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「日本は米国を騙し討ちした悪い国」80年経っても変わらない日本のメディアの思考停止

プレジデントオンライン / 2021年12月29日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jared Lacamiento

1941年12月8日の「真珠湾攻撃」から80年の節目を迎え、新聞やテレビは大きく報じた。評論家の江崎道朗さんは「日本のメディアは従来のまま“卑怯な騙し討ち”としているが、アメリカでは機密情報が開示され、歴史の見方は変わっている」という――。

※本稿は、江崎道朗『日本人が知らない近現代史の虚妄』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■「真珠湾攻撃の日」を日本のマスコミはどう報じたのか

二〇一七年十一月三日、アメリカ大統領だったドナルド・トランプがハワイ・真珠湾のアリゾナ記念館を訪問した後にツイッターで「Remember Pearl Harbor(真珠湾を忘れるな)」とつぶやいて話題になったことがあります。

日本のマスコミは、トランプは「日本の騙し討ちを忘れるな」という言葉を使ったのだ、と受け止めていましたが、この「リメンバー・パールハーバー」の意味合いもアメリカでは大きく変わってきています。

真珠湾攻撃から八〇周年を迎えた二〇二一年のマスコミ報道も、この言葉を相変らずの意味合いで使い続けました。しかし、歴史は常に見直され続けています。本稿では、アメリカで真珠湾攻撃がどう論じられ、見直されてきているのかを紹介したいと思います。

一九四一年十二月八日(現地時間は七日)、日本軍が真珠湾攻撃をした当時は、それは確かにアメリカにとっては「卑怯な騙し討ち」でした。

ところが一九四八年、アメリカの著名な歴史学者チャールズ・ビーアド博士が『President Roosevelt and the Coming of the War, 1941: A Study in Appearances and Realities』という本を刊行します(邦訳『ルーズベルトの責任』藤原書店、二〇一一年)。

この『ルーズベルトの責任』によって、「時のルーズヴェルト大統領は暗号傍受により日本軍による真珠湾攻撃を知っていたのに、対日参戦に踏み切るため、わざと日本軍攻撃のことをハワイの米軍司令官に知らせなかった」という「ルーズヴェルト謀略論」が登場します。

その後もアメリカでは真珠湾攻撃についての議論が続きます。

■アメリカで進む歴史の検証

そして、真珠湾攻撃五十年にあたる一九九一年十二月七日にアリゾナ記念館ビジター・センターで行われた記念式典において、ある問題が浮上して議論になりました。

式典の名称を「真珠湾攻撃(Pearl Harbor attack)五十年式典」とするのか、それとも「真珠湾五十年式典」とするのか、という議論です。問題になったのは、「攻撃(attack)」という言葉でした。

第二次世界大戦後の、ソ連を相手とした冷戦においては、日本はアメリカの同盟国です。その日本を非難するかのような式典名称はどうなのか、ということです。

特にハワイにおいては日系人たちが多数活躍していますから、日本を敵視するような名称の式典は控えるべきだろう、という議論が起きました。

五十年も経ったことだし、「攻撃」という言葉は外そうではないか、日本の「騙し討ち」を批判するのではなく、いついかなるときに外国から攻撃されるかもしれないことを念頭に置いた国防の重要性の理解を深める記念式典としてその趣旨を変更すべきだ、という議論が行われたのです。

戦艦ミズーリ
写真=iStock.com/NNehring
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NNehring

■式典は祝勝会…なぜ日本への恨み節は聞こえてこないのか

この真珠湾五十年式典に私も参加しましたが、真珠湾攻撃で生き残った軍人とその遺族の皆さんが参加した式典では「われわれは勝ったのだ」という祝勝会のようで、日本に対する恨みみたいな暗い影はほとんど見られませんでした。

結果として、式典の名称から「攻撃」という言葉は削られました。ジョージ・ブッシュ大統領の記念演説も、日本を批判する文言はなく、国防の重要性を強調するものとなっていました。

私が二〇一七年九月、久しぶりにアリゾナ記念館を訪問した時のことです。アリゾナ記念館ビジター・センターの展示担当者の説明を聞きながら歴史展示を見学したのですが、入り口に飾られていた一枚の解説板に特に目を引かれました。次のように記されていたのです。

《「迫りくる危機」アジアで対立が起きつつある。旧世界の秩序が変わりつつある。アメリカ合衆国と日本という二つの新興大国が、世界を舞台に主導的役割を取ろうと台頭してくる。両国ともに国益を推進しようとする。両国ともに戦争を避けることを望んでいる。両国が一連の行動をとり、それが真珠湾でぶつかることになる》(拙訳)

アリゾナ記念館は、真珠湾攻撃は日米両国がそれぞれの国益を追求した結果起こったものである、としているのです。つまり、日本を「侵略国」であると決めつけた東京裁判を事実上否定している、ということです。

いまや日本が一方的に戦争を仕掛けたという議論はなくなり、様々な背景があって戦争になったわけであり、日本を一方的に批判するような展示は変えるべきだというのがアメリカ国立公園局、歴史学者達、アメリカ軍、そしてハワイ州政府の四者協議で決まったと聞きました。

日本では敗戦後、ずっと日本は真珠湾攻撃でだまし討ちをした悪い国だ、みたいな歴史観をもってきたのですが、相手のアメリカはとっくの昔に、そうした歴史観とは異なる見方を打ち出し始めているのです。

政治献金
写真=iStock.com/Douglas Rissing
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Douglas Rissing

■ヴェノナ文書の公開による近現代史の見直し

そして、この近現代史見直しを加速させているのが、ヴェノナ文書の公開なのです。

ヴェノナ文書とは、アメリカ政府の国家安全保障局(NSA)、連邦捜査局(FBI)、中央情報局(CIA)によって公開された機密文書群のことで、一九四〇年から一九四四年にかけて在米のソ連のスパイたちが本国と暗号電文でやりとりしていたものを、当時のアメリカ陸軍が傍受し、FBIやイギリス情報部の協力を得て解読されました。

ヴェノナ文書の研究書である『スターリンの秘密工作員』は、「真珠湾攻撃の背後にソ連の工作があった」として、次のように指摘しているのです。

《ソ連による政治工作は、ソ連が我々の同盟国であり、反共防護措置が事実上存在しなかった第二次世界大戦中に最も顕著であった。これはぞっとするほどタイミングが良かった。親ソ派の陰謀がアメリカの参戦に決定的役割を果たしたのだから。この意味で注目すべきなのは、真珠湾攻撃に先立って共産主義者と親ソ派が行った複雑な作戦である。この一九四一年十二月七日の日本軍の奇襲攻撃により、二千人以上のアメリカ人が生命を失い、アメリカは悲惨な戦いを始めることになったのである》(山内智恵子訳)

■ルーズヴェルト民主党政権とコミンテルンの関係

見直されているのは、真珠湾攻撃に至る経緯だけではありません。

江崎道朗『日本人が知らない近現代史の虚妄』(SB新書)
江崎道朗『日本人が知らない近現代史の虚妄』(SB新書)

「第二次世界大戦で問題なのはソ連の秘密工作ではないのか。またその秘密工作に引っ掛かったルーズヴェルト民主党政権の責任も追及すべきだ」として、『スターリンの秘密工作員』は、次のように指摘しているのです。

《今や相当な量に達したデータが示しているように、強力で邪な敵が、一九四〇年代半ばまでにアメリカ政府(およびその他の影響力のあるポスト)に無数の秘密工作員とシンパを配置することに成功した。これら工作員たちは政府の中でソ連の国家目的に奉仕し、アメリカの国益を裏切ることができた》(山内智恵子訳)

このようにソ連とコミンテルンは、相手の政府やマスコミ、労働組合などにスパイや工作員を送り込み、背後からその国を操る秘密工作を仕掛けてきたのです。この秘密工作を専門用語で「影響力工作」といいます。

ヴェノナ文書の公開と、ソ連などによる秘密工作が国際関係、アメリカ政治に与えた影響について研究が進んだことによって、アメリカでは、第二次世界大戦に対する評価が今、大きく変わりつつあるのです。

歴史は絶えず検証され、機密情報の開示や研究が進むにつれ見直しも行われています。インテリジェンス・ヒストリーと呼ばれるジャンルが、これまでの歴史認識をアップデートしているのです。今の国際社会を読み解く上でも重要です。

一方で、日本人はいまだに従来までの歴史観にとらわれています。拙稿『日本人が知らない近現代史の虚妄』が近現代史を学ぶ一助になればと考えています。

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江崎 道朗(えざき・みちお)
評論家
1962年、東京都生まれ。九州大学卒業後、国会議員政策スタッフなどを経て2016年夏から本格的に評論活動を開始。主な研究テーマは近現代史、外交・安全保障、インテリジェンスなど。社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員。産経新聞「正論」執筆メンバー。「江崎塾」主宰。2020年フジサンケイグループ第20回正論新風賞受賞。主な著書に『日本は誰と戦ったのか』(第1回アパ日本再興大賞受賞、ワニブックス)、『知りたくないではすまされない ニュースの裏側を見抜くためにこれだけは学んでおきたいこと』(KADOKAWA)、『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(PHP新書)などがある。

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(評論家 江崎 道朗)

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