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パチスロで夫の銀行口座をカラにし借金数百万…公務員男性が「雑誌の友達募集欄」で恋に落ちた"妻の別の顔"

プレジデントオンライン / 2022年5月14日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Conchi Martínez

50代の公務員の男性は31歳のとき、ある雑誌の企画「友達募集欄」に投稿したのをきっかけに2歳下の女性と交際・結婚する。2人の子供にも恵まれ平穏な日々だったが、妻のパチスロ通いが発覚。男性の給与口座をすっからかんにするだけでなく、その後も数十万円単位の借金を繰り返した。業を煮やした男性は「離婚」を切り出す――(前編/全2回)。
この連載では、「ダブルケア」の事例を紹介していく。「ダブルケア」とは、子育てと介護が同時期に発生する状態をいう。子育てはその両親、介護はその親族が行うのが一般的だが、両方の負担がたった1人に集中していることが少なくない。そのたった1人の生活は、肉体的にも精神的にも過酷だ。しかもそれは、誰にでも起こり得ることである。取材事例を通じて、ダブルケアに備える方法や、乗り越えるヒントを探っていきたい。

今回は、20年以上連れ添った妻が突然の病に倒れ、介護が始まった50代男性の事例。妻は結婚後、子どもが2歳になる頃からギャンブル依存症になり、借金してまでスロットにのめり込むため、何度も男性は妻と話し合い、やめさせる努力を重ねてきた。それでも妻は、数カ月〜4年ごとに借金を繰り返していたため、ついに男性は子どもたちも交えて話し合い、離婚を決意。そんな矢先のことだった。

■妻との出会い

関東在住の庄司照章さん(仮名・50代)は、大学を卒業し、一般企業の会社員となった後、約3年で退職し、公務員に。

31歳のときに、雑誌の友達募集欄に投稿したところ、何人かの応募があり、その中の一人が現在の妻だった。

庄司さんは彼女と待ち合わせて、映画や食事に行った。2歳年下で、高校を卒業してから専門学校に行き、医療事務をしているという彼女は、明るく社交的で話が弾んだ。やがて庄司さん33歳、妻31歳で結婚。妻は結婚後、仕事を退職。その2年後には長男、さらに2年後に長女が生まれ、穏やかに暮らしていた。

暗雲が立ち込めてきたのは、妻37歳で、長女が2歳になる年、保育園に入園した後のことだった。

■ギャンブル依存症

2008年10月ごろのことだ。

庄司さん(当時40歳)は職場の同僚から「お前の奥さん、よくパチンコ屋で見かけるけど大丈夫?」と言われる。帰宅後、気になって銀行通帳などを調べると、庄司さんの給料が振り込まれる生活費用の口座はほぼすっからかん。

結婚後、家計の管理は妻に任せていた。2007年4月に長女を保育園に入れ、5月から妻は保険の外交員として働き始めていたが、その給料は影も形もない。聞けば、全額スロットにつぎ込み、それだけでは飽き足らず、生活費を使い込み、借金までしていたのだ。その額、およそ60万円。

その借金は、全額庄司さんが返済した。妻は、「もうやめる」と言って反省したため、当時の庄司さんはそこまで深刻に考えていなかった。

ところがこの後、数カ月〜4年ほどの間隔で、妻は借金を何度も繰り返す。

庄司さんは、その度に妻と話し合いをするが、だんだん夫婦間で話し合うだけでは意味がないと思うように。そこで、庄司さんは妻の両親に相談することにした。

電話で妻の借金について伝えると、義母は心から申し訳なさそうに謝り、「返さなくていいから」と言って100万円出してくれた。

それでも妻の借金は止まらない。再び発覚すると、庄司さんは義母に連絡。すると義母は50万円を貸してくれ、「また娘がギャンブルをやったら知らせてほしい」と言った。

パチンコ玉が詰まったケースが並ぶ光景
写真=iStock.com/hiloi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hiloi

そしてまた妻は借金を作った。庄司さんが義母に連絡すると、「何で電話してきたの? また金を奪いたいの?」と豹変(ひょうへん)。

その頃、度重なる借金に、「もう妻に家計を任せておけない」と考えた庄司さんは、自分が家計を預かることにしていた。義母は、「あなたが家計を奪い、娘を監視して嫌みを言うから、娘にストレスがたまる。娘がギャンブルをやめられないのは全部あなたの責任!」と庄司さんを罵倒した。

以降、庄司さんから義母に連絡することはなくなった。だが、妻が金の無心をしたらしく、また義母は50万円貸してくれた。

妻は、社会に出たばかりの頃もスロットにのめり込み、何度か借金を繰り返していたらしい。結婚前、庄司さんは義父から、「娘はギャンブルで借金して、カード会社のブラックリストに載ったことがある。気を付けたほうがいい」と言われていた。

「その時は、ギャンブル依存症についての知識もなく、『今やめているならいい』と、深く考えませんでした」

庄司さんは、妻の借金が発覚するたびに、子どもが寝静まった後、どうしたらやめられるかを2人で考え、対策を繰り返していた。

■ギャンブラーズ・アノニマス

2011年10月にも、約100万円の借金が発覚。その時も夫婦でさんざん話し合い、反省した様子だったにもかかわらず、4カ月後にまた約70万円の借金が見つかる。

困り果てた庄司さんが県の精神保健センターに相談すると、「ギャンブラーズ・アノニマス」への参加を勧められた。ギャンブラーズ・アノニマスとは、ギャンブル問題から回復するよう、手助けし合う共同体だ。全国各地に拠点があり、参加者たちは活動の間、ギャンブルをやめることに集中する。

庄司さんは毎週日曜日、家族で車に乗って会場まで行き、妻をギャンブラーズ・アノニマスに参加させ、自分と子どもたちは併設されていた図書館で待った。

当時子どもたちは9歳と7歳。半年ほど通ったが、毎週日曜日がつぶれるのをしぶり出し、庄司さん自身も毎週の送迎を負担に感じていた。

しかも、ギャンブラーズ・アノニマスに通っていた2013年4月にも、また150万円の借金が見つかる。そのため妻は、依存症治療の病院に通院し、ギャンブラーズ・アノニマスは平日の夜間、妻一人で通うことにした。

パチンコ&スロットのネオンサイン
写真=iStock.com/Manakin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Manakin

2014年の冬、庄司さんは長男の中学受験のため、仕事が休みの日はつきっきりで勉強を教えた。当時は治療の効果か、妻の借金が治まっているように感じていたため、庄司さんは長男を私立の中高一貫校へ行かせようと思ったのだ。

その春、長男は無事、志望校に合格。その2年後、長女も同じ学校へ入学した。

庄司さんは妻に、「また借金したら、子どもたちは公立に転校させないといけなくなるからな」と言い聞かせた。

■何度目かの借金発覚

ところが2017年12月、たまたま庄司さん(当時49歳)が探しものをしていたときに、妻名義の消費者金融のカードが見つかる。問い詰めたところ、総額35万円ほどの借金が発覚した。

庄司さんはこれまで、「利子を払うのがもったいないので、なるべく早く返したい」と思い、義母に借りたり、泣く泣く貯金を切り崩したりして一括返済していた。

今回は一括返済できない額ではないが、長男は15歳、長女は13歳となっており、2人は私立の中高一貫校に通っているため家計は厳しい。

「妻がギャンブルをやめられないのは、結局僕が何とかしていたからだろうと思ったので、毎月の返済額を、妻の小遣いから払う形にすることにしました」

妻はその数年前から、1日7時間ほど、近所のスーパーでレジ打ちの仕事をしていた。

働き始めた当初は昼間4時間ほどのパートタイマーだったが、その後、社員になり、そのタイミングで14時〜22時までの勤務に変わっていた。

スーパーマーケットに並ぶ新鮮な野菜
写真=iStock.com/Georgijevic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Georgijevic

そこで庄司さんは、「もう少し時間を増やしてもらうか、掛け持ちで別のバイトでもしたら?」と妻に言った。「ちょっとくらい大変な目に遭わないと、これからもギャンブルがやめられないだろう」という考えからの提案だった。

妻は、結婚当初から家事をしっかりやるタイプでなく、炊事や洗濯はたまにするが、掃除は全くしない。洗濯物は取り込みっぱなし。夕飯の支度がしていない日も多いため、仕事から帰ってきた庄司さんが夕飯の買物や支度、子どもたちの習い事の送迎、洗濯物の片付けや掃除までしていた。

妻は、「ちょっと最近しんどいから、そのうち(仕事を)探すわ」と言う。

確かに妻はここのところ、「だるい、だるい」と言って横になることが増えていた。しかし当時の庄司さんは、妻の借金に悩み、仕事に忙殺され、妻を気にかける余裕がなかった。

それでも休日、子どもたちが以前から通っていた空手教室の強化練習に連れて行った待ち時間に、夫婦で遊園地に寄ったこともある。それが妻との最後のデートとなるとは、当時の庄司さんは夢にも思わなかった。

妻の体調はどんどん悪化していった。平日昼間は仕事でいない庄司さんが、「どうやら妻は最近、スーパーの仕事に遅刻しているようだ」と気付いた頃、今度は10万円ほどの借金が発覚。

「前回の発覚時に僕は、『他にないの? 後から出てきても知らないぞ』と何度も何度も聞いたのですが、隠されていました。妻にしてみれば、隠したはいいが最近体がしんどくて返済が間に合わず、ついに見つかってしまったという感じだと思います」

庄司さんは「もう信じられない、このままではやっていけない」と思った。実は、長女が中学に進学した2015年にも借金が発覚し、そのとき庄司さんは妻に、「次にギャンブルで借金したら離婚する」という誓約書を書いてもらっていたのだ。

もう自分だけでは埒があかないと思った庄司さんは、高校1年と中学2年の子どもたちも交えて、家族会議を開くことにした。

■家族会議

子どもたちは、小学校の低学年くらいから、母親がスロットに通っていることを知っていた。妻は子どもたちに、「パパには言わないでね」と口止めしていたが、庄司さんは子どもたちに、「ママがスロットに行っていたら教えてくれ」と言っていた。たびたび借金していることも、子どもたちは気付いていたようだ。

「誓約書は、いわば抑止力だと考えていました。ギャンブル依存症が麻薬中毒などと同じで、自分ではどうしようもできない病気であることは、僕もさんざん関わってきたので知っているつもりです。でも借金取りは、『病気だからしかたない』とは言ってくれません。このまま妻のギャンブルに付き合っていたら、子どもたちは進学をあきらめなければならないかもしれないし、僕は借金返済のために働かなければならなくなる。それは避けたかったのです」

庄司さんは日曜日、妻と子どもたちをリビングに集めた。そして子どもたちに、家族会議を開いた経緯を話す。

夫婦で話し合い
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

「僕としては妻が、『何とかやめるように努力する』と言い、子どもたちと一緒に、どうしたらギャンブルをやめられるかを考えて、『家族みんなで協力していこう』となると思っていました」

しかし、シナリオ通りにはいかなかった。庄司さんが何を聞いても、妻は何も答えないのだ。

「ギャンブルをやめようと思わないのか?」と聞くと、ただ妻は隣にいる娘の手をぎゅっと握るだけ。妻が答えないため、「離婚していいのか?」とたずねると、妻はうなずいた。

「子どもたちは僕が引き取るから、ひとりで生きていくことになるんだぞ?」
「家族でギャンブルをやめる方法を考えて、その努力をしていこうと思わないのか?」

庄司さんは、妻に助け舟を出すつもりで言ったが、やはり妻は黙ったまま。

「じゃあ離婚しよう」と、庄司さんは言うしかなかった。

高1の息子は「あーあ」という顔をする。中2の長女は泣いていた。

「別れたら実家に帰るの?」と庄司さんがたずねると、今度は「実家には帰らない」と妻が即答。「アパートを借りて一人で暮らすの?」と聞くと、妻はうなずく。「仕事も見つけないとだめだし、大変だぞ。やっていけるの?」と言うと、「やっていける」と答える。

最後に庄司さんは、「じゃあ、今は体調が悪いようだから、よくなったら離婚しよう」と言い、家族会議は終わった。しかしこの先、妻の体調は良くなることなどなく、悪化の一途をたどっていくのだった(以下、後編へ続く)。

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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)

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