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「ドライバーの体調急変で発動」マツダの高度運転支援技術「コ・パイロット」のすごさ

プレジデントオンライン / 2021年12月23日 10時15分

MAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0の技術コンセプトを搭載した実験車両(マツダ3) - 画像=マツダ

ドライバーに体調急変が起きた時、事故を防止する方法はあるのか。マツダは一般道路での発動を想定した高度運転支援技術「MAZDA CO-PILOT CONCEPT」を発表した。試乗を体験した交通コメンテーターの西村直人さんは「車両制御はベテランドライバーのように正確で、音声ガイドは同乗者に安心感を与えてくれた」という——。

■ドライバーの体調急変による交通事故は年間300件ほど

国土交通省によると、運転しているドライバーの体調急変が原因で発生した交通事故は年間300件ほどあるという。乗用車はもとより、乗車定員の多い大型観光バスや車両総重量25tにも及ぶ大型トラックの場合、ひとたび事故がおきれば被害は甚大になる。

こうした状況を受け、国土交通省は2016年3月に「ドライバー異常時対応システムのガイドライン」(EDSS/Emergency Driving Stop System)を策定した。対象車種は二輪車を除くすべての自動車だ。

ガイドライン策定の目的は技術の普及促進にある。EDSSにより、冒頭に述べた体調が急変したドライバーが運転する車両を、ドライバー、もしくは同乗者がボタン操作したり、システムが自律的に異常を検知したりして、自動的にブレーキ制御を働かせ停止させることができる。言い換えれば、EDSSは交通社会の課題を克服するための技術だ。

すでに日本の乗用車メーカーでは、いくつかの車両にこのガイドラインに準じたEDSSを実装している。車両の制御内容は実装した時期により異なるが、車線を維持し走行していた車線内で自動停止する「車線内停止方式」や、自動で車線変更を行って路肩に自動停止する「路肩等退避方式」が実用化されている。

■一般道路も視野に入れた「MAZDA CO-PILOT」

ただし、日本車が備える現在のEDSSは、取扱説明書にも記載があるように前走車追従機能や車線中央維持機能といった運転支援技術をドライバーの意思で働かせていることが発動条件のひとつになる。

また、前述の運転支援技術は、現時点で高速道路や自動車専用道路など歩行者や自転車がいない道路での使用を国として推奨している(法で禁止はしていない)。こうした諸事情から、日本車のEDSSは現在、一般道路での発動に100%沿うような設計がなされていない。

マツダが新たに発表した「MAZDA CO-PILOT CONCEPT1.0」と「MAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0」は、EDSSである国のガイドラインをベースに設計された高度運転支援技術であり、当初から一般道路での発動も視野に設計がなされている。

MAZDA CO-PILOT CONCEPT1.0は2022年に発売される新型車(ラージ商品群)から導入される確定技術であり、2.0は2025年以降の実用化を目指した現時点における技術コンセプトだ。

このうち今回はMAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0の技術コンセプトを搭載した実験車両(マツダ3)に公道(一般道路)で同乗試乗を行った。安全確保の観点から、運転操作はマツダの開発技術者が担当し、筆者は後席で発動の様子を確認した。

■「仮想ドライバーによる見守り」をするシステム

システムが行う自動停車機能には2つの発動方法がある。システムがドライバーモニタリングカメラなどの情報からドライバーの異変を捉え自動で停止までの制御を発動する方法と、運転中のドライバーが体調異変を感じ自ら作動スイッチを押して制御を発動する方法だ。このうち、今回の同乗試乗では、後者の「ドライバー自らスイッチを押す」シナリオを体験した。

交通事故総合分析センターによると、急な体調変化による事故の発生は、42.9%が30km/h以下、52.9%が31~60km/h以下で発生することが示されている。つまり、体調変化に起因する交通事故のうち95.8%が60km/h以下で発生しているのだ。ゆえに一般道路での確実なEDSSの発動が求められている。

MAZDA CO-PILOT CONCEPT1.0、ならびに2.0を発動させる事前準備はまったく必要なし。エンジンを始動すると同時にシステムも自動で起動し、目的地に到着してエンジンを切るまでドライバーの運転操作を終始バックアップする。

マツダではこうした考え方を「仮想ドライバーによる見守り」と表現し、ゆえに副操縦士である「CO-PILOT」をネーミングに組み込んだ。

「ドライバー自らスイッチを押す」シナリオを体験した
画像=マツダ
「ドライバー自らスイッチを押す」シナリオを体験した - 画像=マツダ

■ベテランドライバーが運転操作しているような車両制御

同乗試乗では「車線変更」「路肩退避」「駐車車両回避」「信号機対応」といった一般道路での自動停車機能で頻繁に求められるシーンを体験。さらに、横断歩道のある交差点を左折するシーンでの車両制御も確認できた。

実際に同乗試乗してみると、MAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0が行う車両制御は前述したどのシーンでもスムースで、自車周囲の安全確保と、道路交通法第一条に明記された「その他交通の安全と円滑」を両立させていることがわかった。まるでベテランドライバーが運転操作しているように正確だから、同乗していても不安がなかった。

その車両制御中、車内には音声によるHMI〔Human Machine Interface(Interaction)/人の機械の接点〕が適宜機能していた。音声によるガイド(HMI)は、30年以上前からカーナビゲーションの分野で用いられ、最近では自動駐車機能のガイド役としても有用性が認められてきた。

MAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0では、ドライバーの体調急変という緊迫した車内で音声ガイドが発せられる。しかも、その発話内容は体調に異変をきたしたドライバーだけでなく、当然ながら運転操作に参加できない同乗者へも向けられるものだから格別の配慮も不可欠だ。

■細やかな音声案内が安心感を与えてくれる

自動停車機能が発動するとすぐに、「ドライバー異常のため安全な所まで自動で走行し停車します」と、仮想ドライバーであるシステム(MAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0)が運転操作を担ったことが伝えられる。

この発話を聞いて同乗試乗をしていた筆者は、体調急変によってドライバーによる運転操作ができなくなるという、ドライバー不在による焦りを感じることなくスッと落ち着けた。

さらに「左に車線変更します」「停車します」と、MAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0が行う車両制御の数秒前に都度音声で告知され、停車した後も、「停車しました。ヘルプネットに接続します。車外に出るときは周囲の安全を十分確認してください」と、ドライバーの救護策(ヘルプネット)と、同乗者への配慮(車外に出る際の注意喚起)の両方を伝達してくれるので安心感も抱けた。

自動停車機能が発動後に減速している車内の様子
画像=マツダ提供の映像資料より
自動停車機能が発動後に減速している車内の様子 - 画像=マツダ提供の映像資料より
停車した車内の様子
画像=マツダ提供の映像資料より
停車した車内の様子 - 画像=マツダ提供の映像資料より

もっとも、現時点でシステムが対応できるシーンは限られることから擬人化や過信は禁物であるし、通信技術を使ったヘルプネットはオペレーターとの会話が期待できるが車両の所在地によっては回線が安定しなかったり、救護の手である救急車などが到着するまでに時間を要したりすることも想定される。

しかし、MAZDA CO-PILOT CONCEPTのようなEDSSには冒頭に述べたように年間300件ほど発生している事故の被害を大幅に軽減、もしくは二次被害をゼロにできる可能性がある。有用性はやはり高い。

■「自動運転である」とは言い切れない事情

ところで、このMAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0が一般道路で披露した車両制御は、人の運転操作をまったく求めない。というより、人が運転操作できない状況になっているからこそ発動される自動停車機能である。

ならば、MAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0の車両制御は果たして「自動運転」なのか。車載センサーにはじまりアクセル/ブレーキ/ステアリングの各操作に関しては、用いるアクチュエーターや制御モーターなどは自動運転(レベル3以上)の要素技術だし、高精度HDマップの活用方法にしても違いはない。細かく見れば、それぞれを司るECUの設計要件に至るまで自動運転が求めるそれと同一である。

そのことから「自動運転である」と結論づけたくもなる。なにより同乗試乗した筆者が、「これは自動運転ではないか」と感じたくらいだ。しかし、実際にはそう言い切れない複雑な事情が関係する。

現時点、一般道路におけるEDSSは作動時間の上限を60秒、制御可能な走行距離の上限を150mと国土交通省が定めている。150mは警察庁が定めた「一般道路において隣接する信号機との距離(交差点と次の交差点の停止線間の距離)」から算出された値だ。

したがって、こうした国土交通省の規定があることから、SAE(米国自動車技術者協会)の自動化レベル定義(レベル0~5の6段階)からするとピタリと当てはまる自動化レベルが存在しないのだ。

■「万が一の際」に稼働する自動運転技術

たとえば世界初のレベル3技術を実装し2021年に発売されたHonda「レジェンド」は、稼働速度域(上限50km/h)や運行設計領域(ODD)に限定条件がつくものの、それらがクリアされれば時間や距離に上限はない。

個人的には一般道路におけるEDSSに対して、「極めて限られたODD(先の60秒かつ150m)での自動運転」という拡大解釈ができるので、「ミニマルなレベル4」ではないかと考えているが、そのようなレベルは存在しない。ちなみに、ここでの「ミニマル」とは絶対的な最小限を意味し、枠組み内での最小限を意味する「ミニマム」とは異なる。

こうした諸事情を勘案してわかるようにMAZDA CO-PILOT CONCEPT1.0や同2.0を含むEDSSは、「緊急時に安全な場所まで、自律型の自動走行に徹して停車させる」技術であり、自動運転そのものとは活用の仕方や目的が違うとするのが正しい。

改めて、自動化レベルの定義に則った自動運転が「ドライバーが率先して使う自動運転技術」であるならば、EDSSであり、MAZDA CO-PILOT CONCEPTが目指している姿は「万が一の際に自律的に稼働する自動運転技術」だと言い切れる。

自動走行実証実験中の様子。同乗試乗はマツダが許可を取り、東京・お台場の一般道路で行なわれた
画像=筆者撮影
自動走行実証実験中の様子。同乗試乗はマツダが許可を取り、東京・お台場の一般道路で行なわれた - 画像=筆者撮影

■「無意識の異変」を捉える技術の研究も進めている

車両の制御技術に加えて、MAZDA CO-PILOT CONCEPTを含むEDSSを正しく機能させる上で大切なことがもうひとつある。それは、ドライバーの異常を正しくシステムが検知することだ。

MAZDA CO-PILOT CONCEPT1.0では、市販車でありマツダが第7世代商品群と称するマツダ3以降のモデルに車載されているドライバーモニタリングカメラを使い、ソフトウェアでの解析技術を高めながらドライバーの姿勢崩れを検知する。そして、同時にステアリング操作の有無も把握しながら異常な状態を診断し、確実な制御へとつなげていく。これをマツダでは「ドライバー状態検知技術/異常検知」と位置づけた。

これがMAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0になると、1.0でのセンシング手法に加えて、この先、訪れるであろう、ドライバーとして意識することがない危険までも検知する。こちらは「ドライバー状態検知技術/異常予兆」と呼ぶ。

具体的には、無意識下で徐々に進行する脳機能の異変や低下(=危険な状態)をマツダ独自のアルゴリズムで“予兆”として捉え、危険な状態に近づこうとする前段階でドライバーに報知し、自動停車機能とも連携を図るという。

マツダでは2.0における異常予兆の確立に向け、より高い精度でのドライバー状態把握を目指し、サリエンシーマップ(≒人が引き寄せられやすい箇所を示したマップ)なるものを広島大学と共同で研究。そこでは健常者と、脳疾患をもつ患者とでは、視線挙動に違いがあったり、偏りがあったりすることを発見し、この先の開発に活かしていく。

将来的には、前は向いているもののボーッとしてしまうことで発生する“うっかり事故”や、統計データ上、高齢ドライバーに多い“認知症特有の運転傾向”の把握が正確に行えるようになる。

■車体設計の“哲学”と自動走行技術の見事な連携

今回、同乗者としてEDSSを一般道路で体験し、早期に普及させるべき技術であることが再確認できた。体調が急変したドライバーや同乗者だけでなく、進行方向にいる他車や歩行者など、他の交通参加者の命も守れるからだ。

その上で、MAZDA CO-PILOT CONCEPT2.0の音声を通じたきめ細やかなHMIへの理解も深まった。さらにマツダが長年こだわり続ける、人の感覚に寄り添う車体設計の“哲学”と、人が運転しているかのような“自動走行技術”の見事な連携も新たな発見だった。

一方で、EDSSの一般道路における規定では、作動上限の緩和(現状60秒かつ150m)が必要になると実感した。混雑した道路環境ではタイムアウトとなり、せっかく路肩への退避制御や能力があるにもかかわらず、その場で停止せざるを得ないシーンが考えられるからだ。

合わせて、EDSSの作動上限緩和が進めば回避できる事故シーンが増えることから、車両保険の支払額が低下し、社会的損失度の低下から自動車保険の保険料値下げなども期待できる。事実、先進安全技術の普及から2022年以降、平均して5%程度引き下げられる。そんな部分にまで思いを馳せた。

■快適さだけではなく、リスク低減のための技術

高度運転支援技術やその先の自動運転技術には大いなる期待が寄せられている。一方で、ステアリングから手を放すこと、カーナビやDVD観賞をすることが自動運転の活用方法としてクローズアップされているのも事実だ。

しかし、それらは快適な移動をサポートする上で得られた副次的な効果である。それよりも、身体の不自由な人や高齢者であっても、すべての人がリスクを遠ざけながら移動できる、それを支える手段として自動運転技術が昇華されると社会受容性の高まりが早まるのではないか。

個人的には、ドライバー主体の運転操作で移動を楽しみながら、万が一の際にはEDSSによる自動停止機能により危険が回避できたり、また自身の判断で自動運転のスイッチをオンにして快適な移動がサポートされる社会が訪れたらいいなと考えています。

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西村 直人(にしむら・なおと)
交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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(交通コメンテーター 西村 直人)

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