「楽天にあってドコモにはない」大経済圏を築くために必須の"ある努力"
プレジデントオンライン / 2022年4月28日 8時15分
■楽天だけがなぜ経済圏をつくれたのか
こんにちは、桶谷功です。
最近、「○○経済圏」という言葉をよく聞くようになりました。なかでも代表的なのが「楽天経済圏」です。これは消費者が生活にかかわるサービスをすべて楽天グループに統一することで、楽天ポイントを効率的にためることができるというもの。楽天からすれば、消費者を迎え入れる優れたしくみということになります。
ドコモやソフトバンク、auなどほかの通信系も、楽天と同じような経済圏をつくろうとしていますが、楽天にはとても及びません。果たして楽天とほかの会社では、いったい何が違うのでしょうか。
楽天では、「楽天市場」に始まり、「楽天カード」「楽天証券」「楽天モバイル」「楽天トラベル」など、生活のどの場面でも楽天のサービスがあるという状態を実現していますから、これも理由のひとつでしょう。しかしこれだけだったら、ほかの通信系もやっています。ドコモも「dトラベル」「dショッピング」「dブック」など、ほとんどの生活領域をカバーしている。
楽天とほかの通信系との違いは、楽天は先にECサービスがあり、そのあとから通信系に入ったのに対し、ほかの通信系は順番が逆で、先に通信事業があり、あとからECサービスを始めたというところでしょう。楽天は、2006年の時点で、早くも「楽天エコシステム(経済圏)」構想を発表しています。
■ショッピング取扱高業界シェア30%を目指す楽天カード
楽天はご存じのようにインターネット・ショッピングモール「楽天市場」からスタートしました。ネットで買い物をするにはクレジットカードが便利です。「楽天市場」では、支払いを「楽天カード」でおこなえばポイントが効果的にたまるようにしました。楽天経済圏の拡大を図るため、楽天IDを共通にするなど計画的に事業を構想していったことが伺われます。
さらに、楽天のグループのサービスを使えば使うほど、「楽天市場」でのポイント還元率が(最大14倍まで※2022年4月1日時点)高くなるというSPU(スーパーポイントアッププログラム)があります。自分の生活で使っていたサービスを楽天サービスに切り換えると、ポイント還元率が上がります。ユーザーは効率的にポイントをためることができ、また、ためたポイントは、「楽天市場」だけでなく他のサービスで利用することができます。
その結果、「楽天カード」は大成功し、発行枚数2500万枚、年間ショッピング取扱高14兆5000億円、業界シェアは22.5%となっています(2021年12月時点)。これをさらに30%に上げるという目標を立てています。
■dポイントより楽天ポイントをためている人のほうが多い
ポイントサービスでも楽天の独走です。通信4社のユーザーが最も多く使うポイントサービスを調べたアンケート調査では、楽天ポイントが42%と1位。2位がTポイントの15%、3位がdポイントの10%となっています(MMD研究所「2021年 通信会社と利用ポイントに関する調査」)。通信4社のユーザーはドコモが一番多いのに、dポイントをためている人よりも、楽天ポイントをためている人のほうが多いということです。
「楽天証券」ではこのポイントで投資ができます。つまり、ためたポイントで投資信託や米株が買えてしまう。投資を始めるときの一番の問題は、損をしたくないという気持ちでしょう。それがハードルを上げている。でもポイントならば、損をしてもそれほど痛くない。おかげで楽天証券は並みいるライバルをさしおいて、2018年から4年連続、ネット証券で新規口座開設数ナンバーワンでした。
そうやって考えると、「楽天モバイル」で通信事業に参入したこともうなずけます。「楽天モバイル」ができた当時は、なぜ通信などという激戦区に進出するのかと不思議に思いましたが、楽天全体でみれば、何が何でも参入しなければならない理由がありました。つまり、いま楽天はカード決済では完全な経済圏をつくれているけれど、「○○ペイ」などのリアル店舗でのキャッシュレス決済はスマホがないとできません。近い将来、いろいろな決済手段がスマホによるキャッシュレス決済に移っていったとき、この分野が抜け落ちていると致命傷だからです。
楽天は、さまざまなサービスで経済圏を構成しているからこそ、より経済圏を強化し、新しい付加価値を生むために、インフラとしてのモバイル事業へ、多少無理をしてでも参入する必要があったのです。
■ドコモも生活サービス事業に進出している
それに対してほかの通信キャリアはどうでしょうか。最大手のドコモで説明しましょう。ドコモも楽天と同じように経済圏の構築を目指して、「スマートライフ事業」と銘打った生活サービス事業に進出しています。「dマーケット」と総称して、いろいろなデジタルサービスを網羅しようとしたのです。
たとえば、ドコモでスマホを買うと、「dミュージック」「dトラベル」「dデリバリー」「dブック」「dカーシェア」など、頭に「d」とついたアプリがあらかじめインストールされています。生活にかかわるあらゆるサービスがそろっている、網羅されているのは確かなのですが、一つひとつのサービスの魅力については精彩さを欠くと言わざるをえません。
みんなそれぞれ「ショッピングはアマゾンか楽天」「デリバリーはウーバーイーツ」など、使い慣れたサービスがあるでしょう。だからスマホに全部インストールされていたところで既存のサービスを超えるユニークなメリットがあるものでなければ使いません。消費者から見ると、一通りそろってはいるものの、一つひとつのサービスにインパクトと本気度が感じられないのです。
■全体から見たら小さいビジネスにすぎない
ドコモのスマートライフ事業がなぜ精彩さを欠いているかというと、いちばん大きな理由は、通信事業で7200億円もの営業利益があるからでしょう。それに対してスマートライフ事業は594億円で、ドコモグループ全体の8%にすぎない。しかも8%の中身もコマ切れになっている。スマートライフ事業に10個の領域があるとしたら、ひとつ平均59億円です。ドコモから見たら本当に小さいビジネスです。
しかもスマートライフ事業はドタバタと忙しいし、失敗するかもしれないし、すごいスピードで競合が攻めてくるのに、リソースも限られている。
ドコモに限らず、こうしたビジネス構造がある場合、経営会議などで「こういう事業で、こういう投資をしようと思っています」と言っても、「本当に成功するの? それでいくら儲かるの?」「それっぽっちなの? やめたら?」となりがちです。
■ドコモが成功するために必要なこと
しかし楽天はEC、つまり小売からスタートしているので、発想が全然違います。巨大な会社になった今でも、一つひとつの小さな売り上げを積み上げることの大切さをわかっている。
これからドコモのスマートライフ事業がどこまで成長するかは、この小商いにどれだけ本腰を入れられるかにかかっていると思います。それぞれのサービスを、利用者にとってどれだけ魅力的なものにしていけるか。そのためにはおのおののスマートライフ事業を独立した子会社にすることが考えられます。いまスマートライフ事業は、一事業として通信事業と同列で扱われています。これを別会社・子会社化していけば、通信事業とは別の事業を担う企業として、大きく変われる可能性はあるかもしれない。かつてNTTからドコモが派生したように、今後はドコモから子会社が生まれてもいいのではないでしょうか。
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インサイト 代表取締役
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。他に『インサイト実践トレーニング』『戦略インサイト』(ともにダイヤモンド社)など。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っており、消費財・サービス・テック系企業などで実績多数。インサイト オフィシャルページ
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(インサイト 代表取締役 桶谷 功 構成=長山清子)
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