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貧しい日本人に旅行させるより、外国人観光客を受け入れた方が経済対策になる…「県民割」は本当に必要か

プレジデントオンライン / 2022年4月21日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pratchaya

■何のための「旅行代金肩代わり」なのか

「新型コロナ対策」と言えば、どんな政策も通ってしまう、そんなムードが国や地方自治体を覆っている。財源がふんだんにあるわけではないのに、その政策で何を実行しようとしているのか、政策目的が曖昧なまま進んでいる。

その典型が「県民割」だ。新型コロナウイルスの蔓延拡大が終息するどころか、第7波が懸念される中で、旅行代金の一部を助成する「県民割」や「ブロック割」が実施されている。高水準の感染が続いている東京都や大阪府、愛知県などは、さすがに「県民割(都民割、府民割)」の実施を見送っているが、都民や大阪府民などの「不公平感」は強く、国の「Go To トラベル」の再開に合わせて、実施する方針などを示している。

そもそも、個人の旅行代金のかなりの部分を国や自治体が肩代わりするという「政策」は何のために実施しているのだろう。ホテルや旅館などの宿泊業者や旅行業者を救済することなのか、あるいは景気対策なのか。

両方同じではないか、と思われる読者もいるかもしれない。だが、業者救済と景気対策は明らかに違う。業者救済の政策は、新型コロナの「終息」とは関係なく、むしろ蔓延が深刻で業者が打撃を受けている時にこそ必要だ。一方、新型コロナで打撃を受けた経済を回復させるための政策なら、その手を打つタイミングが重要になる。つまり、新型コロナが終息したタイミングで、一気に景気を回復させる「起爆剤」にする必要があるからだ。

■Go To トラベルは実施する「時」を誤った

もともと、Go Toトラベルは後者が狙いのはずだった。新型コロナの蔓延で緊急事態宣言が出された2020年。4~6月期の経済の未曾有の落ち込みから回復させる「起爆剤」として考えられ、7月22日から実施に移された。4万円の宿に実質2万円で泊まれるとあって、旅行者が急増。観光地の人出は一気に増加したため、それが新型コロナの深刻な感染拡大につながったとされ、中止に追い込まれた。それでも1兆円近い予算を使った。

苦境に喘いでいた宿泊事業者や旅行業者が大きく息をついたのは言うまでもない。その後も業界は「Go To再開」を要望し続けている。結果として、業者救済につながったのは良いとして、新型コロナ後の景気回復の切り札だったと考えると、政策として打ち出すタイミングを誤った、と言っていい。「新型コロナ対策」とひとくくりにするが、新型コロナの蔓延を抑えるのとは真逆の政策を打ってしまったわけである。その後、政府は、新型コロナ対策の「柱」として「人流」抑制にこだわり続けることになる。

■経済対策としては有効だからこそタイミングが重要

一方の旅行業界は、猛烈なインパクトがあった「Go Toトラベル」が忘れられない。政府も業界の要望を受けて、2021年度以降も数兆円にのぼる予算措置を続けている。残念ながら再開ができないので執行されず予算を余らせる結果になっている。

Go To トラベルという政策自体は、予算執行額の何倍もの経済効果が期待できる経済対策として有効なものだろう。政府が支出した分だけが業者に渡っておしまいではなく、消費者がさらにお金を使ってくれるわけだ。

だからこそ、その政策を打つタイミングが重要なのだ。政府がGo Toトラベルを再開できないのは、新型コロナが終息したと言える段階ではないことを如実に示している。

ところがである。Go To トラベルのミニ版とも言える「県民割」が全国に広がっている。実施していないのは前述の大都市だけだ。首長の強い意思で他県には追随していないが、住民の不満は高まる一方だ。そのうち、なし崩し的にすべての都道府県が実施するようになるのかもしれない。しかし、新型コロナが完全に終息していない中で、旅行を奨励することは、新型コロナの感染再拡大を自ら引き起こすことにつながりかねない。少なくとも、政府が2021年に強調し続けた「人流増加」が感染拡大の原因というのが事実とすれば、拙速な人流増加策のツケは必ず回ってくる。

日本の温泉
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■エビデンスがないから、人々は出かけるようになった

そんな中で、多くの国民の行動は大きく変わっている。米国などのように人混みの中でも皆がマスクを外すということはないが、旅行先もレストランも客がだいぶ戻っている。政治家や専門家が危機感をあらわにしても、オミクロン株は重症化率、死亡率とも低いので、まあ大丈夫だろうと見切っている人が増えたように見える。

これまで2年にわたって政府は次々と新型コロナ対策を打ち出したが、結局、国民を納得させる「エビデンス(証拠)」を示せていない。2021年の春から夏にかけてデルタ株が広がり、医療がひっ迫した時は、国民の間に危機感が広がり、ワクチン接種に大行列ができた。さすがに人流も一気に減った。外食を取りやめた人も多かった。だが、2021年秋に一気にデルタ株の感染者が減っていった理由が何だったのか国民を納得させるエビデンスが示されていない。

最近では、感染拡大と人流の増減には因果関係がないという研究も出ている。また、感染対策が進んだためか、飲食店でクラスターが発生するケースは激減している。飲食店で酒を出さないことや時間制限することが助成金支給の条件にされたが、それがどれだけの意味があったのか、明確なエビデンスは結局、示されていない。

だからこそ、人々は旅行に出かけるようになっているのだ。日頃一緒にいる家族どうしならば、たとえ県境を越えて旅行してもリスクは高まらないと感じている。

■巨額の予算を使って、今やるべきことなのか

そうした人々の意識の変化、新型コロナウイルスとの向き合い方の変化が起きている中で、県民割やGo To トラベルをやる必要性があるのか、という問題もある。県民割がなかったら旅行をしないのか、という疑問点だ。しかも、それを巨額の予算を使ってやるべきなのか、である。過度な財政支出をすれば、それはいずれ増税などの形で国民負担に戻ってくる。そのツケを払わせられる時には、当然、景気の足を引っ張ることになるのだ。

もし、政府が、もはや新型コロナの蔓延を抑え込むよりも経済対策が重要だとの結論に達したのならば、一気に景気対策として「起爆剤」のGo To トラベルを実施するのもいいだろう。だが、それはあくまでも「起爆剤」として使うべきで、何度も実施しては蔓延拡大で中止し、また再開を繰り返すというような使い方はしてはならない。それをやると、結局、Go To トラベルという第2の助成金に依存する業者が増えていくことになる。

■業者救済ならインバウンドを受け入れるべきだ

今、日本は猛烈な円安に直面している。旧来型の製造業経営者などはいまだに「円安はプラス」と言っているが、明らかに輸入物価の高騰が続き、庶民の暮らしはどんどん悪化する。内需型のサービス産業が多い日本では円安になっても給与が増えるわけではないので、輸入物価が上がれば、代わりに他のものの消費を諦めることになるだろう。真っ先に削られるのが旅行や外食かもしれない。Go To トラベルをやってもそれに伴って使うお金が減れば、政策の経済波及効果も小さくなっていく。

黒いテーブルの上に円記号
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

確実に言えることは、円安で外国人観光客にとっては日本がパラダイスになっていることだ。業者を救済するのならば、今はまったく受け入れを止めている外国人旅行者に門戸を開くことだろう。大挙して観光客が訪れ、お金を落としていく。この時、日本の事業者はいかに外国人にお金を落とさせるか、考えればいい。宿泊料をドル連動で引き上げて行っても、日本の物価は安いので、旅行者にとっては割安な旅行先に見えるはずだ。

円安で確実に貧しくなっていく日本人に旅行させるGo To トラベルよりも、外国人観光客に一気に門戸を開くことの方がはるかに大きな経済対策になるだろう。コロナと共に生きていくのなら、そうやって日本が稼いで、医療体制が崩壊しないようにヒト・モノ・カネを医療分野に注ぎ込んでいくことを考えるタイミングに来ているのかもしれない。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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