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知床の観光船事故…鈴木宗男「外務省が海上保安庁に一元的に任せたのは大きな間違い」

プレジデントオンライン / 2022年6月16日 13時15分

撮影=原貴彦

北海道・知床半島沖で起きた観光船「KAZU I(カズワン)」の沈没事故。事故の原因は何か。事故発生後にすぐに行うべきだったことは何か。北海道出身で北海道の地域政党「新党大地」代表でもある参議院議員の鈴木宗男氏は「知床の海に甘い考えは通用しない」「外務省が海上保安庁に一元的に任せたのは大きな間違い」という――。

■斜里町ウトロの対策本部で、私が見たもの

4月23日、乗客24人と乗員2人を乗せた観光船「KAZU I(カズワン)」が、北海道・知床半島の斜里町側の沿岸で沈没しました。14人がなくなり、12人が行方不明のままです(6月15日現在)。何より、一日も早い発見を願います。

事故から1週間が過ぎるのを待って、私は斜里町ウトロの役場支所に置かれた対策本部を訪問しました。すぐに飛んで行きたかったのですが、捜索で慌ただしい中、迷惑をかけてはいけないので、少し時間を置いたのです。

国交省、海上保安庁、自衛隊、北海道庁、北海道開発局、北海道警察、斜里町役場、漁協関係者、消防団、観光船同業者の皆さんが、捜索や乗客のご家族の対応に、大変な尽力をされていました。特に斜里町役場の職員が、連休返上でローテーションを組んで詰めていたのには、頭が下がりました。

■お話を聞いて、ただただ涙がこみあげた

捜索を見守るご家族にもお会いしました。皆さんは、「KAZU I」の運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長の弟が経営している民宿に泊まっていたんです。そこには北海道警察、役場の皆さんも相談相手ということで詰めていました。ご家族ごとに部屋が分かれていますから、役場の人に「鈴木宗男が来ていて、激励したいので、お会いできる方はいらっしゃいますか」と声をかけてもらったところ、3家族が会いたいとおっしゃってくださいました。

それぞれのお部屋へ行って、お話をしました。一人旅が好きだったご主人を亡くされた女性は、船が沈む直前に電話がかかってきたことを教えてくれました。「いま、足まで水が浸ってきた」という緊迫したやり取りが、最後だったそうです。ウトロ港の岸壁には、その男性の自動車がそのまま残されていました。お聞きしていて、ただただ涙がこみあげ、いたたまれなくなりました。

やはりご主人を亡くされた別の女性は、対策本部はよくやってくれていると労いながら、桂田社長に対する憤りを述べておられました。家族に向けた説明会でも、質問に対する桂田社長の答えはまったく的を射ず、ずれているというお話でした。もうひと家族の方は、再びこういうことが起こらないためにも、しっかり検証してほしいとおっしゃっていました。なぜこんなことが起きたのか、きっちりと検証していかなくてはいけません。

■知床は海底の地形が複雑で、海流が渦巻く場所もあり、天気も急変する

直接的な事故原因の解明はこれからですが、運航会社「知床遊覧船」と桂田精一社長の責任は次第に明らかになっています。

そもそも「KAZU I」は、瀬戸内海で運航させるために造られた船でした。穏やかな瀬戸内と外海は、同じ海でもまったく別物。船の仕様も、厚み、重心、耐久性など、設計から別にしなければいけません。まして知床は、海底の地形が複雑で、海流によっては渦巻く場所もあり、風や波のエネルギーはすさまじく、天気も急変します。「KAZU I」は、地域特性に合わせた船ではなかったのです。

【知床観光船事故】潮の流れは北方領土・国後島の西岸にも向かう
報道を基に編集部作成

行方不明になっている豊田徳幸船長は経験が浅く、どの辺りが浅く、岩がどこにあるかといった基礎知識もない。不安を口にすることもあったというこの人に船長を任せた責任は、会社側にあります。

事故当日は午後から海が荒れる予報が出ていて、漁船も出ていません。同業者が「今日はやめておけ」と忠告したのに、聞き入れられませんでした。「荒れたら戻ればいい」と判断して出航したそうですが、知床の海にそんな甘い考えは通用しません。

■知床の山や岬で電波が届かないことは、地元の人なら誰でも知ってる

陸との連絡方法もずさんでした。船舶安全法は、岸に近い限定した海域を運航する船に関する規則は緩やかで、通信手段は業務用無線、衛星電話、携帯電話のうちひとつあればいいとしています。携帯で構わないといっても、知床の山の中や岬の先では電波が届かないことを、地元の人なら誰でも知っています。ドコモが一番ましだと言われますが、豊田船長の携帯はauだったそうです。

事務所の無線のアンテナが折れていたのが話題になりましたが、実は問題ではありません。あれは仲間内で使うアマチュア無線のアンテナで、業務に使ってはいけないものです。

「KAZU I」には、緊急時に連絡を取る方法がありませんでした。海上保安庁への「エンジンが止まって自力航行できない」という118番(海上保安庁緊急通報用電話番号)は、船長の携帯からではなく、お客さんの携帯を借りての発信だったのです。

運行管理者は桂田社長ですが、必要とされる「船長として3年以上の経験」などの要件を満たしていないと報じられています。配置すべき運航管理補助者もいませんでした。桂田社長も豊田船長も素人だったため、天候が荒れると予想されたにもかかわらず、出航を強行したのでしょう。さまざまな負の連鎖が、悲劇に至ったのだと思います。

■なんというマンネリズム…国交省担当者に問いただした

同時に、こうした異常な運航を見逃していた国の責任を問わなければいけません。

小型船舶の検査は、日本小型船舶検査機構(JCI)が、国に代わって行っています。JCIは事故の3日前、豊田船長から自分の携帯電話を通信手段に使うという申請を受け、その場で認めていたそうです。

JCIは国交省の海事局が所管する団体で、全国に31カ所の支部があり、2020年度の検査対象船は31万8736隻。そのうち旅客船は、4694隻でした。ところが検査員は、なんと約140人しかいません。じゅうぶんな検査などできないことは、船の数と検査員の人数を単純に比較するだけで明らかです。

私はここに、実態を認識しない甘えの構造を見ます。命に関わる仕事であるにもかかわらず、書類を形式的に提出し、形式的に審査して決済する、というマンネリズム。5月2日に国交省の担当責任者に連絡して、こうしたずさんさをただしました。「ご指摘ありがとうございます。もうおっしゃるとおりで、大変甘かった」という話でした。「小型船舶検査機構は、あなた方の天下り先だろ」と尋ねたら、「そうです」という返事でした。国から予算をもらっている天下り機関なので、検査員を増やすことができないという立場に甘んじている。

この事故では国交省の責任も重いというほかなく、同じような事故が再発しかねません。お客さんにすれば、自分が乗る船を運航するのがどういう内実の会社か、知りようがないのです。会社側、行政側、それぞれに問題があったのですから、小型観光船の安全対策をめぐる制度の見直しを行うとともに、検査のあり方も見直さなくてはいけません。

北海道東部の知床半島に位置する知床国立公園は、オホーツク海に突き出ています
写真=iStock.com/azuki25
※知床半島に位置するフレぺの滝。 - 写真=iStock.com/azuki25

■オホーツク海の潮は、北方領土の国後島にぶつかることもある

知床は日本が誇る世界遺産であり、外国人もたくさん訪れる観光地です。私もウトロから知床岬を回って羅臼まで、天気のいい日に船で行ったことがあります。カムイワッカの滝や知床連山の景色は実に見事だし、野生のヒグマが歩く姿を眺められたりします。そして岬の先端を羅臼町側へ回れば、北方領土の国後島が目の前です。

遺体で発見された方のうち3人は4月28日に、その羅臼側で見つかっています。オホーツク海の潮は知床岬の先の国後島にぶつかって、羅臼へ回ることもあるのです。

5月6日と18日に国後島の西岸で見つかった女性と男性の遺体にも、乗船者の可能性があります。男性の遺体の近くでは日本の小型船舶の免許証とクレジットカードが見つかっていて、甲板員の曽山聖さんの名前と一致するそうです。DNA鑑定に必要な手続きを速やかに行って身元確認できるよう、私は外務省に要請しました。

この2人の遺体を見つけてくれた国後島在住のドミトリー・ソコフさんは、ビザなし交流事業で道内を訪れたこともある方です。感謝状なり謝意を表するべきだということも、外務省に進言しました。

結果論ですが、少しでも早くロシア側に協力要請をしておけば、捜索の結果は違っていたかもしれません。私は羅臼で遺体が発見された4月28日に、北方領土の水域へ流れてしまった方もいるに違いないと考え、ロシアのガルージン駐日大使に電話をかけて協力をお願いしました。ガルージン大使は非常に好意的で、「人道的な配慮をします。国の本省にも伝えます」と答えてくれました。

海上保安庁が、小樽の第一管区海上保安本部を通してウラジオストクの国境警備局に協力を要請したのは、事故の2日後です。外務省は5月2日になって海保からの要請を受け、ようやく捜索協力の依頼を行いました。

■ロシアに頼み事をしづらくても、人の命ほど尊いものはない

外務省は、ウクライナ情勢を巡って対立するロシアに頼み事をしづらいと考え、海保に一元的に任せていた。これも大きな間違いです。岸田総理がプーチン大統領に電話するなり、林外相がラブロフ外相に電話するなりして、人道的な観点からすぐに支援を頼むべきでした。人の命ほど尊いものはないからです。

私がガルージン大使に電話した時点でも、日本の外務省から連絡は来ていませんという話でした。しかしロシア側は、4月28日には亡くなった乗客のリュックサックを見つけたとか、救命胴衣を着用した漂流者を見つけたが、荒天で救助ができず、見失ってしまったとかいう連絡を、進んでしてくれるわけです。

人道的な対応をとってくれたことは、素直に感謝したいと思います。そして私が常々主張している、対話の大切さ、首の皮一枚であってもパイプを持っておくことの必要性が、裏付けられたと考えています。

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鈴木 宗男(すずき・むねお)
参議院議員/新党大地代表
1948年、北海道足寄町生まれ。拓殖大学政経学部卒業。1983年、衆議院議員に初当選(以後8選)。北海道・沖縄開発庁長官、内閣官房副長官、衆議院外務委員長などを歴任。2002年、斡旋収賄などの疑惑で逮捕。起訴事実を全面的に否認し、衆議院議員としては戦後最長の437日間にわたり勾留される。2003年に保釈。2005年の衆議院選挙で新党大地を旗揚げし、国政に復帰。2010年、最高裁が上告を棄却し、収監。2019年の参議院選挙で9年ぶりに国政に復帰。北方領土問題の解決をライフワークとしており、プーチン大統領が就任後、最初に会った外国の政治家である。

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(参議院議員/新党大地代表 鈴木 宗男 構成=石井謙一郎)

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