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「セブンティーンアイス」は最初は自販機ではなかった…「17歳の女子高生向けアイス」が急に売れ出した秘密

プレジデントオンライン / 2022年6月3日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VLG

江崎グリコの「セブンティーンアイス」は、最初は専用のショーケースで販売されていた。だが、売上が思うように伸びなかったことから、自動販売機での販売を開始した。高千穂大学の永井竜之介准教授は「売り方の変更によって商品が生まれ変わり、ヒットを実現した事例だ」という――。

■マーケティングとは「広める仕掛け作り」である

マーケティングにはさまざまな定義があるが、一言で表すなら「広める仕掛け作り」が分かりやすい。商品(製品・サービス)の開発やデザイン、広告やプロモーション、販売やアフターサービスなど、すべては商品を狙い通りに広める仕掛けを作るための活動と言える。

ビジネスには「ただ1つの正解」があるわけではない。考え方と作り方次第で、無数の正解を生み出すことができる。その考え方と作り方に役立つ道具がマーケティングである。商品をターゲット顧客に広めるという「正解の決まっていない課題」に対して、いかにターゲットが喜んで選び、自ら買いたくなるような仕掛けを作れるかが重要になる。

この広める仕掛け作りにおいて、常に念頭に置いておくべきことが、「誰のどんなニーズを満たすか」である。ニーズとは「何かに満たされていない状態」であり、誰かの「もっとこうだったら良いのに」という心の声を探し、見つけて、満たしてあげる。あるいは、新しいニーズを創る商品を提案することで、「確かに言われてみれば、これがあるとすごく良い」と気付かせ、その新しいニーズを満たしてあげる。

■良い商品でも「売り方」が悪ければヒットしない

「良い商品のはずなのに売れない」という壁にぶつかったときには、商品そのものに問題を探してしまいがちになる。そうして「もっと良い商品を」と開発のアップデートを追求するあまり、ニーズを通り越してしまい、「過剰品質」と批判されるような失敗に陥りやすい。

そうではなく、売れない原因が「売り方」にある可能性について、もっとよく検討すべきだ。良い商品を開発できれば、自然にヒットしてくれるわけではない。適切なターゲットの手にうまく届け、ニーズを満たせなければ、どんなに良い商品でも広まらない。商品を売る場所や方法を変えれば、新しいニーズに出会うことができる。商品が売り方の変更によって生まれ変わり、起死回生のヒットを実現した3つの事例について紹介しよう。

■最初は「専用のショーケース」で売られていた

【事例1】江崎グリコ「セブンティーンアイス」

1983年の発売開始以来、約40年がたつ現在までロングセラー商品になっている江崎グリコの「セブンティーンアイス」は、売り方を変えたことで起死回生した良い例だ。発売当時、街中でアイスを食べ歩きするのがブームだったことを受け、17歳の女子高生をメインターゲットに、17種類の味を届ける商品としてセブンティーンアイスは開発された。

当初、小売店に専用ショーケースを置く売り方が採用されていた。これは、競合他社のアイスが入りまじって陳列されたアイスケースの横に、セブンティーンアイス専用のケースが特別にもう1つ並べられる形だ。それだけ期待された商品だったが、販売開始から2年間、なかなか思うような売上につながらなかった。

現状打破に思い悩んだ末に選んだのが、ライバルの多い激戦区である小売店から離れ、ライバルのいない新しい売り場を開拓する道だった。「アイスが売られていない場所」として、当時の若者にブームだったボウリング場を選び、初のアイス専用の自動販売機を設置した。新宿コマ劇場のミラノボウルに置かれた「アイスの自販機」はすぐに人気を集めた。その後、若者が集まる場所として、レンタルビデオ店、レジャー施設、スポーツ施設、学校や駅などに続々とアイスの自販機が設置されていき、セブンティーンアイスは一躍、大ヒット商品に生まれ変わった。

ドリンクやセブンティーンアイスの自動販売機
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■「ご機嫌取りアイス」「ご褒美アイス」のニーズも満たした

ターゲットを若者だけでなく、ファミリー層へ拡大していくことにも成功した。ショッピングセンターでは、駐車場からの入口やトイレの側にアイスの自販機を設置した。そうすることで、親が小さな子供を買い物やトイレに連れていく場面で、子供をきちんとさせる「ご機嫌取りアイス」としてよく買われるようになった。また、スイミングスクールにも多く設置され、水泳を頑張った子供を喜ばせる「ご褒美アイス」としても定番化した。現在では、全国に約2万台の自販機が置かれ、子供から大人まで幅広く親しまれている。

それまで「アイスが食べたい」というニーズを持った消費者は、少し我慢して、コンビニやスーパーへ買いに行くしかなかった。しかし、セブンティーンアイスが小売店での販売から、人が大勢集まる場所に置く自販機での販売へ売り方を変えたことで、消費者の「今すぐアイスが食べたい」という本音のニーズを独り占めできるようになったのだ。ふと思った瞬間に自販機でちょうどよく買えることで、ニーズを逃さずつかみ取った。

さらに、「子供に静かになってほしい」「子供を喜ばせたい」「おもちゃを買うよりは、アイスの方がお手軽」といった、じつはショッピングセンターやスイミングスクールで親が思い続けてきた別のニーズを満たすことにも成功した。

■野菜の無人販売を参考にした「置き菓子」方式

【事例2】江崎グリコ「オフィスグリコ」

同じく江崎グリコが展開するオフィス向け置き菓子サービス「オフィスグリコ」も、売り方を変えることで新たなニーズに出会って成功した事例だ。オフィスグリコは、1997年の「お客様接点を多様化する」プロジェクトから始まった。その調査で、菓子を食べる場面として自宅の次に多いのがオフィスであることが分かり、働くオフィスで「ちょっと休憩」「もうひと頑張り」のお供に菓子を食べてもらう「リフレッシュメント」をコンセプトに、サービス開発が動き出した。

おやつを食べながら仕事をする人
写真=iStock.com/Pheelings Media
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pheelings Media

当初は「オフィスで菓子を食べる」を公然と認めるサービスに抵抗が大きく、休憩時間の昼休みと就業後だけ、営業担当が菓子を持って訪問販売する形だった。それをもっと自然な形でオフィスの中に菓子を置けるように変更したのが、「置き菓子」である。10種類程度のグリコの菓子を入れたボックスを置き、基本1つ100円のワンコインで、菓子を買いたい人が自分自身でルールを守ってお金を入れて商品を持っていく形だ。

これは農家などが行う「野菜の無人販売」を手本に、日本だからこそ成り立つと判断して採用された。実際にほぼ100%の回収率を実現しており、グリコが代金を回収する際に販売数量と金額が合っていなかったとしても、ボックスを置いた企業に差額は請求しないことになっている。

■「グリコだけの売り場」を創り出したことになる

オフィスグリコは、ボックスの設置は無料で、スタッフが定期的に訪問して菓子を補充する、あるいは商品を発送してセルフで補充してもらう形になっているが、設置先の細かなニーズに応える方針も高い支持を集めている。要望に応じて菓子だけでなくアイスや飲料を入れたり、他社商品を取り扱ったり、カップ麺を用意することなどにも柔軟に対応する。また、3回の訪問ですべての商品をリフレッシュし、年に100種類以上の商品を提供することで、常に飽きさせないように工夫されている。

2002年から東京・大阪でサービスを本格スタートすると、少しずつ「オフィスでリフレッシュのために菓子を食べる」価値観を広げていった。働きやすい環境作りが推奨されていった時代も追い風となり、サービスを拡大していき、現在では全国の約11万事業所にボックスが配置されている。つまり、11万カ所もの「グリコだけの売り場」を新しく創りだしたことになる。

■「今すぐオフィスで菓子を食べたい」ニーズに応えた

オフィスで「菓子を食べたい」というニーズを持ったとき、わざわざお店に買いに行くのが当たり前で、その手間は「仕方ない」と諦められていた。オフィスグリコは「置き菓子」という新しい売り方によって、これまで諦められてきた「今すぐオフィスで菓子を食べたい」というニーズに応えた。

コンビニに買いに行くよりも、手軽で安価に、「甘いものが欲しい」と思ったらすぐその場で手を伸ばせるようになったのである。また、オフィスグリコはもともと女性をメインターゲットにしていたが、実際にサービスを開始してみると、じつは30代、40代の男性もよく利用することが分かった。「甘いものでリフレッシュしたい」と思い、子供の頃に食べた懐かしいお菓子に手を伸ばす、男性のニーズにも出会うことができたのだ。

■コロナ禍で冷凍弁当の宅配サービスを展開

【事例3】TANPAC「筋肉食堂」

TANPACの運営する「筋肉食堂」は、「D2C(Direct to Consumer)」の売り方によってコロナ禍の危機を乗り越えた事例だ。D2Cとは、企業が消費者に対して製品を直接に販売する「直販モデル」だが、ウェブサイトやSNSで顧客と直接結びつき、顧客自身が発信するクチコミを有効活用して、ネット販売を促進させる点が特徴である。

筋肉食堂は「カラダづくりを志す人のための美味しい高タンパク・低カロリー食レストラン」として、2015年から六本木・銀座・渋谷などに店舗を展開している。スポーツ選手や芸能人が利用する店としても有名で、ダイエット・筋トレ・アンチエイジングなどを目的とした男性を中心に人気を集めている。2018年には丸の内などでお弁当を販売する中食事業もスタートし、2020年2月には中食事業の強化のために自社工場を立ち上げていた。そこに直撃したのが、コロナ禍の緊急事態宣言だった。

肉、魚、乳製品卵、卵など高タンパク質の食品
写真=iStock.com/piotr_malczyk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/piotr_malczyk

店舗はもちろん、弁当の販売を行っていた商業施設自体が閉店となって中食事業も大打撃を受け、立ち上げたばかりの工場は役割を失ってしまった。そこで急きょ踏み切ったのが、店舗に来られなくなった顧客に弁当を届けるD2Cサービスの開発だった。Uber Eatsなどの店舗からのデリバリーは以前からあったが、工場をフル稼働させて作った冷凍の弁当を全国へ届けるD2Cサービスを0から開発することになった。

■店舗以外での「食べてみたい」ニーズを満たした

「レストランの味をご家庭でも」をコンセプトに、メニューの開発、工場のオペレーション、ECサイトの設計、価格や送料の設定などの準備に奔走した。5月から始まったD2Cサービス「筋肉食堂DELI」の生産・販売・配送にかかわる準備を2カ月で完成させ、7月にはECサイトをオープンしてテスト販売にこぎつけた。すると、初日から100件を超える注文が舞い込み、数量限定販売ながら1カ月で数千食を販売する成果をあげた。

順調な滑り出しの背景にはSNSの活用が大きい。筋肉食堂ではインスタグラムを顧客と直接コミュニケーションを取る「集客の要」と重視しており、D2Cサービス開始や新メニュー展開などの投稿からECサイトへ顧客を誘導することで売上に結び付けた。

筋肉食堂は、もともと店舗では、食事の前のお通しでプロテインドリンクを出すほどの徹底ぶりで、身体づくりを好む男性客から高い支持を集めていた。「筋肉女子会」という女性専用コースメニューを出すなどして女性客も増えていたが、店名やイメージもあいまって、利用を足踏みする女性も少なからずいただろう。

しかし、女性にとっても「高タンパク・低カロリーの美味しい食事が食べたい」というニーズは大きい。そんな女性の「食べてみたい」「自宅で楽しみたい」というニーズをD2Cの売り方で満たせるようになった。また、「SNSやテレビで見て食べてみたくなった」という全国のニーズにも対応できるようになった。新しい売り方を始めたことで、店舗とは別のニーズを満たすことに成功したのである。

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。

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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)

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