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いつでもクビにできるから助かる…「安くてうまい日本の飲食業」は外国人労働者の酷使が前提になっている

プレジデントオンライン / 2022年5月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rudall30

飲食業や建設業など日本企業の人手不足を埋めているのが外国人労働者だ。もともと低賃金で弱い立場で働いていた彼らは、コロナ禍で「辞めさせられやすく転職しづらい」というさらに過酷な状況に置かれているという。労働問題に取り組むNPO法人POSSEに寄せられた相談の一部を紹介する――。

※本稿は、今野晴貴・岩橋誠『外国人労働相談最前線』(岩波ブックレット)の一部を再編集したものです。

■人手不足が深刻な14業種で働く「特定技能」の外国人

日本はこれまで移民労働者を正面から「労働者」として受け入れるのではなく、留学生や技能実習生といった「サイドドア」を活用しながら対処してきました。しかし、技能実習の建前と現実の乖離(かいり)が問題になるにつれて、きちんと労働者として受け入れるべきだという機運が高まり、2019年4月、「特定技能」という在留資格のもとで、はじめて外国人を「単純労働者」として受け入れることになりました。

これは、人手不足が深刻な14業種(建設、宿泊、農業、飲食料品製造業、外食業など)に限定したうえで、最終的には期間制限なく滞在できるような仕組みです。一見すると、技能実習のような奴隷状態からは解放されるので問題なさそうですが、この制度のもとで働く外国人の環境もやはり劣悪だということが、POSSEに寄せられた相談から明らかになりました。

台湾出身のDさん(20歳代男性)は日本文化や料理に興味を持ち台湾の大学を卒業後、2017年に東京の日本語学校に入学。2年間日本語を学んだ後に、特定技能である外食業の試験を受けて見事合格。学校の紹介で見つけた神奈川県にあるレストランに採用されます。カレーやバーベキューなどが売りのこのレストランで、2019年4月から調理を担当することになりました。

■「日本の食文化に精通していない」から給料が低い

しかし、このレストランの労働環境は過酷で、毎日朝8時頃から夜22時頃までの長時間労働を強いられます。1カ月の残業時間は最長で105時間と、過労死ラインの月80時間を遥かに超えていました。しかし、これだけ働いたにもかかわらず、残業代は毎月固定で3万円しか支払われず、そもそも残業代が固定で支払われるという説明すら受けていませんでした。本件については、労働基準監督署が賃金不払いで労働基準法違反だと是正勧告を下しており、POSSEの支援を受けてDさんが加入した労働組合を通じて会社は未払い賃金の支払いを行いました。

このレストランでは、Dさん以外にもインドネシアやスリランカ出身の多くの外国人が調理や配膳の仕事をしていましたが、みな同じように残業代が支払われていませんでした。そのうえ、Dさんによれば、調理という同じ仕事をしているのに、「日本の食文化に精通していない」という理由で外国人だけ「日本人」よりも給料が低くなっているということです。

これは労働基準法第3条の国籍による差別や同一労働同一賃金の原則に反している可能性が高いのですが、会社は「問題はない」と主張しています。このような外国人に対する賃金差別はDさんの働くレストランだけでなく、工場やコンビニなどでも確認されています。

■劣悪だった労働環境がコロナ禍でさらに悪化

Dさんの事例は、新型コロナウイルスの感染拡大とはあまり関係がありません。メディアでは、コロナによって仕事や住まいを失い悲惨な状況に置かれた外国人がクローズアップされることが多いのですが、そもそもコロナ以前から労働環境は劣悪であり、人権侵害が蔓延していました。

そこに起こったコロナ感染拡大は、劣悪だった外国人の労働環境をさらに悪化させる方向に向かいました。POSSEへの相談件数は急増し、2020年2月までの1年間には年間50件ほどだった相談件数が、2020年度は464件と、約9倍に増えました。やはり大半がサービス業で働く労働者からで、コンビニやスーパー、飲食店で働く留学生や、休校になった語学学校の講師、そしてインバウンド観光客向けのツアーガイドやホテルのフロントなど観光、宿泊業関連からの相談がほとんどでした。

相談者のうち85%は非正規もしくはフリーランスで、正社員はほとんどいません。また、相談者の在留資格や国籍はバラバラですが、「就労ビザ」を持っている人からの相談が一番多く、次に留学生、そして技能実習生、中には難民申請中の人からの相談も寄せられました。

やはりこれらの業種では、客足が遠のいたことで店舗が閉鎖されたり、労働者のシフトがカットされたことで給料が減ったり解雇されたりして生活に困窮しているという相談が目立ちました。ただし、次に見ていくように、その過程で企業側が本来果たすべき責任を無視して、都合よく外国人労働者を「使い捨て」にしている現状がありました。

暗い部屋で頭を抱えて座り込んでいる男性
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■バイトのシフトがゼロになり、学費が支払えない

埼玉県に住むスリランカ人のEさん(20歳代男性)は、自動車整備士になることを目指して2年前から留学生の資格で専門学校に通っています。毎月の家賃と学費を支払うために、都内の大手ファミリーレストランチェーンでアルバイトをしており、週25時間ほど働いて毎月10~12万円ほど稼いでいました。家賃と学費を支払うと手元に残るお金は少なく、ギリギリの生活を送っていましたが、あと1年で学校を卒業して整備士として働くことが決まっていました。

しかし2020年4月、状況は一変しました。緊急事態宣言を受けて、このファミリーレストランは全店閉鎖を決めます。もともと3月の時点でお客さんがかなり減っており、Eさんはシフトの一部をカットされていましたが、4月以降は店自体がやっていないということで、シフトは完全にゼロに。このままでは家賃も学費も支払えなくなるので、Eさんは店長に休業時の補償についてLINEで問い合わせましたが、返事はありません。

すでに翌年からの就職先も決まっていたEさんはなんとか今年の学費さえ支払えればよかったのですが、そのあてもなくなり、学校からは学費支払いの催促電話が来ていると困っていました。

■休業手当を支払わない大手ファミレスチェーン

本来であれば、この会社はEさんに対してシフトが減った分の賃金を補償する義務があります。海外の法的拘束力を持つロックダウンとは異なり、日本の緊急事態宣言下では、店舗を閉めるかどうかはその会社の判断に任されているので、会社の判断で休業したのであれば、少なくとも労働基準法第26条の定める休業手当を支払う義務が生じます。

もちろん、企業経営自体が難しくなっている可能性もありますが、そのような場合でも雇用調整助成金という国の補助金を使えば解雇ではなく、休業手当を支払いながら雇用を維持することができたのです。

この補助金は国籍や在留資格、雇用形態などに関係なく適用されますので、外国人のアルバイト労働者であるEさんももちろん対象です。しかしこの会社は、外国人そしてアルバイトであることをいいことに休業手当についても雇用調整助成金についても曖昧にしたままやり過ごそうとしたのです。

■「特定技能」はどの業界でも働けるわけではない

派遣社員として都内のアパレル店で働くモンゴル人のFさん(20歳代女性)は就労ビザを得て2年ほど前からこの派遣会社と雇用契約を締結して、朝9時から夜6時まで週5日働いていました。語学力を活かしたインバウンド観光客向けの接客や通訳が主な業務でした。当初の契約書には「期間の定め:なし」と書かれており、ファッションに関心があったFさんはこの仕事が気に入り、できるだけ長い間働きたいと思っていました。

しかし、緊急事態宣言が発令される直前の2020年3月頃から、週5日のシフトが週4日に減り、Fさんの給料も減りました。そして4月にはシフトがほとんどなくなり、4月半ばに会社から「この店舗の仕事はもうない。別の派遣先も見つかるかわからない」と言われ、転職活動を行うよう勧められました。

とはいえ、インターネットで調べても他の店舗も同じように休業しているか時短営業をしており、新規採用をしている企業はほとんどありません。また、Fさんの在留資格では就くことができる仕事が決まっており、仕事であれば何でもいいわけではありません。もし別の業種に転職する場合は、在留資格そのものを変更しなければいけません。そもそもコンビニや工場などの「単純労働」には就労ビザは下りませんので、いくらこれらの業界が人手不足だったとしてもFさんには関係がありません。

■雇用調整助成金の活用をためらう企業が多い理由

困ってしまったFさんは、同じくコロナで仕事を失ったモンゴル人の友達から紹介されてPOSSEに相談しました。話を聞きながら、そもそもこの派遣会社も前述の「雇用調整助成金」を使わずに解雇しようとしていることがわかりました。この制度を使えばFさんはこれまで通り給料を受け取ることができ、かつ会社の負担はそもそも生じなかったのです。

しかし、国から企業へ補助金が支払われるまでに数カ月のタイムラグがあるため一時的に立て替えないといけないことから、この制度を活用しない企業が多く存在します。特に外国人の場合はこのような制度について知らないだろうと高をくくって、すぐにクビにしたり、無給で休むよう命令したりしている企業は少なくありません。

人型の絵が描かれたパズルピースがひとつ外れた解雇のイメージ
写真=iStock.com/tadamichi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tadamichi

Fさんが労働組合に入って会社と団体交渉をした結果、当初会社は「仕事がない」と渋っていましたが、契約期間が残っており、また雇用調整助成金を使うことができるにもかかわらず解雇している点が法的に不利だと判断して、Fさんが職場に復帰することを認めました。

■「いつでもクビにできる」非正規の外国人労働者

これらの事例を見ていくと、2つのことがわかります。1つは、コロナウイルスはあくまできっかけに過ぎなかったことです。賃金不払いや解雇といった労働問題やその結果としての生活困窮はコロナ以前から蔓延しており、常に外国人は弱い立場に置かれていたことがわかります。

もともと外国人労働者の多くは非正規で、POSSEに相談した外国人のうち85%は期間の定めのある雇用、つまり非正規雇用でした。企業側は「有期雇用であるのは日本に滞在できる上限期間が決まっているから」と主張しますが、ではその期間いっぱいまで契約期間を定めているかというとそうではなく、単に「いつでもクビにできる」状態を作るために1カ月などの細切れ雇用にしています。

かつ、日本では企業はアルバイトや契約社員といった、特に女性の多い非正規労働者から解雇していく傾向にありますが(*1)、外国人労働者は「非正規」であるがゆえに差別され、さらに外国人であるがゆえに非正規の中でも劣位に置かれ、真っ先にクビ切りやシフト削減の対象となっています。

この事実は国の統計からも明らかです。外国人に関して、2020年5月から7月までは、新たに仕事を見つけた人の数よりも離職者の方が多く、外国人労働者が就くことができる仕事が減ってきていることがわかります。

そのうえ、例年30%台で推移してきた事業主都合での離職率(退職者のうち、本人都合ではなく解雇など会社側に理由があって辞めた人の割合)が、2020年4月には57%、7月には69%にまで上昇していることを踏まえると、多くの外国人労働者がコロナ禍で会社によってクビにされたということが明らかになっています(*2)

加えて、就職率は日本国籍の労働者よりも15ポイントほど低くなっている状況をみると、コロナ禍で外国人は辞めさせられやすく転職しづらい、悲惨な状況に置かれていることがわかります。

■何十年働いても日本人労働者の賃金に追い付けない

また給料面での差別も深刻です。厚生労働省の2020年「賃金構造基本統計調査」によれば、正規労働者(25~29歳)の平均賃金が24.9万円、非正規(同)が20.2万円に対して、「特定技能」で働く外国人(平均年齢28.1歳)は月額17万4600円、技能実習生(平均年齢27.1歳)の場合は月額16万1700円に留まっていました。

今野晴貴・岩橋誠『外国人労働相談最前線』(岩波ブックレット)
今野晴貴・岩橋誠『外国人労働相談最前線』(岩波ブックレット)

さらに、一般労働者の給料を1とした場合、外国人労働者の給料は勤務開始時に0.94とすでに格差があるだけでなく、勤続年数に応じてその差が広がっていき、勤務10年以上の場合、0.73にまで格差が開いています(*3)

ここからよく言われる「外国人労働者の賃金が低いのは勤務年数が短いから。新入社員は皆、給料が低い」という説の誤りは明白です。外国人労働者は何十年働いても、「日本人」労働者と同じ賃金にはならないのです。Dさんの働いていたレストランのように、同じ仕事をしていても外国人だけ有期雇用でかつ給料が低いといった雇用差別が日本中に蔓延しているのです。

■労働基準法が禁じる国籍差別が蔓延している

日本の労働基準法では国籍などに基づく差別が禁止されていますが、実際の雇用現場では差別が蔓延しています。賃金面のみならず、ケガや病気のリスクが高い仕事に外国人労働者のほうが多く従事していることも明らかになっています。特に製造業や建設業においては、外国人労働者が「日本人」労働者の約2倍の割合で労災に遭っています(*4)。つまり、全体的にみても、外国人労働者はより危険で低賃金の仕事をあてがわれているのです。

そしてコロナによって明らかになった2点目は、企業側は違法性を認識しながら、それでも外国人に対する雇用責任を果たそうとしなかったことです。前述の雇用調整助成金を活用すれば、技能実習生やアルバイトの留学生も含めて、無給で休ませることや解雇する必要はありませんでした。

むしろ、雇用調整助成金を活用せずに解雇してしまうと、労働契約法の定める合理的な理由による解雇に該当せず不当解雇と判断される可能性もあったのですが、それでも一方的にクビを切っていたのです。

(*1)竹信三恵子・蓑輪明子・今野晴貴「コロナで顕在化した日本の女性差別をどう乗り越えるか――市場化される公共サービスとケアワーク、そこでの労働運動の役割」『POSSE』vol.47。
(*2)厚生労働省「外国人雇用対策の在り方に関する検討会中間取りまとめ」(2021年6月28日)。
(*3)同前「外国人雇用対策の在り方に関する検討会中間取りまとめ」。
(*4)今野晴貴「「墜落死」、「腕切断」も頻発 技能実習生の労災死傷は「2倍」!」2021年5月15日。

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今野 晴貴(こんの・はるき)
NPO法人POSSE代表
1983年生まれ。仙台市出身。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。中央大学在学中に立ち上げたPOSSEを拠点にこれまで2万件を超える労働・生活相談にかかわる。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。著書に『ブラック企業』(文春新書)、『生活保護』(ちくま新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)など多数。

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岩橋 誠(いわはし・まこと)
NPO法人POSSEスタッフ
1989年愛知県生まれ。中高7年間をアメリカで過ごす。日本帰国後に起こったリーマンショックと「年越し派遣村」などに衝撃を受け、大学入学後、労働相談ボランティアとしてNPO法人POSSEにかかわり始める。2019年4月に「外国人労働サポートセンター」を発足させ、日本で働く外国人の労働相談に乗っている。北海道大学公共政策学研究センター研究員。共訳書に『ジェネレーション・レフト』(堀之内出版)。

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(NPO法人POSSE代表 今野 晴貴、NPO法人POSSEスタッフ 岩橋 誠)

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