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自分だけで転職先を決めてはいけない…転職を成功させるために必要な"たった1つのこと"

プレジデントオンライン / 2022年5月25日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DNY59

転職を成功させるには、どうすればいいのか。パーソル総合研究所の小林祐児さんは「転職活動をはじめる人の多くは、“求職時リアリティ・ショック”という厳しい現実に直面することがよくある。予兆ともいうべきこうしたショックを覚悟しておくべきだ」という――。

※本稿は、小林祐児『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■高齢者の比率が高い職業、低い職業

70歳まで働くことが当たり前になってきたとき、もう一つ考えなければならないのが「転職」です。

日本人は平均して生涯で2回程度しか転職しませんが、キャリアが長くなっていけばこの数も増えていくことでしょう。早期退職募集に手を挙げる場合でも、ほとんどの人はそのまま引退するのではなく、他の企業に転職してキャリアを築いていきます。

例えば、65歳以上の高齢者が多い職業を国勢調査から抽出してみれば、図表1のような職業が並びます。

高齢者の比率が高い職業
出典=『早期退職時代のサバイバル術』

図表1は65歳以上の就業者人口比率で並べていますが、65歳以上の就業者人口そのものが多いものに着目すれば、農業従事者、居住施設・ビル等管理人、法人・団体役員、販売類似職業従事者(不動産仲介、保険代理人など)などが挙がっています。

シニアの職業の一般的なイメージと大体一致する結果でしょう。定年後や中高年になってから、こうした職業に移る人も多くなります。ビルメンテナンスの職場などを見ると60代でもまだ若いほうであることもよくあります。

逆に少ない職業を見てみると、工事現場や輸送・検査の現場系職業など、夜勤や交替制の職業が挙がっています。

高齢者の比率が低い職業
出典=『早期退職時代のサバイバル術』

体力や身体能力の面から業務遂行が難しく、定年後はこうした職業では働かないことが慣習になっているようです。また、事務系の職種も高齢者比率が低くなっており、若い人で占められています。

■転職すると生涯賃金は下がる傾向にある

中高年になってから転職を考えるとき、まず気になるのはやはり生活維持に直結する転職後の「お金」のことでしょう。単純に企業からの年収のことだけを言うならば、転職者は生涯年収が下がる傾向にあります。

生涯年収のことだけを考えるならば、転職しないほうが高くなる傾向にあることは、歴然とした事実です。中高年の転職は増えてきましたし、中高年転職を主に扱う転職サービスも増えてきましたが、そのことと給与はまた別の問題です。

もちろん転職しても年収を維持・上げる人がいないわけではありませんが、多くの人のリアルとしては押さえておくべきでしょう。しかし、すでに今の会社に愛想を尽かしていたり、上司との関係が修復不可能になっていたり、自社で早期退職募集がかかっていたりするなど、年収以外にも転職を考えるきっかけは多く存在します。

筆者は、立教大学の中原淳教授とともに、ビジネスパーソンの転職行動についても研究してきました。その中でも中高年の転職に役に立つ知見について、データをもとに議論していきましょう。

転職による生涯賃金減少率
出典=『早期退職時代のサバイバル術』

ここでも、「話さない」「変われない」といった本書で解き明かしてきた問題系が所々に顔をのぞかせています。

■「後悔する転職」には予兆がある

中高年に限らず、今の会社を辞めようとして転職活動を始める人の多くは、転職活動前には想定していなかった厳しい現実に直面することがよくあります。我々はこれを「求職時リアリティ・ショック」と呼んで調査しました。

例えば、ネットで求人情報を探しても応募できそうなものが見当たらなかったり、市場で求められる資格やスキルが自分にはないと気づいたり。

選考プロセスに進んでも、必要な書類がうまく書けなかったり、面接で自分の希望をうまく伝えられなかったり。そもそも転職エージェントが相手をしてくれなかったり、相談相手が見つからなかったり。

転職活動とは、単なる人材の需給マッチングではなく、こうした個別の「うまくいかなさ」と隣り合わせです。

特に、中高年に強く見られる求職時リアリティ・ショックでは、「市場で求められる年齢と自身の年齢とのギャップ」を感じやすくもなります。

本書で述べたとおり、年齢を重ねると転職できなくなる「35歳限界説」は根強くこの国に残っています。

そもそも中高年になると転職が減るのは、日本に限ったことではありません。例えば中高年転職者からは、こんな声が上がりました。

●スキルがあれば、それなりの仕事が見つかると思っていたが、実際にはスキルよりも年齢重視で、希望する職種が見つけられなかった。(52歳・男性・製造業)
●自分の専門分野であるISO9001や環境安全衛生についての求人が非常に少なかった。(42歳・男性・製造業)
●経験が不問となっている企業に応募したが「経験が無いのになぜ応募したのか」と聞かれた。(52歳・男性・医療、福祉)
●自分の培ってきた知識や度量が、世間一般の企業では、どうも少ないらしい。自分が、大企業病に陥っていたようだ。(57歳・男性・卸売業、小売業)

そして、この「求職時リアリティ・ショック」は、「転職しなければよかった」という後悔を引き起こす一因ともなります。

私たちの調査では、強いショックを感じた人の45.9%が、転職後、わずか1年以内に次の転職を希望していたこともわかっています。

「後悔する転職」の前には、こうした「予兆」ともいうべき想定外のショックが待っているということでしょうか。

転職には本当の意味での「プロ」はいません。自分自身の転職というのは、ほとんどの人が人生で数回しか行わないことです。

そうしたことを考えると、今見てきた転職にまつわる想定外のショックは、私たちにとって「避けるべきもの」というよりも「覚悟するもの」と見たほうがよさそうです。

それよりも大事なことは、そうしたリアリティを乗り越えて、いかによい転職に近づいていけるかです。

求職時リアリティ・ショックの詳細
出典=『早期退職時代のサバイバル術』

■他者との対話の減少が転職の成功を遠ざける

中高年の転職をよりよいものにするために、最も大きなポイントを一つ挙げるとするならば、それは「4ない」問題の中の「話さない」問題です。

本書では、中高年になると、他者との交流全般が量的にも質的にも低下してしまうことをすでに見てきました。

他者との交流も対話の機会も減り、自己開示しようとしないというコミュニケーションの薄弱化は、セルフ・アウェアネスを向上させる機会を奪うと述べましたが、それが転職にも大きな影響を与えます。

セルフ・アウェアネスは、中高年で全体的に下がっていく傾向が見られました。また、「内面的」「外面的」の区別で見れば、中高年は特に「外面的自己認識」に偏っていくのです。

人は年齢を重ねて「自己を確立」していくにつれ、自分自身のことを改めて見つめようとはしなくなります。

しかしそれでいて、周囲の人と比較したときに地位や出世の格差が目にとまるようになり、自分の市場価値が低下していないだろうか、などの危惧を抱くようになります。

しかし、「自分が何を実現したいのか」「どんなことで嬉しいと感じるのか」といった内面的なセルフ・アウェアネスは満足のいく転職のためにやはり必要なことです。

「話さない」問題が重要であるのは、こうしたセルフ・アウェアネスを高めるような機会を奪ってしまうからです。

■「一人きり」で転職してはならない

中高年の「話さない」傾向は、転職サービスのカウンセリングやアドバイスを受けるときにも現れます。「いいから自分が行ける求人を出してくれ」「なぜ初対面の人間に自分の本音を話さなければいけないのだ」という態度で対話の場に現れる人もしばしば見られます。

特に、今の会社に強い不満があったり、早期退職募集によって会社都合で転職せざるを得ない状況に追い込まれた人は、カウンセラーに強い態度をとったり、必要な情報を十分に話そうとしません。

しかし、そもそも転職相談の相手は、求人情報を引き出すだけの検索窓でも、「自分は何をすればいいのか」という正解を与えてくれる神様でもありません。

それよりも、その人たちとの対話のキャッチボールを通じて自分自身のことを言語化し、客観化し、セルフ・アウェアネスを高めるための機会を与えてくれる相手として見るべきです。

まず転職に悩むミドルにとって必要なことは、「話さない」問題について、意識して乗り越えることです。相談相手とはどんどん積極的に自己開示していく態度で臨みたいものです。

中高年の多くは、カウンセリング全般に対して消極的です。「精神的に問題がある人が受けるもの」といった偏見を持っている人もいます。中高年になるほど、転職相談も含めて自分の仕事を他者に相談する割合は減っていきます。

「話す」ということを通じて、内面的な自己認識と外面的な自己認識を共に高めることによって、「何が自分にとって大事なことなのか」「どんな転職を目指したいのか」という判断をより正確なものにすることができるはずです。

そのために必要なことは、一人で思い悩むことではありません。

少しでも他者に対して自己を開き、不安や弱み、苦悩などを含めて開示していくことからスタートすること。一見遠回りのようですが、これこそがよりよい中高年転職のための近道だと思います。

■転職者で以前からの行動習慣を変えた人は37.6%

転職先が見つかったとしても、それは「転職の成功」の半分にしか過ぎません。すぐ辞めてしまったり、全く馴染めないまま引退までの暇つぶしのように働き続けていれば、その転職はよいものとは言えません。

以前から変えた/新しく始めた仕事の習慣と組織・業務への「慣れ」の速さ
出典=『早期退職時代のサバイバル術』

転職後の「年収」だけは維持できたとしても、入社後の職場に適応できなくては意味がありません。「お金のためだから」と割り切って働いたとしても、ずっと不満を溜め続けながら働くことは幸せとは言えません。

転職後の職場への適応にこそ、本書が語ってきた「変われない」問題が立ちはだかるのです。

ポイントは、前職での仕事のやり方や慣習、コミュニケーションのとり方などをいかに「捨てられるか」です。「いかに過去へのこだわりを捨てられるか」こそが中高年の転職後の活躍を左右すると言っても過言ではありません。

こうした慣習の解除は、専門用語で「学習棄却=アンラーニング」といいます(※1)。同じ仕事でも、会社によって仕事のやり方や進め方はかなり異なります。社風も人間関係も、一つとして同じ会社はありません。

これまでの経験やスキルは活かしつつも、それにこだわらないこと、新しく学ぶことを受け入れる必要がありますが、〈変化適応力〉が落ちているとこうしたことができなくなっていきます。

全体では以前からの行動習慣を変えたり新しく始める人は転職者のうち37.6%であり、そうした行動変容を行っている人が組織や業務に早く慣れていることがわかっています。

■アンラーニングする転職者のとるべき日常的な行動

それでも「いや、自分は自分のやり方で仕事をしたいんだ」「なぜ合わせなければいけないんだ」と抵抗感を持つ方もいるでしょう。しかし、それはアンラーニングの「転職した会社側に合わせる」という受動的な面だけをイメージしすぎかもしれません。

アンラーニングとは、「相手に合わせる」という受動的で受け身の態度だけを意味するわけではありません。それは、実際に転職後にうまく前職での行動を変化・調整している転職者の行動を見ればわかります。

アンラーニングする転職者のとるべき日常的な行動
出典=『早期退職時代のサバイバル術』

例えば、わかりやすいのがコミュニケーション面におけるアンラーニングです。

コミュニケーションを転職後に調整するとき、「同僚の意見を積極的に聞きに行くようにした」「上司への態度には気を使うようにした」といった受動的な調整もありますが、逆に、「自分の意見ははっきりと言うようにした」「わからないことがあったら必ずその場で聞くようにした」といった能動的で行動的な調整も行っています。

転職後に価値を発揮するためには、ただ受け身で待ちの姿勢を貫くのではなく、これまでの経験やノウハウを積極的に出していくという面も求められます。

他にも、アンラーニングする転職者は、朝に新聞を読むようにしたり、まず同僚に挨拶するようにしたり、報告・連絡・相談を細かくするようにしたりするなど、極めて細かく日常的な調整を行っています。

■中高年の転職は「即戦力」を目指してはいけない

いかがでしょうか。かなり細かく行動からコミュニケーションのとり方まで、これまでのやり方を捨て、会社や組織に合わせてチューニングしています。

こうしたアンラーニングを意識して行動に落とし込んでいくこと、そしてそのことに対して抵抗感を持たないことが中高年転職では特に大切になります。

逆に言えば、こうした調整を行おうとしないことこそが、〈変化適応力〉の低さを示してしまうことになるでしょう。

それでも、「いや、自分はどこの会社でも通用する専門スキルを溜めてきたから大丈夫だ」と思われる方も多いかと思います。確かに専門的な技術や経験こそが中高年転職の大きな武器であることは明白な事実です。

しかし、筆者らの研究ではさらに興味深いことがわかりました。

「自分のスキル・技術が入社してすぐに活かせる」と感じている人ほど、「同僚からの支援」を、「入社してすぐに実力を発揮しなければいけない」と感じている人ほど、「上司からの支援」を、受けられていなかったのです。

つまり転職者自身の「即戦力になれる/なりたい」という気負いが、周りからのサポートを受けられないことにつながっているのです。

■「経験者」という長所が短所に変わることも

これは「即戦力転職」という一般的な規範が持つ逆機能にほかなりません。この傾向は特に、同じ職種に転職したミドル層に強く見られました。

同じ職種で転職した人が、過去の経験を活かして次の会社でも即戦力になりたい、なれる、と意気込むほどに、職場で誰からも助けてもらえない傾向にあるということです。これは転職において極めてリスキーな状態です。

そうでなくても、日本企業には、年功的な秩序が生み出すエイジズムがあります。

中高年に対して、「歳をとっているのだからこれくらいできて当たり前」「指示を受けずに仕事を作れて当たり前」といった風潮は多くの職場で見られます。転職者に対しても、すぐに手を差し伸べることなく、「お手並み拝見」といった態度で静観しがちです。

小林祐児『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)
小林祐児『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)

経験を通じて高いスキルを持っていることは、条件のよい転職先を探す上ではもちろん長所ですが、その結果として組織に馴染めず、パフォーマンスも上げられないという状態につながりかねません。

「経験者」という転職プロセスでの長所が、いきなり短所へと変わってしまうというアンビバレンス(両義性)を持つのです。

さて最後に、中高年以降の幸せな転職のためのポイントを簡単にまとめておきます。ほとんどがこれまで議論してきた内容ですが、裏を返せば、これらのポイントを外してしまう転職の多くは、「失敗」につながっていってしまいます。

まさに今、早期退職をしようとしている方も、今の会社でいつまで働き続けるか不安な方も、参考にしてみてください。

中高年以降の幸せな転職のためのポイント
出典=『早期退職時代のサバイバル術』

*1 中原淳「『職場における学習』の探究」組織科学 48.2 (2014): 28-37.

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小林 祐児(こばやし・ゆうじ)
パーソル総合研究所 上席主任研究員
上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。共著作に、『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』(KADOKAWA)など。

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(パーソル総合研究所 上席主任研究員 小林 祐児)

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