「私を絶対に奥さんと呼ばないで」米国の24歳女性が新婚の日本人夫に強く言い聞かせた理由
プレジデントオンライン / 2022年6月21日 13時15分
■日本について学ぶ米国人はどう見ている?
日本ではこの春、大手企業幹部の発言や新聞広告で、女性蔑視や性差別と批判され炎上する出来事が相次いだ。2021年版世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で156カ国中120位だった日本に対し、前回から大きく順位を上げて30位に躍進したアメリカではまず考えられないものばかりだ。
そんなアメリカで暮らす若いZ世代の目には、日本で起きている一連の炎上騒動はどう映っているのだろう。もしかすると私たちが気づかない視点で、モヤモヤの霧を晴らしてくれるのではないだろうか。そう思い立ち、筆者が主宰する「ニューヨークフューチャーラボ」で、日本での炎上トピックをテーマに座談会を開催した。
お断りしたいのは、ラボのZ世代はそれぞれが日本に何らかのルーツを持ち、日本語や文化について勉強している、少なくとも日本に対する親しみや愛が深いアメリカ人だということだ。だからこそ厳しい意見も出ることを踏まえて読んでいただけたらと思う。
今回参加したのは、シャンシャン(21歳)、ケンジュ(22歳)、ノエ(22歳)、メアリー(24歳)、ヒカル(25歳)の5人だ。
■「“女子高生”という言葉は日本ならではの意味がある」
まず議題に上がったのは、日本経済新聞が4月に掲載した、比村奇石氏の漫画『月曜日のたわわ』(講談社)の全面広告。胸の大きな女子高生の日常を描くマンガで、胸の強調されたキャラクターデザインや、電車で知り合った会社員男性に対し、性的なニュアンスの言葉や態度で挑発するストーリーなどが「新聞広告としてふさわしくない」と批判された。
ネットでは、作品の広告掲載によって「未成年への性暴力を肯定している」「性差別や痴漢を助長している」という意見が殺到し炎上。国連女性機関が日本経済新聞に抗議文を送るまでに発展した。一方で「漫画の表現の自由を守るべき」との声も上がっている。
今回興味深かったのは、アメリカZ世代の反応から日米の明らかな違いが見えたことだ。メンバーのノエ(22歳)はこう指摘する。
「“女子高生”という言葉は、日本ならではの意味を持っているよね。大人が女子高生に対してセクシーな夢を抱くというのは、日本文化の特徴の一つだと思う」
■「女子高生ブランド」は日本だけ
確かに日本語で「女子高生」を画像検索すると、多くは普通の制服姿や漫画のキャラクターが出てくるが、短い制服のスカートからのぞく太ももや脚にフォーカスした写真も目立つ。中には「見知らぬ女子高生に監禁された漫画家の話」というライトノベルのイラストも入ってきた。
言わずもがな、日本では女子高生がアニメや漫画の枠を超えた売れるコンテンツとして、ある意味ブランド化されている。“JKブランド”という言葉もあるくらいだ。しかし、こうした女子高生ブランドという概念はアメリカにはないし、「女子高生」というコンセプトすら存在しない。あくまで高校生の女子、男子というだけで、女子に限って特別な意味合いもない。
その背景には未成年に対するアメリカと日本の考え方や、法律の違いがある。
アメリカで未成年が取り沙汰されるのは、多くが高校生と教師の性的な関係だ。これはいくら当事者がそのつもりであっても、歳の差を超えた恋愛とは解釈されない。対象年齢は各州法によって変わるが、法律上は成人が未成年とセックスしたら、同意の有無にかかわらず、強制性交の罪で成人が逮捕される。
■性的な表現は漫画やアニメであっても禁止
この年齢は日本では性交同意年齢とも言われ、アメリカではほとんどの州で16~18歳と定義している。この法律は子供を対象にした性犯罪から子供を守るのが目的で、高校生(15~18歳)も対象に入ってくる。ちなみに日本では性交同意年齢は13歳になっており、もっと引き上げるべきという声が出ている。
子供に関するコンテンツも規制が厳しい。アメリカでは、未成年が登場するチャイルドポルノは、実写だけでなく漫画やアニメに関しても禁止されている。それに比べ、日本では実写のみが規制されているという違いもある。
以上を踏まえると、『月曜日のたわわ』のような漫画に描かれる成人男性と女子高生の関係は、いくら性行為がなくても、未成年に対し性的なファンタジーを抱かせるような内容の時点でアメリカでは認められないだろう。メジャーな新聞社も広告を掲載することはあり得ないし、高校生とはっきり分かる制服を着た女の子を性的な対象として見ること自体、一般社会で受け入れられない。
一方で、驚くような意見もあった。メアリー(24歳)は、こうした日本の漫画やアニメの表現は、性暴力の肯定だと一刀両断できないのではないかという。
■「日本の文化は行くところまで行っている」からアリ?
「はっきり言って、日本の文化はもう行くところまで行っちゃっていると思っている」
メアリーは日本のサブカルチャーに詳しく、コロナ前は何度も日本を訪れていた。一例としてドアノブを性的な対象にしている日本の漫画を挙げ、「あらゆるものが性的な対象になりえる日本では、『月曜日のたわわ』はそんなにおかしくないのでは?」と言うのだ。
そんな彼女も、今回の広告に関しては「新聞に載せるのはふさわしくなかったと思う。朝の電車に乗っている人たちが、変な想像をしてしまったりするだろうから」と反対するものの、「『癒やし系』の漫画自体は存在してもいい」と主張する。
例えば、リムコロ氏の漫画『世話やきキツネの仙狐(せんこ)さん』(KADOKAWA)は、狐耳の女の子が、男性の家に住み着いて彼の世話をする物語だ。特に性的な意味を持つ漫画ではないが、「主人公(の男性)が仙狐さんのしっぽに触りたがるシーンがあり、見方によっては性的に見えるかもしれない」(メアリー)とした上で、「こういうものまで禁止してしまったら、人々は癒やされる場所をなくしてしまうのでは?」と疑問を投げかける。
■校則で「ポニーテール禁止」はありえない
確かに、こうしたグレーゾーンこそが日本のポップカルチャーの強みという考え方もある。自由な表現に裏打ちされた日本の漫画・アニメは、他国にはないクリエイティブなコンテンツとして、高い評価を受ける作品も数多いからだ。
一方で性的な、時には変態的なニュアンスを含むものも同時に存在している。それをメアリーのようなアメリカ人ファンはよく理解しており、良い悪いの評価を下す前に、日本文化の一つとして受け止めている。彼らにとってはそれが今の日本のリアルな姿なのだ。
もう一つ、『月曜日のたわわ』の話題に派生して、興味深い意見が出た。日本とアメリカとの校則の違いである。
日本でしばしば炎上する「ブラック校則」は、アメリカのネットでもちょっとした話題になっている。少し前は白い下着や黒髪の強制、そして今はポニーテール禁止がYouTubeを中心にネットに上がってくるようになった。シャンシャン(21歳)は語気を強めて抗議する。
「日本の一部の高校では女子のポニーテールが禁止されているそうだけれど、その理由がポニーテールでうなじを見せると、男子を性的に刺激するからって、ありえない!」
この校則にはシャンシャンを含め、皆がかなり驚いた。なぜならアメリカの高校には基本校則がない。生徒の服装に学校が口を出すのは自由の侵害であり、もし未成年であれば、子の風紀管理は親に権限があるからだ。
■学校では禁止なのに、外ではブランド化する矛盾
実は、髪型ではないがアメリカでも似たような論争が時々起きている。一部の数少ない高校では、服装ルールで女子のタンクトップを禁止している。肩を見せるのは挑発的だというのが理由で、性的という意味では日本のポニーテール禁止に似ている。男性が興奮するのは男性自身に原因があるのではなく、刺激した女性のほうが悪いという考え方が根底にあり、女性に対する差別につながると批判されている。
しかし、シャンシャンがポニーテール禁止に憤慨する理由はもう1つある。
「日本では校則ではダメでも、エンタメの世界ではポニーテールは人気がある。例えばAKB48の『ポニーテールとシュシュ』では、ポニーテールで踊るダンスがかなりセクシーに見える。未成年のメンバーもいるのになぜエンタメの世界では許されて、高校生はダメなの? それって矛盾していない?」
つまり、エンタメや漫画も含め、商業的には女子高生に性的なニュアンスを加えてブランド化しているのに、校則では許さないのがダブルスタンダードだと言っているのだ。
これにはまいった。私たちがポニーテール禁止にモヤモヤしたものを感じるのは、同じ女子高生でも、校門の中では男性を刺激してはいけないと規制されるのに、校門を一歩出れば逆に男性を刺激するためにブランド化されるという、いびつな二重構造のせいだったということに、改めて気付かされる発言だった。
最後になるが、今日本で議論になっている、夫婦の呼び方についても聞いてみよう。
■日本人夫に「絶対に奥さんと呼ばないで」
メアリーは、ラボメンバーで日本人のヒカルと結婚したばかりだが、ある日彼にこう言ったという。
「私を絶対に奥さんと呼ばないで。妻と呼んで」
メアリーは中学校時代から日本語クラスをとっているが、授業でこう教わったという。「奥という言葉を使うのは、妻というのは台所、つまり家の奥のほうにいると考えられていたから。そして旦那や主人が所有している家の中に、子供たちといるから」
同じように大学で日本語を受講しているシャンシャンはこう言う。「奥さん、旦那さんという言い方は、誰かに所有されているという感じがすごくする。なぜそう感じるかというと、芸者についてリサーチした時、芸者は主人に所有されていて、主人のことを“旦那さま”と呼んでいたと学んだから」
■ワイフ、ハズバンド以外の呼び方は?
確かに主人も旦那も、元々は自分が支えている目上の人に対する呼び方だ。つまり逆にいうと、妻である女性を下に見た、蔑視的な呼び方と言われても仕方がない部分がある。こうした言い方をするのに抵抗を感じ、「妻」「夫」、または「パートナー」というような、上下関係を一切排除した呼び方だけを使う若い日本人も出てきている。
実際、この座談会を放送しているInterFMのラジオ番組「Sensor」パーソナリティであるDJ Cartoonも、やはり新婚の妻に「奥さんではなくパートナーと呼んで」と言われたそうだ。
ちなみにアメリカには妻、夫に当たる言葉はワイフとハズバンドしかない。配偶者を呼ぶ時の言い換えとしては、「Better half(優れた片割れ=夫婦は2人でひとつという考えから)」「Significant other(大切な相手)」といった、妻や夫を尊重する表現を使うのが一般的だ。間違っても「愚妻」などとは言わない。言葉狩りだと片付けるのも簡単だが、長いこと使われてきた言葉からは、過去のしきたりや価値観が染み出している。それが今どんどん世界に知られているのもまた事実だ。
一連の炎上トピックは、座談会で結論が出るような問題ではないが、日本の外から俯瞰し、そして人権や平等など社会問題に敏感なアメリカZ世代だからこその視点は、他にはない興味深いものだったのではないかと思う。皆さんはどう感じただろうか。
本稿は、東京のラジオ局Interfm「Sensor」内で放送された内容を記事として再編集した。公式サイトではアメリカZ世代の生の声がポッドキャストで聴けるので、ご興味のある方はぜひご覧いただきたい。
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ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。
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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ、NY Future Lab ミレニアル・Z世代研究所)
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