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「口答えされると機嫌を損ねる」優秀な若手を大量に退職させる体育会系上司の幼稚さ

プレジデントオンライン / 2022年1月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

例年1~3月は会社を辞める社員が続出する。2022年は35歳以上の求人も増加する見通しだ。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「コロナ禍のテレワークの影響もあり、最近は、辞める兆候を見せないまま辞める社員も多い。中には高い評価を得ている社員もいるが、体育会系を筆頭とした上司との折り合いがうまくつかずメンタルが不調になって退職するケースが目立つ」という――。

■1~3月は例年“退職者ラッシュ”、その元凶とは誰か?

1月から3月は1年の中で離職・転職する人が最も増える時期だ。年末に次年度の要員計画が決定し、年度スタートの4月入社に向けて採用が活発になる。

一方、転職希望者は12月のボーナス支給日までは退職の意思を示さず、もらうものはもらって1月以降に退職届を出す人が多い。

広告業の人事課長は「会社を辞めたいという人は日頃の態度を見ていれば何となくわかるものだが、コロナ禍のテレワークで見えづらくなり、上司も気づきにくい」と警戒する。

加えて2022年は例年になく求人が増加すると人材サービス各社は予測している。エン・ジャパンの「転職マーケット予測」によると2022年の「35歳以上」のミドル人材を対象とした求人募集が増加すると回答した転職コンサルタントは80%に上る。

また、dodaの「転職市場予測2022上半期」によると、1~6月の転職市場は「14の業界・職種のほぼすべてで求人が増加する見込み」だとしている。とくに1~3月は「2020年~2021年にかけてコロナの影響で採用活動を抑制した反動もあり、転職活動のチャンスが広がる」と予測する。

■最近増えている「びっくり退職」「ニコニコ退職」

しかしこうした動きは優秀社員の流出を防止したい企業にとっては脅威だ。退職届を出す前になんとかして引き留めたいところだが、最近は辞めそうな兆候をまったく示さないまま突然、退職届を出す「びっくり退職」が増えているという。

サービス業の人事部長はこう語る。

「仕事もそれなりにこなし、ちょっと注意をしても『わかりました』と素直に答え、周囲にも気を遣いニコニコしながら仕事をしている。周囲との軋轢もなく、上司の評価も悪くないのに突然『辞めます』と退職届を出してくるので上司も驚く。理由を訊くと『自分がやりたい仕事が見つかりましたので』と、あっさり言う。うちでは“ニコニコ退職”と呼んでいるが、そういうケースが増えている」

びっくり退職の背景のひとつは転職しやすい環境もある。

昔に比べて今はスマホの転職サイトに簡単に登録できる。スカウト機能でオファーがかかれば有休を使って面接にも行けるし、テレワーク中ならオンライン面接も可能であり、上司や会社に気づかれる心配は微塵もない。

■お金で引き留めても、結局、辞めていく理由は……上司の存在

それでも優秀な社員であれば何とかして引き留めたいと考えるもの。昇給や昇進など待遇を提示することで社員を引き留めることを「カウンターオファー」と呼ぶが、実はカウンターオファーはあまり効果がないという調査もある。

ロバート・ウォルターズ・ジャパンが会社員873人に「カウンターオファーに応じる可能性」を聞いたところ「可能性なし」が47%、「可能性あり」が53%という結果だった(2021年12月9日)。半数はどんな条件を提示されても応じないと答えている。

逆に応じる可能性がある人はどんな条件なら応じるのか。最も多かったのは「昇給」で87%、次いで「働き方の柔軟性向上」(43%)、「昇進」(41%)、「リテンション・ボーナス(残留特別手当)」(32%)という順だった。

昇給・昇進など給与やお金に関わることはわかるが、2位に働き方の柔軟性を挙げているのは、自由度の高い働き方を求める人が多いという最近の特徴だ。

しかし、いったんカウンターオファーを受け入れて会社に留まった人がその後、どのくらい会社に在籍するのかという調査では、0~6カ月の人が27%、1年の人が20%。1年で退職する人が47%と半数を占めている。結局、“お金”をエサに釣っても半分が1年以内に辞めてしまうのが現実だ。

ではなぜ「びっくり退職」や「ニコニコ退職」が発生するのか。一般的に退職理由では「会社の将来性への不安」、「上司との相性が悪い」、「給与に対する不満」が最も多いと言われる。

■仕事がデキる人の“ワークメンタリティ”が下がってしまうワケ

しかし、リクルートマネジメントソリューションズの調査(2021年12月21日)によると、これは表面的な理由にすぎないことがわかる。

調査では「びっくり退職」について「ワークメンタリティ(従業員が仕事に臨む心理状態の総称)」に着目してその原因を分析している。

上司評価とワークメンタリティとの関係では、上司評価が高評価(期待通り・期待を超えている)かつワークメンタリティ好調者は30.8%だったが、高評価なのにワークメンタリティの不調者が26.2%もいた。

ビジネスマンは指を突き出してそれを証明する
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

つまり上司も評価する優秀な社員なのに4人に1人の割合でメンタル不調に陥っている。これについて調査では「上司が気づかないまま、本人の仕事に向かう心理状態が悪化している可能性が高く、予期せぬ退職が懸念される要注意のパターン」と分析している。

しかも優秀なワークメンタリティ不調者は新人に限らない。入社1年目は24.1%、2~3年目は26.5%だが、6~9年目でも27.4%、10~19年目でも26.7%も存在している。

つまり、会社の主要な戦力として期待されている30代の優秀社員の4人に1人以上が退職リスクを抱えていることになる。

■「仕事への誇りが持てない」「フィードバックと承認がない」

では、優秀社員はどんな不安や悩みを抱えているのか。

分析によると、ワークメンタリティ好調者に比べて不調者は勤務年数が長くなるにつれて「仕事への誇りが持てる」「フィードバックと承認がある」の2点の得点が大幅に低下していることがわかった。

上司からのフィードバックが少なく、承認欲求も満たされず、仕事への誇りが持てない状態が続くと退職の引き金となってしまう。よく理解できる話だ。

最大の問題は、組織や上司が部下に対して必要なケアやコミュニケーションをとることを怠っていることだ。

優秀な部下であれば丁寧にフォローするなど気遣いが必要なはずであるが、それができないのは上司として不適格だが、実はそんなに生やさしい問題ではない。

前出のサービス業の人事部長は上司と部下の両方に問題があると指摘する。

「部下がミスしたとき『失敗したのはお前の責任だよな』と言うと、優等生の部下ほど『そのようなこと(失敗回避策など)は教えられていませんでした』などと、言い訳する傾向がある。言い訳されると、たいがいの上司はつい怒ってしまう。言い訳ばかりされるのは誰しも嫌いだから、こいつとは仕事をしたくないと思い、教えたくなくなってしまう上司も少なくない」

上司の気持ちも何となくわからないではないが、そこはひとつ我慢して粘り強く教え諭すことも必要なのだろう。

■体育会系出身上司ほど口答えする部下のフォローしなくなる

だが、口答えされて部下のフォローをしなくなる上司は体育会系出身ほどその傾向が強い、と言う。

手を突き出す実業家
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

「体育会出身者は駅伝の選手もそうだが、すごく素直で、自分でも練習メニューを考えて練習するので、自分と同じように実践する人間(部下)ほどかわいい。青山学院大学の陸上部も原晋監督はふだんは練習をつぶさには見ておらず、選手は自分たちでメニューを考えてやっているという。そうした中で、たとえば先輩からダメだと言われると『そうですか』と受け止め、課題点を自分で考える素直さがある。しかし、注意しても言い訳ばかりして、アドバイスしても素直に聞かない部下(後輩)に対して体育会出身の上司ほど一緒にプレーしたくないと思ってしまう。そうすると部下はしだいに職場で浮いてきて、いずれ辞めてしまう」(人事部長)

上司との関係が悪化すれば職場の人間関係もしだいにうまくいかなくなり、仕事への誇りも失ってしまうだろう。

前出の調査では、高評価者のワークメンタリティ不調者の勤務年数別・カテゴリ別の課題選択率も分析している。

不調者ほど組織と会社に対する課題感が高まっている。組織に対する課題とは「職場メンバーとの関係がうまくいっていない」「仕事上の責任の所在が不明確になりやすい」といったものだ。会社に対する課題とは「組織の人事や処遇が不公平だと感じる」などである。

いずれの課題感も入社6~9年目でピークに達している。

つまり、上司や同僚との人間関係や会社の制度・方針に対する不満が高まり、大卒なら28~31歳の時期に退職しやすいということである。

こうした状態になれば、確かにいくらお金で慰留され、会社に残っても長続きするとは思えない。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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