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「女子高生あるある」はもう古い…若者がユーチューブからTikTokに流れていった3大理由

プレジデントオンライン / 2022年5月31日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PixelsEffect

動画SNS「TikTok」は、なぜここまで人気になったのか。電通メディアイノベーションラボの天野彬さんは「YouTubeとは違い、TikTokは最初から“スマホ”に最適化して設計されている。その使い心地のよさが、『見たい動画ばかりが出てくる』という状況を生み出している」という――。

※本稿は、天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)の一部を再編集したものです。

■人々がTikTokにはまる3つの理由

人々はTikTokになぜここまではまるのか。

これまでにも同様のサービスはあったし、例えば2010年代前半に流行したVineのように短い時間の動画をシェアするサービスも多くあった。ティーンに大人気のARフィルターや編集ツール一式を備えている点で、写真共有アプリのSnapchatにも似ている。

だからこそ、そうした他のサービスと何が違ったのかということをユーザー視点からアプローチしていく必要がある。

本稿では、その理由を大きく3つの要素で説明することを試みたい。TikTokのスティッキネスは、①サービスの使い勝手に関すること、②SNSでシェアされるコンテンツの特性に関すること、そして③それがどう届くのか、といったことに分解される。

もちろんこれらは排他的に独立しているというよりも、相互に連関しながらユーザーにとっての価値を実現していると捉えることができる。より詳述すると次のようになる。

理由① スマホに最適化された設計で、短尺動画の閲覧から選別までストレスなく、かつ長時間見られるような優れたUXを備えている(見る立場:オーディエンス)
理由② 他のSNSより手軽に高いクオリティの動画をつくりやすく、また自分の表現・表出ができるクリエイティビティの裾野が広い。音楽や動画を自由に活用できる点で、現代のサンプリングカルチャーとも親和性が高い(つくって発信する立場:クリエイター)
理由③ レコメンドアルゴリズムが秀逸で、コンテンツマッチングの精度が高い。UGC(※)がうまく流通する仕組みがある(両者をマッチングするサービス側の特性:アーキテクチャ)
※User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツの略。ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツ。

これをユーザーの視点からMECE(モレなく、ダブりなく)に整理したものが図表1だ。

【図表1】ユーザーが感じるTikTokの価値3要素
出所=『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』

■「スマホ用」に振り切り、ストレスフリーな使い心地に

まず、3つの理由の大きな前提になっているのが、「夢中になる理由①」にあたるスマホ最適化されたアプリであるということ。いわば、新興のサービスだからこそ、そのようなユーザーの新しいコミュニケーション環境に振り切れたわけだ。

「短い」時間で楽しめるショートムービーアプリであるというレゾンデートルは、PCで長い動画も見るかもしれないと想定されるサービスプロダクトとは、まったく違う設計思想に立脚している。

スマホシフトというよりも――これはそもそもスマホ向けではなかったものがスマホ向けになること、つまりもともと別物を調整したということを含意する――、そもそもスマホのためにつくられた、スマホネイティブなアプリだと言い換えることもできる。この両者の差は意外に大きい。

アプリとしての基礎的な操作性(UX:ユーザー体験)がとても秀でていることは、TikTokのアプリを起動すれば誰でもすぐにコンテンツに触れられるその速度によって体感できる。

アプリを起動するとロゴが表示されて、すぐにおすすめ動画が画面全体を使って自動再生される。面白ければ見続ければいいし――TikTok内のショートムービーはデフォルトでループする仕様になっている――他のものが見たいと思えばすぐにスワイプすれば次のおすすめ動画が再生される。あとはその繰り返しだ。

ユーザーが操作に迷ったり、どれにしようかと悩んだりすることがない。これはユーザー側の負荷が小さいということを意味している。

■「面白くなければスワイプ」ユーチューブ広告との違い

またTikTokでは広告もUXとして優れているように思える。

まず、広告と一般投稿の差があまりない。また、広告があまり面白くないと思えば、すぐにスワイプして飛ばすことができる。強制的に数秒間見なければならないわけではない。

ポイントは、ユーザーに自由な裁量が与えられている点だ。さらに、フルスクリーン&サウンドオン(音あり)という没入的な視聴環境の中で、70%近くが音を聴きながら広告接触しているという。だからこそ、広告体験としてもベターなのだ。

では、比較としてユーチューブではどうだろうか。

起動すると、まずはホーム画面が立ち上がる。フォローするアカウントの動画、スポンサードされた動画、あるいは視聴履歴に基づきレコメンドされた動画など、それらのサムネイル(中身が一目でわかる画像)がずらっと並ぶ。気になるものがあればクリック/タップしてもいいし、なければ急上昇タブや登録チャンネルタブに切り替えることもできる。

これを見ようと決めて視聴を始めると、広告掲載に適する人気動画の場合は広告が冒頭にはさまり、本編が開始される(それでもすぐに開始されるとは限らず、最近では自分の動画チャンネル用のイントロをインサートしていることも多い)。見終わると、次の動画やオススメ動画への切り替えがロードされ、次の動画に遷移する。

細かい差異ではあるものの、両者にはユーザーの負担の違いがあることがわかる。TikTokは起動してからのステップ数がとても少なく、また「選ぶ」ことの心理的な負荷をあまりかけていない。動画が面白くないと思ったら、すぐスワイプして次に移ればいい。

■人間工学的なアプリ設計で、評価が反映されやすい

先ほどTikTokはスマホネイティブなUXになっていると説明したが、これは、コンテンツの評価システムの視点からも説明できる。つまり、つくる側面、見る側面だけでなく、それを評価する側面にも及んでいるということだ。

端的に言えば、TikTokでは「いいね!」を押しやすい仕組みになっている。

ふと意識してみると、スマホを右手で持った時に、「いいね!」を示すハートマークがちょうど親指と重なる位置にあることに気づくだろう。指をそれほど動かさなくても押せるというのは、ユーザーの負荷を下げる意味で非常に意義のあることだ。

ウェブサイトでも、ユーザーの滞在時間やページ遷移の確率はどこにどんなボタンを配置するかで大きく左右されることを考えれば、こうした人間工学的な設計の工夫がいかに重要かが納得できる。

付け加えるならば、TikTokでは「いいね!」がブックマーク的な目的で押されることが多い。TikTokでは一度のセッションで数多くのショートムービーを視聴することになり、ブックマーク機能にあたるものが実質的にないため、あとから見返せるように「いいね!」を押すことになる。より評価が反映されやすいとも言える。

■評価のしやすさで、動画選別の精度が高まる

逆に、最近「いいね!」を押しにくいと感じるSNSはないだろうか。

SNSのいいね
写真=iStock.com/Diy13
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Diy13

例えば、フェイスブックは現実の人脈に基づくつながりなので、「いいね!」がもたらす副作用を考えてしまい、押しにくいといったことがあるかもしれない。何気ない挨拶のようなつもりで押した「いいね!」でも、相手に好意を示したり(あるいはその逆もしかり)など、人間関係に何かしらの影響が及ぶ可能性がある。

また、自分が「いいね!」した投稿が知人友人のタイムライン上に出てしまう場合もあるので、それも躊躇(ちゅうちょ)させる要因となる。

TikTokの場合は、そもそもソーシャルグラフとあまり関係がないし、おすすめに出てくるのも基本的には知らない人々だ。どのショートムービーに「いいね!」を押そうが、誰かに何かを知られたり悟られたりするわけでもない。強いて言うと、レコメンドアルゴリズムにあなたの好みが類推される程度のことだ。

この「いいね!を押しやすい」という特性は「夢中になる理由③」にも関連していることが重要だ。すなわち、TikTokの競争力の源泉はコンテンツマッチングのアルゴリズムの精度にあるが、コンテンツが短尺でユーザーが「いいね!」やコメントをしやすいからこそ、大量に機械学習できて面白いコンテンツを選別する精度が向上していくという特性に支えられている。

サービスを支えるAIの視点から捉えると、たくさんのテストデータがどんどん集まってくるわけだ。また、このようにして良いコンテンツとそうでないコンテンツを手軽に選別できることは、見る側はもちろん、作り手・発信者の側にとってもPDCAが回しやすいという恩恵をもたらしている。

■撮影・編集・配信…すべての工程がスマホ1台で完結

これまで「動画をつくる」というと、ビデオカメラやデスクトップとともに高度な編集用ソフトを揃え、お金と時間、技術と気合いをかけてつくるものを指していた。

しかし、いまでは撮影から加工、パブリッシュに至るまで、すべての工程をスマートフォンひとつで完結してしまえる。TikTokに投稿されているショートムービーの多くもユーザーが独力で制作しているからこそ、1日に複数の動画を投稿することも稀ではない。

他のプラットフォームの長い動画コンテンツは、スマートフォンのみでは撮影や編集を完結させることが難しいし、いまとなってはユーチューブ・クリエイターなどはその周りにカメラマンや編集など映像制作のためのチームを構成していることも珍しくなくなってきた。

それは、そのようにしてクオリティを保たなければ見てもらえないほどに競争が激しくなってきているためでもある。もちろん、TikTokも今後そのようになっていく可能性は否定しないが、原理的にスマホひとつで手軽に誰でもが発信できるというポジションを手放すことはないはずだ。

■カースト上位「美男美女」だけの時代は終わった

図表2は、TikTokでよく見られるようになったコンテンツジャンルを時系列でまとめたものだ(出てきた時期によって色や囲みでグルーピングしているが、厳密なものというより、特徴を大づかみするためのものと捉えてほしい)。なお、あくまでも出現時期をプロットしており、2022年現在でも2018年頃のジャンルが見られなくなったというわけではまったくない。

【図表1】TikTokのコンテンツ多様化の歴史
出所=『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』

2018年頃の最初期は、自撮りやリップシンク(口パク)、ダンスといった、いわゆるTikTokらしいコンテンツジャンルが頻繁に見られた時期だ。この頃はまた「眼福系」と呼ばれる美女美男がTikTokのメインプレイヤーだった――スクールカーストの上位で、なんのてらいも嫌味も感じさせず自己顕示的な表現をみんなに見せられるような若者たち。調査をしていても、この時期に形成されたTikTokのイメージをいまでも持っている人はかなり多いと感じる。

そこから、いわゆるみんなが見てしまう「3B:Beauty,Beast,Baby(美男美女、動物、赤ちゃん)」へと広がっていく。

■「お笑い」「弾き語り」動画はよりクリエイティブに

そして、「」の時期(図表2)には、クリエイティブな動画がよく見られるようになっていった。Vineを思い出させるようなWowを感じさせるアイデア動画である。加工の手法としても、「ダンス」、「トランジション(映像の切り替え)」、「エフェクト(スタンプやフィルターを活用した加工)」などが駆使されていたが、これらはショートムービーならではの特徴と照らし合わせると腑に落ちる。

つまり、ダンスのように動きを活かすもの、トランジションのようにスマホの回転などと合わせて一瞬で映像を切り替える時間操作系のもの、エフェクトのように対象に変化や装飾をもたらすものが該当する。対象物、その移動、そして時間展開それぞれをいじるわけだ。

2019年以降はリップシンクやダンスといった身体的表現の延長としての歌や音楽も見られるようになってきた。部屋で弾き語りをしたり、カラオケで歌っているのをシェアしたりと幅広さが出てきていた。

当時流行っていた「全力○○(笑顔や変顔など)」といったいわゆるお題系も、お笑い・エンタメのジャンルに含まれるだろう。「お笑い・エンタメ」にもさまざまな切り口が存在するが、筆者が好きなのが「あるある系」で、「ショップ店員あるある」や「女子高生あるある」、「マッチョあるある」など、自分の仕事や趣味に基づいている場合が多い。自分だけが知る新鮮な切り口でもあり、さらにキャラ立ちを活かしたものだとも言える。

■中国では「食べログ」のような使われ方も

普及期の「」の時期(図表2)には、一般の人々も自然に投稿できるジャンルが存在感を増してきた。趣味・ライフスタイルのような身近なテーマで、各人が自分の好きなことや日々のアクティビティを発信していく。

つまり、TikTokはいまや特別なものではないということを意味する。ファッションのコーディネートを載せるユーザーも、例えば「初夏のコーディネート」のようにテーマ性を持たせていくつかのコーディネートを切り替えて載せるなど、TikTokらしさが見て取れるようになってきている。

レシピ・料理系も投稿されやすく、時短メニューを紹介したり、料理本に載っているレシピのつくり方など「実際にやってみた」系の趣向も目立つ。アニメやイラストなど、アート系の創作過程やその完成作品をシェアする人も増えてきた。

その中でも食・グルメ系は根強いジャンルで、これまでなら映える料理の写真をインスタグラムでシェアするのがメジャーだったが、動画で撮ることに適した臨場感のあるメニューはTikTokに載せるという作法も普及してきている。写真よりも動画で映えることを意識した、伸びるチーズ系など動きのあるものを準備するお店が増えているのもそうしたトレンドへの対応である。

さらには、臨場感が生まれやすいという特質に加えて、インスタで映える写真を撮ることに比べると、写真の角度や構図といったことを気にしなくても音とエフェクトがあればいい感じにまとまるという意味で、TikTokのハードルの低さを捉えることもできる。現に、中国ではTikTokは食べログのように使われている側面もあり、日本でもそのような使われ方が広まっていくことが想定できる。

スマートフォン上の顧客レビューの良い評価
写真=iStock.com/Kenstocker
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kenstocker

■ウェブ文化の専門家が「コンテンツ博覧会」と呼ぶ理由

また、筆者自身もよく見ているのがいわゆる「How toもの」だ。ニュース解説から、その道の玄人が教える役立つ仕事術、ダイエットのためのエクササイズ、対人関係を改善する心理学的なTips、そして英会話の一言レッスンまで幅広い――なにせアメリカにはExcelの使い方を解説する人気TikTokクリエイターさえいるのだ! その他にも、メイクアップ、アプリの使い方(写真や動画の編集など)、ヘアアレンジのようなものも動画のほうがわかりやすい。

最近では、いわゆる「専門家のここだけの話や本音」系が増えており、医者などの専門性を持つ人が「常識的にはこう思われているけど、健康になりたければ本当は○○したほうがよい」と伝える類のものだ。

天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)
天野彬『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)

さらには、数として多いわけではないが、人気のTikTokクリエイター・修一朗氏の「妄想アバンチュール」など、TikTokで連続ドラマを配信する例も見られるようになってきた。ユーチューブのダイジェスト版を発信するユーザーもおり、手近さはもちろんのこと、しっかりつくり上げたものをどうシェアするかということも重要になってきていることがわかる。

ウェブ文化に詳しいりょかち氏は、TikTokをさまざまなコンテンツを一覧的に見ることができる「コンテンツ博覧会」と定義する。これまで述べてきたようなテーマと動画の加工の切り口、その広め方を掛け合わせれば、かなり多くの動画のアイデアが浮かんでくるだろう。

そして、繰り返しになるが、そういったアイデアをスマホ一台で苦もなくつくってシェアできることが、ユーザーのクリエイティビティを最大化させることにつながるのだ。

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天野 彬(あまの・あきら)
電通メディアイノベーションラボ 主任研究員
1986年生まれ。一橋大学社会学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。若年層のメディア行動やSNSの動向に関する研究、執筆、コンサルティングを専門とする。著書に『シェアしたがる心理 SNSの情報環境を読み解く7つの視点』(宣伝会議)『SNS変遷史 「いいね!」でつながる社会のゆくえ』(イースト新書)『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』(世界文化社)、共著に『情報メディア白書』(2016~2019年版、ダイヤモンド社)がある。

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(電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 天野 彬)

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