気が重い「お詫びメール」もラクに書ける…野口悠紀雄式"音声入力"活用術
プレジデントオンライン / 2022年5月4日 10時15分
※本稿は、野口悠紀雄『「超」書く技術』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■文章を楽に書くための「仕掛け」
私は、文章を楽に書くための仕掛けを持っています。長い文章を書く場合にとくに有効ですが、短い文章の場合にも、もちろん有効です。
この仕掛けでは、書きかけのものも含め、自分が書いたどんな文書にもすぐにアクセスできます。それによって、徐々に文章を完成させていくことができます。ほかの仕事で中断してしまった場合でも、すぐに元に戻れます。
私は、原稿を書くためにこのシステムを使っているのですが、きわめて効率的に機能しています。これがなければ原稿を書くことができません。日々の小さな作業の積み重ねを蓄積できるような仕組みになっているのです。
■書きたくないメールが楽々書ける
なかなか書き始められない文章があります。例えば、詫び状のメールなどです。遅れれば遅れるほど、書きにくくなります。そして、連絡が遅れるために、問題が大きくなります。だからますます書きたくなくなります。
これを克服するための方法は簡単です。メールの送信欄を開いて、下書きを書いておけばよいのです。不完全な文章であっても、いっこうに構いません。
音声入力でなら、あっという間に書けます。それによって、文章のカケラでもよいから、とにかく書いておくのです。
そして、それを徐々に直していきます。この作業を何回か繰り返していけば、やがて、相手に出せるような内容のメールが出来上がるでしょう。
■「取り掛かり」が重要
この方式の有効性は、書きたくないメールに限りません。文章は、書き始めるのが難しいのです。書く作業に取り掛かれれば、あとは簡単です。
「取り掛かり」こそ重要なのです。とにかく文章の形で書き、それを直していく。その繰り返しで文章を書くことができます。
多くの人が、頭の中の考えがきちんと整理されるまで、文章を書こうとしません。しかし、それでは、なかなか書き始めることができません。
とにかく文章の形にして、それを修正していくという方式のほうがはるかに効率的です。
■音声入力とクラウド保存
文章を楽に書くという目的のために、私は、2つの技術を使っています。
第1は音声入力。これは、AI(人工知能)によって可能になったものです。第2はクラウド。これによって書きかけのものを保存し、すぐに取り出すことができます。
文書がクラウドにあれば、文書間にリンクを貼ることができます。目次ページからすぐに到達できるので、ファイル数がいくら増えても迷子になることはありません。
この仕組みの詳細については、拙著『書くことについて』(角川新書、2020年)、『「超」メモ革命』(中公新書ラクレ、2021年)を参照してください。
■音声入力を最大限に活用しよう
いま、文章は音声入力で書くことができます。スマートフォンに向かって話しかけると、それを文字にしてくれます。
検索の場合に検索語を音声入力することは、多くの人が行っていると思います。このような短い言葉だけでなく、もっと長い文章を音声入力で書くことができるのです。
歩きながらでも、寝そべったままでも書けるので、たいへん便利です。30分程度散歩をする間に、2000字程度の文章を簡単に書くことができます。
■思いついたアイディアを逃さないために
考えついたアイディアを忘れないようにメモするにも、音声入力が便利です。
会議やブレインストーミングで、あるいは誰かとの会話で、よいアイディアや考えを捕まえられたら、記憶が鮮明なうちに、頭の中にあることを音声入力しておくことを勧めます。
頭の中にあるままだと、忘れてしまうことがあるし、アイディアを発展させていくことができません。しかし、音声入力をしてテキストファイルの形になっていれば、あとからそれを発展させることができます。
■編集に時間がかかる
ただし、いくつかの注意が必要です。
まず、音声認識の精度は、完全とは言えません。誤変換が多く、誤字・脱字の類が多くあります。
日常用語であればかなり正確に文字にしてくれますが、難しい言葉になると、うまくいきません。しかも、利用者に合わせた学習能力は持っておらず、いつになっても同じ誤りを繰り返します。
したがって、音声入力だけでは完成した文章になりません。それを修正し、編集する必要があります。
通常、編集作業は、音声入力をする時間よりはるかに多くの時間を要します。したがって、音声入力をしたところで、文章作成の時間が短縮できるわけではありません。
30分で2000字程度の文章が書けると言いましたが、それは完成した文章ではありません。出発点ができるに過ぎないのです。
しかし、音声入力が書く作業を楽にしてくれることは、間違いありません。編集は機械的な作業であり、新しいものを作り出すための精神的な努力は必要ないからです。
つまり、音声入力は、文章を「速く書く」ための方法ではなく、文章を「楽に書く」ための方法なのです。
■考えを「見える化」する
音声入力で文章を書くには、書くべき内容が頭の中にあることが必要です。30分で2000字程度書けると言っても、それは、それだけの内容がすでに頭の中にある場合です。頭の中に何もなければ、いくら音声入力を使っても、何も書くことができません。
最初に「とにかく書き始めよ」と言い、今度は、「書くべき内容が頭の中になければならない」と言いました。この2つは矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。
通常、頭の中にある考えは、きちんと整理された考えではなく、混沌(こんとん)状態のものです。それを論理的にきちんと順序づけて正しい文章で書いていくことが必要なのですが、この作業は、頭の中だけではなかなかうまく進みません。
目に見える文章の形にし、それを直していくことによってできるのが普通なのです。
音声入力は、頭の中にある整理されていないモヤモヤした概念を目に見える形で取り出して、編集可能な形にし、忘れないように保存するための手段なのです。つまり、アイディアを「見える化」する手段です。
■個人でも巨大なアーカイブを持ち歩ける
この方式では、文書やデータを、PCやスマートフォンなどのローカルな端末に保存するのではなく、クラウド(インターネット上)に保存することになります。
クラウドというと、なにか高級で難しい方法のように思われるかもしれませんが、Googleドキュメントに書いたり、メールに書いたりすることによって、自動的にクラウドに記録されることになります。
このようにして、個人でも簡単にクラウドを利用することができます。
■どこからでも、どんな端末からでもアクセスできる
データをクラウドに保存しておけば、どんな端末からでもアクセスすることができます。
自宅のPCに保存したデータは、自宅にいないと利用できません。しかし、クラウドに保存しておけば、外出先でもオフィスでも、あるいは旅行先でも、電車の中でも、どこでもアクセスすることができます。
スマートフォン1つで、世界中のどこからでもアクセスできます。巨大なデータアーカイブ(文書保管庫)を、いつも持ち歩いているようなものです。端末が故障しても、別の端末からアクセスすることができます。
また複数の端末から同じファイルにアクセスできるのは、非常に便利です。これによって、長いファイルの全体を俯瞰することができます。
デジタル文書の欠点は、紙に書いた文書と違って、離れた箇所を同時に見られないことです。その問題をこのようにして克服できます。
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一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)ほか多数。
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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)
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