「舌にピアス」「ジャニーズ好き」の女子を難関の国公立大に6カ月で合格させた31歳・国語科教員のすごい技
プレジデントオンライン / 2022年5月7日 11時15分
※本稿は、『プレジデントFamily2022年春号』の一部を再編集したものです。
■偏差値50以下でも毎年70人も国公立大学に合格する秘密
(前編から続く)
――20人の国公立大学合格者が受験したのは学校推薦型選抜の入試。この試験に注目されたのは、どんなきっかけですか?
2020年春に福岡女子商業高校に赴任する前に、神戸の私立神戸星城高校に勤務していました。そこは推薦選抜を活用して国公立大学に多くの子がチャレンジしている学校で、偏差値は50に満たないぐらいの学校にもかかわらず、毎年70人程度合格者が出ていました。その数字はまさに衝撃でした。
どんなことをすればそんなに多くの国公立大学の合格者を出せるのか。神戸星城の存在を知ったのはその前に在籍していた北海道の高校での教員時代。当時、特別に神戸星城へ研修に行かせてもらったんです。そこで指導のメインになっていたのは小論文でした。私自身、国語の教員ということもあり、小論文指導をすることもあったのですが、その研修で小論文指導のスキル、特に読解力をつけさせる指導法を学びました。
――実際に赴任した神戸星城での小論文指導は具体的にはどんな内容でしたか?
小論文指導は、希望者のみが受ける特別講座で期間としては8カ月ぐらいです。生徒たちを見ていると、その講座に参加していた子と、参加していない子には別の学校で学んだのではと思うくらい、学力の差が出ていると思ったんですね。
小論文というのは、現実に起きている日本や世界の問題に何らかの解決策を提示するものです。小論文指導を受けた子は、社会問題の知識や理解も圧倒的に深いと思いましたし、社会問題についても主体的に意見を持っている。会話をしていても、すごく感じましたね。
■小論文を書くスキルをどのように授けたのか
――福岡女子商業高校でも同じやり方をしたんですか?
自分なりにアレンジはさせてもらっています。高3の春から始めて講座を週1回やって、特に力を入れるのは夏休み以降。3カ月間ぐらいが勝負です。夏休みは毎日指導しますね。週3日講座をやって、週2日は自由に小論文を書く時間にしています。
――例えば、どんなテーマで小論文を書くのでしょうか?
講座ではまずは生徒の身近な問題から取り上げます。たとえば「焼肉食べ放題って行ったことある? 食べ放題で食べていたら、途中で『もう肉がありません』って言われたとしたらどう思う?」という話から始めます。実際は「すいません、品切れです」という状況は聞いたことがない。そこで、生徒には「ということは、食材を余らせるくらいに仕入れることが前提になっているのかもしれないね」という話をしながら、フードロスや環境問題の話につなげてディスカッションしていきます。
――「フードロス」といったキーワードを学んでいくんですね。
このような「小論文ノート」を生徒それぞれが作っているんです。5cm以上の厚さのものを、1、2冊持っています。それで、自分が興味を持った言葉やわからない言葉を調べていくんですね。テーマは「フードロス」のほかにも、「裁判員制度」「男女格差」「ダイバーシティ」「貧困問題」など。小論文の入試で取り上げられそうな言葉の意味を調べて、問題点や解決策について自分の意見を書く。そんなノートを何カ月も必死に作っていたら、変わっていきます。
――ノートに学びを蓄積していくんですね。
受験した子たちが作った小論文ノートを、後輩のために高校に置いていってってお願いしたらみんな嫌だって言うんですよ。卒業アルバムのようにしんどかったときに見直したいとか、大学の授業でも役立ちそうだからって。
――分厚い小論文ノートをそれぞれが作るとはいえ、たった半年で小論文を書く力って身に付くのでしょうか?
半年あればある程度のところまで持っていくのは十分可能です。大人だとちょっと難しいかもしれないですけど、やっぱり高校生ってすごいんですよ。興味を持って学ぼうとしたら一気に伸びていきます。短期間だからこそできる、という面もありますね。
原稿用紙を見て、最初は「うわ~」とか生徒から嫌がられますけれど、書くことを続けていくとだんだん書くことに慣れていきます。
■合言葉は「幼稚園児のように学び、発言しよう」
――(前編で)「舌にピアス」をしていたジャニーズ好きの女子生徒も国公立大学に合格したことをお聞きしましたが、最初は勉強アレルギーのような症状も出たのでしょうか。
まずは、間違ったものを書いたらどうしようとか、間違ったらどうしようという気持ちを取り除くことが一番大事かなと思いますね。うちの高校では「幼稚園児のように学ぼう」という話をします。授業中、誰も手を挙げない、自分の考えを言わないという状況では絶対に伸びない。みんなが、幼稚園児のように思ったことを発言し、活発的なディスカッションをしながら学んでいこうという意味ですね。小論文講座だけでなく、普通の授業でも行っています。
――「幼稚園児のように学び、発言しよう」。いいですね。そうしたディスカッションを経て、生徒が書いた小論文の出来はいかがでしたか。
論文を書いたら、最初は書いたこと自体を褒めます。自分の視点が入っていたらOK。1回文章を持ってきてくれたら、「この1カ所だけ直してみたら」って言うくらいです。長期的には“考える習慣”を身に付けることが目的なので、良くないところは指摘せず、意見の中の面白いところを話すようにします。
ある程度、書くことに慣れてきたら、合格ラインまで文章の完成度を上げていかないといけないので、その後に「ここを変えよう」とか、「こういう要素が必要だよね」とか課題となる部分を指摘していきます。
小論文の受験勉強の中で、一番大事なのは自分の意見をアウトプットすることだと思います。だれかの考えを押し付けるのでは楽しさが出てこないので、続かない。アウトプットを続けていると、だんだん自分の意見を持つようになってくる。
あと、やっぱり集団の力の効果は大きいです。ある程度の人数で合格に向かって走り始めると面白くなってくる。一人でやるのはきついと思います。
――日本の大学入試が変わってきています。思考力・判断力・表現力が入試でも重視されるようになっていますが、書く力も重視されていると感じていますか?
大事になっていくと思います。知識とか、従来のペーパーテストだけで測る知識ではなく、欧米でやっているように、自分がどう思うといった考えを文章や口頭で発信することが日本の入試でも重要になってくるんではないかと思います。
こういった自分の考えを文章で表現するスキルは、大学に入ってからでも社会に出てからでも通用すると思うので、高校の段階で身に付けておくといいと思っています。
考える習慣って本当に難しいと思うんですけど、家庭でも親御さんたちに小中高のお子さんに「なんでそう思うのか?」を聞いてほしいなと思います。家で文章を書くのは難しいと思うのですが、まずは日常の会話の中で考える力が身に付けられたらいいなと思います。
(プレジデントFamily編集部)
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