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なぜ北京―上海間の中国新幹線は1万円以下なのか…日本のリニア新幹線を大成功させるための究極アイデア

プレジデントオンライン / 2022年6月22日 10時15分

2020年3月25日、山口県下松市で報道関係者に公開された営業仕様第一世代「L0(エルゼロ)系」のリニア改良車両。 - 写真=時事通信フォト

日本経済の復活にはなにが必要なのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「私は『日本列島魔改造計画』を提唱したい。そのひとつは、リニア新幹線を国費で福岡まで開通させたうえで、JRに無償で払い下げるというものだ」という――。

※本稿は、鈴木貴博『日本経済 復活の書』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■立ち消えになった「12.5兆円」でできたこと

もし12.5兆円あったら、日本経済を復活させるためのどんな改造ができるでしょう。

「12.5兆円って何?」

と思うかもしれませんが、あれです。前回の衆議院議員選挙のとき野党がこぞって公約にあげた10万円の一時給付金の予算です。1億2500万人の国民に10万円ずつ配ったら12.5兆円になるわけです。

給付金が立ち消えになったのでその12.5兆円、他に使い道として魔改造に使えないかと思うのですが、そこでちょっと思い出してみたいのです。「日本列島改造論」のことを。

1972年、故田中角栄元首相が総裁選出馬直前に発表した「日本列島改造論」。

日本列島を新幹線と高速道路で縦横無尽に結び、地方経済を発展させ過疎の問題と公害を同時に解決するという大構想は、戦後日本がさらに発展するビジョンとして国民が大いに期待したものです。

角栄節として知られた有権者へのリップサービスではありましたが、選挙演説の際には「三国峠を切り崩して平地に改造すれば、冬の北風は太平洋に抜けて新潟は雪の降らない住みやすい土地に変わる」といった壮大な話も印象的でした。

田中首相時代には日本列島改造ブームが起きます。青函トンネルが完成したのは当時「金に糸目をかけずに掘れ」と総理が号令をかけたおかげです。ただその後、オイルショックとロッキード事件による田中角栄失脚が起き、日本列島の改造計画はスローダウンして現在に至ります。

■日本がダメになる前にリニアを大阪まで通すべき

近未来、2040年の日本が圧倒的かつ未来的に便利になるインフラの可能性が二つあります。

一つは日本中の道路をロボカーが走りまくる未来。そしてもう一つ、これが本稿で取り上げる魔改造なのですが、それは新幹線の倍速で主要都市間を結ぶリニア新幹線開発の加速です。

手始めに日本経済の発展を加速させるためにまだ建設が始まっていない名古屋から大阪に向かうリニア中央新幹線の残りの部分を、勝手に掘り始めてしまいたいと思います。

そもそもリニア中央新幹線は静岡県で建設が止まっているだけでなく、当面、完成しても名古屋止まりだという、日本経済の復活の目玉としてのもう一つのボトルネックを抱えている計画です。

リニア中央新幹線は日本の大動脈である東海道を一直線につなぐ高速鉄道のインフラでありながら、実はJR東海が自力で行う民間プロジェクトとして進んでいます。

東京―名古屋間の工費は約7兆円かかります。それを民間企業が捻出して予算の制約の中で少しずつ行うという事情から、まずは東京―名古屋間が2027年に開業し、それが大阪まで延伸されるのは現時点での予定では早くても2037年だと想定されています。

これが完成すれば東京―大阪間は67分で結ばれます。つまり日本経済の大動脈の時空間が一気に短縮されることになります。ところが開発スキームの問題からそれが遅れ始めている。日本経済全体が凋落した2040年頃にようやくリニアが全線開通するというのでは、日本列島改造論としてはじれったい話です。

ですから、東京―名古屋をJR東海が開発している間に、日本経済復活を加速するために名古屋―大阪間は国の予算で同時並行に完成させてしまおうというのが本稿の提案です。

■完成したら、JR東海に「無償で」払い下げるべき

その上でこれも日本経済活性化のためということで、完成した新幹線は無償でJR東海に払い下げましょう。

一見乱暴な話に見えますが、巨額予算をかけて無償インフラを作るというのが実は日本経済自体を魔改造するポイントです。

もともと給付金で消えるはずのお金ですから回収は考える必要はありません。ここでの最大の狙いは、リニア新幹線の乗車料金を東海道新幹線以下に安く設定することです。あくまで魔改造の目的は、日本経済復活にあるからです。

中国の新幹線つまり高速鉄道は料金の安さで知られています。ざっくり言えば日本の約3分の1の料金。北京―上海間は1万円程度で旅することができます。

「なんで安いんだ? ひょっとして適当に作っているんじゃないのか?」

と思うかもしれませんが、そうではありません。そもそも東海道新幹線が高すぎるのです。

■割高の原因は、そもそも国の払下げ金額にあった

今のJRは1987年の国鉄民営化で誕生しました。当時の国鉄はほぼほぼ全線大赤字で、このままでは立ち行かなくなるということで大改革が行われたのです。

ところが実はその大赤字の国鉄路線の中でも儲かって儲かって仕方がない路線が二つありました。それが山手線と東海道新幹線だったのです。当時のこの二つの路線の営業利益率は約50%、本来であれば料金半額でも元が取れる路線だったのです。

山手線は今では首都圏や中部関西圏の私鉄と比較しても安い運賃で乗ることができる、首都圏経済の動脈インフラになっています。ところが民営化にあたり国の借金を返す目的で、東海道新幹線は思いっきり高い価格でJR東海に払い下げられることになりました。その結果が今の東京―新大阪間が1万4720円という割高な料金設定につながったのです。

東海道新幹線に限らず首都高、東名高速道路など需要が多くて儲かる路線は、他の鉄道や道路を建設する財源として国は割高な価格設定を認可しています。結果としてたくさんの道路や鉄道が建設できるという利点はあったのですが、高い価格により利用者が減れば、結果として経済の発展が遅くなります。

このままJR東海が自力でリニア中央新幹線を建設すれば、東京―大阪間の価格は東海道新幹線よりも高くなりそうです。

「価値を考えれば片道2万円で構わないだろう」

というビジネス感覚もアリといえばアリですが、ビジネスではなく国のトップの視点で考えたとしたら、東京―大阪間67分の移動が中国並みの1万円で実現したほうが日本経済の復活スピードは加速するはずです。

だからこそ魔改造で開発するリニア新幹線はJR東海に無償で払い下げるべきなのです。

■残りの予算を四国延伸に使うべき2つの理由

さて、リニア中央新幹線の名古屋以西部分を仕上げたとして、最初に用意した12.5兆円の予算は結構余るはずです。では、どうするかというと残りの予算でさらに西へ、鳴門海峡を越えて四国にリニア中央新幹線を延伸したいと思います。

【図表1】リニア新幹線を四国を通って九州まで延伸する
出所=『日本経済 復活の書』

リニア中央新幹線の四国延伸案、実はこれが本稿における日本列島魔改造の魔改造たるゆえんです。

日本列島改造論当時に計画が立てられたまま、いまだに建設が実現するとは思えない四国新幹線ルート。大阪を出て徳島、高松を経由して松山に向かうのが第一ルート。そして途中から分岐して南の高知に向かうのが第二ルート。そしておまけに松山から大分ないしは広島、山口を経由して福岡(博多)まで到達する誰も想定していない第三ルート。

この3本のリニア新幹線を新たに建設し日本列島を魔改造してしまいましょう。

そんなことをして日本はどうなるのか。実は二つの魔改造の効果が生まれます。

まず第一に、中央・四国・九州リニア新幹線が完成することで東京―福岡が2時間20分でつながります。

つまり東名阪と福岡がほぼほぼ瞬間移動できる一つの経済圏としてつながる。そのことで、日本の大動脈の経済活動が大きく活性化することになります。

■移民受け入れで増える人口を拡散させる“改造”が必要

そして、もう一つの効果のほうが実は重要です。

新たに利便性が高まる徳島、高松、松山、高知など四国の各都市圏が、日本の新しいフロンティアの地として機能することになるのです。

日本の人口は減っていく一方だと思われがちですが、実は私は移民の受け入れにより1億4000万人まで増やせると考えています。

しかし、日本の人口を首都圏一極集中させて1億4000万人を吸収していくのでは、東京圏がさらにごみごみする上に、東京の不動産価格が高騰して庶民には住みづらい未来都市が生まれてしまいそうです。

ですから日本の人口を増やす計画は、方向性としては地方分散、地方創生が前提にあったほうがいい。実際にコロナ禍でリモートワークが進んだ関係で、地方に住みたいという人が増え始めている良い傾向が存在しています。

そこで着眼すべきことは、今よりもずっと便利な地方都市を人工的かつ同時多発的に作る魔改造です。そうなればそれらの土地は日本経済にとっての開拓フロンティアになるはずだという設計思想です。

そこで四国に注目するのです。

■これまで四国経済が滞っていた原因はインフラにあった

四国の徳島、高松、松山は本来であれば温暖で暮らしやすい瀬戸内気候の地でありながら、1970年代に山陽新幹線が開通した中国地方と比べてインフラ開発が遅れ、相対的に経済が沈滞傾向にありました。

悲願としての3本の本州四国連絡橋によってようやく対岸と地続きになったわけですが、それはあくまで神戸、岡山、尾道、広島との距離が短くなったという話。東名阪と直結する瀬戸内の中国地方の各都市のほうが経済発展に有利だったことには変わりがありません。

1950年代から現在に至るまでの各県の発展を比較すると、確かに中国地方に比べ四国のほうが経済発展が抑えられています。しかし、私が要因分析してみたところ、四国の凋落は人口減少がもたらしており、生産性の格差はほとんど見られなかったのです。

高度成長期に集団就職の若者がどんどん集まった広島や岡山が発展し、金の卵の供給源だった四国経済が低調になる。インフラがもたらした人口格差が両者の経済発展の明暗を分けたことになります。

ところが四国新幹線をリニアで開通させ博多までつなげるという魔改造が成立すれば、状況は一変します。徳島、高松、松山、高知はそれぞれ福岡、大阪、名古屋とは1時間圏内、東京とも2時間圏内でつながります。

便利な場所には若者が集まる。若い人材が多い場所なら企業は投資する。経済発展の条件が揃います。

ここで完成させたリニア新幹線は、本書の魔改造計画として四国部分はJR四国に無償供与してしまいましょう。繰り返しになりますが、その理由は移動料金を安くすることによって経済発展を優先させることです。建設費がタダなら松山―東京間の2時間の移動がLCC並みの料金で実現するかもしれません。

■「各都市に1時間で移動」大阪は交通の要衝になる

そして、そのインフラ投資は日本経済が復活することで最後に元は取れるのです。

松山や高松や徳島や高知がめちゃくちゃ便利なエリアになったとしたら、企業がどんどん投資をするようになります。便利な土地には人もどんどん集まってきます。

とはいえ最初は何か核になる企業誘致が必要かもしれません。シャープの親会社である台湾の鴻海にお願いして、中国と同じ規模のスマートフォンの製造拠点を誘致するぐらいの政策があってもいいでしょう。

その上で台湾や中国からスマホの製造技能を持った若い人材を大量に移民として集める。そうやって経済を回す雪だるまの核を作るわけです。

四国経済を人工的に発展させることは、大都市圏の混雑を大幅に緩和することになります。なにしろこれから先の日本は魔改造1のおかげで20代、30代の人口が2000万人規模で増えるのです。

それが土地が安く、うどんとみかんがうまくて、交通が便利な四国にどんどん集まってきます。

リニア中央新幹線の全線開通時期を2030年代前半に早め四国経由で博多まで一気に延伸することは、実は我が国第二の経済圏である大阪を日本のハブにすることにもつながります。

この改造で大阪は東京、横浜、名古屋、京都、高松、松山、博多などどこからも60分前後、どこへも60分前後で行くことができる日本経済の要衝地になります。

リニア中央新幹線貨物構想というものも考えました。リニア新幹線の主要駅で到着時に貨物車両を連結器で脱着させる構造にしてはどうかというアイデアです。それにより朝取れた九州の鮮魚がその日のうちに麻布の料理店に並ぶようになる。関西圏や瀬戸内の食材をその日のうちに日本中に運ぶことができるようになるのです。

■「5年後開通はすでに絶望的」なぜ工事は進まないのか

そうなると問題はむしろ「いつ東京から福岡までリニア新幹線がつながるか」に集約されるはずです。

お隣の中国を見習いましょう。建設のスピードアップが最重要テーマです。日本経済復活のためには今から10年後、2030年代前半には中央四国リニア新幹線を全線開業させるべきだと思いませんか。

ここで、この日本列島改造計画の突破ポイントは政治に移ります。

現実にはリニア中央新幹線建設は静岡県で止まっています。2027年の部分開業はすでに絶望的だという話も聞かれます。大井川の水量減少問題で静岡県とJR東海の関係がこじれにこじれて話し合いが頓挫(とんざ)しているのです。

それで日本政府がどういう態度かというと、国土交通相が、「両者できちんと話し合いなさい」と指導しておしまいという状況です。

わかる人にはわかるたとえで言えば、これは10年間口をきかなかったおぼん・こぼんの2人を当事者同士で仲直りさせるようなものです。おぼん・こぼんの場合は『水曜日のダウンタウン』の中で仲直りしてめでたしめでたしとなったわけですが、最悪、ブチ切れて放送が終わる危険性も2万%ぐらいあったはずです。

■「話し合い」を現場にゆだねている場合ではない

日本経済の未来を考えたら、リニア新幹線を両者の話し合いに任せるのは明らかに愚策です。

鈴木貴博『日本経済 復活の書』(PHPビジネス新書)
鈴木貴博『日本経済 復活の書』(PHPビジネス新書)

本来で言えば国土交通大臣ではなく総理直轄プロジェクトとして総理が直接乗り出すぐらいの話です。ないしは「リニア中央話し合い特命大臣」として河野太郎氏か川淵三郎氏あたりの重鎮を起用すべき。そして名古屋―大阪間は日本維新の会に外注し、四国リニアは移民経済担当大臣が指揮したらどうでしょう。

野党に政策を外注するというのは常識では考えにくい魔改造ですが、餅は餅屋、関西は関西です。名古屋―大阪間は現在奈良県を通るルートで計画されていますが、この先、京都が横やりを入れるという新たな政治問題が予想されていて、この問題は維新のほうがさばきやすいかもしれない。

リニア開発の加速はそこまで禁じ手を繰り出して、それぞれが競争して開発を進めるぐらいの国家重要事項ではないでしょうか。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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