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プーチンが描く恐怖の構想…佐藤優「ウクライナを小国家に分割し、少しずつ併合する」

プレジデントオンライン / 2022年4月27日 13時15分

2022年4月20日、ロシア・クレムリンのエカテリーナ・ホールで会議を開くウラジーミル・プーチン大統領。 - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

ロシア軍幹部は新しい軍事目標として、ウクライナ東部に加え、南部も制圧すると表明した。4月12日の記事でこの事態を予測していた元外交官で作家の佐藤優さんは、ロシアの最終目標を「ウクライナに親ロシア的な新政権を立て、非軍事化させて、時間をかけながら小国家に分割し、少しずつ併合していく狙い」だという。

■やはりプーチンの狙いは黒海沿岸だった

4月22日、ロシア軍幹部は新しい軍事目標を表明しました。ウクライナ侵攻作戦の目標は東部(ドネツク州、ルガンスク州)に加え、南部を制圧するとし、クリミア半島やロシア系住民が独立を主張するモルドバ領とも地続きの支配域を確保すると明言しました。

私は4月12日公開のプレジデントオンラインの記事で、下記のように予測しましたが、やはりプーチン大統領はウクライナの国家体制を解体するという戦略目標を諦めていなかったのです。

「ロシアはウクライナの国土を分割し、朝鮮半島のような状態にすることを狙っています。そのために重要なのが、黒海沿岸です。激戦になっている南東部のマリウポリを陥落させ、クリミア半島の西のオデーサ(オデッサ)も手に入れれば、その西隣はロシアが実効支配している“沿ドニエストル共和国”。国際的には承認されていない、モルドバ国内の一地域です。

すると黒海沿岸は、自国の領土からドンバス地域、マリウポリ、クリミア半島、オデーサを経て、ロシアが地続きで支配できるようになります。首都のキーウを占領するよりも、ウクライナを海上から封鎖してしまうほうが、戦略的な意義は大きいのです。対外貿易がさらに閉ざされれば、ウクライナは完全に日干しになります。」(4月12日・プレジデントオンライン)

■核兵器、生物化学兵器を使うことはまずない

オデーサの人口は100万人ほどで、首都キーウ(キエフ)、東部のハルキウ(ハリコフ)に続く第3の都市です。オデーサは国内有数の工業都市ですが、ウクライナ最大の港があり、穀物大手のターミナルが集積し、小麦やトウモロコシなどを輸出する港湾都市でもあります。

このオデーサとともに黒海沿岸を制圧すれば、ウクライナに大きな経済的打撃を与えることになります。ひとことで言うとウクライナは海を失い、内陸国になります。これまで主戦場とはなっていなかったオデーサですが、東部の戦闘とともに今後ロシア軍からの攻撃が強まるでしょう。

地上戦でのロシアの苦戦が伝えられていますが、ロシアはすでにウクライナの5分の1を占領していますし、戦闘で追い込まれているわけでもなく、生物化学兵器や核兵器を使うことはまずないでしょう。その意味から言うとプーチン大統領の交渉における最大の武器は、核兵器や生物化学兵器を本当に使うかもしれないという空気を醸し出す点にあります。

■プーチンが絶対に譲れないこと

新たな軍事目標が表明されたところで、プーチン大統領は停戦の条件をどのように考えているのでしょうか。

そもそもロシアは、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大さえ阻止できるなら、方法は何でもよかったはずです。選択肢の中では、ミンスク合意が一番穏やかな方法でした。

ミンスク合意とは、2014年に始まったウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク州とルハンスク州)で勃発したウクライナ軍と親ロシア派武装勢力の紛争の解決のため、15年2月にメルケル独首相とオランド仏大統領が下準備をして、ロシアのプーチン大統領とウクライナのポロシェンコ大統領が署名したものです。

ドネツク州とルハンスク州のうち親ロシア派武装勢力が実効支配している地域だけに限定して、特別の地位を与えるようにウクライナ憲法を改正する。この憲法改正が行われれば「特別の地位」を付与された地域が外交権に関与できるようになる。この2つの地域が合意しなければ条約を結べないようにウクライナの憲法を改正させて、NATOへの加盟を不可能にすることがロシアの狙いでした。

しかし、ウクライナ国内では合意そのものがロシアに有利な内容だとの不満もあり、ゼレンスキー大統領はミンスク合意を履行せず、プーチン大統領は合意は失効したとして、ウクライナに侵攻したのです。

米シンクタンクISW発表を基に編集部作成。4月25日時点でロシアが占領・支配・侵攻している地域(赤色)と、モルドバ国内にあって、親ロシア派勢力が実効支配する沿ドニエストル共和国(オレンジ色)。ウクライナ南部も制圧し、この2つの支配域を地続きにする狙いだ。
米シンクタンクISW発表を基に編集部作成。4月25日時点でロシアが占領・支配・侵攻している地域(赤色)と、モルドバ国内にあって、親ロシア派勢力が実効支配する沿ドニエストル共和国(オレンジ色)。ウクライナ南部も制圧し、この2つの支配域を地続きにする狙いだ。

■領土問題が解決しなくても停戦はできる

戦争の前、親ロシア派武装勢力はルハンスク州の2分の1、ドネツク州の3分の1を実効支配していました。それが3月末の時点で、ルハンスク州の97%、ドネツク州の54%を手中にしています。ドネツク州の支配地域が広がらないのは、ウクライナ側の抵抗が激しいからです。

今後はドネツクに集中してウクライナ軍を駆逐し、両州の実効支配を目指すことが、ロシアにとって最低限の目標になります。もっとも、ゼレンスキー大統領は、4月16日に「領土と国民では妥協しない」と述べています。ウクライナはロシアが実効支配しているドネツク州、ルハンスク州の一部だけでなく、2014年にロシアが併合したクリミアの奪還を目標にしています。ゼレンスキー大統領がこの目標を掲げ続ける限り、ロシアとの停戦は不可能です。

また、ドネツク州とルハンスク州を「人民共和国」としてそれぞれ独立させることを認めることは、ウクライナ領土の変更になります。

ウクライナ憲法の第73条は、「ウクライナ領土の変更問題は国民投票のみで議決できる」と定めています。停戦条件の中に領土に関する事項が含まれれば、大統領には決定する権限がなく、議会による承認を経て国民投票に委ねられることになります。すると議会の承認を得られたとしても、国民が拒めば、戦争は継続されることになります。

もっとも停戦協定は領土・国境を定める平和条約とは異なり、領土に関する互いの主張はそのままにして法的には戦争状態を継続させながら、停戦を実現することもできるので、一日も早くロシアとウクライナが停戦に向けて動き出すべきです。

■ウクライナを小国家に分割して、少しずつ併合していく

プーチン大統領は5年後、10年後の世界をどう変えていこうと考えているのでしょうか。

プーチン大統領に見えている世界地図の中のロシアは、ソ連の崩壊という歴史的悲劇によって不当に縮小させられた版図です。プーチン大統領にとってのロシアは、「ロシア帝国(1721~1917年)の地図」です。

ロシア帝国は現在のロシアをはじめ、フィンランド、ベラルーシ、ウクライナ、ジョージア、モルドバ、ポーランドの一部や、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの中央アジア、リトアニア、ラトビア、エストニアのバルト3国、外満州などユーラシア大陸の北部を広く支配していた大帝国です。

ウクライナにはまず親ロシア的な新政権を立て、非軍事化させて欧州とのバッファー(緩衝)とし、時間をかけながら小国家に分割させて、少しずつ併合していく狙いでしょう。

しかしロシア軍の振る舞いは相当にひどくむごいので、現時点で兄弟民族のウクライナ人全体を敵に回しました。高まった反ロシア感情を鎮めるにはかなり時間がかかります。ロシアもそのことをよくわかっているので、ウクライナ人から内発的にロシアとの協力を望む政治エリートが出現するのを時間をかけて待つと思います。

■ウクライナの次に狙われる国の名前

プーチン大統領がその先に見据えているのは、南の国境です。欧米に接近を続けるジョージアには、ロシア軍の介入によって2008年に独立を宣言した「南オセチア共和国」があります。国連加盟国の中ではロシア、ニカラグア、ベネズエラ、ナウル、シリアの5カ国だけしか承認していない国家です。

その南オセチア共和国のビビロフ大統領は3月末、「歴史故郷であるロシアと再統一する国民投票を近く行う」と表明しました。実施されれば圧倒的多数の賛成を得ることは確実で、ジョージアは反発して軍事介入する可能性があります。ジョージアが武力で阻止しようとしても、力でそれをはね返し、「南オセチア共和国」を併合するつもりでしょう。

もうひとつ注目されるのが、ロシアの飛び地の領土であるカリーニングラードです。ここはリトアニアとポーランドに囲まれていますが、NATO加盟国であるリトアニアが国境を封鎖しようとしています。これは協定違反であり、ロシアにとって見過せません。軍事力で阻止しようとすれば、今度こそNATOがロシアとの直接戦の危機に直面します。

プーチン大統領は長期戦略に基づいて、戦火をさらに拡大させるかもしれません。

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佐藤 優(さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優 構成=石井謙一郎)

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