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ベゾス氏は3000基、マスク氏は4万基…大富豪はなぜ小型衛星をバンバン打ち上げるのか

プレジデントオンライン / 2022年1月26日 11時15分

2021年8月13日、ドイツ・グリュンハイデにあるテスラのギガファクトリーの建設現場を視察するテスラのイーロン・マスクCEO - 写真=EPA/時事通信フォト

■ピンポン玉サイズの「超超小型衛星」でもOK

いま世界の富豪が、千や万単位の膨大な数の小型衛星を打ち上げる「小型衛星コンステレーション」というビジネスに相次いで参入している。

2022年の宇宙開発は、7日、イーロン・マスク氏が率いる米スペースXが小型衛星49基を一気に打ち上げるところから始まった。これまでも一度に最大60基の小型衛星を発射しており、19日にも49基を打ち上げた。事業開始から3年ほどで打ち上げ総数は2000基を超えた。そのすべてが機能しているわけではないが、すごい数と打ち上げペースだ。しかしマスク氏は満足しない。目標は1万2000基、長期的には最大4万2000基を想定しているという。

アマゾン創業者で昨年夏に、自身が保有する企業の宇宙船で約10分の宇宙旅行を体験したジェフ・ベゾス氏も、3000基以上の小型衛星の計画を進めている。

実業家の堀江貴文さんが出資するロケットベンチャー「インターステラテクノロジズ」の子会社「アワースターズ」(社長・堀江氏)は、小型衛星よりも小さいピンポン玉サイズの「超超小型衛星」数千基や、超小型衛星の打ち上げを目指している。東京・江東区のベンチャー「シンスペクティブ」は小型衛星を23年までに6基、20年代後半には30基を目標にしている。東大発ベンチャー「アクセルスペース」も超小型衛星の打ち上げを進めている。

■なぜこんなにたくさん打ち上げるのか?

日本のベンチャーの衛星計画はまだ小規模だが、海外の勢いはすごい。米国のベンチャー「プラネット」はすでに約200基近くの小型衛星を打ち上げ、カナダのベンチャー「ケプラー」は約11万5000基の計画を持つ。ほかにも多数のベンチャー企業が取り組んでいる。中国も取り組みを開始し、1万基超の計画を持つと言われている。アフリカのルワンダ政府は、約33万基という信じられない数の計画を持つ。

国連宇宙部によると、これまで宇宙に打ち上げられた1万2000基の衛星が登録されており、その数は毎年1000基以上増加している。小型衛星の群れが、計画通り打ち上げられれば、衛星の数は何倍にも膨れ上がることになる。

小型衛星が打ち上げられるのは主に400~1000キロメートル前後の「低軌道」。広大な宇宙とはいえ、いずれ低軌道に小さい衛星の群れが、わらわらとひしめきあう時代になるのだろうか。

それにしても、なぜ、こんなにたくさん衛星を打ち上げるのか。

■ベンチャーも参入しやすいネット通信と写真撮影

富豪やベンチャー企業が、ターゲットにしているビジネスは、小型衛星を使った「通信」や「写真撮影」だ。

これまでもそうした機能を持つ衛星は多数打ち上げられている。だが、衛星が大型で、価格も高く、作るのにも時間がかかる。このため国や大企業しか衛星を作ったり、利用したりすることができず、新たな産業や利用が生まれない悪循環に陥っていた。

そこに「ゲームチェンジ」を持ち込もうというのが、小型衛星コンステレーションだ。地球を覆うように小型衛星をたくさん配備し、安く早く、大型衛星に匹敵する能力を実現させるのが目標だ。

マスク氏やベゾス氏は、地上のどこからでも高速でインターネットに接続できる通信事業を目指している。

「衛星写真」に取り組むベンチャー企業は、衛星が撮影した写真を使って、災害対策、農作物の生育状況観察、漁業探索など、さまざまな新ビジネスを実現しようとしている。1月15日に南太平洋のトンガ付近で起きた大規模な海底噴火の様子や噴火前後の写真が新聞やネットで公開されたが、その中にはベンチャー企業の衛星が撮影したものも含まれている。

■投資マネーがどんどん宇宙になだれ込んでいる

国の防衛に利用しようという動きも進んでいる。米国防総省がミサイル監視や情報収集などのための小型衛星コンステレーション構築に取り組んでいる。日本の防衛省も、極超音速滑空兵器の探知・追尾などの研究開発を進めようとしている。日米共同で宇宙に小型衛星の群れを配備しようという構想もある。

世界の宇宙産業市場は拡大しており、2016年の約37兆円から50年に約200兆円になると予測されている。衛星コンステレーションはその重要な柱のひとつだ。そうした期待や世界的なカネ余りもあり、投資マネーが宇宙ベンチャーになだれ込む。小型衛星の群れに取り組むベンチャー企業が次々と登場している。

だが、思わぬ「落とし穴」がある。

■中国政府が「危ない」とスペースXに苦情

昨年12月、中国政府が、国連宇宙部に苦情を通知した。スペースXの小型衛星が7月と10月の2回にわたって中国の宇宙ステーションに接近し、衝突の恐れがあったためだ。ステーションに滞在する宇宙飛行士の安全確保のために、中国はステーションを回避させざるを得なくなったという。宇宙条約では、民間企業の打ち上げた衛星でも、その企業が属する国の責任になる。中国が国連に申し立てたのも、スペースXを批判したいというだけでなく、激しさを増す米中の宇宙覇権争いの一端だと見られる。

小型衛星の群れが配備される低軌道は、中国の宇宙ステーションや国際宇宙ステーション(ISS)に近い。これからも各国の宇宙飛行士をリスクにさらす危険がある。日本の宇宙ベンチャーも同じような問題を起こしてしまう恐れがある。

小型衛星が多くなるとトラブルも生む。膨大な数の衛星が宇宙に配備されれば、衛星同士の衝突リスクが高くなる。衝突破片がばらまかれれば、宇宙空間に漂うゴミ(デブリ)になる。

現在でも宇宙には10センチ以上のゴミが2万個、小さいものを合わせると1億個以上あるという。それらのゴミが猛スピードで飛び回り、宇宙飛行士、宇宙ステーション、宇宙旅行客、他の衛星などを危険にさらす。

天文学者からは天体観測に与える悪影響が指摘されている。専門家だけでなく、一般の人からも地球環境問題を念頭に、宇宙の持続的利用を脅かすという批判の声が上がる。

宇宙船が国際宇宙ステーションにドッキング
写真=iStock.com/3DSculptor
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/3DSculptor

■各国で宇宙の「場所取り」が行われている

小型衛星コンステレーション事業は、国内外を問わず走り出したばかりだ。技術や資金不足で頓挫する懸念がある。実際、2020年に英国の小型コンステレーション企業「ワンウェブ」の経営が破綻し、英政府とインドの企業で再生策を講じているという。

故障や寿命切れで不要になった衛星は、他の衛星の邪魔にならないように、軌道から離脱させたり、大気圏に再突入させて燃やしたりする。だが、計画の頓挫で、そのまま放置されれば、衝突や宇宙ゴミ化のリスクはいっそう増す。頓挫しなくても使用済みの衛星を軌道に捨てておく事態も考えられる。

衛星コンステレーション計画の中には、宇宙の低軌道の場所取りが目的と見られるものもある。場所を確保して悪用する懸念がある。国連のITU(国際電気通信連合)の会議で何度も問題になってきた。ITUは規制ルールを2019年に作ったが、各国の利害が衝突した結果、その気になれば通り抜ける道もある、緩いものになっている。

「ダボス会議」で知られるスイスの非営利団体「世界経済フォーラム」が1月11日に発表した「グローバルリスク報告書2022年版」では、宇宙空間での民間活動と公共活動が増加し、宇宙空間が新たなリスク領域になっていることや、宇宙活動の増加によって衛星同士の衝突リスクがあることなどを指摘した。

■課題を見ないまま競争に爆進しているが…

米国が低軌道での商用利用や防衛利用を推進していることもあり、これからますます低軌道は混みあう。小型衛星の群れの登場以前から、衛星の増加によって通信に使う周波数が逼迫し、国際調整が繰り返されてきた。

こうした技術調整だけにとどまらず、人類が将来にわたって安定的に低軌道の宇宙空間を利用できるようにするための検討を開始すべきだろう。

その際に必要なのは、小型衛星の群れが今どういう状態にあるか、将来どうなるかの見通しなどの全体像を国際社会が共同して明らかにし、対策を練ることだ。「ゲームチェンジ」は重要だが、現状は各国政府も企業も自分たちの計画に集中し、さまざまな課題や不都合な現実を見ようとしないまま、爆進している。

このままいけば、防衛目的の小型衛星コンステレーションを構築しても、投じた資金に見合うような安定して安全保障に使えるものになるのか、という疑問が沸く。一般の人々にも宇宙開発に対する不安や懸念を与える。

小型衛星コンステレーションは日本の宇宙政策の目玉でもある。昨年12月28日に開かれた政府の宇宙開発戦略本部(本部長・岸田首相)で、岸田首相がまず言及したのも小型衛星コンステレーションだった。国際調整も含め、日本も宇宙を安定して使っていくために何が必要か知恵を絞り、未来に向けての役割を果たすべきだろう。

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知野 恵子(ちの・けいこ)
ジャーナリスト
東京大学文学部心理学科卒業後、読売新聞入社。婦人部(現・生活部)、政治部、経済部、科学部、解説部の各部記者、解説部次長、編集委員を務めた。約35年にわたり、宇宙開発、科学技術、ICTなどを取材・執筆している。1990年代末のパソコンブームを受けて読売新聞が発刊したパソコン雑誌「YOMIURI PC」の初代編集長も務めた。

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(ジャーナリスト 知野 恵子)

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