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朝から脳を疲れさせるだけ…脳科学者が断言する「通勤電車内のスマホいじり」の悪影響

プレジデントオンライン / 2022年5月8日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Akarawut Lohacharoenvanich

仕事でいい結果を出すためにはどうすればいいのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「脳をしっかりと休めることが重要だ。一流の人が『何もしない』時間を大切にしているのには理由がある」という――。

※本稿は、茂木健一郎『意思決定が9割よくなる 無意識の鍛え方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■頭の中の雑念を取り払う「マインドフルネス」

マインドフルネスとは、「今、ここ」で起きていることに対して注意を向け、自分が抱いている感情、思考を判断せずに、冷静に観察している心の状態のことだ。その状態を最も実践しやすい手段として、以下のような手順で行われる瞑想(めいそう)が挙げられる。

①床や椅子に姿勢を正して座る。
②2〜3分、自分の呼吸に集中する。

たったこれだけ? と思うかもしれない。でも、試しにやってみると、意外と難しい。ちょっと気を抜くと「お昼何食べようかな」「明日の締め切り間に合うかな」などと意識がそれてしまうので、そのたびに、「今、ここ」に引き戻すことが必要になる。

■通勤中や入浴中に呼吸のリズムを意識する

瞑想中、具体的には何を考えているか。それはもう、ひたすら呼吸に集中することだ。

繰り返される呼吸を、ただ観察する。息を吸ったり吐いたりするたびに上下するお腹に注意を向ける。呼吸のリズムを意識してみる。雑念が湧いてきたら打ち消して、再び呼吸に集中する。これを2〜3分続ける。

これが苦もなくできるようになると、日常のさまざまな場面でマインドフルネスが可能になる。

例えば、駅までの道のりを歩くときでも、考え事をしたり目的地のことを気にしたりせずに、四季の移ろいや鳥のさえずり、花や風の匂いを感じ、「今、ここ」で享受できる感覚に集中することができる。

入浴するときも、「今日はこんなことがあった」などと思いを巡らすのではなく、肌先から体の深部が徐々に温まってくる身体的感覚に身を委ねることができる。

■何もしない時に活性化する神経回路の働き

人がマインドフルネス状態になっているとき、脳の中ではどのようなことが起きているのだろうか。

脳内には、「デフォルト・モード・ネットワーク」という、少し変わった神経回路がある。前頭前野や偏桃体といった、脳の各部位をつないで束ねる中心的な役割を果たしている。通常、人の脳は、何か考え事をしているときに活発に活動するものだ。

ところが、このデフォルト・モード・ネットワークは、そうしたときには活動を潜め、無目的で何も考えていないときだけ活発化する特質がある。言わば脳がアイドリング状態のときに、活発に活動している神経回路なのだ。

このとき、脳内で何が行われているかと言うと、情報の整理をしたり、自分自身を振り返ったりしている。

それはまるで、閉店後のレストランのようだ。営業中は忙しくて、料理人もウエイトレスも目の前のタスクに追われている。でも、お客さんが帰って店が閉まると、ホッと一息。スタッフ全員がフロアに集まって、「今日も忙しかったね」「こんなお客さんがいて……」などとその日にあったことを語り合い、情報や感情をシェアする。

僕たちがボーッとしているときに脳内でひっそりと開かれているこの反省会こそが、デフォルト・モード・ネットワークの役割であると言える。

■頭がクリアになれば、創造性が高まる

では、この反省会が僕たちにもたらしてくれるものは何か。

まずは情報が整理されることで、頭がスッキリとクリアになる。さらに、それぞれの情報や記憶が結びつきやすくなり、創造性が高まるという大きなメリットがある。

グーグルが社員研修にいち早くマインドフルネスを取り入れたのも、AIにはまだ手が届かない、無意識を耕すことで生まれる人間のクリエイティビティに着目してのこともあったであろう。

もともと、グーグルの企業としてのミッションは、「世界のすべてを検索可能にする」ことだった。検索エンジンに単語を入力すれば関連する無数の情報が出てくるし、ストリートビューにアクセスすれば、どこにいても世界中の景色を眺めることができる。

それを可能にしたグーグルの一番の課題が、「自分の脳や心の検索」。外部の情報は無限に収集できても、肝心の自分の中にある情報を深掘りできていない現状に注目し、その探求に乗り出した第一歩がマインドフルネスだったのだ。

■「ソファでボーッとしているだけ」棋士・羽生善治の休日の過ごし方

ちなみに、僕が今までお会いした人の中で最も「マインドフルネスな人だな」と思ったのは、棋士の羽生善治さんである。

ある番組で対談したときに、「羽生さんは、休みの日は何をされているんですか?」と質問したことがある。すると羽生さんは、「ソファに座ってのんびりしている」とのことだった。「のんびりって、本を読んだり音楽を聴いたりしているんですか?」と尋ねると、「いや、ただソファに座って何時間もボーッとしているだけです」と、驚きの答えが返ってきた。

ソファでリラックスしている男性
写真=iStock.com/Kobus Louw
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kobus Louw

これは有名な話だが、羽生さんは将棋を指すとき、1000手先まで読んでいるという。一つの手を考えるのに約1秒かかるので、次の一手を指すのに1時間かかることもあるのだそうだ。名人戦ともなると、朝の9時から夜の9時まで将棋を指し、それが丸2日間続くことになる。常人には到底不可能なほどの、すさまじい集中力と情報処理能力が求められることは、想像に難くない。

そう考えると、羽生さんがオフの日に何時間も「ボーッとしている」というのも、納得がいく回答かもしれない。僕を含め多くの人にとって、何もせずに何時間もボーッとすることは逆に難しい。

でも、羽生さんほど普段から脳をフル回転させている人は、休日は脳を空っぽにして、デフォルト・モード・ネットワークが働くマインドフルネス状態にしていないと、リフレッシュできないのだろう。

逆に言えば、普段から独創的でいるためには、マインドフルネスをモノにしていないといけないということだ。

■ネット上の情報はほとんどが自分の糧になっていない

デフォルト・モード・ネットワークが働くのは、もちろん、パソコンやスマートフォンに触れていないときだ。

デジタルデトックスはすでに各所で言われていることではあるが、マインドフルネスだけでなく、本質的な意味で情報を自分の糧にするためにも、習慣づけることを強くおすすめする。

現代はまさに情報の海だ。30年前までは、美味しいお店を知っていたり最新の話題を披露したりする知識の豊富さが大きな武器だったが、今はそれが標準装備になってしまった。

ところが、その分僕たちが博識になったかと言うと、答えはおそらくノーだろう。

詳しくは『スマホ脳』にも明記されているが、人は何かを記憶するとき、脳の細胞間のつながりに変化が起きる。

短期間の記憶であれば、既存の細胞間のつながりを強化するだけでよい。しかし数カ月、数年、あるいは一生残るような長期記憶をしようとすると、細胞間に新しいつながりをつくり、新たなたんぱく質を形成する必要がある。

■仕入れた情報を消化するには時間がかかる

さらにそのつながりを強化するために、そこを通る信号を何度も発信しなければならない。新しい情報を自分の知識として蓄えるプロセスは、脳が最もエネルギーを必要とする作業なのだ。

加えて、脳内でその情報を分析し、消化するためには一定の時間がかかる。デフォルト・モード・ネットワークもそのための回路の一つだが、情報を目で見て理解することと、それを自分のものとして消化することは全く別の作業なのだ。

インターネットでいくら豊富な情報を仕入れても、その大半は、脳の外にそのまま垂れ流しているようなものなのである。

集中力の低下も深刻だ。デジタル時代になって、本を集中して読めなくなったり、じっと座って映画を1本観られなくなったという人は多い(ストーリーを短縮した「ファスト映画」も問題になった)。

リンク先を瞬時に飛び回り、「この記事は○分で読めます」という注意書きをチェックしながらスピーディーに情報を収集していく思考の速さは、一つのことにじっくり向き合うプロセスと対極にある。

■集中力を「貴重品」にしたスマートフォン

『スマホ脳』で興味深い実験が紹介されている。大学生500人を対象に、記憶力と集中力の調査をした。500人のうち一定の学生はスマートフォンを教室の外に置き、他の学生はサイレントモードにしてポケットにしまわせた。すると、スマートフォンを教室の外に置いた学生の方が、よりよい成績を残したという。

茂木健一郎『意思決定が9割よくなる 無意識の鍛え方』(KADOKAWA)
茂木健一郎『意思決定が9割よくなる 無意識の鍛え方』(KADOKAWA)

恐ろしいことに、スマートフォンの画面を見ていようがいまいが、そこにあるというだけで集中力が阻害されるということだ。今の時代、集中力はもはや「貴重品」なのだ。

インターネットに誘引される感情によって、誤った判断をしたり、自分の本質を見失うリスクもある。SNSやネットニュースで流れる情報のほとんどが些末で自分の人生とは関係のないことなのに、それによって精神状態を乱された経験は、誰にでも少なからずあるだろう。

本来、インターネットは広い領域のツールであるはずなのに、SNSのタイムラインやアルゴリズムに沿った「おすすめ」ばかり見ているせいで、思考や価値観が逆に狭まるケースもある。

■スマートフォンに触れない時間は「極上の贅沢」

そういうわけで、デジタルデトックスは、定期的に必ず実践した方がよい。

なにも突然、「今日1日はインターネット禁止!」などとハードルを設ける必要はない。1日30分でもいい。あるいは先に紹介したマインドフルネス瞑想をする時間だけでもいいし、電車の中でスマートフォンをチェックする習慣がある人は、それをやめるだけでも何か変化があるはずだ。

僕の場合は、毎日1時間のランニングがデジタルデトックスになっている。「そのくらいでいいのか」と思うかもしれないが、今の時代に、パソコンにもスマートフォンにも手をつけずに1時間過ごすのは、なかなか贅沢な時間であるような気がする。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。クオリア(感覚の持つ質感)を研究テーマとする。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。近著に『脳のコンディションの整え方』(ぱる出版)など。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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