあり、真相はやぶの中だ。

■「このまま事態を幕引きすることは許されない」と読売社説

11月25日付の読売新聞の社説は「テニス選手告発 疑惑を深める中国の情報隠し」との見出しを掲げ、「中国の人権抑圧や言論の封殺に対する国際社会の批判を、中国自らが情報隠しによって増幅させている形だ。このまま事態を幕引きすることは許されない」と書き出す。

「情報隠し」「人権抑圧」「言論の封殺」は、中国・習近平政権の体質を象徴している。日本や欧米を中心とする民主主義国家は、ひとつになって中国に強く抗議すべきだ。

天安門広場
写真=iStock.com/The-Tor
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/The-Tor

読売社説もIOCの対応を批判し、「極めつきは、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が彭さんとテレビ電話で話したことだ」と書き、「北京冬季五輪への悪影響を避けたい立場で中国とIOCは一致しており、IOCが助け舟を出したのではないかとの疑念は残る」と指摘する。

■「IOCは中国政府とどう事前調整したのか説明すべき」

そのうえで読売社説は「IOCは、テレビ電話がどのような経緯で行われ、中国政府とどう事前調整したのかについて明確に説明すべきだ」と主張するが、彭帥さんの安否を気遣う世界中の人々もそう感じているはずだ。

読売社説は「中国では、体制に批判的とみなされた人権派弁護士らが当局の監視下に置かれ、情報発信や外部との接触を禁じられてきた」とも指摘し、最後にこう訴える。

「国際社会は、彭さんの件も同様の事例だとみている。中国政府が宣伝工作に努めても、根深い不信は解消されそうもない」

中国・習近平政権は専制主義や覇権主義を肯定し、攻撃的な戦狼外交を貫く。ここは前述したように民主主義国家が一致団結して中国包囲網を築き上げ、習近平政権を国際的に追い込むべきである。

■「彭帥選手問題 異様な国だと再認識せよ」と産経社説

11月23日付の産経新聞の社説は「これを黙って信じろという方が無理だろう。全ての事柄が政権の都合に左右される中国という国の異様性が浮き彫りになるばかりである」と書き出す。見出しも「彭帥選手問題 異様な国だと再認識せよ」である。なるほど言い得て妙だが、いまの中国は「異様さ」そのものである。

産経社説もバッハ会長と彭帥さんとのテレビ電話を取り上げ、こう指摘する。

「通話には中国の李玲蔚IOC委員も加わり、性的暴行の被害については言及すらなかった。来年2月の北京冬季五輪を前に現地入りするバッハ氏は北京での夕食に彭帥さんを招待したという。だが会見場所はIOC本部のあるローザンヌなど、自由に発言できる中国国外でなければ疑念は払拭(ふっしょく)できない」

性的関係の強要について国際社会は懸念している。そこに触れないIOCは見識が疑われる。

産経社説は「男子テニス世界1位のノバク・ジョコビッチや女子の大坂なおみも彭帥さんを心配する声を上げていた」と指摘するが、バッハ会長がテレビ電話で話せたのは、中国政府の思惑通りにIOCが動いたからではないか。

産経社説は「五輪本番を控えてIOCはこれまでも、新疆ウイグル自治区の人権問題などについても直接的な批判を避けてきた。IOCの弱腰は中国に利用されるだけだ」とも指摘する。

新型コロナの流行拡大の兆しが日本国内で出ているなかで、IOCは東京五輪を決行した。IOCの目的はオリンピックの開催で得られる巨額の富の獲得にある、と言っても過言ではない。習近平政権はそこを十分に理解してIOCを利用したのである。

■日本も北京冬季五輪の「外交ボイコット」を検討すべきだ

産経社説は書く。

「米国のサキ大統領報道官が『米国は性的暴行の告発は捜査されるべきだとの立場だ』と強調し、『中国は批判に対する寛容さが全くなく、声を上げる人を黙らせてきた』と非難した。国連人権高等弁務官事務所の報道官は『彼女が訴えた性的暴行についての透明性のある調査を求める』と訴えた」

性的被害なのである。強制捜査にまで踏み込まなくとも透明性のある調査が間違くなく必要だ。

産経社説は最後に日本の対応をこう批判している。

「心もとないのは21日のテレビ番組でこの問題を問われた林芳正外相が『注視をしているが、何か具体的な検討を開始したわけではまだない』と答えたことだ。あいまいな態度は、IOCと同様、中国を利するだけだろう」

外交上、日本の最大の弱点は「ノー」とはっきり言えないことである。林氏はかなりの中国通だ。中国との関係を慮って言葉を濁したのだろうが、産経社説が批判するようにあいまいな態度では強権的な中国・習近平政権になめられるばかりである。アメリカのサキ報道官の物言いをしっかりと学んでほしい。

たとえば、アメリカはバイデン大統領が北京冬季五輪について「外交ボイコット」を検討していることを明らかにしている。11月中にも正式決定される見通しだ。この外交ボイコットは開会式などへの首脳や閣僚らの派遣を見送るもので、選手団は参加する。習近平政権の人権弾圧に抗議するのが狙いである。今回のプロ女子テニス選手の彭帥さんの問題も影響を与えるだろう。

日本は岸田首相が「何も決まっていない。日本の国益などもしっかり考えながら判断する」と述べるにとどまっている。この際、アメリカ外交に学んで北京冬季五輪の外交ボイコットをしっかり検討すべきではないか。検討していることを明らかにするだけでも対中国外交は日本に有利になるはずだ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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