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「米国のバブル相場」の終わりの始まりか…市場関係者の"ネトフリ離れ"が示す重すぎる意味

プレジデントオンライン / 2022年5月2日 9時15分

2014年12月7日、カリフォルニア州ロスガトスにあるNetflix社の本社の外にあるロゴ看板。 - 写真=Sipa USA/時事通信フォト

■かつての“インテルショック”を想起させる

4月19日、米国の動画配信大手ネットフリックスの株価が35%下落した。それは、かつてITバブル崩壊のきっかけとなった“インテルショック”を想起させる部分がある。

過去、世界の株式市場などでバブルがはじけた時、人々の過度な成長への期待を支えた象徴的な企業の株は大きく下落した。年初来で見ると、昨年11月末まで米国株式市場の上昇を牽引してきたナスダック上場銘柄の下げが大きい。2月上旬のメタ(旧フェイスブック)や今回のネットフリックスの株価下落は、低金利とカネ余りに支えられた強気相場の終焉が近づいていることの兆候に映る部分がある。

最も重要なことは、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が物価上昇への危機感を一段と強めていることだ。4月に入り、FRB関係者からは実現の可否は別にして0.75ポイントの利上げの可能性が指摘された。FRBが追加利上げと流動性吸収をかなりのスピードで進める可能性は高まっている。その結果として、米国の国債市場では金利上昇圧力が一段と高まった。先行きへの過度な楽観に支えられて株価が上昇した“ミーム銘柄”やナスダック上場銘柄への売り圧力は一段と強まるだろう。

■先行きを楽観する投資家が急増した

ネットフリックス株の急落は、FRBによる“超低金利政策”と“潤沢な流動性供給”が支えた米国株式市場の強気相場が終焉を迎えつつあることを示唆する。2017年6月末、ネットフリックスの株価は149ドル台だった。その後、株価は緩やかに上昇した。コロナショックの発生によって下落したのち、ネットフリックスの株価上昇のモメンタム(勢い)は強まった。

それを支えたのが、IT先端銘柄に対する投資家の過度な成長期待の高まりだ。コロナショックの発生以降、FRBは事実上のゼロ金利政策を導入した。それに加えて、昨年11月までFRBは月額1200億ドル(約15兆円)の資金を用いて国債や住宅ローンを裏付けとした債券(MBS)を流通市場から買い入れた。

その結果、低金利と流動性が潤沢な環境が続くと、先行きを楽観する投資家が急増した。行動ファイナンスの理論にある“コントロール・イリュージョン”の心理に浸り、自分が阻害要因をコントロールし、多くの利得を手に入れることができると過信する人が増えたといえる。その象徴の一つが、“ロビンフッダー”と呼ばれる米国の個人投資家だ。彼らはSNS上で投資に関する情報を交換しあい、知り合いが買った銘柄を購入し始めた。

■マネーゲームの様相から一転したFRB議長の発言

ゲームストップなどのミーム銘柄に加えて、コロナ禍における巣篭もり生活に欠かせないネットフリックスやメタ、アマゾンなどのITプラットフォーマーへの買いが急増した。多くの個人投資家はスマホのゲームを楽しむ感覚で株を買い、マネーゲームと呼ぶべき状況が鮮明化した。

一時は個人が機関投資家よりも大きな影響を米国株式市場に与え、個人投資家の投資行動に着目して利得を手に入れようとする主要投資家も登場するなど、上がるから買う、買うから上がるという強気な相場展開に拍車がかかった。その結果、昨年11月中旬にネットフリックスの株価(終値)は691ドルの過去最高値を更新した。

潮目の変化となったのが、同月下旬にFRBのパウエル議長が“物価上昇は一時的”との認識の誤りを認めたことだ。それを境に、ネットフリックス株の売りが増えた。その上で決算が失望を呼んだ。

■ITバブル崩壊につながった“インテルショック”

ネットフリックス株の下落の意味は少し立ち止まって考えるべきだ。過去のバブルを振り返ると、株価上昇は間違いないという強い期待を一手に集めた企業の株が大きく下落し、それがバブル崩壊のきっかけになったことが多い。

その一つが“インテルショック”だ。1990年代半ばから米国の株式市場では、“ITバブル(~ドットコムと名のつく企業であれば株価上昇が間違いないという過度な期待が高まり、ネットや半導体などIT企業の株が高騰した経済環境)”が発生した。2000年9月にバブルは崩壊したと考えられる。

そのきっかけとなったのが半導体大手のインテルの業績下方修正だった。当時、主要投資家はインターネットの利用増加によって半導体需要が未来永劫増えると先行きを楽観した。しかし、インテルの業績悪化という想定外の展開に慌て、投資家は我先に株を売った。売りが売りを呼び、下がるから売る、売るから下がるという弱気心理が連鎖した。2000年3月に5048ポイントの当時の高値をつけたナスダック総合指数は、2002年10月に1114ポイントまで下落した。

■巣篭もり生活の充実に欠かせない企業だったが…

今回もそうなるとは限らないが、ネットフリックスの株価急落はインテルショックを彷彿とさせる部分がある。コロナ禍以降の世界経済の展開を振り返ると、同社はコロナ禍における新しい生活様式を支えた象徴的なプラットフォーマー企業の一つといえる。

コロナ禍によって動線が寸断された結果、自宅で過ごさなければならない人は急増した。ネットフリックスは巣篭もり生活の充実に欠かせない要素だった。低金利とカネ余り環境の継続期待に、日常生活の満足感への貢献という要素が加わり、米国の個人投資家にとってネットフリックスは投資しやすい銘柄に映っただろう。

iPhone7に表示されたNetflixや他のビデオストリーミングアプリ
写真=iStock.com/Wachiwit
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiwit

このように考えると、FRBが物価上昇への危機感を一段と強め金融政策の正常化を急ぐ姿勢が鮮明化していることは、株価上昇を支えたカネ余り環境の継続期待をくじく。決算後もネットフリックス株は下落基調で推移している。金利上昇への警戒感によって同社の実力をより冷静に見極めようとする投資家は増えている。

■米国の株価調整圧力は今後も高まる

ネットフリックスの株価急落は今後、米国の株価の下落圧力の高まりを示唆する一つの変化と言える。年初来の米国の株価の推移を確認すると、ある程度株が下げると押し目の買いが入る展開が続いてきた。短期目線で考えた時に、株価の反発余地が大きいと考える投資家はまだ多い。その典型的な銘柄の一つが、ゲームストップ株だ。

同社の利益は赤字基調だ。それにもかかわらず、3月末には株式の分割計画が発表されたことが好感されて株価が大きく上昇する場面があった。4月26日の終値は127ドル台、2019年の終値(6ドル台)を大きく上回る。FRBは追加利上げを急ぎ、それと同時に流動性の吸収に取り組む考えを強めているが、先行きを楽観する投資家は依然として多い。短期的に米国の株価は荒い値動きになるだろう。下げたところで買う投資家がいると考えられるため、下落トレンドが鮮明となる展開は避けられる可能性がある。

■期待先行型のナスダック市場に大きな打撃

しかし、いつまでも株価が上昇することはない。やや長めの目線で考えると、金融政策の正常化の加速によって米金利は上昇するだろう。それによって、企業が永続的に生み出すと考えられるフリー・キャッシュ・フローの現在価値はより大きく割り引かれ、株価の下方リスクは拡大する。

特に、成長への期待が先行して株価が大きく上昇したナスダック市場の下落圧力は相対的に大きくなる可能性が高い。足許の世界経済は、米国経済の緩やかな景気回復に依存している。言い換えれば、米国に代わって世界経済を支えられる国が見当たらない。株価の下落によって米国の消費者や企業経営者のマインドは悪化するだろう。

それによって、世界経済全体で株価の不安定感は高まり、リスク回避的な心理が増える可能性がある。その場合、米国や中国の自動車や先端分野での工作機械需要を取り込んで景気の持ち直しを実現してきたわが国の株式市場、および実体経済への下押し圧力は顕著に高まる恐れがある。4月下旬、ナスダック総合指数の下落が鮮明となる場面が増えた。徐々に世界経済の先行き懸念を強める投資家は増えつつあるようだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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