「損得勘定で生きる人ほど、最後に損をするワケ」禅僧が教える"心が整う"選択のコツ
プレジデントオンライン / 2022年5月2日 9時15分
※本稿は、枡野俊明『やめる練習』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■あなたの「その選択」の基準は何か
生きることは選択の連続です。仕事や人との付き合いから買い物まで、大きなことから小さなことまで、さまざまな選択をしながら人は日々生きています。
こちらを選ぶか?
あちらを選ぶか?
そのとき判断の基準になるものは何でしょうか。こちらを選ぶと得だ、あちらを選ぶと損だという損得の勘定であることもきっと多いはずです。
経済最優先の価値観が強い世の中ですから、その社会に生きる人間も、多くのことを経済的な尺度でもって判断する傾向が強くなるのでしょう。
■損得を基準にした判断は将来を保証しない
しかし、損か得かという判断は、必ずしもその通りの結果になるとは限りません。たとえば就職の際、人気がある会社に入れたとしても、その会社が10年後、20年後にどうなっているかは予想がつかないことです。
20年前、30年前であれば就活生の人気ランキングでトップの座にあった銀行にはもはや昔日の勢いはありません。本格的なAIの時代を迎え、業務形態そのものも根本から変革を迫られています。
結婚なども損得で決めることがありますが、その通りにならないことはいくらでもあります。相手がお金持ちの実業家だから結婚を決めたとしても、会社経営がうまくいかなくなり、お金持ちではなくなる可能性があったりするわけです。
■「道」を選んだあとでいかに努力するか
反対に、損と思えた選択が、あとになってみるとそうではなかったということもいくらでもあります。不本意ながら入った会社で、思いがけずいい人といい仕事に出会い、運勢が開けたといったこともよくある話です。
このように損か得かという判断はまことに当てにならないものです。この世のすべては常に変化していますから、損か得かという状況がくるくる変わるのは当たり前のことなのです。
人の運命は、目先の損得勘定などに収まるような小さなものではありません。
「大道通長安(だいどうちょうあんにつうず)」という禅語があります。どの道を選ぼうと、幸せや真理に通じているという意味です。大切なのは、道を選んだあとでいかに努力をするか、生きるかです。
自分がなすべきことをただひたすらやる。すると結果として、その人にしかない「道」が生まれるのです。そのことをしっかり胸に刻んでいただければと思います。
■損得で人と付き合うと卑屈になる
損得勘定ばかりで動いていると、ふだんの人との付き合いまで損か得かで判断するようになります。
「あの人と付き合っておくと得だから、ずっといい関係でいよう」
「この人は付き合っても得なことは何もないから、もう会わなくてもいいや」
仕事に役に立つと思えば積極的に人間関係を築こうとするのに、たいして得にもならないとなると冷淡な対応をする。
しかし、人間関係は損得勘定を前提にしてはいけないと思います。
得になるからといって付き合えば、相手に対しては媚(こ)びたりへつらったりして、態度や振る舞いが卑屈になっていきます。どこかで自分を偽って相手と向き合っているわけですから、そんな付き合いは、どこまでいっても心が通わない上っ面のものでしかありません。
■「結果的に損になる」生き方
損得勘定ばかりを働かせていると、物事の表面にしか目がいかず本質をとらえることができなくなります。
人生で体験することには、損得だけでは測れない切り口がたくさんあります。
面白い、楽しい、美しい、感動する……さまざまな面があるわけですが、損得勘定が先走れば、こうしたものが省かれてしまいます。
人の世界は、心を生き生きとさせる豊かなもので本来成り立っています。損得のものさしばかり使っていると、その豊かさが享受できなくなります。
結果的には損な生き方になってしまうのです。
■勝ち負けにこだわる現代人
ひところ、勝ち組、負け組という言葉がはやりました。表面的な勝ち負けの価値判断で人を評価するような雰囲気に、違和感を覚えた人は少なくないと思います。
成果主義が幅をきかせている社会ですから、こうした風潮はどうしても生まれてしまうのでしょう。
子どものころから勉強の競争をさせられ、大人になってからは仕事の競争にエネルギーを使い続け、現代人は強い競争原理のなかに放り込まれた生き方を強いられています。
そうした環境にいると、絶えず誰かと自分を比べ、勝っているとか負けているとかといった評価をし続けることになるのです。
■そこに「幸せ」はあるか
「この仕事をやり遂げたら、同期にはもはや敵なしだ」
「あいつには負けるわけにはいかない!」
仕事によるストレスの多くは、こうした勝ち負けの過剰な意識が原因になっているのではないでしょうか。
勝ち負けの意識は、仕事だけにとどまりません。
「A子さんの子どもは名門校に入ったというのに、うちの子はなんでこんなに勉強ができないの……」
「B子の家は海外旅行へしょっちゅう行っているのに、うちにはそんな余裕はとても……」
子どものことから家庭の経済事情まで、ありとあらゆることを他人と比較し、無意識のうちに勝ち負けの気分を感じたりします。
しかし誰かと自分を比べ、勝ち負けの価値評価を常に下し続けることは、とても不幸なことです。
■己の内側を光で照らしなさい
勝っても負けても、その人の本質的な値打ちはそれで上がったり下がったりするものではありません。ついしてしまう優劣の比較のほとんどは、世間的な価値観のなかでなされる表面的なものでしかありません。
そんな優劣、勝ち負けの評価は、世間の風向きや環境が変われば、あっという間に変わってしまう頼りないものです。目を外に向けるのではなく、内側にある「自分の心」に向けましょう。
「回向返照(えこうへんしょう)」という禅語があります。「外ばかり見ないで己の内側を光で照らしなさい」という意味です。心のなかを明るく照らして自分とじっくり向き合えば、人からの評価など気にせず、何を本当にすべきかが見えてきます。
■「勝ち負け」より「期待感」を
「この仕事に力を尽くしたか?」
「あの人に誠意をもって付き合ったか?」
自分のなかで精一杯やった、気持ちを込めて持てる力を出し切った、そうした「納得感」があるなら、それでもう十分です。
世間的には負けたという評価をされても、自分のなかに全力投球したんだという納得感があれば、本当の負けにはなりません。
勝ち負けではなく、納得感を持つ。常に納得感があれば、勝ち負けの価値観が持つ不自由さからは解放されます。そして、どんな結果であっても穏やかな心でそれを受け入れ、のびやかな気持ちで人生を謳歌(おうか)できることでしょう。
■わからないことは放っておく
ストレスの多いこの社会で心を少しでも軽くして生きていくには、「放っておく」ということが必要だと私は考えています。
「放っておく」と聞くと、あまりいいイメージが湧かないかもしれません。よからぬことを前に知らん顔をする、やるべきことを途中で放り投げる、仕事で対応を迫られているのにさぼる……怠慢とか無責任とか冷淡とか、そんなことを連想してしまう人もいると思います。
たしかにこのような「放っておく」は好ましいものではありません。
しかし、世の中には「放っておく」ことによって、よい結果を招くことはたくさんあります。たとえば「わからない」こともその1つです。
■「正解」があるとは限らない…
私たちの生活には、「わからない」ことが無数にあります。
明日どうなるか、1年後どうなるか、未来のことは誰にもわかりません。簡単には解決しない困難な問題に出くわすこともあります。そんなときは「これだ」という正解はありません。
私たちの社会は複雑です。ネット社会の進展がそれに拍車をかけています。人間関係も仕事も生活もどんどん複雑になっています。複雑になった分、わからないことは増える一方です。
わからないことを一生懸命わかろうとしても、あまり意味はありません。いくら考えてもわからないものは世の中にいくらでもあります。
■「放っておく力」を持つ
どうやってもわからないものにいちいち足を止めていては、大事な時間がもったいないだけでなく、不安や迷いを大きくする結果となり、精神的なストレスにもなります。
「放っておく力」は、そんなときに使うといいと思います。
自分の力ではどうにもならないわけですから、それを超えた運命のようなものに任せる気持ちを持つのです。自分の力を超えた何か大きな流れに委ねてしまう感覚です。
「放っておく」と、気がつくと状況が好転していたり、いつのまにか解決していたりということが起こったりもします。そんな「放っておく」感覚は、これからの時代、ますます強く求められてくるものだと思います。
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「禅の庭」庭園デザイナー、僧侶
1953年生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学環境デザイン学科教授。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本文化に根ざした「禅の庭」を創作する庭園デザイナーとして国内外で活躍。著書に、『心配事の9割は起こらない』(三笠書房)、『傷つきやすい人のための 図太くなれる禅思考』(文響社)、『禅、シンプル生活のすすめ』(知的生きかた文庫)など。
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(「禅の庭」庭園デザイナー、僧侶 枡野 俊明)
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