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「ウコンを飲み始めて3カ月で死亡」ネットで流行の健康サプリを飲んではいけない【2020年BEST5】

プレジデントオンライン / 2021年12月22日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erdre

2020年(1~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。健康部門の第1位は――。(初公開日:2020年12月9日)
ネットでは美容や健康、若返りなどさまざまな効果をうたうサプリメントが販売されている。飲んでも大丈夫なのだろうか。内科医の名取宏氏は「医療では補えない不安を解消したい人がサプリメントを買うのだろう。だがサプリメントはどんなに高価でも効果があるとは限らない」という——。

■効果があいまいなサプリメント

みなさん、水素水のことを覚えておいででしょうか。

コンビニなどで一度は見かけたことがあると思います。水素分子が有害な活性酸素と反応し中和することでさまざまな効果を発揮すると称されていますが、健康な人が水素水を飲用して健康にプラスがあるかどうかは、当時はもちろん、いまでも証明されていません。

ですが、効果があるかどうかわからなくてもブームになれば売れます。多くの業者がブームに乗っかって水素水を販売しました。医薬品と違って健康食品やサプリメントは効果を証明する必要がありません。

そのため、効果があやふやなまま多くの商品が販売されています。現在の流行りは「NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)」です。

抗老化成分が含まれた「若返りサプリ」としてイケダハヤト氏などのインフルエンサーが販売していますが、現在のところ、動物実験レベルのデータはあるものの、実際に人間が服用して効果があるかどうかはわかっていません。

NMNが糖尿病をはじめとしたさまざまな疾患に効果があるかのように言われることもありますが、臨床試験で証明されたわけではありません。効果効能をうたってNMNを販売すれば「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」いわゆる薬機法に違反します。

NMNに限らず、さまざまな健康食品やサプリメントが売られていますが、どれぐらい効果があるのでしょうか。

■健康食品による体調不良は「医師の盲点」

病気の予防や、より健康になることを期待してサプリメントを服用している方には申し訳ありませんが、少数の例外を除いて、サプリメントの効果は検証されていないか、されていてもごく小規模の質の低い研究しかなされていません。

下手に研究を行って「効果がない」という結果が出れば、商品として成り立たなくなってしまいます。市場競争下では、サプリメントの製造・販売業者はサプリメントの効果を検証する努力をするのではなく、消費者に効果があるかのように誤認させる宣伝方法を洗練する動機が働きます。

効果がないだけならまだしも、サプリメントが害をおよぼす事例もあります。

私は肝臓を専門にしているため、原因がよくわからない肝障害の患者さんについて他の医師から相談を受けるのですが、患者さんによくよくお話を聞いてみると摂取していたサプリメントが原因であることもあります。

肝臓を専門としていない医師でもウイルス性肝炎や処方薬による薬剤性肝障害はそうそう見落としたりはしませんが、健康食品やサプリメントによる肝障害は盲点になってしまうのです。

問診する医師
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■効果は実証されておらず副作用は未知数

サプリメントによる肝障害は、多くの場合はサプリメント摂取を中止すれば自然に治るものの、まれに重症化することもあり油断はできません。肝機能に余力がある健康な人なら回復も期待できますが、肝臓が弱っている方はサプリメントの摂取を避けたほうが無難です。

また、死亡例の報告も複数あります。

一例として、それまでは症状が安定していた肝硬変の60歳台女性がデパートで購入した粉末ウコンを毎日スプーン一杯飲み始めたところ、約2週間後に症状が悪化し入院するも腹水が溜まり、約3カ月後に多臓器不全で死亡したという事例が2004年に報告されています(※1)

ウコンは肝臓によいとされていますので、この患者さんも良かれと思って摂取したと思われます。私が受け持っている重度の肝障害を持つ患者さんにはサプリメントは控えていただいていますが、「健康食品は健康な人のための食品なので、病気の人はやめておいてください」とご説明しています。

サプリメントによる健康被害は肝障害だけではなく、ほかにも下痢、嘔吐、発疹、間質性肺炎、腎障害、血小板減少症、光線過敏症などが知られています。これは薬の副作用とほぼ同様のものです。

考えてみれば、健康にプラスの作用だけあって副作用がまったくないなんて都合のよいものがそうそうあるはずがありません。医薬品とサプリメントの違いは、医薬品は有益な作用があることが証明されているのに対し、サプリメントは効果が実証されておらず副作用もあることです。

また、医薬品は開発・認可の過程でどのような副作用がどれぐらいの頻度で起こるのか調べられていますが、ほとんどのサプリメントではそのような調査はなされていません。

※1 内藤裕史『健康食品 中毒百科』(丸善株式会社)

■「がん予防サプリ」で肺がんが増加

例外的に、定量的に害の程度がわかったサプリメントもあります。

βカロテンを豊富に含む果物や野菜をたくさん摂取する人にがんが少なく、またβカロテンに抗酸化作用があることから、がん予防に役立つのではないかと期待されていました。

βカロテンのサプリメントは、いわば抗酸化成分が含まれた「がん予防サプリ」というわけです。しかし、実際に人間が服用して効果があるかどうかは、試してみないとわかりません。

そこで、肺がんのリスクの高い喫煙者男性およそ3万人を対象に、βカロテンのサプリメントを与える群と、βカロテンが含まれていないが外見上は見分けがつかないプラセボ(偽薬)を与える群にランダムに分ける臨床試験が行われました(※2)

先入観による偏りを避けるため、参加者や医師もβカロテン群なのかプラセボ群なのかわからないようにした、二重盲検ランダム化プラセボ対照比較試験という質の高い研究です。

結果は、がん予防どころか、βカロテン群では対照群と比べて肺がんが18%増加しました。他の研究でも同様の結果が得られ、喫煙者に対する高用量βカロテンサプリメントの単独投与が有害であることは確かです。

※2 Alpha-Tocopherol, Beta Carotene Cancer Prevention Study Group, The effect of vitamin E and beta carotene on the incidence of lung cancer and other cancers in male smokers, N Engl J Med 1994 Apr 14;330(15):1029-35.

■成分の多さを売りにする商品は危険

栄養補助食品
写真=iStock.com/wildpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wildpixel

この研究から得られる教訓はいくつもありますが、もっとも大事なのは、理論上いかにも有益な効果がありそうでも、細胞や実験動物の研究でどんなに期待が持てそうでも、実際に試してみないことには効果があるかどうかはわからない、という点です。

ヒトの体は複雑なので、βカロテンだけを摂取しても有益な効果があるとは限りません。果物や野菜だって、βカロテン以外にも多くの栄養素を含み、何が有効なのかはわかりません。おそらくは単独の栄養素ではなく複数の栄養素が複雑に影響し合っているのでしょう。

安全性についても、ふだん食べている食べ物に含まれている成分だから安全とは言えないことがわかります。

食品に含まれる量では無害でも、特定の成分が高濃度に濃縮されたサプリメントを長期間にわたって摂取するのは有害かもしれません。広告ではよく「○倍濃縮」と有効成分がたくさん含まれていることをうたっていますが、私から見るとむしろ不安になります。

通常の食品から摂取できる量であれば安全でしょうが、であればわざわざサプリメントからではなく、食品から摂取すればいいだけです。肺がんになりたくなければ、サプリメントに頼るのではなく、果物や野菜が多い健康的な食事を摂るのがいいでしょう。

βカロテンに限らず、偏食をせずバランスのよい食事を摂取していれば通常は特定の栄養素が不足することはなく、ほとんどのサプリメントは不要です。

■それでもサプリメントが売れる理由

サプリメントの害ばかりを書きましたが例外的に有用な場合もあります。

たとえば、妊娠初期はビタミンB群の一種である葉酸のサプリメントが推奨されています。妊娠初期の胎児に必要な栄養素ですが、通常の食事では不足しがちだからです。他にも、アスリートが効率的に蛋白質を摂取するためのサプリメント、菜食主義など特別な食事を摂っている人にビタミンB12などがあります。

このように一部のものにしかメリットがないサプリメントですが、それでも多くの消費者が買い求める気持ちはよくわかります。

現在健康で将来の不安もない、という方はほとんどいらっしゃらないと思います。身体のどこかに不調があったり、いまはなくても将来病気になる不安があったりするのは普通です。

現代医学は進歩し、治せる病気も増えましたが、漠然とした不調や不安にはあまり対応できていないのが実情です。最近疲れがちだ、めまいがする、腰が痛いといった症状で病院に受診し、採血やCTやレントゲンの検査を受けても異常がなかったというご経験のある方も多いと思います。

「嘘も方便」が通用していた昔は、プラセボ効果を期待してビタミン剤を処方したり、食塩水を点滴していましたが、いまではそんな治療はできません。

十分に時間をかけて患者さんの訴えに耳を傾け、丁寧にご説明し、対症療法を行えばある程度は改善しますが、待合室では次の患者さんが待っているのです。すべての患者さんにご満足いただける医療を提供するのは正直難しいです。

■当たり前の努力が健康をつくる

社会制度の面からも、科学的な観点からも、現代医学には限界があります。

そんな中、「一日数粒摂取するだけでアンチエイジング!」などと宣伝されれば、患者さんがそちらに流れるのも無理はないです。ビジネスとして宣伝手法を洗練させてきた業界には勝てません。

ただ、サプリメントはどんなに高価でも効果があるとは限らず、害すらある可能性もあり、費用対効果はあまりよくないことは覚えておいてください。

健康になりたいのならサプリメントには頼らず、バランスのよい食事、適正体重の維持、適度な運動、お酒を飲み過ぎない、たばこを吸っているなら禁煙といった当たり前の対策を無理なく行える方向にコストをかけることを、個人的にはおすすめします。

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名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』(内外出版社)。

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(内科医 名取 宏)

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