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景気減速に歯止めがかからない…習近平氏が"予想外の利下げ"に踏み切った本当の意味

プレジデントオンライン / 2021年12月27日 11時15分

2021年12月15日、プーチン大統領とのオンライン中ロ首脳会談に臨む中国の習近平国家主席(クレムリン広報) - 写真=AA/時事通信フォト

■予想外の「利下げ」に踏み切った意味

12月20日、中国人民銀行(中央銀行)は予想外の利下げを実施した。今回の利下げの背景には、不動産市況の悪化などによる景気減速が、中国共産党政権の予想を上回っていることがあるとみられる。

共産党政権は、景気の減速に歯止めをかけるため、かなり追い込まれた状況を迎えている。当面、共産党政権は追加利下げなど景気支援策を強化するだろう。特に、雇用を維持するために道路や鉄道の建設などインフラ投資は積み増される可能性が高い。それは、不動産市況の悪化による、セメントや鉄鋼などの過剰生産能力を部分的に吸収するためにも重要だ。

ただ、共産党政権が景気支援策を強化したとしても、短期間で中国経済が落ち着き、徐々に持ち直しに向かう展開は想定しづらい。むしろ、“ゼロコロナ対策”による動線の寸断や不良債権の増加によって、景気減速がこれまで以上に鮮明化し、場合によっては失速するリスクは高まっている。国家資本主義体制を強化し、経済成長を実現してきた共産党政権の経済運営はかなり厳しい状況を迎えている。

■中小企業の資金繰りを支援するためだが…

2020年4月以来、1年8カ月ぶりに中国人民銀行が利下げを行った。それは、苦肉の策としての利下げといえる。具体的に中国人民銀行は1年物の最優遇貸出金利(優良企業向け貸出金利の目安)を3.80%と、0.05ポイント引き下げた。利下げの最大の目的は、中小企業の資金繰り支援にある。

その一方で、住宅ローン金利の目安である5年物の最優遇貸出金利は4.65%に据え置かれた。過去の利下げでは、1年物と5年物の最優遇貸出金利の両方が引き下げられた。今回の利下げは小幅かつ部分的といえる。

これまで、中国共産党政権と中国人民銀行は利下げ以外の手段で、中小企業の資金繰りを支援しようとしてきた。具体的に、中国人民銀行は預金準備率の引き下げ(市中銀行から中央銀行が強制的に預かる預金の比率)を引き下げたり、公開市場操作を通して金融システムへの資金供給量を増やしたりした。そうすることによって、国有・国営企業に比べて事業運営リスクの高い中小企業に銀行が融資などを行いやすい金融環境が目指された。

■不動産バブルを防ぐはずだった政権の誤算

中小企業向けの資金繰り支援が強化される一方で、2020年夏に共産党政権は、“3つのレッドライン”と呼ばれる不動産融資規制を実施し、不動産バブルの鎮静化に取り組んだ。共産党政権にとって想定外だったのは、3つのレッドラインが当初の計画以上に不動産市況を悪化させ、景気減速が鮮明化したことだ。

中国国家統計局が公表した主要70都市の新築住宅価格動向を見ると住宅価格が下落する都市が増えている。規制の影響をやわらげるために共産党政権は住宅ローン関連規制を緩和し始めたが、中国恒大集団が部分的なデフォルトに陥るなど不動産市況の悪化は深刻化している。

さらに悪いことに、新型コロナウイルスの感染再拡大も景気を下押しし、中小企業の事業環境はかなり厳しい。大手企業は輸出を増やして何とか収益を獲得しようとしているが、経営体力が相対的に弱い企業にとって内需の落ち込みは深刻だ。その結果、中国共産党政権と中央銀行は利下げに踏み切らざるを得なくなった。中国経済の実態はかなり厳しい。

■雇用環境は政府のデータ以上に悪化している

今回の利下げは、共産党政権が財政・金融政策、さらには不動産関連などの規制の部分的な緩和を含めた景気支援策をこれまでに増して重視し始めたことを示唆する。特に、習氏は2022年2月の北京冬季五輪を成功させた上で同年秋の党大会にて3期目、さらに長期の支配体制を確立し、共産党の一党独裁を続けようとしている。そのためには取りうる政策を総動員することによって、雇用を守らなければならない。

2021年4月以降、中国国家統計局が発表する完全失業率は5.0%を挟んで推移している。11月の完全失業率は5.0%だった。しかし、この統計は中国都市部の失業率を表しており、農村からの出稼ぎ労働者である農民工は含まれていない。

実際の中国の雇用環境は政府データ以上に悪化しているはずだ。一つのデータとして、財新とマークイットが発表する製造業購買担当者景況感指数(PMI)を構成する雇用指数は50を下回り、なおかつ低下基調にある。また、中国人力資源社会保障省のデータを見ると、2021年9月以降は都市部の新規雇用の増加ペースが鈍化し始めた。

■五輪最優先で各業種が急速に悪化している

その一因として、共産党政権が北京冬季五輪の開催を目指して、“ウィズコロナ”ではなく“ゼロコロナ”を徹底していることは大きい。その結果、飲食や宿泊、交通、物流など人の移動が欠かせない業種を中心に事業環境が急速に悪化している。今後、中小企業を中心に雇用を維持することが難しくなる事業者が増え、雇用環境には追加的な下押し圧力がかかるだろう。雇用環境の悪化は、共産党指導部の求心力を低下させる大きな要因だ。

それを避けるために習政権は、公共事業を積み増して一時的に雇用を生み出し、景気の下支えを目指そうとするだろう。それに加えて追加的利下げなど金融緩和もこれまで以上に強化される可能性が高い。中国人民銀行が5年物の最優遇貸出金利を引き下げる展開も十分に考えられる。人民元高圧力を緩和し輸出セクターへの負の影響を緩和するためにも利下げの重要性は高まっている。

■不良債権処理と公的資金を投じるべきだが…

ただし、追加の景気支援策の発動によって共産党政権が景気減速を食い止めることは容易ではないだろう。最も重大なリスクは、不動産市況の悪化だ。今後、中国の不動産業界ではデフォルトや経営破綻に陥る企業が増える可能性が高い。その結果、銀行およびシャドーバンキングなど中国の金融システム全体で不良債権は増加し、金融の目詰まりが発生するリスクが高まる。

北京の高層ビル街
写真=iStock.com/Liyao Xie
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liyao Xie

資産バブル崩壊後のわが国の教訓を基に考えると、中国は不良債権処理を進めつつ過大な債務を抱える不動産業者や経営体力が低下した金融機関に公的資金を注入すべきだ。しかし、現時点で習政権はその方策をとることが難しいようだ。共産党政権にとって、不良債権処理を進めることによって一時的であるとしても失業者が増える展開は容認できないのだろう。不良債権処理が進まない状況下で景気支援策を強化したとしても、新しい需要を生み出し、自律的な景気回復を目指すことは難しい。

それに加えて、コロナショックの発生を境に、中国では経済の先行きを懸念し支出抑制をより重視する消費者が増えている。そのため、新車販売台数は減少し、国内旅行市場はコロナ禍発生前の水準を下回っている。感染再拡大によって個人消費は減少基調で推移するだろう。

■習氏の野望で中国経済は“板挟み状態”

共産党政権がアリババ・グループなど高い経済成長の実現を支えた民間のIT先端企業への締め付けを強化していることも経済成長にマイナスだ。全体として、共産党政権は不良債権処理を加速させて経済全体でのアニマルスピリットの発揮を目指すよりも、党主導による既存分野の雇用の保護を一段と重視しているように見える。その発想で経済運営の効率性を高めることは難しい。

共産党政権が一党独裁体制の維持を目指して党主導の経済運営を強化する結果として、中国経済は不良債権問題への対応が遅れ、民間のイノベーション発揮も難しくなるという板挟み状態に陥っている。習氏が長期の支配体制を目指そうとすればするほど中国経済のダイナミズムはそがれ、経済の実力である潜在成長率は低下する恐れが高まっている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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