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「給付金10万円にしか興味がない」日本の政治家が"お金配りおじさん"になる悲劇的な結末

プレジデントオンライン / 2021年12月22日 9時15分

参院本会議で2021年度補正予算が賛成多数で可決、成立し、起立する岸田文雄首相(右端)ら=2021年12月20日、国会内 - 写真=時事通信フォト

総額約36兆円にのぼる補正予算が成立した。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「国内では18歳未満への給付金をどう配るかで大揺れだが、世界に目を向ければ日本はこれ以上バラマキをしている状況ではない」という――。

■「臭いものには蓋」でバラマキを続ける政治家たち

前回、プレジデントオンラインで日本財政がいかに危機的な状況にあるかを書かせていただいた。その後、財務省の矢野康治財務次官が『文藝春秋』10月号に寄稿し日本の財政が改めて話題になった。

わが国の財政を一番理解している方が警戒警報を鳴らしたのである。前代未聞のことだ。真摯に受け取らなくてはいけないはずだ。

しかし、一部の政治家の猛反対を受け、わずか2カ月前のことなのに何事もなかったような緊張感のない日々が戻ってしまった。

それどころか、永田町では18歳以下への10万円給付などバラマキの話ばかり。

「この国に財政危機などどこに存在しているのだ」と思うがごときのバラマキ補正予算は35兆9895億円で20日に成立した。今年度の税収の当初予測が57.4兆円だから、その62%にものぼる。

いやはや、もう原則もへったくれもありゃしない。補正予算とは「予算作成後に生じた事由で、とくに緊要となった支出」のはず。それが1年間の税収の半分以上の金額だ。

なに、それ? の世界だ。

■中央銀行の債務超過が「災厄」を招く

私が間近に迫っていると考える危機とはハイパーインフレだ。

「今、デフレ脱却が成功したか否かの時期なのに何を言うか」と思われる方がいるかもしれないが、デフレ/インフレとハイパーインフレは原因が異なる。

デフレ/インフレはモノやサービスの需給のギャップによって起こるが、ハイパーインフレは中央銀行の債務超過によって起こる。したがってデフレからハイパーインフレへと一晩のうちに変わってもおかしくない。

ハイパーインフレは中央銀行の破綻で起きる。元米財務省長官でハーバード大学学長をされたサマーズ氏が「インフレを起こそうと思えば簡単だ。中央銀行が信用を失えばよい」と発言したことがある。

中央銀行が信用を失う最たるものは債務超過だ、民間銀行でいえば倒産状態だ。

よく通貨は国力で決まると言われる。私も確かにそうとは思うが、それは「中央銀行が健全であるならば」という前提条件が成立している時の話に過ぎない。

どんなに国力が強くても中央銀行が債務超過になれば、その発行する通貨は紙くずだ。だから戦後のドイツは財務内容が劣悪になった中央銀行(ライヒスバンク)を廃し(=旧紙幣は紙くず)、健全財務の中央銀行(=ブンデスバンク)を作った。

これにより新中央銀行設立の前後でドイツの国力は全く変わらないのに健全な通貨を持つ国(=ハイパーインフレが収まる)へと生まれ変わった。

■世界の中銀は利上げに向けて動き出したが…

日銀は、今、どういう状態か?

実務家の私が「日銀は廃せざるを得なくなるだろう」との論陣を張っていることをご存じの方も多いかと思うが、日銀危機説は私だけが唱えているわけではない。正統派の学者の先生方の中にも声をあげている方がいる。

青空を背景に日本銀行
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

『日銀バブルが日本を蝕む』(文春新書)は朝日新聞東京本社の特別報道部だった藤田知也氏が著した本だ。その中に今年2月に亡くなられた金融学者の池尾和人慶應義塾大学名誉教授の話が載っている。

「幾度か取材した中で、こうした警鐘を鳴らしていたのは、黒田日銀の金融政策に一貫して異を唱えてきた慶応大学教授(18年4月から立正大学教授)の池田和人だ。18年3月末、池尾に『何か打開策はあるでしょうか』と聞くと、こんなひと言が返ってきた。『妙案みたいなものは、もう簡単には見つかりません。『シートベルトを強く締めてください』と呼びかけたほうがいいかもしれませんね』」

また、9月9日の日経新聞「経済教室」では、慶応義塾大学の櫻川昌哉教授が「量的緩和は今や、財政ファイナンス(財政赤字の穴埋め)の道具と化し、肥大化する財政の受け皿となった。資産規模の拡大は、中央銀行の信用失墜と機能不全の予兆と受け止められつつある」と書かれている。

日銀の信用失墜と機能不全のいきつくところはハイパーインフレだろう。

前回の利上げ時(2015年から)、連邦準備制度理事会(FRB) は債務超過にならなかったのになぜ日銀の債務超過を心配するのか?

私が日銀の債務超過リスクをSNSに書いた時、「ならFedは金利上昇した時債務超過になりました?」との皮肉っぽいリツイートが届いた。たしかにFRBは2015年から2018年まで「0.0%~0.25%」から「2.25%~2.5%」への利上げを数度にわたって行ったが、債務超過にはならなかった。だからと言って日銀も債務超過にならないとは言えない。

以下の表を見ながら説明する。

FRBの損益計算書

■日米中央銀行の収益の差

前回の利上げ開始時(2015年)のFRBの純損益は999億ドル(約11兆4000億円)だったのに対し、同じく利上げ前の現在の日銀(2020年度)の税引き前純利益は1兆4529億円に過ぎない。たったの10分の1強だ。

とはいえ、当時のFRBが日銀の10倍の資産を保有していたわけではない。

コロナ禍でFRBも大きくバランスシートを膨らませたにもかかわらず、2021年5月時点のFRBの保有資産は8兆ドル(約880兆円)で、日銀の724兆円とほぼ同規模なのだ。

両中央銀行の大きな収益力の差は資産規模の差から来るものではなく、保有債券の利回りの差によるものだ。

話は少し脱線するが、経済規模が米国の4分の1しかない日本の中央銀行が、FRBとほぼ同じ規模のバランスシートを保有していることは異常だ。中央銀行の主たる負債は発行銀行券と民間銀行が中央銀行に置いてある当座預金である。

この対比から日銀が対経済規模比でいかにお金をばらまいているかがわかる。日本ではインフレが始まったら、すぐに燃え上がる可能性があるということだ。油をまいた乾いたマキの上に座っているようなものと言える。

もう一つの驚きは、日銀の利益1兆4529億円のうち半分の7275億円が株の運用益ということ。本来、中央銀行は市況によって損益が大きく上下する資産は保有しないのが鉄則だ。債務超過となり中央銀行の信認が崩れ、通貨に対する信認が無くなるのを防ぐためだ。

チャート
写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

株は運用益が多くなる時もあれば損が膨らむこともある。だからこそ世界の中央銀行で、金融政策目的で株を保有する中央銀行など日銀以外に無いのである。

過去の日本銀行も当然保有していない。その本来持ってはいけないはずの株式からの収益が純利益の半分であるなど、「え、それが中央銀行の決算書?」と言いたくなる。

■利上げに日銀は耐えられない

参議院議員の時、日銀の黒田東彦総裁や若田部昌澄副総裁に「金利引き上げ時に日銀は債務超過になるのではないか?」と尋ねたことがある。

これに黒田総裁は「支払利息は増えますが受取利息も増えるので大丈夫です」とお答えになった。嘘ツケだった。よくもそんなハッタリが言えると思ったものだ。

私の金融マン時代と異なり、今の日銀の保有国債は大部分が長期債だ(2021年9月末の保有国債528兆円のうち長期国債は509兆円)。長期国債は固定金利であり、満期が来るまで受取利息は変わらない。満期が来た分だけしか新しい金利に置き換わらない。

私が金融マンの時のように日銀保有国債の大半が3カ月未満の国債で、利上げ時、すぐに高い金利の債券と入れ変わる時代とは違うのだ。ここで図表1を見てみよう。

FRBの受取利息も2015年の1136億ドルから2018年の1123億ドルとほとんど増えていない。理屈通りの動きだ。黒田総裁や若田部副総裁がなんとコメントするか聞きたいものだ。

パウエル氏
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長(写真=『Federal Reserve History』HPより)

2015年の0.0%~0.25%から2018年の2.25%~2.5%までの政策金利引き上げは、民間金融機関がFRBに預金している当座預金への付利金利を上げることによって行った。

量的緩和をした以上、それしか政策金利を上げる方法は無いと言われている。したがって支払利息は当然のように2015年の72億ドルから2018年の430億ドルへと急増した。

受取利息が増えないのに支払利息が増えたのだから、当然の結果として純利益は2015年の1064億ドルから2018年の692億ドルへと急減している。もしFRBが更なる利上げを継続していれば純利益はいずれは損失に変わっていただろう。

■日銀が利上げをすれば“債務超過”一直線

FRBの例でみたように利上げ時期になると中央銀行の利益は急速に減少を始める。

では日銀はどうなるであろうか?

現在の日銀の収益は、先ほど見たように2015年のFRBの純利益の10分の1強の1兆4529億円に過ぎない。万が一利上げが始まり株価が下落して株の運用益が無くなれば、7000億円から8000億円とさらに少なくなる。

一方、支払利息の方は1%ごとに5.41兆円の支払いだ。日銀当座預金残高が541兆円もあるからだ(2021年9月末)。FRBと異なり少しでも政策金利を引き上げると純利益が損失に変わり損の垂れ流しが始まるということだ。

資本金は1億円しかないし、引当金+準備金も10.3兆円しかない。簡単に債務超過に陥る。

FRBは12月15日の会合でテーパリングのペースを倍増すると決定し、2022年の利上げ見通しを前回の1回から3回に引き上げた。英中央銀行も12月16日に予想外の利上げを行い、世界の中央銀行はインフレ対応に舵を切り始めた。

もし、世界の中央銀行の利上げ競争から日銀が取り残されれば、他国通貨との金利差拡大で大幅円安が起こり、輸入インフレが生じる。輸入物価が円安で上昇し、それと競合する本邦製品の値段も引き上がる。輸入原材料が値上がりすれば完成品価格も上昇することもある。

このように日本でもインフレが始まった時、日銀が政策金利を引き上げれば、日銀は債務超過になってしまう。引き締めなければ「インフレ加速しているのに日銀は何している」との怨嗟の声が泣きあがり、日銀はピンチになる。

それ以上に物価上昇が止まらないことが大問題となる。いずれにしても海外の中央銀行がこぞって利上げするようになれば日銀は大ピンチである。

■仮に日銀が債務超過に陥ると、私たちの生活は……

日銀が債務超過すると日本経済はどうなるのか。まずは円の信用が失墜する。外資はG7の国であろうと政府も中央銀行も倒産するという前提のもとで取引額の上限を決めている。過剰な損失を防ぐためだ。

日銀も債務超過になれば、外資は急速に取引枠を縮小し最終的には日銀当座預金を閉鎖するだろう(もっとも財務が健全な新しい中央銀行が出来れば再開する)。「某民間銀行が危ない」というニュースが流れれば、皆さんが急いで銀行に駆け付け、預金を引き降ろす(=取り付け騒ぎ)のと同じだ。相手が中央銀行でもそれは同じ。

日銀当座預金口座は円に係るすべての銀行間取引において必要不可欠な勘定であり、外資がこの口座を閉鎖するとなれば日本人は円を売ってドルを購入する手段が無くなる。円が世界のローカル通貨化するということだ。

ドルとの互換性の無くなったローカル通貨は紙くずや石ころと同様の存在だ。いくらモノやサービスが供給過剰でも、石ころでは売り手はモノを売ってくれない。それがハイパーインフレである。

■ドルと暗号資産を持っている人はマシ

では日本社会はどうなるか。ここまでは金融の話だから私の専門の範疇だが、これ以降は私の専門の範囲を超える。政治もかかわってくるから、これからの話は頭の体操にしか過ぎないことはご了承いただきたい。

政府は1兆4057億ドル(約160兆円)ある外貨準備(ほとんどがドル)を使って、原油、外国製農産物、高額薬品等を確保し、国民の生存を図るだろう。

餓死しない程度の最低限の生活は出来そうだ。ドルや暗号資産を買って、それなりに準備をしてきた人は多少はマシな生活を送ることができるだろう。

IMF(国際通貨基金)は救援に入ってくれるだろうが、年金、健康保険、公務員給料その他大胆な歳出カットが前提であり、国民生活のレベルは極端に落ちるだろう。

世界にはハイチのように1日1ドル以下で暮らす人々が沢山いるのに、税収以上のバラまきで今まで実力以上の豊かな生活を享受してきた国民を優遇する理由は無い。自業自得と捉えられてしまうだろう。

2010年代に世界経済を揺るがせた「ギリシャ危機」を思い出して欲しい。諸国はギリシャ国債を大量保有していたため金融システムは危機に陥った。各国は債権放棄などでギリシャ再建に協力したが(もちろん財政状態に多くの注文も入っていた)、日本国債は大部分が日銀を中心とする日本人の保有だ。日本の財務に親身になって警告をしてくれる外国もない。

さらに日本の場合は「バラマキの自業自得。勝手にコケれば」と諸外国に見放され救援にも身が入らないだろうと想像する。また「Japan as No.1」と称賛された1980年頃の経済力はもう日本には無いから、世界経済への打撃はかなり小さくなっている。

これも(さすがに世界の株価は下押しするとは思うが)他国の救援がたいして期待できない理由だ。

■放漫財政のツケを政治家は払わない――払うのは国民自身

ハイパーインフレの進行で国民の財産は政府に実質的に回収され(=借金踏み倒しの完成)究極の財政再建がなされる。私たちの財産は国に没収され(=大増税と同じ)、ゼロから再スタートが始まるだろう。

国民の財産をハイパーインフレで充分吸収し終わった後に、政府は新しい中央銀行を創設し、信用力を回復した新通貨の発行さえすればいいのだ。放漫財政のツケは国民が一身に背負うことになる。

終戦直後と同様、希望があれば人間は強く生きていける。これだけ優秀で勤勉な民族の国民だ。これを機に「世界最大の社会主義」と揶揄される経済の仕組みを、真の資本主義体制に変えさえできれば、日本は必ずや復活できると確信する。

政治の力では実践できそうにない。ハイパーインフレという市場の力を借りて、真の資本主義国家ができるのなら不幸中の幸いだ。若者は、我々高齢者が積み上げた借金を返すだけに働かなくてはならないはずだった。財政破綻で借金の無いきれいな日本を若者に引き渡せる――。これももう一つの不幸中の幸いと言えるだろう。

今の日銀は中央銀行の体をなしていない。今回は、日銀の政策金利引き上げの難しさに焦点を当てたが、日銀の問題はほかにも山積みだ。私は中央銀行の「取り換え」は不可避だと思っている。機会があれば他にどんな大問題を抱えているかを述べてみたいと思っている。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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