一気に200万円アップ…ベンツの新型"Cクラス"が「これまでのユーザーには買えない」ほど高くなったワケ
プレジデントオンライン / 2021年12月7日 12時15分
■扱いやすいボディサイズ、リーズナブルな価格
メルセデス・ベンツの主力モデルのひとつ、「Cクラス」「Cクラス・ステーションワゴン」がモデルチェンジを行った。2021年6月に国内導入された新型は通算6代目(車両型式名はセダンがW206、ワゴンがS206)。これまで通り、後輪駆動を主体に4輪駆動モデルもラインアップする。
メルセデス・ベンツでは現在、アルファベットと数字を組み合わせた車名を採用するが、今回紹介するCクラスの初代は1982年の「190」シリーズが該当する。190の車両型式がW201だったことから、その後継車種は現在に至るまでCクラスが担う。
筆者は、歴代Cクラスのうち2代目、3代目をセダンボディで、4代目はステーションワゴンボディで前期と後期、都合3世代に渡り計4台乗り続けている。全幅は1800mm以内で小回りが利き、日本の公道でも乗りやすいことから重宝している。
これまでCクラスは各国で商業的な成功をおさめてきた。メルセデス・ベンツが大切にする質実剛健さを扱いやすいボディサイズで実現し続けたこと、これがヒットの理由だ。2世代前の後期モデルからはSクラス譲りの衝突被害軽減ブレーキにはじまる先進安全技術を搭載。これも人気を後押しした。
さらに、歴代Cクラスはメルセデス・ベンツのなかではリーズナブルな車両本体価格であった。ここも支持され続ける理由ではないかとCクラスオーナーの一人である筆者は考える。事実、歴代モデルには300万円台のグレードも存在した。
■「ミニSクラス」とも呼ばれている
一方、世間では「メルセデス・ベンツ=高級車」であるとの声が根強いが、それにはフラッグシップであるSクラスの存在が大きい。
歴代Sクラスは、時代に求められる最新技術をいち早く採り入れ、万が一の交通事故でも乗員を徹底して守るという安全思想を貫いている。だからこそ世界の要人に選ばれた。
ただし、そこには名だたる高級車が魅せる絢爛豪華な内外装はなく、むしろ地味な部類で特別な仕掛けもない。人に寄り添う安全なクルマ造りに徹したことが今の評価に通じている。
2021年1月、7代目となる新型Sクラスの国内販売が始まった。新型Cクラスは、新型Sクラスに見た目が似ていることから「ミニSクラス」とも呼ばれる。
似ているのは外観だけではない。車内中央にはSクラス同様に大型の縦型ディスプレイを配置した。Cクラスの液晶画面「メディアディスプレイ」(11.9インチ)はSクラスが備えるそれ(12.8インチ)より一回り小さい画面サイズながら、ナビゲーション機能、エアコン操作パネル、車体の機能設定、コネクト技術など多彩な機能が織り込まれた。
これら各機能は、画面をタッチする、もしくは「Hi,Mercedes!」をトリガーにしたボイスコントール機能「MBUX」(Mercedes-Benz User Experience)で操作ができる。見た目だけでなく、車内でできることも最新のSクラスと遜色ない。
■人と車が一体となって事故を遠ざける
現時点、日本市場に導入される新型Cクラスのパワーユニットは2種類。直列4気筒1.5lターボエンジン(204PS/300N・m)+ISGと、直列4気筒2.0lディーゼルターボ(200PS/440N・m)+ISGだ。
ISG(Integrated Starter-Generator)とは、48V電源システムによるマイルドハイブリッド機構のこと。エンジンに直結した電動モーター(20PS/21.2kgf・m)によって走行中の動力アシストを行うほか、減速時はジェネレーターとして機能し、運動エネルギーを回生して車載のリチウムイオンバッテリーに蓄える。
ステアリング操作に合わせて後輪を最大で2.5度操舵させるリア・アクスルステアリングもSクラス譲りだ(Sクラスは4.5度操舵する)。リア・アクスルステアリングは、小回り性能を向上させたり、カーブ走行時の安定性を高めたりする。
試乗してみると、確かに小回り性能が高く、最小回転半径は5.0mとトヨタ「アクア」、ホンダ「フィット」などコンパクトカー並みだから不慣れな道でも運転しやすい。また、山道では専用設定のステアリングギヤ比を合わせてスポーツモデルのような鋭いハンドリングが体感できる。
さらにリア・アクスルステアリングでは、万が一の際、ドライバーの緊急回避操作に遅れなくボディが反応することから、回避率を高める働きもある。人と車が一体となって事故を遠ざける……、こうした思想はまさにメルセデス・ベンツが大切にしてきた領域だ。
■「これはもう、Cクラスの価格帯とは言えないのではないか」
もっとも、Cクラスの価格帯はSクラスの約半分なので同じ名称であっても技術は細部で異なるが、新型Cクラスの走行性能や安全思想にはSクラスのエッセンスが十分に感じられる。
しかし、歴代Cクラスオーナーの一人として新型Cクラスに対して手放しで喜べない部分もある。それは価格だ。
先に解説したリア・アクスルステアリング機構はセットオプションとなることから、車両本体価格である651万円(購入時期によっては654万円)に47万1000円が上乗せされ、さらに、メルセデス・ベンツが推奨する装備を加えた総額は720万円を超えてくる(取材した試乗車の場合)。
エンジンや装備が異なるため単純比較はできないが、それでも従来型の5代目Cクラスから車両本体価格は200万円ほど高くなった。これはもう、Cクラスの価格帯とは言えないのではないか。
「オプション装備を選ばなければ良い」という話もあるが、新型Cクラスをメルセデス・ベンツらしく乗りこなすには、やはり追加装備は不可欠だ。とくに安全性能に直結する装備は譲れない。
■これまでのCクラスユーザーには「少し遠い存在」になった
改めて、Cクラスの存在価値は、メルセデス・ベンツが大切にする安全性能を備えた上で、可能な限りリーズナブルな価格を実現したことにある。
しかし、時代は変わった。今やAクラス・セダン(主として前輪駆動方式で419万円~)が歴代Cクラスにとって代わるという見方もできる。しかし、伝統的な後輪駆動でセダンボディの組み合わせこそメルセデス・ベンツの流儀であるし、そもそも乗り比べれば差は歴然である。市街地から高速道路に至るまで乗り味はCクラスが一枚上手なのだ。
新型Cクラスはこれまでのユーザーとの関係を発展的に解消した。
厳しい言い方だが、競争が激化する高級車ブランドのなかにあり、Cクラスもその中で対峙すべくSクラスをイメージさせるデザインや高機能な各装備をおごり勝負に出た。
結果、競合各車に対するアドバンテージは保てたものの価格は高まり、筆者を含めたこれまでのCクラスユーザーには少しだけ遠い存在になったのだ。
■アウディ、BMW、ボルボでも進む「上級移行」
こうした販売台数が見込める車種の上級移行は、メルセデス・ベンツに限らず、アウディやBMW、さらにはボルボなどにもみられる。
「いわゆる先進国においてはユーザーの高齢化が進んでいます。上級移行はその対策でもあり、ブランド内でのダウンサイザーを囲い込む手段になっています」。これは、とある高級車ブランドのマネージメント担当者の言葉だ。
ボディは小さいが、見た目や装備はこれまで乗ってきたフラッグシップに準じていること。ここはダウンサイザーがこだわる部分だ。よってそれを実現すれば、価格に跳ね返ってくるのも当然である。そう考えると、Sクラスに準じた見た目や装備をもつ新型Cクラスは時代の変化に合わせた正常進化ともいえる。
■メルセデス・ベンツが進めるEV移行計画にも関係がある
この流れは、メルセデス・ベンツが推し進める電気自動車(EV)への移行計画にも関係する。
本国ではすでにSクラスに相当するEV「EQS」を発売し、Eクラスに相当するEV「EQE」も2022年には発売される。
ただ、EVの場合は二次バッテリー容量、電動駆動モーターの性能、AER(All Electric Range/充電1回あたりの航続可能距離)の違いが主であり、ユーザーからは乗ってみないと走行性能の違いが見出しにくい。EVには内燃機関が発する鼓動も高揚するサウンドもないからだ。
また、内燃機関時代には、排気量やエンジン種別ではっきりとしたグレードの差別化ができたが、電動化技術は未だ進化の過程であり、評価の軸足が定まりにくい。このことを世界中の自動車メーカーは課題と捉え、目下、新たなる羅針盤の模索に力を入れている。
■2030年には新車販売のすべてをEVにする方針
近い将来、SクラスやEクラスがそうであったように、CクラスにもセダンボディのEVがラインアップされるだろう。現状、Cクラスに相当するEVに「EQC」があるが、ボディは内燃機関モデルでSUVの「GLC」がベースで、電動ユニット類も一世代前のシステムが搭載されているため、いずれ新型となることは明白だ。
190シリーズから始まるCクラスは、メルセデス・ベンツの認知度を押し上げる役割を担ってきた。そして今回の新型Cクラスではダウンサイザーの選択肢となりながら、潤沢な装備を携えて上級移行を果たした。
この先、セダンボディの新たなEQCが登場した際には、新型Cクラスの価格帯からEV化の差額をどれだけ小さくできるのか、ここも勝負になってくる。2030年には新車販売のすべてをEVにすると打ち出したメルセデス・ベンツ。次なる一手に注目したい。
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交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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(交通コメンテーター 西村 直人)
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