「意志が弱いからではない」何度やってもダイエットに失敗する人たちの共通点
プレジデントオンライン / 2021年12月29日 12時15分
※本稿は、下村健寿『オックスフォード式 最高のやせ方』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■これまでのダイエットは失敗するようにできている
いままで話題になったダイエット法はたくさんあります。そして、そのすべてのダイエット法は部分的にはよく効きます。
「部分的」というのは、「体重が減る」ということに限定して考えれば、「短期間で見ればすべて効果がある」ということです。
問題点はふたつ。
ひとつ目は、「体重は減るが、健康を害する」ということ。
せっかく体重が減っても、体力も落ちてやる気がなくなってしまったり、病気になって寿命が縮んだりしてしまっては、元も子もありません。
そしてふたつ目は、すべてのダイエットに共通している問題。「いったんダイエットに成功しても、減量した体重を維持できない」ということです。いわゆるリバウンドです。
2020年に「British Medical Journal」誌にて、「糖質制限ダイエット」などいままでに提唱された代表的な14のダイエット法の効果を検討した論文が発表されました。
その結果、ダイエット開始6カ月の時点では、すべてのダイエットに体重減少効果があったことが確認されました。
しかし、そのすべてのダイエット法において、1年後にはその効果がなくなっている……つまりリバウンドしてもとに戻っていたことが確認されています。
ダイエットを成功させるためには、まず「過去から学ぶこと」が大切です。「過去に学ばない者は、過ちを繰り返す」という格言があります。それはダイエットに関しても同じなのです。
今回は拙著『オックスフォード式 最高のやせ方』より、あなたがこれまでトライしてきたダイエットはなぜ成功しなかったのか、解説いたします。
■人はどうやって空腹を感じているのか
「食べる量を減らせばやせる」
誰だって知っています。でもこれができない。じつはこれは当たり前のことです。「食べる」ということは、生きる上で必須の行為。意志の力でコントロールできるものではありません。
医学的・生理学的観点から、食欲は我慢できないようにできているのです。
そもそも、「食欲」がどのように呼び起こされるのか、その仕組みを知らなければ、ダイエットはうまくいきません。敵を知らずに戦いを挑んでも失敗するだけです。
「食欲」とは、「お腹が空いた状態」です。つまり、胃の中が空っぽということです。
では、「胃の中が空っぽ」だと食欲を感じるのでしょうか?
試しにお腹がすいているときに、水をたくさん飲んでみてください。空腹感は消えましたか? 依然としてお腹はすいているはずです。つまり、お腹が物理的に体積として膨れても、空腹感は満たされないのです。
では、人はどうやって空腹を感じているのでしょうか?
食事をして胃が食べ物で満たされると、胃や小腸からホルモンが分泌され、それと同時に血糖値が上昇します。これら食後に増加するホルモンや糖などの因子が脳に働きかけて、「お腹いっぱい」と感じさせて「満腹」の状態を作っていることになるわけです。
つまり、食欲をコントロールしているのは脳なのです。そして、この脳がコントロールする「食欲」は、じつは2種類あります。
それが「恒常性食欲」と「報酬系食欲」のふたつです。
■「報酬系食欲」こそ人を太らせる元凶
「恒常性食欲」とは、体の内部の環境を一定の「生きている」という状態に保つための食欲です。
たとえば、夕食を食べずに翌朝を迎えて、そのまま何も食べないで空腹が続いていたら、一日のパフォーマンスは当然落ちるでしょう。体がいつもの調子——恒常性——を保てなくなっているのです。
つまり、恒常性食欲とは「生きるための食欲」です。
もう一方の「報酬系食欲」とは、すなわち「快感を覚える」ための食欲です。
たとえばデザート付きの食事をすると、お腹はいっぱいになり、さらに深い満足感を味わう感覚に覚えはありませんか? この満足感とは、いい気持ち——つまり快感です。脳の報酬系が機能した結果です。これが「報酬系食欲」です。
みなさんも、「スイーツは別腹」という言葉を耳にしたことがあると思います。この現象は、冷静に考えてみるとお腹がいっぱいなはずなのに、「食べたい」と思ってしまう不思議な欲求であり、またダイエットを志す人からみると、意志が弱い人の典型例のように見えます。
ですが、実際には意志とはまったく関係ありません。脳がひたすら快感を求めた結果なのです。極端な話をしますと、麻薬を使った際の快感と全く同じ快感です。
ストレスが多い人に食べ過ぎの傾向が見られるのも、苦しい、つらい、という思いを抱いたときに、いちばん手軽に自分を慰められるのが、「食べる」ことに伴って感じられる快感だからです。
この報酬系食欲を制御する部位は、脳の腹側被蓋野(VTA)ということから始まり、大脳基底核の線条体合流部にある「側坐核」という場所にいたる神経の道筋のことを指します。報酬系回路や快感回路とも呼ばれます。
そして報酬系食欲を含めた報酬系回路の活性化こそが、人を太らせる元凶なのです。
■食欲は意志の力では決してコントロールできない
ならば、この報酬系回路さえコントロールできればやせられるじゃないか、と言いたいところですが、事はそんなに簡単ではありません。
報酬系回路は、食欲だけでなく、快感を伴うあらゆる行動に関与しています。そして、この「快感」というものは、みなさんが思っている以上に動物を支配する力を持っています。
ある恐ろしい実験があります。マウスの脳の報酬系回路に電極を埋め込み、それをマウスが前足で押すことのできるレバーにつなぎます。つまり、マウスは前足でこのレバーを押すことで、自らの力で報酬系回路を活性化して快感を覚えられるようになる仕組みです。
するとどうなったと思いますか? マウスはすべてを忘れてレバーを押し続けるようになってしまったのです。食事も水もとらずに押し続け、そのまま放っておいたら餓死寸前の状態に陥りました。
それはマウスだったから、と考える方もいるかもしれません。しかし、同様の現象は人間においても確認されています。
1970年代から80年代にかけて、電気刺激によって精神疾患の患者さんを治す試みが行われました。その際に、報酬系回路に電極が置かれてしまったことがあります。
結果はやはりすべてを忘れて電気刺激を求めるようになった、と報告されています。ひどい場合には、電気刺激のスイッチを押しすぎて指に潰瘍ができるほどだったそうです。
そして報酬系回路は食欲だけでなく、やっかいなことに、実は恋をしたときにも活性化します。恋をしたときと同じメカニズムが報酬系の食欲では働いているわけです。
意志の力で恋を止めることができません。
■恋心も、食欲も無理に抑えてはいけない
これでおわかりいただけたと思いますが、やせ薬がないのはここに理由があります。
かつて、脳の報酬系に働きかけて食欲を制御する薬が、欧米で一時期使用されていたことがあります。しかし、これらの薬にはなんと「自殺を増やす」副作用があったのです。原因は、食欲を制御する薬は、報酬系回路、つまり快感を抑えてしまう作用が働いたからです。
恋をしたり、何かを楽しいと思ったりする気持ちを抑えたり、そして食事をする欲を抑えることは、ひいては生きる喜びを奪ってしまうことにつながりかねません。
食欲が抑えられてダイエットに成功しても、「生きているのがイヤ」になったり、健康を害しては元も子もありません。
拙著『オックスフォード式 最高のやせ方』では、今回紹介した食事制限ダイエットがうまくいかないより詳しい解説から、各種流行しているダイエットの落とし穴、やせるために必須の知識、そして私が様々な医学的エビデンスや各種ダイエット法の失敗例をもとに辿りついたダイエット法を紹介しています。
ぜひ拙著も参考にしていただきながら、ダイエットの成功を果たし、みなさんが長く健康で楽しい人生を送られることを願っています。
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福島県立医科大学医学部 病態制御薬理医学講座 主任教授
医学博士・医師。元・英国オックスフォード大学生理学・解剖学・遺伝学講座/遺伝子機能センター シニア研究員。1997年、福島県立医科大学医学部卒業。2004年群馬大学医学部大学院(内科学)卒業:医学博士。同年、日本を離れ英国オックスフォード大学生理学・解剖学・遺伝学講座に研究員として就職。インスリン・糖尿病学の世界的権威であるフランシス・アッシュクロフト教授に師事。同大学にて、04年に発見された新生児糖尿病の治療法の発見に貢献する。14年から母校の福島県立医科大学の特任教授に着任。17年に同大学病態制御薬理医学講座 主任教授に着任。現在でも月200人以上の患者を担当する臨床医でもある。著書に『オックスフォード式 最高のやせ方』(アスコム)などがある。
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(福島県立医科大学医学部 病態制御薬理医学講座 主任教授 下村 健寿)
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