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品薄のニンテンドースイッチも半額…関西発のアウトレット店の「全品半額以下」のカラクリ

プレジデントオンライン / 2021年12月31日 9時15分

2020年12月にオープンした222新宿店。222としては珍しく雑居ビルの中にある。 - 提供=ガットリベロ

全国で8店舗を展開するアウトレット店「222(トリプルツー)」は、一律半額以下の低価格で商品を販売している。なぜそのような売り方ができるのか。ライターの小口覺さんが取材した――。

■どんな小さな傷でも訳あり品扱い

「高くて半額、安くて1円」をうたう激安アウトレット店「222(トリプルツー)」。2017年、第1号店を滋賀県栗東にオープンし、20年12月には関東進出の第1号店として新宿に出店。現在、全国8店舗展開している。

滋賀県にある222の1号店・栗東店の外観。
提供=ガットリベロ
滋賀県にある222の1号店・栗東店の外観。 - 提供=ガットリベロ

同社では、配送などの際にパッケージの箱が破損した商品、返品されてきた商品など、訳あり品をまとめて買い取っている。その数は、1カ月に5万~6万種類にも及ぶ。そのため、商品を選別せずに仕入れている。

日本の消費者は神経質で、箱つぶれ品や返品されてきた商品を新品として購入することを好まない。パッケージを梱包し直すにも、手間や人件費がかかるため、222のような店に買い取ってもらうほうが早いと考える会社が多い。また、ゲーム機などの精密機械は、外箱に損傷があると本体にも支障が及んでいる恐れがあり、一般小売店では新品として販売できないため、どんな小さな傷でも訳あり品扱いになるそうだ。

賞味期限が迫っている・過ぎてしまった食品も様々な仕入れ先から持ち込まれる。廃棄するにもコストがかかるため、安くても引き取ってくれる222のような店は、ありがたい存在だ。その他、コロナ禍で売れなくなった化粧品や、入れ替えの激しい季節商品、限定商品なども流れてくる。

新宿店のアパレルコーナー。
提供=ガットリベロ
新宿店のアパレルコーナー。 - 提供=ガットリベロ

■赤字覚悟で売る商品も

訳あり品を中心にしているため、メーカーや流通を刺激せずに商品を集められる。これが、大手のディスカウントストアに対してのアドバンテージになっている。

「安売りはしていますが、ディスカウントで大手と勝負しようとは思っていません。大手には資本力で負けますから。いい格好するわけじゃないですけど、『本来捨てられるものを救っている』という思いもあります」(荒木さん、以下同)

222の運営会社・ガットリベロ代表の荒木伸也さん。
222の運営会社・ガットリベロ代表の荒木伸也さん。(提供=ガットリベロ)

商品を選別せずに仕入れ、全品半額以下で販売するとなると、ひとつひとつの商品では原価割れも出てくる。例えば液晶が割れたテレビだ。そうした商品は、赤字覚悟で1000円程度のジャンク品として売り出しているが、グロスで利益を確保しているので問題ないという。

冒頭で紹介したNintendo Switchのような掘り出しものはすぐに売れてしまう。それがお客さんの『毎日見に行かなければ』と足しげく通わせる理由にもなっている。目玉商品は家電やゲーム機だが、常に商品がそろっているわけではない。それらも全て外箱に傷や破れのある訳あり品なので、入荷の頻度にバラつきがある。なお、仕入れてすぐに店頭に出すのではなく、店がメディアに紹介されるタイミングでSNSを通じて抽選販売をしている。

2020年2月には人気商品のNintendo-Switchも半額(この時は1万6000円+税)で販売されていた。外箱の真ん中あたりに細い横長の傷がある「訳あり品」だ。
画像=「222公式インスタグラム」より
2020年2月には人気商品のNintendo-Switchも半額(この時は1万6000円+税)で販売されていた。外箱の真ん中あたりに細い横長の傷がある「訳あり品」だ。 - 画像=「222公式インスタグラム」より

ちなみに21年のNintendo Switchの入荷数は8店舗で10台以下。よほど運が良くないと買えないだろう。

「以前、テレビ番組でNintendo Switchの販売風景が紹介されたことがありました。その後、『いつ入荷するのか』というお問い合わせを多数いただきましたが、コンスタントに入荷しているわけではないのです」

もっとも需要が高いのは、マスクやお米、オムツといった消耗品で、安ければ安いほど、ついで買いやまとめ買いされる。

ちなみに、222における元値は、ネット通販の販売価格の平均値、もしくは定価・メーカー希望小売価格を基準にしている。元の価格をわざと高く表示する二重価格にならないようにしているという。

■趣味の本を売ることから事業をスタート

同社の創業は、荒木さんが33歳の2005年、日本で開始されて間もない「Amazonマーケットプレイス」で手持ちの本を売ることからスタートした。

「当時はサラリーマンで、本が好きで500~600冊の本を持っていました。それを試しに売ってみたところ、すぐに売れた。しかも購入してくれた方から、『きれいな状態で届きました』などの声までいただけた。自分が大事にしていた本で他の方も喜んでくれる。それが面白くて手持ちの本を売り尽くした。2カ月やってみて、これで食べていけると思ったので会社を辞めて独立しました」

最初は自宅の押し入れを倉庫にし、当時は今ほど認知されていなかった「せどり」や、ご近所からの買い取りなどで商品を集めては販売した。やがて本だけでなく、CDやDVD、さらには家電などの商品を扱うようになる。転機となったのは、2011年の東日本大震災だ。

「当時お付き合いしていた方の倉庫が千葉にあり、地震で棚の商品が大量に落下してしまった。早急に片付けなければならず、買い取ってくれないかとの依頼を受けたのです。体育館以上に広い倉庫で、とても検品できる状態ではなかったのですが、これも何かのきっかけ、必然なのかなと思い、やりますと答えました」

買い取り価格は数百万円。手持ちのキャッシュでは足りず、銀行からの借り入れを行い、商品を保管するための物流倉庫も借りた。結果的には、壊れていない商品も多く利益を出すことができた。それを機に商品を卸せる取引先が増え、販路も楽天市場、Yahoo!ショッピングへと広げていく。そして、創業から13年後の2018年、リアル店舗「222」を滋賀県栗東市にオープンする。

■看板も電気もない倉庫で近所の人に声がけ

「これも、ある時倉庫が溢れんばかりの商品が入ってきたことがきっかけです。訳ありで1点ものの商品が多く、説明する文章や写真を用意する手間がかかるため、ネット販売は難しかった。さらに当時は通販の送料が社会問題化し、送料のコストが上がっていた。安価でかさばる商品では、送料負けしてしまう問題が生じていました。そこで、試しに倉庫で近所の人に向けて売ってみようとなったわけです」

滋賀県・栗東の倉庫で店を始めたときの様子。まだ名前すらなく、看板も掲げていなかった。
提供=ガットリベロ
滋賀県・栗東の倉庫で店を始めたときの様子。まだ名前すらなく、看板も掲げていなかった。 - 提供=ガットリベロ

社員にそう話した2日後に開店するスピード感だった。お試しなので、看板もなければ宣伝のためのチラシもまかない。ダンボールの上に商品を置いて簡単な値札を書き、道を歩く人に直接呼び込みを行った。

「隣が保育園だったので、『奥さんちょっといいものありますよ』と声をかけた。怪しいですよね(笑)。社内に小売りの経験者は全くいませんでしたし、お店屋さんごっこに近いレベルです」

■お客さんは「宝探し」感覚で楽しんでいた

全品半額以下ではなかったものの、その安さから口コミで伝えようとする客がいた。その場で携帯電話を使って情報を伝えようと、「ここなんていうお店でしたっけ?」と聞かれるも、店の名前はまだなかった。また、「この店は何時までですか?」という問いには、「暗くなるまでです」と答えた。倉庫には電気も引かれていなかったからだ。

営業時間は「暗くなるまで」。店には電気も通っていなかったからだ。
提供=ガットリベロ
営業時間は「暗くなるまで」。店には電気も通っていなかったからだ。 - 提供=ガットリベロ

「夕方になると倉庫の中が暗く商品や値札が見えなくなる。携帯のライトを光らせながら探されているお客さんを見た時、宝探しのような感覚で楽しまれているとお見受けした。今はどの店もきれいなのが当たり前ですが、昔ながらのガチャガチャした商店街のようなお店に行くのも買い物の楽しさではないかなと思ったのです」

今やグループで国内594店舗、海外91店舗に成長したパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(ドン・キホーテ)も、最初は「泥棒市場」という名の小さな店舗からスタートし、隙間なく商品が並べられる圧縮陳列が、宝探し的な楽しさを提供していた。

店名もないにもかかわらず、口コミで客は増えていった。「オムツが安いんよ」「洗剤が安いんよ」と、その場から電話をして情報が広がっていく。関西の人に特有の、安く買えることがうれしいし、それを人に伝えたくなる性格も大きいのかもしれない。常設の店舗として行けるという手応えをつかんだため、1カ月後には電気や電話が引かれ、「222」としてオープンする。

店名の数字「2」には、3つの思いが込められている。ひとつ目は、本来なら廃棄されてしまうものをリユース、リサイクルとしてよみがえらせる(2回目)。2つ目は、地球環境にやさしく平和になる(ピースの2)。3つ目は、その結果みんなが笑顔になる(ニコ)。

「老若男女、外国の方にもわかってもらえることも数字にした理由です。最初からトリプルツーと呼んでくれる人は少ないですが、頭の中に2という数字を覚えてもらえればうれしいです」

■知名度アップを狙った新宿出店

現在関東圏には、新宿店と川崎港町店の2店舗を構える。

「どうせ東京に行くなら目立つ場所に出店して認知度を上げようと考えました。関西だけでやっていた時は、東京の放送局の方はなかなか本社の滋賀には来ていただけなかった。取材のしやすさという意味でも新宿に決めました」

222はロードサイドやモールの中への出店を基本にしているが、新宿店は新宿東口から間近の好立地ではあるものの、ビルの3階4階にある。

「不利な立地なのは事実です。従来の店舗は車で来客されるので、安いから取りあえず買っておこうと思ってもらえますが、新宿は電車で来られる方が多く、買ってもいいけど邪魔になってしまう。そこが思った以上に難しい」

さらには、コロナ禍で外国人のインバウンド需要が消滅したのも大きい。ただし、関東進出の第1号店として、店舗の知名度や信頼度を高める目的は果たしているという。

■知名度が高まることで仕入れ先が広がった

「テレビ放送されると、地方の方から『家の近所にも出してほしい』との声もいただけます。何店舗が目標ですかとよく聞かれますが、最初は何の根拠もなく会社の名前に合わせて222店舗と言っていました(笑)。現実的には店の数に合わせて仕入れも拡大しなければならず、やみくもに出店はできません。ただ、メディアに取材されることで、全国の仕入れ先から『買ってくれますか』とご依頼をいただくようになった」

知名度を高めることで、仕入れ先が広がり、より多くの商品を安く売ることができる。その好循環のために、メディアへの露出は不可欠だ。少し昔の話にはなるが、1990年頃に有名になった家電の激安店、城南電機を思い出した。今のように家電量販店がメジャーではない時代、宮路年雄社長はテレビのバラエティー番組に出演しては、城南電機の知名度を高めていった。知名度は仕入れにも有利に働いていただろうし、実際に大金の入ったスーツケースで商品を買い付ける様子が何度もテレビで放映された。令和の時代、あそこまで露骨な演出はできないだろうが、構造的には近しい。

そして、洋の東西を問わず目立つ商売はまねされやすい。半額をうたうアウトレット店が全国に増えてきている。レジ打ちの際、値札の金額で入力していき、最後に半額にする演出までまねしている店もあるそうだ。ただ、これは業界全体にはプラスに働くだろう。ブックオフのような中古本買い取り店も、100均(100円ショップ)も、競合が増えることで市場を広げてきたからだ。

半額アウトレットという業態の認知度や市場が広まっていく中、ブランド力、知名度を競合に対してどこまで高められるかが、222にとっての課題となるだろう。そして、訳あり品も、無限に供給されることはない。ECからリアル店舗に転換したように、成長した222がどう進化していくのかにも注目したい。

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小口 覺(おぐち・さとる)
ライター
コラムニスト。ITや家電を中心にモノとビジネスのあり方をウォッチし続け、『DIME』(小学館)『日経トレンディネット』(日経BP)等の雑誌やWebメディアなどで活躍する。「ドヤ家電(自慢したくなる家電)」の名付け親。エンタメ×テックのコンサルティングも行う。

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(ライター 小口 覺)

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