「僕のようなエリートが子供を私立に入れられないはずがない」40代夫婦の家計を狂わせた"10年前のある買い物"
プレジデントオンライン / 2022年4月28日 15時15分
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんのもとに寄せられた相談内容をもとに、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
■35歳で6200万円のマンションを購入
本人 会社員(年収800万円)※当時の年収も800万円
妻 専業主婦
子供 小学生
住まい マンション(住宅ローン月16万5000円)
年収800万円、月約50万円の手取りがある大手メーカー勤務の40代男性。10年前には都内の一等地にマンションを購入し、家族で楽しくお過ごし……かと思いきや、自分のお小遣いは3万円で、家計は火の車だと言います。高給取り一家の「誤算」とは一体……?
私がはじめて山形弘樹さん(仮名)にお会いしたのは今から10年前のこと。当時35歳だった彼は同級生の妻とともにお子さんの将来を考え、教育環境の整った都内の築浅マンションを買おうとしていました。
金額は当時で6200万円。ご両親からの600万円を頭金に、5600万円を35年ローンで組もうという計画でした。親の援助によって500万円あった貯金には手を出さずに済みましたが、それでも月々の支払いは修繕積立金などを含めて16万5000円。手取り50万円の山形さんの場合、収入に占めるローンの割合は33%になります。
本来であれば、住居費は手取りの25%以内、不動産価格の高い都内の場合、許容範囲を広くしても30%以内に収めるのが理想的ですが、山形さんの教育環境への強いこだわりから、私の懸念をお伝えしながらも、教育環境が充実していることで知られる地域のマンションを購入したのでした。
■給料は横ばいなのに、子供の教育費が月15万円に
そして月日は流れて10年後の2022年。山形家の家計は毎月、赤字になっていました。彼の給料は10年間ほぼ横ばいで変わっていないにもかかわらず、なぜここまでひっ迫してしまったのか。理由を聞けば、10歳になったお子さんの教育費がその原因だったのです。
現在小学4年生のお子さんは都内屈指の超有名進学塾に通いだしたばかりで、中学受験戦争に足を踏み入れたところ。塾代だけなら3、4万円で済むのですが、進学塾での勉強をサポートするための個別指導や家庭教師代が10万円かかるといいます。さらに習い事も入れると、毎月15万円の教育費が山形家に大きくのしかかっていました。
住居費と教育費ですでに30万円オーバーですので、手取り50万円の高給取りでも生活はカツカツ。当時500万円あった貯金もほとんど増えておらず、むしろこのままでは切り崩しが続いて危険水域に陥る可能性が高いことから、私のもとに来てくれたのでした。
教育費に月15万円と聞くと驚かれるかもしれませんが、この地区では20万円もザラ。山形さんの暮らす地域はお受験激戦区で、私自身もその壮絶な話を人づてに聞いたことがあるほどです。また、無事に中学に合格できたとしても山形さんの場合は大学まで私立校をご希望だったため、劇的に教育費が下がることはありません。今後10年以上、最低でも月10万円の出費が続きます。
■「僕の年収で私立に入れられないわけがない」
……と、ここまでは10年前からすべて予想できていたことでした。「中学から大学まで私立」「妻は専業主婦」「年収800万円」「月16万5000円のローン」という情報を機械的に淡々と数式に入れ込んでみると、当時から赤字になることがデータでも示されていたのです。ある意味、山形さんは私が作ったキャッシュフロー表通りの道をたどっていました。ではなぜ彼は、赤字になる未来予測をそのまま突き進んでしまったのでしょう。
10年前、崩壊しているキャッシュフロー表を見た山形さんは突然不機嫌になり、こう言い放ちました。
「僕の年収で私立に入れられないって、そんなわけないでしょう」
高給取り&エリート意識の強い彼は、自分のような「上層の人間」が子供を私立に入れられないなら、一体この国の誰が私立に行けるのかと、早口でまくしたてました。隣にいた妻はキャッシュフロー表を見て不安を感じたようですが、専業主婦ゆえか権限がないようで、すべての決定権は夫の山形さんが握っている状態。結局、誰も彼を止めることはできず銀行の審査も通ってしまい、マンション購入となったのでした。
■「今は払える」だけでローンを組んではいけない
少し話はそれますが先日、世帯年収1200万円のパワーカップルから「代官山の家を買いたい」というご相談を受けました。試算すると返済金額は月20万円以上。2人合わせて手取りが6、70万円あるご家庭なので、たしかに買えます。とはいえ、山形さんと同じようにお子さんが大きくなれば教育費がかかってきますし、経済状況があまりに不安定な今、私はかなり手堅いご提案をするようにしています。
しかもこの代官山の物件、ヴィンテージマンションで本当におしゃれではあるのですが、“ヴィンテージ”だけあってエレベーターもなく、修繕積立金は5万円……! すぐ引き上げられる賃貸はアリでも、買ってしまうと簡単には手放せません。結局この物件、他の方が一足早く買ってしまったそうなので、私としては一安心でした。
今は低金利なので、変動金利でローンを組み、住宅ローン減税があるうちに購入したい、という方も多いです。代官山の方もまさにそうでしたし、山形さんも0.5%の変動金利でローンを組んでいます(購入当時の金利は0.8%、借り換えで0.5%に)。都内には1億円を超えるマンションがバンバン建っていて、完売しているものもよく見かけます。たとえ1億の物件だとしても、この先の収入状況の安定が確保され、いざといった時に対処できるくらい資産が潤沢にあれば購入するのもありかもしれません。
不確定要素が多すぎる今の時代、心配しだすときりがありませんが、収入減少の想定もしてシミュレーションをし、貯金で当面の目処が立つかも見極めながら物件購入を考えてほしいと思います。
■まずは妻に仕事を持ってもらうことを提案
山形さんの話に戻ると、今現在は塾と習いごとの送迎で働けていない妻に今後、仕事を持ってもらうことをおすすめしました。
先日、私立校に子どもを通わせている家庭の経済状況を示すデータを見たところ、全体の3割が世帯年収800~1000万円でした。世帯年収900万円台は、私立高校無償化といった子育て支援や所得控除が制限されてくるライン。昨年も子育て世帯への10万円給付をめぐり、同じ世帯年収でも共働きなら給付になり、単独だと対象外になるという「960万円の壁」が話題になりました。このような点からも、単独で年収を上げるのではなく、共働きで世帯年収を上げていく方が所得制限にひっかかりにくい、ということもあります(あくまで現時点で、ではありますが)。
そして何より片働きはハイリスクです。妻の今後の人生を鑑みても、仕事を持つことがベターではないかとお話させていただきました。
ただ、女性の社会進出が進んだとはいえ、依然女性が復職するとなると難しいケースも少なくありません。長くなるので、このお話は次回にさせていただきます。
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Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『やってみたらこんなにおトク! 税制優遇のおいしいいただき方』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)
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