トヨタがノアとヴォクシーに採用した"13万円の先進安全技術オプション"は高いか安いか
プレジデントオンライン / 2022年4月30日 9時15分
■「衝突被害軽減ブレーキ」の新車への装着が義務化
車載のセンサーが危険を察知し、ドライバーに危険を知らせて事故回避につなげる。こうした先進安全技術の有用性が認められてきた。代表的な「衝突被害軽減ブレーキ」に至っては新車への装着が義務化となった。
具体的には、2021年11月以降に発売されている新型の国産車に関して、国の基準(例:40km/hで走行中、停止している車両に衝突しないこと)を満たした性能を有する衝突被害軽減ブレーキの装着が義務化された。
義務化の時点で販売されていた車(=継続生産車)は2025年12月以降、同タイミングの軽トラックはさらに後倒しで2027年9月以降に義務化が課せられる。また、正規販売される輸入車の新型車は2024年7月以降、同継続生産車は2026年7月以降、先の国内基準が適応される。
衝突被害軽減ブレーキは、1991年に旧運輸省時代から現在へと続くASV(アドバンスド・セーフティ・ビークル)構想の最初期から導入が検討されていた先進安全技術で、2003年6月にホンダの上級セダン「インスパイア」が世界で初めて実装した。
■2019年に新車発売された乗用車では9割がすでに搭載
国土交通省によると、令和元(2019)年に国内で新車販売された乗用車のうち、衝突被害軽減ブレーキ搭載車は93.7%に達しているという。統計を開始した平成23(2011)年には1.4%であったものが、その有用性が認められた結果、ここまで高い普及率を示したわけだ。
ちなみに、国内の車両保有台数に占める衝突被害軽減ブレーキ搭載車の割合は令和元(2019)年8月時点で約24%にあたる。また、衝突被害軽減ブレーキの技術を部分的に応用した「ペダル踏み間違い急発進抑制装置」は、衝突被害軽減ブレーキの普及率に比例し83.8%まで高まってきた。
このように衝突被害軽減ブレーキは高い普及率のなかで義務化が施行されたわけだが、ドライバーには引き続き、システムに対する過信を抱かない運転操作が求められる。
先進安全技術は一部の高級車だけに装着されるものではない。義務化はすべての車両に対して施行された。そもそも先進安全技術を市販車に導入する大きな狙いは「交通死亡事故の低減」にある。
その意味で、日本市場の販売主力であり多人数乗車となる確率が高く、走行距離や走行回数の多くなるミニバンに先進安全技術が搭載されることは重要である。
■先進安全技術の集合体がノア&ヴォクシーに採用された
トヨタの新型ミニバン「ノア&ヴォクシー」には、先進安全技術の集合体である「Toyota Safety Sense」が採用された。試乗したヴォクシーのグレードでは、①標準装備の衝突被害軽減ブレーキに加えて、②車両後側方の車両を検知して知らせる「BSM」、③後部スライドドアでの降車時に機能する「安心降車アシスト」、④後方から接近する車両や人を検知して報知しブレーキ制御まで行う「パーキングサポートブレーキ」、⑤高速道路などで車間を保持しながら前走車に追従する「ACC」+車線中央維持機能「LKS」作動時に、40km/hまでの車速域でステアリングから手を放して走行できる「アドバンストドライブ」がワンパッケージとしてオプション装備として用意された。価格は13万4200円(税込み)だ。
なお、アドバンストドライブには専用の高速道路情報(ディスプレイオーディオではT-Connect・コネクティッドナビの地図情報)が必要で、利用できる道路には現時点で制限がある。
上記ワンパッケージのオプション装備価格は試乗したグレードの車両本体価格(309万円)のうち約4.3%を占める。値は張るが、得られる安心・安全機能からすれば圧倒的に安価だ。
15年前では①~⑤の半分に満たない機能で100万円超のオプションであったし、5年ほど前にはミニバンはおろか一部の高級車であっても①~⑤を備えるクルマは少なかった。
■「先進安全技術は普及してこそ事故抑制効果が高まる」
「先進安全技術は普及してこそ事故抑制効果が高まります。我々としては有用性を高めるために技術の精度を高めてきました。また、普及させるためには安価でなければならず、その点でも企業努力を重ねてきました」とは、トヨタ自動車の自動運転・先進安全開発部に所属する安田敏宏さん。
こうした先進安全技術群は車載のセンサーが電子の眼となり自車周囲の状況を捉えて車両の制御に活かす。この流れは先進安全技術が実用化された20年以上前から変わらない。
それが2020年頃から先進安全技術の守備範囲が広くなった。これまで危険な状態に近づきそうになる、もしくは危険が避けられない状態のときに作動するのが先進安全技術だったが、今では日常の運転操作から先進安全技術が積極的に安全運転をサポートするようになったのだ。
このサポートをトヨタでは「プロアクティブドライビングアシスト/PDA」と呼ぶ。日本語にすれば「先回りして運転を補助する」といった意味になる。PDAは次のA~Cに掲げた3つの領域で先進安全技術による運転支援を行う。
■先進安全技術による運転支援を行う「3つの領域」
A「歩行者/自転車運転者/駐車車両に対する操舵・減速支援」として、横断中を含む歩行者や自転車に対して自車が近づいて行く場合、報知とともにブレーキ制御を行い、さらに余裕がある場合にはステアリング制御を併用して危険な状態に近づかないよう車両を制御する。
B「先行車に対する減速支援」として、ドライバーがアクセルペダルから足を放した状態で、前走車に対して接触や衝突などの危険性が高まりそうな場合、非常に弱いブレーキ制御を自動的に介入させる(=車間を空ける)。割り込まれ、車間が急に狭まった場合にも機能する。
C「カーブに対する減速支援」として、ドライバーがアクセルペダルから足を放した状態で、進路のカーブ曲率に対して自車速度が速いとシステムが判断した場合には非常に弱いブレーキ制御を自動的に介入させる(=カーブを安全に走行する)。
A~Cの機能は日頃の運転操作にとても効果的だ。またこれらの機能は、一般道路/高速道路、どちらでも機能し、さらにエンジンを掛けて乗り出せばいつでも機能がオンになっているから恩恵を受けられる率が高い。
■「人とクルマが仲間のように共に走る」思想で作られた技術
このうち筆者はBの機能を一般道路で体験した。減速支援は減速タイミングを3段階(ここでは便宜上、早い/普通/遅いと表記)から任意で選ぶことができる。
筆者は試乗時、この3段階のすべてを試してみたが、自身が運転中、前走車との距離が近づいたと判断してブレーキペダルを踏むタイミングと、先の「早い」はほぼ一致していた。
トヨタでは自動運転技術に対して「Mobility Teammate Concept」という名称を用い、人とクルマが仲間のように共に走るという考え方のもと技術の作り込みを行っている。自動運転技術の礎である先進安全技術にもその考え方が導入され、今回試乗したノア&ヴォクシーにも搭載された。
繰り返しになるが、衝突被害軽減ブレーキをはじめとした先進安全技術は事故の危険を察知して、未然にドライバーへと回避動作を促す機能だ。その上で、ドライバーが何らかの理由で回避動作ができない場合、ブレーキ制御やステアリング制御に自動的に介入し、被害を軽減、もしくは事故そのものを未然に防ぐ。
■「人がどう歩み寄るか」がこの先の課題
今回、トヨタは先進安全技術にプロアクティブドライビングアシストという概念を持ち込んだ。センサーが認識した情報を人工知能を用いたニューラルネットワークによって解析を行い、危険に近づくであろうとシステムが判断した場合には、前もって緩やかなブレーキ/ステアリング制御で危険から遠ざかる。まさしく先回りする先進安全技術だ。
この先の課題は、進化した先進安全技術に対して人がどのように歩み寄り、共に安全な運転操作を継続するかだ。実際、今回の試乗でも、無意識のうちにB「先行車に対する減速支援」に頼ってしまうことがあった。減速支援は20km/hを下回るとブレーキ制御がなくなるため、必ずそこからはドライバーがブレーキペダルを踏むことが求められる。
人とクルマが協調して安全な運転を行う。これがトヨタが示し続ける安全思想だ。
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交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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(交通コメンテーター 西村 直人)
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