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ロシア軍は満足に服も洗えない…基本的な装備が圧倒的に不足している「プーチンの戦争」の現実

プレジデントオンライン / 2022年6月19日 10時15分

プーチン大統領が建国記念日にあたる「ロシアの日」の式典で「軍事的な勝利」の重要性を訴える=2022年6月12日、モスクワ - 写真=SPUTNIK/時事通信フォト

■無計画な基地建設…米メディアが報じたロシア軍の物資不足

ロシア軍の基地で洗濯機がまるで足りず、民間人が自宅の洗濯機を使って戦闘服の洗濯を手伝う事態となっている。ロシア東部、ウクライナ国境まで30キロの地点に位置するヴァルイキの町では、ロシア軍の基地がウクライナ侵攻後に急遽(きゅうきょ)建設された。ところが設備不足が甚だしく、軍服を洗うこともままならないという。ロイターが報じた。

記事は近隣住民のリューボフ・ザスハルスカヤ氏の証言をもとに、「基地の洗濯設備では追いつかない」と報じている。ザスハルスカヤ氏は、補給のためウクライナから戻った兵士たちから汚れた衣類を渡され、自宅の洗濯機で洗って兵士たちに返しているのだという。戦闘服だけでなく、兵士が仲間の葬儀に参列できるようにと、制服にアイロンをかけたこともあるという。

この事態は、無計画な基地の建設によって引き起こされた。ロシアが東部地方へ戦力を集中するにつれ、ヴァルイキの町は派遣部隊らの重要な集結地点となっている。4月中旬、ロシア軍がウクライナ北部から撤退すると、多くの要員がトウモロコシ畑の広がるこの長閑(のどか)な町になだれ込んだ。5月ごろにまでには野戦病院と小さな基地が建設され、いまでは装甲トラックの車列が絶えない。

こうしてロシア軍はこの町を兵站(へいたん)上の重要な拠点として扱うようになったが、基地内では汚れた戦闘服のクリーニングすら完結できない有様となっている。

■「基地内では装備品の奪い合いが起きている」

同記事によると、装備品不足に喘ぐロシア軍拠点の例に漏れず、この基地でも無線機から小型ドローンまであらゆる物資が間に合っていない。兵士の知人や現地の民間人からの提供に頼っている状態だという。この基地ではとくにドローンと暗視スコープの在庫不足が深刻であり、基地内では取り合いの状況となっている。ロイターは、「ロシア軍基地が軍需品の争奪戦に見舞われている」と報じた。

あるロシア兵は物資不足により、移動に必要な車両の補修もままならないと苛立つ。ロイターは、ラファエル・アリエフと名乗るロシア兵站部隊の男性による証言をもとに、スペアパーツの到着までに1カ月を要することもあると伝えている。

この兵士はヴァルイキの公開されたウェブサイトに5月末、「しかし、ロシア連邦の国防省は腹の立つことに、スペアパーツをもっていない」と書き込んだ。榴弾(りゅうだん)砲で損傷した車両を補修したいが、必要な部品が手に入らず手の打ちようがない、と兵士はこぼす。

ロシア軍のほかの拠点でも事情は似通っている。記事は、ボランティアでロシア軍を支援している地元の民間人の証言として、「食糧、ディーゼル燃料、どこか身体を洗えて衣類の洗濯ができる場所」を兵士たちが求めていると報じた。

■クラウドファンディングでロシア国民から物資調達も

基地周辺に住む住民の支援だけでは足りないと踏んだロシア軍は、クラウドファンディングを通じた資金調達および装備品の現物募集に乗り出した。しかし、ロシア部隊が発表した調達内容に対し、軍事ニュースサイトの米『ソフリプ』は、「地元のホームセンター、ショッピング・モール、あるいはネット通販で買えるような機材」だとして当惑している。

同サイトは戦闘機の前に誇らしげに並べられた調達品の写真を報じつつも、その内容にあきれ顔だ。「我々は最近、ロシアが飛行部隊向けにクラウドファンディングで新たに調達した物資を確認した。そしてその内容は、みなさんの想像どおり酷い有様であった」

寄贈品の多くは、レンチやドライバー、電動工具といった、「土曜の午後に車の手入れをするのに使うような各種ツール」であり、大国の空挺部隊が誇る装備品の類いとは程遠い。目ぼしい寄贈品としては中国製のフォークリフト2台があるが、部隊はこれでミサイルを吊るして移動させようとしており、「極めて危険」な行為だと記事は指摘している。およそ無用とも思える寄付品もあり、複数の草刈機が軍に寄せられている。同誌はつぶやく。「なぜ(派兵先の)ウクライナで彼らに草刈機が必要なのか、我々にはよくわからない」

行進
写真=iStock.com/Aleksei Smyshliaev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aleksei Smyshliaev

■軍用ブーツさえなく、兵士はランニングシューズを履いている…

中古物資も多く集まった。英デイリー・メール紙は、中古のラジオや懐中電灯、パイロット用のヘルメットなどが寄せられたと報じている。部隊は寄贈の成果報告のため、メッセージ・アプリ「Telegram」のチャンネルに複数の写真を投稿している。うち一枚は、年季の入ったスホーイSu-25戦闘機を背に集合した兵士たちだ。誇らしげな兵士たちとは裏腹に、同紙は目ざとく、「パイロットのひとりは標準装備の軍用ブーツさえなく、ランニング・シューズを履いている」と指摘している。

クラウドファンディングに協力したロシア国民たちの心情は複雑だ。兵士たちへは激励のコメントを残したが、ロシア軍の上官たちに対しては、これほどまでに酷い準備不足とは何事かと、辛辣(しんらつ)な意見を多く残している。

■「装備が兵士らの元に届いただけでも感動的」と米メディア

ソフリプ誌は、本来ならばロシア軍ほどの軍隊において、電動ドライバーなどの基本的な工具が足りない事態は起き得ないと説く。同誌はこの異常事態について、ロシア軍のモラル崩壊が影響しているのではないかとみる。「端的にいうなら、これら(寄贈された品々)は、このレベルにある軍隊が求めるはずのものではない。この出来事は、ロシア軍と政府を悩ませる腐敗の酷さを物語っている。ロシア兵たちはおそらく軍から工具を盗み出し、売り払っている」との推論だ。

さらに同誌は、「ロシア社会によくみられる収賄、贈賄、汚職のレベルを鑑みれば、装備が兵士らの元に届いただけでも感動的である」とも述べ、輸送ルート上に待ち構えるほかの部隊に強奪されなかっただけでも奇跡的だとの見方を示している。兵站網の弱さが指摘されるロシア軍だが、ルート上で物資が続々と持ち去られていることで、状況がさらに悪化している可能性がありそうだ。

なお、仮に物資や兵器が仮に前線の部隊に届いたとしても、活用できるかはまた別の問題だ。英ガーディアン紙は6月7日、ロシア兵らが酷い訓練不足の状態にあると報じている。同紙はドネツク地方第107連隊所属の兵士の証言として、「(この部隊の)90%以上は戦闘経験がなく、(自動小銃の)カラシニコフを初めてみました。戦地に放り出されたのです」とのコメントを取り上げた。装備とそれを扱うことができる兵士の両方が不足している状態だ。

武器の構えを歩くシルエット
写真=iStock.com/Georgiy Datsenko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Georgiy Datsenko

■洗濯機スキャンダルが続くロシア軍の実情

奇妙なことに、ロシア軍と洗濯機にまつわるスキャンダルは、ウクライナ侵攻からの4カ月足らずのあいだで多数報じられてきた。最初の報は、ロシア兵たちの欲望を象徴するものであった。ウクライナの市民が避難している隙をついて民家に侵入し、洗濯機などロシアでは手の届きにくい高価な家電製品を略奪して祖国へ発送しはじめたのだ。

米議会が出資する欧州報道機関『ラジオフリーヨーロッパ』は、ロシア兵によるこうした略奪行為が、ポーランドのロシア大使館前で起きた反戦デモでも取り上げられたと報じている。デモ参加者たちが掲げるイラスト入りのボードには、戦地に送り出される恋人の兵士の目を見つめるロシア女性が描かれていた。イラスト内の女性が口にしている言葉は、「無事帰ってきて」ではなく「洗濯機をもって帰ってきて」となっている。

おなじ4月に報じられた別の洗濯機スキャンダルは、ロシア軍の残虐さを物語るものだった。英タイムズ紙は、一時避難から帰宅したウクライナ市民をねらい、洗濯機や車など家の各所にブービートラップが仕掛けられていると報じた。帰宅後、不用意に家電を使ったり家具の引き出しを開けたりすると、手榴弾(しゅりゅうだん)とワイヤーなどで作られた即席のトラップが発動するしくみだ。ウクライナの国営報道機関『ウクインフォルム』も当時、国民に警戒を促している。

5月になると、こんどは洗濯機ではなく、食洗機がロシア軍の窮状を表すようになった。英タイムズ紙は、ウクライナ側が鹵獲(ろかく)したロシア戦車を検証したところ、本来は食洗機や冷蔵庫向けであるはずの民生用スペアパーツが使用されていた報じている。この異常な状況は、ロシアが半導体の確保に苦慮していることを示している。国内でチップをほとんど生産していないことから、西側による制裁の影響をまともに受ける形となった。

生活に身近な洗濯機や食洗機にまつわる醜聞が戦地から繰り返し報じられており、世界最強の軍のひとつであったはずのロシア軍の程度の低さを外部に漏れ伝えている。洗い物が溜まり民家の洗濯機を借りたというようなニュースは、戦争報道であまり耳にすることがない。

パレード因んで戦勝記念日
写真=iStock.com/LP7
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LP7

■基本装備すら寄付依存…「プーチンの戦争」の異常さ

ロシア軍の物資不足は深刻さを増しており、ついには洗濯まで一般家庭に頼るようになった。ウクライナ側も偵察用の小型ドローンなどで有志市民から提供を受けており、物資の募集自体が特異というわけではない。しかしながらロシア軍の場合、ヘルメットなど非常に基本的な装備を中心に高い需要があるという点で異質さが際立つ。

英テレグラフ紙は、一部ロシア部隊において湿ったトイレット・ペーパーが配布され、無線機の代わりにソビエト時代の大仰な野戦電話が使われていると報じている。ボランティアでクラウドファンディングに携わっているというロシア人の女性は同紙に対し、現地からの要望で最も多い品目は赤外線暗視スコープと並び、シャベルだと語った。基本装備の圧倒的な不足を物語る。

物資提供や洗濯の申し出により懸命にロシア軍を支える市民だが、血に染まる戦闘服の洗濯は心地よいものではないだろう。プーチンの戦争は、兵士と一般市民の生活に暗い影を落としているといえよう。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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