いじめ問題で困ったとき、真っ先に弁護士に相談してはいけない…「いじめ解決のプロ」がそう忠告するワケ
プレジデントオンライン / 2022年1月26日 10時15分
■いじめ被害生徒の保護者として相談を受ける
新聞やテレビでいじめのニュースが流れるたびに、学校・教育委員会がいじめの存在をなかなか認めようとせず、いじめの解決に消極的であることが報じられます。そうした学校・教育委員会の対応に、いじめ被害に遭った児童・生徒の保護者が怒りをあらわにし、教育評論家などが学校・教育委員会の姿勢を激しく批判する様子は、もはや見慣れた光景となってしまったと言ってもいいでしょう。
なぜ、いじめ問題はこじれ、膠着(こうちゃく)し、解決に長い時間を要することになってしまうのでしょうか? それを論じる前に、私がなぜいじめ問題と関わるようになったのか、その経緯からお話ししていきたいと思います。
私は、いじめ被害生徒の保護者です。
息子は中学生の時、警察が介入するほどの激烈な暴力を受けて登校することができなくなってしまい、ついには自傷行為に及ぶほど心に傷を負ってしまいました。息子の心がみるみる壊れていくのを目の前にして、学校・教育委員会に対する私の不信感はピークに達し、息子を守るため、徹底的に戦う決意を固めたのでした。
こうした私の姿が何度も報道されたこともあって、同じようにいじめ問題に直面している児童・生徒や保護者の方たちから、相談が舞い込むようになりました。学校・教育委員会との「戦い方」を教えてほしいというわけです。
相談件数は、猛烈な勢いで増えていきました。これは、きちんとした組織をつくって対応しなくてはならないだろうと考えて、まず2020年に市民団体を立ち上げ、翌2021年、この市民団体をベースにした、子どもたちの命と尊厳を守るNPO法人「Protect Children~えいえん乃えがお~」を立ち上げたのです。
相談の内容は、いじめ、教員による不適切指導、虐待、学校・教育委員会等への対応問題など多岐にわたりますが、1カ月に200件近い相談が寄せられます。相談者は当然、被害児童・生徒本人、保護者が多いのですが、実を言うと、学校・教育委員会からの相談も3割近くあります。これはおそらく、他の団体にはない特色ではないかと思います。
そして、大げさではなく、私が介入すると1日か2日で解決に向けて事態が動き出します。これまで携わった案件で、膠着状態に陥って動かなかったものはないと断言できます。
■中立の立場で介入すれば即解決できる
なぜ、私が介入すると、解決に向けてすぐに動き出すのか。
それは、私が保護者でも、学校・教育委員会の味方でもなく、中立な立場で介入するからです。多くのいじめ問題に関わる団体や弁護士は、保護者の味方になって問題に介入します。しかし、それが学校・教育委員会との対立構造を生み、問題を長引かせてしまう。これは次回の記事で詳しく紹介しますが、学校・教育委員会側にも言い分や理解してほしい事情がありました。
私自身がそうでしたが、被害児童・生徒の保護者の多くは、いじめの存在をなかなか認めようとしない学校・教育委員会に不信感を募らせて、処罰感情をエスカレートさせています。「学校はいじめの存在を認めて謝罪しろ」「いますぐに担任を辞めさせろ」「加害児童に謝らせろ」というわけです。こうした保護者の気持ちは、痛いほどわかります。本当に不誠実な学校・教育委員会がいるのも事実です。
相談を受け始めた当初、私も保護者と一緒になって学校・教育委員会に抗議していました。しかし、これではいけないとすぐに気づきました。なぜなら、学校・教育委員会に対して抗議の姿勢で臨むと、「個人情報に関わることなので、これ以上お話はできません」と言われてシャッターを下ろされてしまい、話し合いのテーブルにすらつけなかったからです。
そこで学校や教育委員会に連絡するときは、「私は保護者の味方でも、学校・教育委員会の味方でもない中立の立場です」とはっきり表明しました。すると、話し合いが進みます。それどころか、学校・教育委員会から「解決のためには何をすればいいですか」とアドバイスを求めてくるケースも少なくありません。彼らだって、早期解決を願っているのです。
■いますぐ助けるために何をすべきか
このような話をすると、被害者の保護者から「森田さんは学校や教育委員会の味方なんですね」と言われることがありますが、それも違います。私は子どもの味方なんです。
子どもたちは私に「いますぐ助けてほしい」と頼んできます。子どもにとっていじめが続く今の状況は生き地獄です。大人と違って学校以外の世界を知らない子どもたちは、いじめの状況が続くとしたら絶望して、心が壊れていってしまいます。そこから1分1秒でも早く救い出すために何ができるか考えたら、大人が対立している場合ではありません。
まずは中立の立場を表明することで「大人たちの戦い」になることを回避し、どちらが正しいか間違っているかではなく、「いま、この子のために具体的に何をするべきか」を話し合うのです。
たとえば、被害児童・生徒の欠席が長期化して放置されたままであれば、学習支援を開始する必要があるでしょう。私が中立の第三者としてその必要性を指摘すれば、学校・教育委員会は、いじめの認知の問題はひとまず横に置いて、多くの場合、翌日からでも学習支援を開始してくれます。
こうして具体策を話し合っていくことによって、いじめ問題は確実に解決に向けた進展を始めるのです。第三者を介在させずに保護者だけで対応する場合でも、最初から抗議・攻撃の姿勢で臨まないようにすることが大切だと思います。
■加害者には「いじめ」という言葉は使わない
難しいのが、加害児童・生徒とその保護者への対応です。
実は、加害児童・生徒もその保護者も「何がいじめか」を理解していないケースが多いので、根本的には、いじめとは何かから理解してもらう必要があるのですが、私はなるべく「いじめ」という言葉を使わないようにしています。
どんな親でも、わが子が「いじめの加害者」だとは思いたくありません。「お宅のお子さんがいじめをやっています」と言われても、それを素直に認める保護者はほとんどいません。反発を招くだけです。これは加害児童・生徒も同じことで、「○○さんをいじめたでしょう」と尋ねても、それを素直に認める子どもはほとんどいないのです。
そこで私は、こんな言い方をします。「○○さんは、あなたから容姿のことをいろいろと言われて、すごく嫌だったんだって。あなたが同じことを言われたら、どう思うかな?」。すると、たいていの加害児童・生徒が「それは、嫌だと思う」「それは、やってはいけないことだと思う」と答えます。そこで「やってはいけないことを、あなたはやってしまったんだよね」と、念を押すのです。
ただし、まったく同じ伝え方をしても、「そんな程度のことで傷つくほうが悪い」といった反論を招いてしまう場合もありますから、私は相手の様子を見ながら、表現の仕方を毎回変えています。
■第三者的に介入できる専門家の養成が急務
つまり、いじめは千差万別なのです。まったく同じいじめなんて存在しません。そして、これが正解という解決マニュアルも存在しないのです。だから簡単ではなく、第三者的に介入できる専門家の養成が急務だと思っています。
いじめ問題の専門家を名乗る人はたくさんいます。しかし、本当にいじめを解決できている人はどれだけいるのでしょうか。残念ながら、被害者の処罰感情の炎に油を注ぎ、対立をあおって、問題を長引かせている専門家が少なくありません。
弁護士も頼りにはできません。当たり前のことですが、彼らの仕事は「依頼人の利益を守る」ことで、学校・教育委員会の対応の不備を鋭く指摘することになります。その結果、学校・教育委員会が態度を硬化させてしまうことは、容易に想像がつきます。これらの専門家とは違うアプローチが求められているということは、いじめやいじめ自殺が減らない現状が物語っているのではないでしょうか。(続く)
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特定非営利活動法人Protect Children~えいえん乃えがお~代表
息子がいじめで不登校になり、学校や教育委員会と戦った経験から、同じような悩みを持ついじめ被害者や保護者の相談を受けるようになる。相談が殺到し、2020年に市民団体を、2021年にはNPO法人を立ち上げる。いじめ、体罰、不適切指導、不登校など、さまざまな問題の相談を受けているが、中立の立場で介入し、即問題解決に導く手法が評判を呼んでいる。相談はHPから。 2022年1月31日10:00~、文科省で開催される「いじめ防止対策協議会 第3回」に専門家として出席。1月26日16:00までに申し込めば、会議の傍聴も可能。ご興味のある方はこちらよりお申込みを。
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(特定非営利活動法人Protect Children~えいえん乃えがお~代表 森田 志歩 構成=山田清機)
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