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社員には内緒「年収4000万円と300万円が同じチーム」同期会で給与額を聞くのはもはやタブーだ

プレジデントオンライン / 2022年6月7日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monstArrr_

日本では同期入社は長らく横並び賃金が標準だったが、1990年代後半から「成果主義賃金」が導入された。あるIT関連企業における40歳の同期入社の年収分布を見ると「最低400万円、最高1500万円。600万円以下が3分の1、600万~800万円が3分の1、残りは800万円以上」と完全に分散していた。ジャーナリストの溝上憲文さんは「もはや同期会で相手の給与額を聞くのはタブー視されている」という――。

■同じチーム内の格差が大きいと満足度が下がる

日本プロ野球選手会が今季の12球団の日本人選手の年俸調査結果を発表した。開幕時の選手の平均年俸は前年比3.3%増の4312万円と過去最高額となった。

会社員にとっては金額もさることながら、今年2%程度だった春闘の賃上げ率を上回る3%台もうらやましい限りだろう。

球団別の平均年俸額のトップ3はソフトバンクの7002万円、巨人の6632万円、楽天の6035万円。この3球団は昨年と同じ順位だ。4位の西武は4330万円で2000万円弱の差があり、最下位の日本ハムは2817万円と球団間で大きな格差がある。

また、成績で年俸が決まるプロ野球の世界は選手間の年俸格差が激しいことで知られ、もはや平均年俸は実態を表している数字とはいえない。

よく使われるのが集団の分布の中央にくる「中央値」だ。今年から中央値が出されているが、トップのソフトバンクは1800万円、巨人は2000万円、楽天は1150万円となっている。この金額の選手が比較的多く、いかに選手間の格差が大きいかを示している。

興味深かったのは、今年から公表された「契約更改満足度調査結果」だ。それによると平均年俸額2位の巨人の満足度(満足・大きく満足の合計)は23.68%で11位、3位の楽天も26.56%で10位と満足度が極めて低かった。

この結果について選手会の「球団間の格差もあるが、球団内の格差もかなりあると感じている。この調査結果からいろいろ変えていければ」とのコメントが報道されている。

もちろん平均年俸1位のソフトバンクは満足度も55.07%で1位という例外もあるが、巨人と楽天は満足していない選手が4人中3人以上もいることになる。

逆に平均年俸3077万円、中央値1800万円で格差が比較的小さいロッテは、満足度が41.07%(5位)と高い。つまり、球団内の年俸格差が大きいと選手の満足度が下がる傾向にあることを示唆しているように思われる。

■社内の給与格差の拡大が働く意欲に大きな影響

一般的に給与の満足度が下がると、仕事に対するモチベーションも低下しやすい。

実は企業でも「脱年功賃金」のジョブ型人事制度を導入する企業や成果主義の強化を打ち出す企業が増えているが、社内の給与格差の拡大が働くモチベーションに影響を与える可能性もある。

本来、本人の能力や成果で給与が決まるのは当たり前と言われるが、日本の企業は同期入社であれば横並びの賃金を長らく支給してきた。唯一の基準は勤続年数や年齢だった。その背景にはチームワークなど集団主義的働き方の重視や、そもそも「成果とは何か」という厳密な定義や指標がなかったこともある。

そうやって染みついた同質性のメンタリティと衝突したのが1990年代後半から流行した「成果主義賃金」だった。2000年当初、成果主義を導入した大手自動車メーカーの人事担当者はこう言っていた。

「本社部門と総合職に導入したが、製造現場では猛反対された。その理由を聞くと『同僚と10円違うだけでも、なぜなんだ、と文句が出る。チームの和を乱すのでそんなものは入れないでくれと』と言われた。また、若くても早期に昇格できるようにすると、職長クラスの技能者が自分の地位が奪われるかもしれないと恐れて、後輩を指導しなくなるとも言われた」

徒弟制度の雰囲気を残し、職人肌気質の人が多い製造現場では毎年の査定で給与が増減する仕組みは職場の秩序を乱すものとして忌避されたのである。

給与格差の概念
写真=iStock.com/francescoch
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/francescoch

実は製造現場だけではなく、最近、似たような話を知人から聞いた。大手IT企業がAIなどに詳しい若手のデジタル人材を、現在の給与制度と別枠にして年収1000万円で募集した。しかし、それでも人材が集まらない。加えて既存の社員から反発を招くという予想外の事態も発生した。当然、自分たちより給与が上回ることになり、不満が噴出し、モチベーションが低下するなどの職場の雰囲気が悪くなったという。

日本の伝統的大企業は今でも年齢や勤続年数にこだわる意識が払拭(ふっしょく)されていないことを改めて感じた。

■戦慄の40歳同期の年収分布、上は1500万、下は400万

ところが、すでに社内の給与格差が広がっている実態もある。IT関連企業の人事部長は「今では平均年収は何の意味もない。中央値で見ないと実態はわからない」と言う。

「40歳の同期入社の年収分布を見ると、最低が400万円、最高が部長職の1500万円。600万円以下が3分の1、600万~800万円が3分の1、残りは800万円以上と完全に分散している。すでに年齢による比較が無意味なほど給与の格差が広がっている」

ただし、格差が広がっているとしても年収600万円以上が3分の2もおり、最高額の社員は平均年収の2.5倍である。

プロ野球選手との単純な比較はできないが、巨人の日本人の最高年俸額は6億円が2人、4億円台1人、3億円台1人、2億円台1人、1億円台3人の計8人いる(プロ野球データFreak)。巨人選手の中央値2000万円の5~30倍になるが、一般企業で社内の同世代に、仮に10倍を超える社員がいたら何となく腹が立ってきそうな感じもしないではない。

実際に10倍を超えている企業もあるだろうが、実はプロ野球選手と違い、日本企業は社員の年収を公開していない。有価証券報告書には「平均年収」の記述があるが、前述した同期・同年齢、役職間の年収分布については自社の社員にも教えていない。

新聞の見出しに「格差」の文字
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

大手ゲームソフト会社の元人事担当者はこう語る。

「役職に就いていないクリエイターでも年収3000万円、4000万円以上をもらっている人が少なくない。一方、若手の社員は年収300万~400万円程度。ゲームソフトの開発はチームで行うので、300万円の社員と4000万円の社員が一緒に仕事をしている。会社としてはもちろん給与を公開していないし、高年収の社員にもいくらもらっているのか口外しないようにと暗に言っている。もし、給与の実態を知ったら、あまりの格差に驚いて不満を抱くことになる。自分の年収が先輩の10分の1以下なんだとわかってしまうと、働く意欲に影響を与えるのが怖い」

クリエイターの年収には開発したゲームの売上高で決まる成果報酬も含まれている。したがって年収の増減も激しいという。

年収が低い社員が、高い社員の数字にはきちんとした裏打ちがあると理解しても、10倍の年収格差があるとモチベーションダウンするのではないかと人事部は気にしている。

■同期会では「給与いくら?」と聞くことはもはやタブー

一般の企業でも同世代の給与は口コミでしか知ることができないが、例えば同期会などでは給与をいくらもらっているかを聞くことがタブー視さえされている。

同期の出世頭に年収を聞いてショックを受けたくないという防衛本能だという声もあるが、それだけ給与の格差を気にしているということだろう。

ジョブ型人事制度(職務給制度)を導入する目的は、前述した脱年功賃金と並んで、外部の優秀な中途人材の確保もある。制度導入で外資系企業のように年収2000万円、3000万円で雇ったとしても、これまで述べたような企業風土で他の社員もチームワークを保ちながら仕事ができるのだろうか。

ちなみに韓国のサムスン電子の国内従業員11万人の2021年の平均年収は1440万円に達したという。しかしこれもあくまで平均であり、給与格差は相当激しいはずだ。5年前に取材したときは1億円以上もらっている管理職も少なくない一方、一般の社員は平均500万~600万円ということだった。

ドル札が舞う中、両手を広げる若い実業家
写真=iStock.com/CreativaImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CreativaImages

韓国企業は1997年の通貨危機以降、従来の日本式の年功序列賃金から成果主義に大きく舵を切った。当時のサムスン電子のオーナー会長の李健熙(イ・ゴンヒ)氏が言った「1人の天才が1万人を救う」という言葉に象徴されるように完全実力主義が貫かれ、今では定着しているのかもしれない。

今後訪れる給与格差拡大の時代に日本人は耐えられるだろうか。最低限必要な措置は、最低年収でも生活できる所得が保障されること、もう1つは成果の指標が明確で、人事評価と給与の納得性が得られることだろう。それでも格差が10倍を超えるとマイナスの効果しか得られないかもしれない。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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