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「菅内閣の轍は踏まない」オミクロン対策で支持率上昇中の岸田政権を脅かす"ある懸念"

プレジデントオンライン / 2022年1月13日 15時15分

記者団の新型コロナについての質問に答える岸田文雄首相=2022年1月11日午前、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■「水際対策」「検査の拡大」は失敗に終わった

新型コロナウイルスの変異型オミクロン株の国内感染が急拡大している。岸田文雄内閣は、世界で拡大するオミクロン株に対して、昨年から「水際対策の徹底」と「検査の拡大」を打ち出してきたが、年明けから「市中感染」が一気に広がり、感染源の追跡もままならないまま「第6波」の感染爆発が起きつつある。

もともとオミクロン株は感染力がデルタ株に比べて格段に強いと言われてきたので、いずれ水際は突破されると見られていたが、早々に壁が破られたことを示している。どこから市中感染に広がったのか、疫学調査の結果は明らかにされていないが、基本的には分からないということのようだ。つまり、水際対策も、検査の拡大も、残念ながらオミクロン株の前に失敗に終わったということだろう。

もちろん、感染が一気に広がった場所が、米軍基地がある沖縄や広島(岩国基地)、神奈川(厚木基地)であることを見ると、日本政府の「水際対策の徹底」が在日米軍には及んでいなかったと大いに疑われている。年末年始に沖縄に遊びに行った若者などが感染し、無症状のまま全国にオミクロン株を持ち帰って広げた、と見るべきだろう。もはや全国どこの都市にもオミクロン株感染者がいるという前提で今後の対策を取ることが重要になる。

■素早い政府の対応、上昇した内閣支持率

こうした状況に対して、政府の対応は早い。自治体首長から出されていたまん延防止等重点措置の発動を早々に決めたほか、水際対策での外国人の入国禁止措置を2月末まで続けることも決定した。またワクチンの3回目接種を前倒しすることに加え、これまで対象外だった12歳未満のうち、5歳から11歳への接種を開始することも決めた。また、1月15日からの大学入学共通テストに関して、新型コロナの影響で受験できなかった場合に救済策を取るよう、文科省が大学に要請した。

間違いなく、この素早い対応は、菅義偉内閣の「失敗」を教訓にしている。デルタ株の蔓延に対して対策が後手後手に回ったと批判され、1年あまりで辞任に追い込まれた前内閣の轍は踏まない、ということなのだろう。

こうした対策が、とりあえず、国民の評価を得ている。

NHKが1月11日に公表した世論調査によると、岸田内閣を「支持する」と答えた人は57%。12月時点に比べて7ポイントも上がり、政権発足した10月以降、最も高くなった。一方、「支持しない」と答えた人は20%と6ポイント下がった。

同じ調査で新型コロナ対策への政府の対応を評価するかどうかという質問に対しては、「大いに評価する」が7%、「ある程度評価する」が58%と、合わせて3分の2が評価していることが明らかになった。

■この段階で「ブレーキ」を踏むのは仕方がない

デルタ株の時の教訓を生かして、当時と同様かそれ以上の緊急措置を素早く取ったわけで、それが評価されたということだろう。

問題はこれからだ。果たして、オミクロン株にはこれまでのデルタ株と同じ対策を取ることが有効なのかどうか。デルタ株拡大の時のように経済活動を大幅に制限すれば、そうでなくても足腰が弱っている日本経済は大打撃を被る。

「デルタ株までとは症状が違い、別の病気のようだ」

沖縄などで感染患者を診察している医師からもそんな声が聞こえてくる。日本国内での感染拡大が始まったばかりで、オミクロン株の日本人への影響はまだよく分かっていない。1日100万人が感染している米国では明らかに重症化したり死亡したりする率が低くなっているが、それをもって弱毒化したと断定するのはまだ早い。この段階では、デルタ株の時と同じように、思い切り「ブレーキ」をかけ、徹底した対策を行うのは仕方がないことだろう。感染予防を訴える一方で、Go To キャンペーンの実施にこだわった菅内閣は、ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるような感じがあったが、岸田内閣は一気にブレーキを踏んでいる。

不織布マスク
写真=iStock.com/InnaVlasova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/InnaVlasova

■データを早急に集め、対応策を見直していく必要がある

だが、今後、オミクロン株の「実像」が分かってくるに従って、対応策も見直していく必要がある。オミクロン株はそれ自体が重症化をもたらさない株に変異しているのか、ワクチン接種した人と打っていない人の重症化率はどれぐらい差があるのか、死亡率はどれくらいか、年齢や既往症によって重症化率や死亡率にどんな違いが出るのか、そうしたエビデンス(証拠)データを早急に集め、国民に広く開示していくことだろう。そうしたエビデンスに基づかないで闇雲にオミクロン株を恐れ、必要以上の対策を取るのはまさに「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」つまり、一度熱い思いをしたら冷たいものでもさまそうとする過剰な行動に他ならない。

これが、首相に求められる最も重要な「判断」だろう。いつまでも安全第一で「膾を吹いて」いれば、確かに支持率は下がらないかもしれない。だが、そうやって経済活動を制限し続ければ、今度は経済が立ち行かなくなる。

■円安が日本経済の足を引っ張る可能性がある

米国の2021年7~9月期のGDP(国内総生産)は前期比年率で2.1%のプラス成長だった。4-6月期の6.7%成長からは鈍化したもののプラス成長を維持した。今後、オミクロン株の拡大で経済活動にどんな影響が出てくるかは未知数の部分もあるが、少なくとも年末商戦までは好調に推移している。2020年7~9月期以降、5四半期連続のプラス成長となり、GDPは実額ベースですでに新型コロナ前の水準を上回った。

一方の日本は、2020年10~12月期までの回復は順調だったが、2021年に入って景気回復が足踏みしている。1~3月期はマイナス5.1%と水面下に沈んだ後、4~6月期は1.9%のプラスに浮上したが、7~9月期は再びマイナス3%に落ち込んでいる。新型コロナ前の水準には回復していない。

ここで、経済にどの程度ブレーキをかけるのか、どの段階でアクセルに切り替えるのかを誤ると、日本経済は大きく失速することになりかねない。

さらに、円安が日本経済の足を引っ張る可能性も強まっている。

これまで日本では「円安」は経済にプラスと言われてきた。円安になれば輸出が増えて輸出産業が潤い、給与の増加につながって、それが消費の増大に結び付く、いわゆる「経済好循環」が動き出すと考えられてきた。だが、現状はそうなっておらず、むしろ円安のマイナスが目立っている。

青い棒グラフの上にある円マーク
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

■過度のブレーキをかけ続ければ、経済回復は遠のく

円安によって輸入原料の価格が大幅に上昇しているのだ。小麦や大豆、菜種油など食料品に加え、木材や原油などの価格も上昇している。世界の経済活動の回復で、国際市況が上昇していることもあるが、円安によって日本の購買力が落ちていることも大きい。今後、輸入品価格の上昇によって、消費回復の足が引っ張られる可能性が大きい。

加えて、米国では新型コロナ対策で実施してきた金融緩和を見直し、量的緩和を縮小するテーパリングに踏み切った。また、今年は金利引き上げに動くと見られている。一方の日本が、このタイミングで経済にブレーキをかけ続ければ、とうてい金融緩和から脱却することはできなくなる。つまり、日米の実質金利差から、ドル高円安がさらに進む可能性が出てくる。

2022年は新型コロナが明けて、これまで抑制されていた消費が一気に花開くことが期待されていた。旅行業界や飲食業界だけでなく、消費全般を押し上げると見られていた。それだけに、ここへきて経済活動に過度のブレーキをかけ続ければ、その回復の芽をつむことになりかねない。どのタイミングで、ブレーキを外してアクセルに切り替えるのか。情緒ではなくエビデンスに基づいて、その判断を的確なタイミングで行うことが岸田内閣に求められる。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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