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本当に「旧民主党の負の遺産」を克服できたのか…立憲民主党が参院選までにやるべきこと

プレジデントオンライン / 2021年12月2日 12時15分

立憲民主党の新代表に選出され、記者会見する泉健太氏=2021年11月30日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

立憲民主党の新代表が泉健太氏に決まった。フリージャーナリストの尾中香尚里さんは「泉氏に求められるのは、枝野幸男前代表が作り上げた『保守VSリベラル』の対立構図を守ることだ。これまでのように『解党的出直し』を繰り返してはいけない」という――。

■泉健太新代表と「旧民主党の負の遺産」

立憲民主党の代表選が11月30日に行われ、枝野幸男前代表のもとで政調会長を務めた泉健太氏が、逢坂誠二元首相補佐官との決選投票の末に新代表に選ばれた。

新代表として初の記者会見では、泉氏に「旧民主党の負の遺産」に言及した質問が飛んだ。質問者は、枝野氏ら旧民主党政権の中核を担った顔ぶれが党の前面に立つことへの「マイナス」のイメージを強調したかったのだろうか。

なるほど、確かに筆者もこの代表選を「旧民主党の負の遺産を払拭できるか」という観点で見ていた。だが、それは「顔ぶれ」などという問題ではない。筆者が考える「旧民主党の負の遺産」とは、選挙での敗北や不祥事といった不都合があるたびに、トップの首を安易にすげ替え、それまでの積み上げをリセットし、結果として党の体力を削いできた党のあり方である。立憲民主党の代表選もその「負の遺産」を引き継いでしまうのか。筆者はそれを懸念していた。

代表選全般、そして泉新代表のここまでの言動を見る限り、どうやら筆者の懸念は杞憂であったようだ。とりあえずは安堵しつつ、泉新執行部の党運営を見守りたい。

■立憲民主党にとって衆院選は「惨敗」ではなかった

10月の衆院選で公示前議席を減らし、枝野氏が辞意を表明した時、筆者は暗澹たる気持ちになった。旧民主党・民進党でさんざん見せつけられた党のゴタゴタが、再び繰り返されることを恐れたのだ。

筆者は今回の選挙結果が、枝野氏の辞任が必要だったほどの「惨敗」とは考えていない。公示前議席との比較ではなく、民主党が下野した2012年以降4回の衆院選における与野党の議席の推移に着目すると、やや違う風景が見えてくるからだ。

例えば、立憲民主党が今回獲得した96議席は、民主党下野後4回の選挙で野党第1党が獲得した議席としては最も多い。比例代表の得票数1149万2094票も、同様に過去4回の衆院選で最多となった。

国会議事堂
写真=iStock.com/CAPTAIN_HOOK
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CAPTAIN_HOOK

■「敗因は共産党との共闘」というレッテル貼り

また今回の選挙では、野党第1党と第2党の議席差が最も大きくなった。先の衆院選で野党第2党の日本維新の会の「躍進」が多くのメディアによって喧伝されたが、同党が獲得した41議席は、なお立憲民主党の半数以下に過ぎない。

これは「どんぐりの背比べ」状態だった野党の中から立憲民主党が頭一つ抜け出し、野党の中核として定着しつつあることを意味している。歩みは遅いが、小選挙区制が求める「政権を争う2大政党」という構図は、選挙を経るごとに確実に復元されてきたのだ。

だから筆者は、立憲民主党は目先の選挙結果に右往左往せず、これまでの取り組みをさらに押し進める方向で来夏の参院選に臨むべきだと考えていた。だが、多くのメディアや有識者らの外野は「公示前議席からの減少」という1点において選挙結果を「惨敗」と決めつけ、検証を待つこともなく敗因を「共産党との共闘」だとレッテルを貼った。ほどなく枝野氏は辞意を表明した。

■候補者同士が和気あいあいとしていた代表選

所属政党に「排除」され、たった1人で党を立ち上げてからわずか4年。「政権選択選挙」と呼べる野党の「構え」を曲がりなりにも作った枝野氏の党運営を、少なくとも筆者は高く評価している。しかし、この辞任劇にはやや失望した。永田町の色に染まらない、旧民主・民進党とは違う政党文化を求めてきたはずの立憲民主党も、結局は「トップの首のすげ替え」で済ませるという、これまで同様の道をとろうとするのか――。

実際に代表選が始まると、その印象はかなり変わった。

泉、逢坂の両氏と、小川淳也元総務政務官、西村智奈美元副厚生労働相の4人の論戦は、過去の旧民主・民進党の代表選でしばしば見られたギスギス感がほとんどない、実に和気あいあいとしたものだった。理念・政策の面でも、力点を置く政策に違いはあっても、ニュアンスの差を超えるほどの大きな違いは見受けられなかった。

選挙戦ではしばしば「共産党との共闘はどうするか」「連合との関係は」「維新とは連携するのか」といった、政局がらみの問いが相次いだ。4人の姿勢の違い、さらに枝野前執行部の路線との違いをあぶり出す狙いのある問いだ。しかし、4人ともこうしたメディア好みの問いに安易に乗らなかった。代わりにそろって口にしたのが「党の足腰の強化」である。

枝野前代表は4年前に1人で党を立ち上げて以降、国民民主党や社民党の多くの議員を党に迎え入れて野党の中核としての立場を確立した上で、同時に衆院選における共産党などとの共闘関係を築き、どうにか「政権選択選挙」に持ち込んだ。だが「構え」はできても、地方議員や党員を増やすといった党そのものの地力を強化することまでは手が回らず、最後の最後で勝ちきれなかった。一言で言えば「時間切れ」であり、党勢拡大にはこうした地道な取り組みの「継続」が欠かせない。

4人は枝野氏の功績と限界を理解した上で、それを継承しつつ、見直すべき点は見直す必要性を訴えていた。頼もしく感じた。

■ほとんど聞かれなかった「解党的出直し」という言葉

何より好感度が高かったのは、民主党時代から代表選のたびに党内でよく聞かれた「解党的出直し」という言葉――党のこれまでの蓄積を全否定するようなこの言葉――が、今回はほとんど聞かれなかったことだ。「○○氏が代表になったら離党する」といった殺伐とした動きも、ほとんど耳にしなかった。

だからだろうか。選挙戦が進むにつれ、メディアからは「盛り上がりに欠ける」と揶揄する声が上がり始めた。「党内の分裂を避けたいのでは」との論評もあった。だが、論戦を通じて4人の候補が、互いの違いよりも共通点を確認していくかのような選挙戦は、殺伐とした過去の野党の代表選にうんざりしていた筆者には、かなり新鮮に映った。

街頭演説を行う選挙候補者
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

泉氏が西村氏を幹事長に起用するなど、代表選を戦ったメンバーをそろって執行部入りさせたことも、極めて自然に受け止められた。自民党総裁選でも見られることだが「対立候補を執行部に迎える」というのは、往々にして「激しい対立の後に党内融和を図る必要に迫られて行う」ことが多いものだ。だが今回の代表選は「党内融和を図る」などという言葉さえ陳腐化させるほどに、最初から「融和」されていた。

■泉新代表が克服すべき「民主党の負の遺産」

冒頭の記者会見の場面に戻ると、泉氏は「旧民主党の負の遺産」の質問に対し「そういう認識はない。いつまでも旧民主党のせいにしていては勝てない。旧民主党のさまざまな経験は反省ばかりではない。経験を糧として、改めて政権を担いうる選択肢になる決意を持って有権者に語っていけば、十分理解をしていただける」と言い切った。同感である。

あえて「民主党の負の遺産」を言うなら、それは何かにつけて「解党的出直し」などという声が出るような、党内のガバナンスとフォロワーシップの欠如だろう。その意味で今回の代表選は、質問者の意図とは違う意味で「負の遺産」を克服したと言っていいのではないか。

ところで、泉新執行部には、もう一つ克服してほしい「民主党の負の遺産」がある。それは、平成の時代の野党に求められ続けた「非自民・非共産の改革保守」という党の路線である。

小選挙区比例代表並立制の導入とともに、政界ではなぜか「保守2大政党」の構図が強く求められ続けてきた。「従来型の保守」である自民党に対し「新自由主義的な改革保守勢力」が野党の核として政権を争うべき、という主張である。

1994年の新進党結党、2017年の「希望の党」騒動は、いずれも改革保守勢力による野党第1党の「大きな塊」を作る動きであった。リベラル勢力を政界の片隅に追いやるものであり、「希望の党」騒動に至っては、むしろ積極的に彼らの議席を失わせる狙いすら見えた。

リベラル勢力は長年、こうした「保守2大政党」を求める動きに抗い続けてきた。1996年の「自民党VS新進党」に対する旧民主党の結党、2017年の「自民党VS希望の党」に対する立憲民主党の結党は、まさに「保守2大政党」に抗うため、リベラル勢力が「第三極」として割って入ったものと言える。

旧民主党には後に、解党した新進党の保守系議員が多数合流し、98年に新「民主党」が結党された。保守系とリベラル系が理念や政策をすり合わせ、中和する形で結党したことから、結果として党の目指すものが不明確となった。民主党には「寄り合い所帯」「党内バラバラ」のネガティブな評価が常につきまとい、やがて民主党政権の崩壊、そして「希望の党」騒動による民進党自身の崩壊につながっていった。

■枝野氏は「保守VSリベラル」の対立構図を作り上げた

さて、「希望の党」騒動は結果として、民進党の所属議員を「立憲民主党=リベラル系」「希望の党=改革保守系」と、ざっくりと分割することになった。希望の党に移った民進党議員らが、紆余曲折を経て国民民主党を結党し、昨年秋にその多くが立憲民主党に合流したのは周知の通りである。

リベラル系政党に多くの保守系議員がまとまって合流するのは、98年の新「民主党」結党を彷彿とさせる。ただ、民主党と異なっていたのは、立憲民主党は理念や政策の「すり合わせ」「中和」という形を取らなかったことだ。

枝野氏は19年の統一地方選や参院選勝利による野党内での主導権確保、統一会派結成による議員間の信頼感の醸成、結党時の理念を大枠で維持する綱領の策定など、慎重な手順を踏んで立憲民主党主導の合流手続きを進め、結果として「リベラル政党」の形を守って衆院選に臨むことができた。前述したように、選挙結果は公示前議席を減らしたものの、民主党の下野後では野党第1党として最多の議席を得た。

これはつまり、国会での与野党の対立構図が「保守VSリベラル」となったことを意味する。改革保守勢力の日本維新の会が「第三極」であると考えれば、野党内で「政権を争う第1党」と「第三極」が入れ替わったことになる。長年「保守2大政党」が求められ続けてきた政界において、これはかなり特筆すべき政治状況と言えよう。

■過去の「保守2大政党」の試みは実を結んで来なかった

筆者は「保守2大政党」より「保守VSリベラル」の2大政党制の方が、日本の政治にとってはるかに有益だと考える。選挙で有権者が、自らの1票でどんな社会像を選ぶのかが明確になるからだ。だから筆者は今回の選挙で、国会に「保守VSリベラル」の対立軸が生まれたことを歓迎している。

だが、この構図はなお脆弱であり、定着するとは言いがたい。「保守2大政党」を求める内外の圧力は、今もかかり続けているからだ。現在の「立憲惨敗、維新躍進」をあおる空気もその一つと言えよう。実態から乖離した世論が半ば強引に作られるなかで、中小政党も議席を得やすい来夏の参院選で日本維新の会が大きく続伸すれば、次の衆院選で野党の構図が再び不透明になる可能性は否定できない。

だから強調したい。過去の野党の歴史を見ても、「保守2大政党」の試みは、長期的には実を結んで来なかったことを。新進党の崩壊。みんなの党など「改革保守」の第三極政党の失速。希望の党の腰砕け……。この四半世紀、すでに多くの事例を見てきた。

立憲民主党が現在の綱領から逸脱して、旧民主党的な「非自民・非共産の改革保守政党」に変質し、自民党との理念・政策の対立軸が不明確になった上に、野党の役割を放棄して政権与党の監視や批判を手控えるようになれば、それは党の寿命を縮めるだけだ。

■来夏の参院選の結果次第では保守2大政党の構図になる可能性も

代表選を見た限り、この点について泉新代表に大きな心配はしていない。泉氏は旧国民民主党出身だが、代表選で決選投票に残った逢坂氏とともに、現在の立憲民主党の綱領案を作った責任者だ。逢坂氏が代表選最後の演説でこの点に触れ「綱領には私と泉さん2人の魂が注ぎ込まれている」と述べたことは、強く印象に残った。

泉氏にはぜひ、新自由主義に対峙して「支え合いの社会」を目指す結党の理念や政策を、党内のすみずみまで浸透させてほしい。自民党とは違う「目指すべき社会像」を選挙で選ぶことができる、その選択肢であり続けることを、常に自覚してほしい。それが先の衆院選で「支え合いの社会」という枝野氏の訴えに応えて同党に投票した人々への責任でもある。安易に変えて良いものではない。

そしてそのために大事なことは、来夏の参院選で「野党第1党の立場をしっかりと確立する」ことだ。前述したように、参院選で日本維新の会の大きな躍進を許した場合、次期衆院選での野党第1党の座が脅かされかねない。2大政党が特に優位になりがちな小選挙区制において、一度野党第2党に転落すれば、政権への挑戦権を取り戻すことは容易ではないことを肝に銘じるべきだ。

泉氏をはじめ立憲民主党にかかわるすべての人々には、この四半世紀の野党史も踏まえた上で、党が今後目指すべき立ち位置を改めて考えてもらいたいと願う。

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。

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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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