東大生でも大学4年から就活を始めると"全滅"する…就活の「超早期化」の恐ろしい実態
プレジデントオンライン / 2021年12月20日 9時15分
■多くの企業は就活ルールを無視している
企業の新卒採用が年々早期化している。
昨年度まで、経団連は「採用選考に関する指針」(いわゆる就活ルール)を示して、広報活動や採用選考活動の「解禁日」を定めてきた。
昨年度からその指針は政府主導となっているが、日程に変更はない。
現・大学3年生が対象となる2022年度の採用活動も、広報解禁は2022年3月1日以降、選考解禁は6月1日以降となる見通しだ。
経団連、政府は「内定を出すのは、大学4年生の6月以降」というルールを要請しているわけだが、大半の企業はそれを守っていない。
リクルートの就職みらい研究所によれば、2020卒の就職活動において、最も内定が多く出た月は6月ではなく、4月(24.7%)であった。
翌年の2021卒の就職活動では、内定が出た最多月は同じく4月(24.3%)で、その次が3月(20.6%)となっている。
5月までに内定を得た学生の割合は、20卒の66.5%から、21卒は78.9%と増加している。「就活ルール」の形骸化が進んでいることがわかる。
さらに一部の企業では、4月どころか選考解禁の半年以上前に内々定を出している。
実際、私の運営している就活塾「ホワイトアカデミー」には、現・大学3年生が今年10月に日系の大手不動産会社から内々定を獲得している。それも複数名だ。例年にはない事例だ。
■採用水準が以前より上がっている
この要因は、コロナ禍で多くの企業の業績が下降していることによる。
各社は採用数を絞り、少数採用の方針に切り替えた。
加えて、従来の時間をかけたOJTがしづらい時勢のため、ある程度のマニュアルや業務を教えればキャッチアップできるような即戦力になる人材を求めている。
結果、各企業は積極的に優秀な人材をいち早く見つけ、獲得する傾向が強まった。
そのために各企業が活用しているのが、インターンである。
■3種類あるインターン
インターンシップには3つの種類がある。
1つめが、大学1、2年生向けの「長期インターン」だ。3カ月以上かけて職業体験する。
2つめは、3年生の夏に行われる「短期インターン(夏インターン)」である。1日や2日で業務のさわりを体感する。
3つめが、3年生の秋もしくは冬に実施される「選考直結型インターン」だ。このインターンを実施する会社が近年増加している。
企業は秋冬のインターンで優秀な結果を残した学生に対して「1次面接はスキップでいいので、ぜひ本選考を受けてみないか」と連絡する。
その後、6月の本選考より前にインターン経験者のみの面接を行い、内々定を出しているのだ。
人材会社のワンキャリアによると、以下のような名だたる企業が秋のインターンの募集を行っていた。
日本郵船(10月5日締切)
東急リバブル(10月31日締切)
ブルボン(10月31日締切)
ミルボン(10月29日締切)
豊田通商(10月8日締切)
三菱鉛筆(10月24日締切)
雪印メグミルク(10月18日締切)
富士フイルム(11月2日締切)
江崎グリコ(11月2日締切)
クラレ(11月3日締切)
日本政策金融公庫(11月12日締切)
トレンドマイクロ(11月14日締切)
(出典=インターンシップ募集一覧 就活サイトONE CAREER)
■早期選考の流れが続くワケ
こうしたインターンを活用した早期選考を取り入れる企業は今後もますます増えていくだろう。というのも、インターンシップから採用するのは企業にとって理にかなった行動だからである。
実際に課題をやらせてみれば、その中でコミュニケーション力があるかどうかや、論理的思考力があるかどうかはおのずとわかる。
また、面接だけでは学生の本音や素性を探るのは難しい。ましてや、「愛読書は何ですか」という質問すら就職差別につながるとしてアウトになる時代である。採用担当者は山のようにあるNG質問を避けて面接を行うため、パーソナリティーをつかみづらい悩みがある。
その点、インターンを通じて学生の思考や性格などの「素の部分」が把握できるのは企業からすればありがたい。ミスマッチが防げるし、青田買いもできるという点で、企業にとってインターンを通じた採用は非常にメリットが大きいのである。
■事実上の選考締切になっている「インターン」
昨年、ホワイトアカデミーの塾生が、ある不動産デベロッパーA社の冬インターンに参加し、早期選考を経て内定を得た。
その後、しっかりと対策を講じた複数名の塾生がA社の本選考を受けたところ、ことごとく落選してしまった。早期内定を得た学生と比べ、同じかそれ以上の優秀さだったにもかかわらず、である。
その年の10月、A社の内定者懇親会に行った学生いわく、30名の参加者のうち、20人ほどがインターンの同期であったという。
企業にとって「選考解禁」となる大学4年生の6月からの採用活動は、残った採用枠を埋めたり、内定辞退があった際の調整として扱われる。
3月の広報解禁から就職活動を始めた学生にとっては、非常に狭き門を通過しないといけないことになる。
これにより、通常より少ない内定の椅子を、インターン組が埋めた結果、本来ならば内定を勝ち取れる力を持っていても椅子に座れない学生が増えている。
例えば、中央大学では、大卒後に「無業」「受験準備者」となる人がいる。
経済学部972人のうち、最も多いのは就職者の83.1%だが、その次に多いのは「無業」の7.2%となっている。これは人数にして70人である。
中央大学だけでなく、たとえ東大生であっても大学3年時の3月から就活をするのでは、全滅の可能性がある。これが現在の就職事情なのである。
■就活にうまくいく学生とそうでない学生を分けるモノ
現在、就活の成否を分けるのは、学歴ではなく「動き出しのタイミング」の違いである。
希望する企業の内定を勝ち取った学生に話を聞くと、大学1、2年時にインターンに参加していることが多い。彼らはそこで意識の高い学生と知り合い、採用活動や出題傾向、インターンの有無などの情報交換を行っている。
ホワイトアカデミーでも、大学3年時に行われる夏のインターンまでに業界・企業分析を進める。エントリーシートや面接などでアピールできる要素を整え、事実上の選考である秋冬のインターンに挑むのを理想としている。
さらに最近では、逆求人サイトに自分自身のプロフィールを登録して企業側に発信している学生もいる。大学入試でもAO入試という自己推薦形式が取り入れられているように、自分の長所、能力をアピールできるポータルサイトを活用した就活が今後トレンドになっていくと予想される。
■「正直者がバカを見る」で本当にいいのか
政府は、「広報活動及び採用選考活動の開始日より前に実施されるインターンシップが実質的な採用選考活動となっている事態」について、「学生に混乱をもたらすとともに、学生が学修時間等を確保しながら安心して就職活動に取り組める環境を大きく損なう」としている。(内閣官房「2022年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」より)
だが、そうした懸念もむなしく、多くの企業はルールを破っている。ルールを正直に守った学生は安心して就職活動に取り組めないという皮肉な状況となっている。正直者がバカを見ているともいえよう。
このままでは、国や企業が出す情報を多くの若者が信じなくなる。それはゲーム理論でいう「囚人のジレンマ」の状態を引き起こし、労働者にとっても企業にとってもデメリットが大きい。改善するには、法的規制を導入するしかないだろうが、本当にそれでいいのだろうか。
ルール破りが常態化していること、政府や経団連の呼びかけが空文化していることについて、各企業の人事部は重く受け止めるべきだろう。
----------
就活コンサルタント
東京大学工学部卒。就活塾「ホワイトアカデミー」を創立・経営。これまで800人以上の就活をサポート。塾はホワイト企業の内定が出なければ費用を全額返金する制度が特徴。YouTubeチャンネルではホワイトな業界の紹介や大手企業の倍率、ESの添削を公開するなど塾の就活ノウハウを一部紹介している。著書に『子どもを一流ホワイト企業に内定させる方法』(日経BP)。
----------
(就活コンサルタント 竹内 健登)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
就活生8割に「就活疲れ」感じた経験、最大の理由は? - マイナビ調査
マイナビニュース / 2024年4月25日 9時9分
-
【速報:新潟県の就職活動】エントリー数は41%の学生が3社以下と一段と減少傾向に
PR TIMES / 2024年4月18日 16時45分
-
なんとフルリモートで最大時給3,500円!独自の有給インターン制度で「新卒」を集めた企業が取り入れた3つのこと
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月14日 11時0分
-
24卒・25卒内定者が選ぶ「就活の情報収集で一番参考になるYouTubeチャンネル」は就活塾ホワイトアカデミー
PR TIMES / 2024年4月11日 11時15分
-
2万人の学生が投票した「就職人気ランキング」 ますます早期化する就活、人気企業はどこか
東洋経済オンライン / 2024年4月1日 7時5分
ランキング
-
1アキレス、シューズの国内生産終了へ コスト増や少子化など背景
ロイター / 2024年4月25日 16時27分
-
2山手線沿線の再開発が進む 「新宿、渋谷、品川」駅の工事はいつ終わるのか
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年4月25日 7時10分
-
3イトーヨーカドー、祖業のアパレル復活なるか アダストリアとの新ブランドが生んだ“相乗効果”
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年4月25日 10時0分
-
4過度の変動望ましくない、動向注視し万全の対応行う=円安で官房長官
ロイター / 2024年4月25日 11時35分
-
5サイゼリヤ、ギリギリ「国内黒字化」も残る難題 国内事業の利益率0.05%、値上げなしで大丈夫か
東洋経済オンライン / 2024年4月24日 7時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください