自分の給料は半減したが…「現地スタッフに平均の4倍支給」メガバンクを辞めウガンダで起業した女性の挑戦
プレジデントオンライン / 2022年4月26日 11時15分
■メガバンクを辞め、ウガンダで働きながら起業ネタを探す
「大学院時代は『アフリカの貧困をなくす!』とか青臭いことを軽々しく言っていましたが、『どうやって実現するのか』と問われるとまったく答えられませんでした。そこでお金の流れや事業の仕組みを学ぼうと大手銀行に就職しました」
就職したメガバンクでは南アフリカやケニアなど、アフリカ諸国に赴任できる可能性もあったが、入社早々から銀行員には向いていないことが判明。仲本さんがやりたかったことは「富める人をさらに富ます」ことではなく、「持たざる人を引き上げる」ビジネスだということに立ち返り、2年半で転職することにした。
初心に戻りアフリカで仕事をしようと、農業支援の国際NGOに転職。2014年にウガンダ事務所に配属に。NGOで働きながら、同時に念願のアフリカで起業ネタ探しを始めた。あるとき友人から「おもしろい店があるよ」とローカルマーケットに誘われ、何気なく行ってみて衝撃を受けた。
「生地屋さんには、カラフルな柄のプリント生地が天井まで積まれていました。色柄が独特で豊富、どれでも選び放題『これがいい、これがかわいい、このほうがいい!』と宝探しのように楽しくて、気づいたら2、3時間経っていたほど。日本からの来客を必ずその店に連れていくんですが、みんな『かわいい!』と大はしゃぎでした」
この体験で「アフリカンプリントは日本で売れる」と確信し、仕事にすることを決意。2015年ごろはまだディオールなどのハイブランドのコレクションでアフリカンプリントが注目される前で、日本でほぼ知られていなかったのもタイミングが良かった。
■ミシン1台でこっそり始めたバッグ工房。日本の営業トップは還暦母
「アフリカンプリントをバッグに加工して日本で売る」というビジネスモデルが固まると、次は縫製してくれる職人探しだ。手先が器用なウガンダの女性たちと働きたいと思い、知り合いのつてで紹介してもらえることになった。
「最初の仲間は、実は縫製はできない人だったのですが、やる気がすごかった。『自分は小学校も出ていないから生活が厳しい。子どもには教育を受けさせたい』と言っていました。ウガンダでは女性の多くがそういう境遇ですが、この人がほかの人とは違ったのは、『だからサポートしてほしい』と言わなかったこと。相手が外国人だとそう言う人が多いのですが、支援頼みは一過性で、継続的な生活向上には結びつかないんです。でも彼女は子豚を安く仕入れて育て高値で売る“豚の運用”で学費を捻出するなど、自助努力をしていた。この人は賢いし、信用できると直感しました。ほかにもシングルマザーで、裁縫工場に勤めていた経験があって、自分でなんとかして子どもに教育を与えたいと思っている人など、自立心がある女性たちと出会い、一緒に小さなバッグ工房を開いたのがはじまりでした」
土地柄、事業がうまくいっているように見える企業は、地元の人々から妬み・恨みを買いやすく、目立たないようにするのが鉄則だった。工房は人の家に昼間だけ間借りして、ミシン1台だけでこっそり始めた。実際、今に至るまで秘密結社のように看板も出さず、現地メディアへの露出も一切しないのだという。
「私はこう見えても堅実派。工房を起ち上げてすぐに起業するのは収入面に不安を感じたので、しばらくはNGOにも勤め、二足のわらじで事業を運営していたんです。でも創業メンバーにほかの職場から引き抜きの話があり、彼女が私との仕事を選び残ってくれた時点で、覚悟が決まりました。NGOを辞職しバッグ工房に徹しようと決めました」
そうなったら何がなんでも完成した布バッグを日本で売らなくてはならない。しかし仲本さんはウガンダの工房で仕事がある……代わりに日本で営業をしてくれる人材が欲しいと思い巡らしたところ、信用できる人物に思い当たった。
「静岡に暮らす母でした。還暦をすぎた専業主婦でビジネス経験はないけれど、4人の子どもを育てながら地域活動にも積極的で、わが母ながらコミュニケーション能力もマルチタスク能力も高い人。創業以来、共同代表として会社の柱になってもらっています」
母の仲本律枝さんはふたつ返事で快諾してくれた。まもなく地元静岡で近所の人を集めての頒布会、知り合いのセレクトショップへの営業と、営業担当としての母の活躍が始まった。
「いちばんすごいなと思ったのは、アポなしで静岡の伊勢丹に飛び込み営業をかけたことですね。デパートのインフォメーションで『バイヤーの人に会いたい』とお願いしたそうなのですが、受付の方が親切でつないでいただき、本当に商談が成立してしまいました(笑)。バイヤーの方も『ストーリーがあるもの、思いがあるものを探していた』と、いきなり伊勢丹デビューです!」
母の大活躍で伊勢丹のフェア、テレビ取材など、大反響となった。仲本さんが初参加した東京の展示会でも、アフリカンプリントが珍しいこと、社会的な意義があることなどで高評価を得て、100社以上から反響もあり、日本市場では好調なスタートを切った。
■「今がいちばん輝いている」必要とされる場が女性たちに笑顔と自信を
アフリカンプリントは目を引くが日本の消費者はとても厳しい。縫製の精度など、市場で戦えるクオリティーに高めるために日本の顧客やショップスタッフとの情報交換を行い、使い勝手やデザインなどでアイデアを出し合い改良を重ねている。そのフィードバックを受け、ウガンダの職人が手仕事で一つひとつていねいに製品化していく。
「元々繊維産業が盛んで大きな縫製工場があり、工員には横のつながりがあります。採用は縫製スタッフのひとりが担当しています。彼女が知っている人で、技術があって信頼できて、やる気がある人なら誰でも雇っていいよ、とすべて任せています」
ウガンダの主要産業は農業で、平均月収は60ドルほど、国連が設定している貧困ラインぎりぎりの生活だ。土地が肥沃で自給自足はできるが、学費や医療費までは回らない。工房で働く人はほとんどが、夫の暴力から逃れるために農村から都市部にやってきたシングルマザーだ。有名大学を卒業しても2割ほどしか職に就けないといわれるほど、失業率が高い環境で、教育を受ける機会が少なかった女性たちが、子どもを抱えて働ける職場はゼロに等しい。生活苦から簡単に追い詰められてしまう彼女たちの現状を知り、自立を助けたいと工房を開いて7年。日本で多くのファンを得て通販サイトの伸び率は、創業以来、前年比200%にも上った。工房スタッフには現地平均月収の2〜4倍を支払えるまでに成長した。貯蓄をしたり、子どもの教育費を払えるようになったり、家電を買ったり、家を修繕したりと、スタッフの生活水準は確実に向上してきた。
「目に見える部分もそうですが、日々の仕事を通じて彼女たちのマインドセットが変わりました。ボソボソ話していたような人も自信をもち、目を見て自分の考えを話してくれるようになりました。仕事を任されて必要とされていること、自らの収入で家族が養えていること、つくった商品が日本のお客様に喜ばれていることが自信になり、彼女たちの自己肯定感が高まるなら本望ですね。彼女たちに『今の自分が一番輝いている』と言われたときは、自分がやりたかったことはこれだ、とものすごい充実感を得られました」
日本で働く女性たちにも、仲本さんは同じことを感じることがあるそうだ。「自分にはできない」「自分なんて」と思い込んでいる女性が多いというのだ。
「スキルがないからと言っていた人でも、ショップなどで働いてもらうと、大活躍だったりします。還暦すぎていても、経験がなくても、人は任されることで成長するものなんですね。ウガンダや日本で彼女たちと仕事をしていると、私自身も刺激を受けるし、仕事を楽しめる女性たちをもっともっと増やしたいと思えるんです」
■コロナ禍での生活苦。私企業としてウガンダのためにできること
ウガンダでもこの2年、コロナ禍で多くの人が失職している。社会保障があまり機能していない実情もあり、深刻な社会状況が続いているそうだ。仲本さんの工房でも、細々とではあるが日本の市場が動いていることで、なんとか給料を支払えている。
「大事な仲間を解雇なんてできないし、数年間かけて育ててきた技術者をここで手放すわけにはいかないんです。残念ながら、ウガンダでは失業保険などのセーフティネットがあまり機能してないのが現状。ほとんどの人が日銭商売をしているので、仕事がないとなると、いきなり生活ができなくなってしまいます」
コロナの影響で深刻化するウガンダの経済をどうにかしたい。仲本さんは現在、私企業ながら地元で働く人たちを下支えする仕組みづくりに取り組んでいる。それは職人を抱える工房の互助会のようなものだという。
「何とかしたいと思い、お付き合いのある工芸品の工房などに声をかけ、ものづくりののコミュニティー全体が成長できるようなエコシステムを考えています。例えばうちの会社には、年金制度、緊急無利子ローン制度、医療の補助みたいな制度がありますが、このパッケージをほかの工房にも開放して、関係事業者全体で従業員を支える方法を模索しているんです」
こうした福利厚生を提供する代わりに、参加する工房に研修を受けてもらい、より高品質な製品を納入してもらうような契約を結ぶというのだ。ウガンダの職人が安心して働けるような仕組みをつくることで、生活が安定し仕事に集中して取り組めるようになり、製品のクオリティーが全体として上がっていく。やがてウガンダの工芸品は観光の目玉になり、主要な輸出品として世界中で販売されるようになる。そして……と、仲本さんの野望はその先まで続く。
「実はアフリカは世界最古の布(バーククロス)やビーガンレザー(※)の原料になりうるサボテンといった植物など、ファッション業界が注目するようなマテリアルが豊富なんです。みんなが気づいていない資源がどっさり眠っています。名物はマウンテンゴリラだけじゃないぞ! と、日本の市場を軸にウガンダのビジネスの可能性を開いていきたいですね」
国籍や性別、年齢などにとらわれず、多様な相手とフラットに手を携えていく仲本さん。コロナ禍や紛争など、暗いニュースが続く困難な世相だが、仲本さんのようなしなやかなリーダーシップこそが、持続可能な社会へ移行しうる道標になるのではないだろうか。
※ バーククロスは木の皮を原料とするアフリカ原産の世界最古の布といわれている。また近年、動物由来ではなく植物由来で持続可能な原料からつくるビーガンレザーが注目を集めている。
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RICCI EVERYDAY代表
早稲田大学法学部卒業後、2009年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。大学院では平和構築やアフリカ紛争問題を研究し、TABLE FOR TWO Internationalや沖縄平和協力センターでインターンを務めた。大学院修了後は、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)入行。11年同行を退社し、笹川アフリカ協会(現ササカワ・アフリカ財団)に転職。14年からウガンダ事務所駐在として農業支援にあたる。15年、ウガンダの首都カンパラでバッグ工房を起ち上げ、アフリカンプリントを使ったファッションブランドを日本で展開する会社RICCI EVERYDAYを母・仲本律枝と設立。16年にウガンダで現地法人レベッカアケロリミテッドを設立し、マネージングディレクターに就任。同年、第1回「日本AFRICA起業支援イニシアチブ」最優秀賞受賞、17年、日経BP社主催「日本イノベーター大賞2017」にて特別賞、第6回「DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」女性起業事業奨励賞、第5回「グローバル大賞」国際アントレプレナー賞最優秀賞を受賞。
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(RICCI EVERYDAY代表 仲本 千津 構成=モトカワ マリコ)
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