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「検討させていただきます」頭が悪いと思われる"間違った敬語"の使い方

プレジデントオンライン / 2022年4月30日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DragonImages

社会人経験の長い大人でも、迷ったり、うっかり間違ったりしがちな「敬語」。しかし、「その誤りは、あなたの致命的な評価につながります」と指摘するのは、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんだ。人生に損をしないための敬語のコツを、セブン-イレブン限定書籍『「超」書く技術』より特別公開する──。(第2回/全3回)

※本稿は、野口悠紀雄『「超」書く技術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■敬語の誤りは決定的…

メールの書き方で最も重要なことなのに、軽視されている「メールをどう書くか」という本が山ほどあります。

そこで強調されているのは、メールを印象的に書いて相手の注目を引こう、などといったことです。そうできればそのほうがよいのですが、これらは、どちらかと言えば程度の問題です。

それに対して、敬語の誤りは決定的です。それにもかかわらず、敬語について書かれたものをあまり見ません。

適切なメールを書くためには、まず敬語の使い方を正しくすべきです。

■敬語の使い方で生活環境が分かる

敬語にはルールがあります。

ただし、いちいちルールに当てはめて、「これは謙譲語だから使ってもよい」などと判断するのは大変です。感覚として、「これが正しい」とか、「これはどこかおかしい」と感じられるようになる必要があります。

その感覚は、日常生活で正しい敬語を使うことによってしか習得できません。そのため、敬語の使い方を見ていると、その人の生活環境が分かってしまいます

その人が普段どのような言語環境の中で生活しているか、その中での普通の言葉がどのようなものなのかが、現れてしまうのです。

■敬語の使い方がまるでデタラメ

某大学のA教授の研究室に電話をすると、秘書が出て、「A先生はいま会議中で研究室にはいらっしゃいません」という返事が返ってきます。

秘書がA先生を敬って、研究室で尊敬語を使うのはよいのですが、第三者との連絡にも同じような表現では困ります。

あるいは、「上司の判断を仰ぎます」と言う人もいます。自社の「上司」に敬意を払っています。

私もその上司を仰がなくてはならないことになり、きわめて不快な気持ちになります。まさに「子供の使い」です。こちらは特命全権大使と交渉していたつもりなのに……。

そうかと思うと、会社名に「さん」をつけます。「プレジデント社さん」というように。こうした呼び方が始まったのは、1980年代の頃ではなかったかと思います。私はその当時感じた違和感をいまだに持っていますが、いつの間にか定着してしまったようです。

■20年間の大きな変化

2002年に『「超」文章法』を書いたとき、敬語については何も触れませんでした。あまり問題意識を持っていなかったのです。ところがいまでは、毎日のように気になります。当時に比べて、敬語の使い方が乱れてきているのです。

なぜこのようなことになってしまったのでしょうか?

敬語の使い方を誤ると、知的能力を疑われるだけではありません。相手に不快感を与え、無礼だと感じさせます。ときには、致命的なことになります。

逆に、適切な敬語を使ったメールを受け取ると、知的水準の高い人だと感じます。敬語を正しく使えれば、印象に残ります。

能力を示す機会はいろいろあるのですが、敬語を正しく使うのは、その中でも強力な手段の1つです。

■日本語の敬語のルールが統一的でない側面も…

日本語の敬語のルールが統一的でないことも事実です。例えば、「お手紙」とは言いますが、「おメール」とは言いません。

手紙を受け取った場合には「お手紙ありがとうございます」と書けるのですが、メールを受け取った場合には、どう書けばよいのでしょうか?

私は、「メールのご連絡ありがとうございます」と書くことにしているのですが、「相手が出したメールに敬称をつけなくてよいのか?」と、いつも気になります。

■カタカナ外来語は差別待遇

「それはいい考えですね」と言うのは、目上の人に対しては不適切です。しかし、「それはいいアイディアですね」は許されます。「それはいいおアイディアですね」と言ったら奇妙です。

日本はカタカナ外来語に対して差別待遇をしているのではないかと思います。

ビジネスチーム
写真=iStock.com/opolja
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/opolja

また、「書簡」は、「お書簡」とは言わず、「ご書簡」と言います。

本を進呈する場合、「恵存」と書きますが、どうしても「ご恵存」と書きたくなります。本を贈呈した際の返信で「恵投にあずかり」と言われると、「こちらの行為なのに敬称なし?」と一瞬思ってしまうのですが、これでよいのです。

■「お送りします」は正しいか?

資料などの送付は、非常に頻繁に行うことです。これをどう表現したらよいのでしょうか?

通常は、「資料をお送りします」と書きます。「自分の行為に〈お〉をつけてよいのだろうか?」といつも気になるのですが、これは正しい表現です(自分の行為に「お」をつけてよいのです)。文化審議会答申は、「相手を立てる表現だから、許容される」としています。

「資料をお送りいたします」、「資料をお送り申し上げます」も正しい表現ですが、少しずつ慇懃無礼(いんぎんぶれい)になっていきます。

「お送りさせていただきます」「送らせていただきます」は誤りです。「いただきます」は、相手の許可が必要な行為の場合に用いる表現だからです。政治家先生方が国会答弁で「検討させていただきます」「お答えさせていただきます」などと乱発しているため、国民にも広がってしまいました。

「送らせてもらった資料ですが……」は誤り(無礼)です。「送りますね」も、よほど親密な相手でないと、無礼とされるでしょう。

「お送りしますね」は、なれなれしすぎるでしょう。「ね」は、フォーマルな文書では用いない、友達同士の言葉です。

■人称代名詞の難しさ

第1人称代名詞と第2人称代名詞は、英語では“I”と“you”であり、場合によってさまざまな呼称を使い分ける必要はありません(ドイツ語ではduとSieの違い、フランス語ではtuとvousの違いがありますが)。

ところが、日本語の場合、「私」「あなた」について、場合によってさまざまな言い方があります。そして適切な表現を使わなければなりません。相手との関係に応じた微妙な使い分けが必要なのです。これを面倒と感じるかもしれませんが、軽んじてはいけません。

正式な仕事の文書で「僕」という言葉を使う人が時々いますが、どうかと思います。

また、自分の配偶者を指すのに、「僕の奥さん」と言う人がいます。ふざけて言っているのではないようです。こうした表現に出くわすと、その人の言語感覚だけでなく、精神構造を疑います。

■避けたほうがよい表現

判断が難しいものとして、上司に向かって言う「ご苦労様でした」があります。これは、間違いだと感じる人が多いでしょう。「ご苦労様」というのは、目下の人に対して使う言葉だからです。

では、正しい表現は何でしょうか? 「お疲れ様でした」だとされるのですが、これにも違和感を持つ人がいるでしょう。

「了解です」「なるほどですね」などは、いわゆる「バイト敬語」の一種とも言えます。「了解です」よりは、「承知しました」がよいでしょう。

日曜日の連絡で「お休みのところ、失礼します」という気遣いをされることがあるのですが、気遣いになっているかどうか、疑問です。私は、日曜でも原稿の締め切りでパニック状態になっている場合が多いので、「お休みできるほど優雅な生活ではありません」とひねくれた気持ちになります。

■形容詞に「です」をつけると「幼稚」と見られる

「高いです」のように形容詞に「です」をつけることは、どうでしょうか? 前記の文化審議会答申は、「抵抗を感じる人もあろうが、すでにかなりの人が許容するようになってきている」としています。

しかし、果たして本当にそうでしょうか?

人によって受け止め方は違うでしょうが、私は「抵抗」というより、「幼稚だ」と感じます。そう感じている人は私に限らないことに留意してください。

■若者に広がる「バイト敬語」

先に触れた「バイト敬語」ですが、これは「敬語」と呼ばれていますが、これは敬語の問題ではありません。間違った日本語の問題です。

若い人たちの間では普通の言葉使いなのでしょうが、一般日本社会との間で、摩擦現象を起こしています。

それだけではありません。最近では、通常の仕事の場面にも進出し、市民権を獲得しつつあります。こうなってくると、見過ごすわけにはいきません。日本語の乱れに、強い危機感を覚えます。

■バイト敬語①:「になります」

「こちらが、ハンバーガーになります」
➡正しくは「こちらが、ハンバーガーでございます」。

「なります」とは、Aが変化してBになることを言います。したがって、この場合には、「目の前にあるのは、まだハンバーガーではないが、そのうちハンバーガーになるだろう」という意味になります。

野口悠紀雄『「超」書く技術』(プレジデント社)
野口悠紀雄『「超」書く技術』(プレジデント社)

しかし、こんなことを言っているのではないでしょう。

こう言っている人の心理状態を分析すると、「でございます」と断定すると強すぎるので、「こんなものがハンバーガーか」と言われた場合に逃げ道を作るために、曖昧表現「になります」を使っているのであろうと推察されます。

最近では、「こちら、会議の資料になります」などという表現が、仕事上のメールにも進出してきました。これも、差し出しているものが本当に資料と言えるか否かに関する疑惑の念がもたらした表現でしょう。

すなわち、目の前にあるのは、「資料ではなく、資料の卵。ないしは資料の原材料に過ぎない」と言っているのです。

■バイト敬語②:「ほう」

「コーヒーのほう、お持ちしました」
➡「コーヒーか紅茶かどちらかを持ってきてほしい」と言われたのであれば正しい言い方ですが、そうでなければ、「コーヒーをお持ちしました」と言うべきです。

こう言っている人の心理状態を分析すれば、つぎのようになるでしょう。「コーヒーをお持ちしました」では、あまりに直接的で押しつけがましく、まるで、嫌がる相手にコーヒーカップを押しつけているような気がします。

そこで、「ほう」というオブラート(ショックアブソーバー)で包んでいるのです。「なります」と同じように、曖昧な表現で責任回避をしようとしているのです。

ショックアブソーバーとしての「ほう」に対する信頼は絶大であり、さまざまなところで使われます。

■学校では教えてくれないこと

「バイト敬語」としては、以上のほかに、つぎのようなものもあります。カッコ内が正しい表現です。

「1万円からお預かりします」(1万円をお預かりします。もっと正確に言えば、「1万円をお預かりし、そこから3000円をいただきます」)。
「ご注文は○○でよろしかったでしょうか?」(ご注文は○○でよろしいでしょうか?)。過去形でなく、現在形で言う必要があります。
「レシートのお返しです」(レシートです)。レシートは返すものではなく、店が発行して客に渡すものです。
「コーヒーと紅茶の、どちらにいたしますか?」(コーヒーと紅茶の、どちらになさいますか?)。「いたします」という謙譲語を、相手の行為に使ってはいけません。間違いであるだけでなく、失礼な言い方です。
「どうかいたしましたか?」(どうかなさいましたか?)。これも、謙譲語を相手の行為に使っています。

バイト敬語を使っているのは、若い年齢の人たちです。こうした言葉使いは間違いだと、学校で教えてほしいものです。

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野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)ほか多数。

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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)

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