「ハイリスク・ハイリターンでいい」新庄剛志が、今期やろうとしている"サプライズプラン"
プレジデントオンライン / 2022年6月27日 9時15分
■イントロダクション
日本プロ野球2021年オフシーズン最大の“珍事”と言えば、新庄剛志元選手の北海道日本ハムファイターズ監督就任発表だろう。
コーチなど指導経験は一切なし、2006年の現役引退後、ほとんど野球に関わることもなかった新庄新監督に、何が期待されているのか。また、本人はどこをめざしているのだろうか。
本書では、2022年シーズンから登録名BIGBOSSで日本ハム監督に就任した新庄剛志氏が、これまでの人生や、これから監督としてやろうとしていること、選手やプロ野球への思いなどを率直に語り尽くしている。自身の語りと、彼の人間性に関するQ&Aという二つの形式で構成され、現役時代“宇宙人”と呼ばれることもあったBIGBOSSの「真の姿」に迫っている。
かつては、意表をついた球場でのパフォーマンスや言動で話題を呼んだ新庄氏だが、イメージとは裏腹に、礼儀正しく、努力家で、しっかりと物事を考える人物のようだ。
新庄氏は1990年に阪神タイガースに入団。ニューヨーク・メッツ、サンフランシスコ・ジャイアンツ、北海道日本ハムファイターズで活躍し2006年に引退。その後、インドネシア・バリ島で暮らし、2020年に突如プロ野球12球団合同トライアウトに参加し、現役復帰をめざすも叶わず。2022年から北海道日本ハムファイターズの監督に就任。
1.0.1%の可能性を信じて
2.一歩踏み出すだけで世界は変わる
3.最高の結果は最高の準備から生まれる
4.逆境こそ最大のエネルギー
おわりに 「スリルライフ」は始まったばかり
■無職からいきなり監督に「人生はおもしろい」
現役を引退した2006年からずっと僕は無職だった。バリ島でのんびりと暮らし、たまに「あの人は今」のような感じでテレビに出ることはあったが、野球界とは無縁のまま。コーチどころか解説者の仕事もしたことがなかった。そんな無職の僕がいきなり監督になるのだから、人生はおもしろい。
そしてさらにおもしろいと感じたのは、そんな僕の監督就任を多くの人が楽しんでくれていることだ。まったく指導経験のない“あの”新庄を監督にするなんてと、批判の声が上がることも覚悟していた。でもそんな声は、ほとんど聞こえてこず、むしろ「新庄はどんなことをしてくれるんだろう」と期待する声のほうが圧倒的に多かった。
■ハイリスク・ハイリターンでいい
きっとみんなは僕にスリルを感じているのだ。僕のような何をしでかすかわからない人間に対して、今たくさんの人が「どうなるんだろう? どんなことをするんだろう?」というスリル、恐怖感を味わっている。新庄剛志という存在を、その予測不可能な言動を楽しんでくれているのではないだろうか。
普通に考えれば、うまくいくはずがない。でも僕は、そんなことは気にしない。リスクを恐れていては何もできない。ハイリスク・ハイリターンでいい。人生はスリルがあるから楽しいのだ。
みんなが心から明るさを求めている今のコロナ禍のタイミングで自分が監督になったことには、運命のようなものを感じることがある。僕ならチームを変えられる。僕ならプロ野球を変え、日本を変えることができる。僕ならみんなを笑顔にできる。今はそう信じて、自分が何をやるべきかを文字どおり、寝る間を惜しんで考えている。
■新しいことに挑戦しなければ、チームもプロ野球も変わっていかない
野球はバッターが打って点を取り、ピッチャーがその点数以下に抑えれば勝つスポーツだ。そのための“正解”は、チームによっても、相手によっても異なるはずだ。
たとえば僕は内野手をしていたころ、満塁のピンチでホームランバッターが打席に立つと安心した。ホームランバッターの多くは、足が遅い。内野ゴロで守備が多少もたついたとしてもアウトにできる確率が高いからだ。逆に足の速いバッターのときは、ボテボテでも点が入る可能性があるから、守りながら緊張感が増す。緊張すればその分、ミスの可能性も上がる。ならば、チャンスが多く回ってくる4番(打者)には、足の速い選手を置けばいいではないか。
100球過ぎてから調子が上がるようなピッチャーもいるだろうし、調子がいい日は、もっと投げられるピッチャーもいるだろう。逆に9回を9人のピッチャーで回したら、相手は混乱するのではないか? 外野は2人で守って、センターラインにもうひとり内野手を置いて5人にしてみたらどうか? 僕は2022年シーズン、自分が思いついた作戦をどんどん実戦で試してみようと思っている。
もちろんやってみたらうまくいかないこと、間違えていることもたくさんあるだろう。それならもとに戻せばいいだけのことだ。でも新しいことにどんどんチャレンジしなければ、チームもプロ野球も変わっていかないと思う。
■「スター選手になりたい」誰よりも練習をしてきた
僕は誰よりも練習をしてきたという自負がある。それは子どものころからそうだ。プロに入ってからも、誰よりも練習をした。野球がうまくなりたいというより、スター選手になりたいという思いが強かった。並の選手になりたくない。そのためには、並の選手の何倍も練習をする必要があった。
タイガースの若手時代、球団の練習施設には、他の選手が来る2、3時間前に行って施設の担当の方に鍵を借り、自主練習をした。他の選手が来る時間になったら、いったん外に出て、今来ましたという顔で合流した。チーム練習が終わったあとも、着替えて施設を出て、みんながいなくなってからまた戻って練習した。
人気選手になると、スポーツ紙などが自主トレの取材にやってくる。そういうときは、チャラチャラとした練習を見せて、「今日はこのくらいにしておきます」とすぐに切り上げていた。「尻が大きくなりすぎるとジーンズが似合わなくなるから、下半身は鍛えたくない」
■努力は「日常」、がんばっているつもりはなかった
天才・新庄は、練習なんかしなくてもすごいプレーができる。そういうふうに思ってもらいたくて、練習嫌いのフリをしていた。でも実際は誰よりも練習していたし、誰よりも自分の体を把握し、コンディションの維持に努めていた。
何かの道で突出した存在になるためには、やはりそのための努力が必要だ。本当は努力という言葉は使いたくない。なぜかというと、僕はそういった自分の積み重ねを努力だと思っていないからだ。努力ではなく日常。がんばっているつもりはなかった。
ちなみにタイガース時代、僕と同じくらい練習していたのは、後輩の藤川球児くんだけだった。彼もきっと自分は努力したとは思っていないはずだ。当たり前のことを当たり前にやっただけだと。自分の“当たり前”をどのレベルまで上げられるか。そこが一流になるかどうかのひとつの分岐点だと思う。
■「100%の全力プレー」がいい結果につながるとは限らない
「全力プレー」というといい意味にとらえる人も多いかもしれないが、少なくとも野球の場合、100%の全力プレーが必ずしもいい結果につながるとは限らない。
人間が100%の力を出そうと考えると、体がガチガチに緊張して固まりがちだ。でも80%でいいと思うと、20%の“余裕”が生まれ、筋肉がリラックスしてより機能性が高まる。20%の余裕を持ち、自分のプレーをスローモーションで感じられるくらいになれば、ケガはかなり減り、プレーの質も上がるはずだ。
ホームランは150メートル飛ばす必要はないのだ。その80%、120メートル飛べば余裕でスタンドインする。ピッチャーも150キロの速球を投げないと抑えられないと思うから肩や肘に負担がかかる。たとえ140キロでも相手を抑えられればいいボールなのだ。
もし100%の力を出さないと通用しないと思っている選手がいるなら、その100%をレベルアップするしかない。自分の100%を80%の力で出すために、120、130になるための練習を重ねていくしかない。1年、2年かけて自分を育て、磨き、それをひたすら続ける。そういう選手だけがプロの世界で生き抜き、長く活躍する一流の選手になれるのだ。
■空気は「めちゃめちゃ読む」、そこからアイデアが生まれる
Q 意外と丁寧、意外と礼儀正しいと言われませんか?
しょっちゅう言われます。礼儀に関しては、親の躾がよかったんでしょうね。僕がぶっ飛んだことをやってもそれほど怒られないのは、ちゃんと礼儀を通すからかもしれません。自分が楽しければいい、自分さえよければいいという考えは、まったくないです。自分も楽しむけど、まわりの人にはもっと楽しんでほしい。いつもそんなふうに考えて行動しています。
Q 新庄剛志は天才ですか?
天才ではないと思っています。なんでもひらめきや思いつきでやってしまうような天然の人間でもありません。1999年のタイガース時代に敬遠球をサヨナラ安打にしたのも、事前から準備した結果だったし、ファイターズ時代のさまざまなパフォーマンスもしっかりと準備や根回しをし、相手投手との相性を考えたうえで、勝てそうな試合のときだけやるようにしていました。天才とか天然だと思われていたほうが警戒されないので、あまり言いたくありませんが、僕はしっかりと計算して準備して物事を進める人間だと、自分では思っています。
Q “空気”を読みますか?
めちゃめちゃ読みます。空気を読むことからアイデアが生まれます。ただ、空気を読んだからといって、その空気に従うわけでもない。空気をしっかりと読んだうえで、それをどう壊すか、どういう方向に変えるか、“新庄色”の空気に持っていくかということも考えます。
■コメントby SERENDIP
2022年シーズンの開幕初戦で新庄“BIGBOSS”新監督は、早速“奇策”を繰り出し、話題をさらった。無失点にも関わらず、7人の投手を継投させたのである。開幕戦といえば、エース級の投手が先発し、少なくとも7回までは登板するのが普通だが、BIGBOSSはドラフト8位のルーキーを先発させ、他の先発要員でつないでいったのだ。結果は7番手投手が打たれ、1-4で黒星スタートとなったが、観客は十分楽しんだに違いない。新庄監督によると、異例の継投は行き当たりばったりのものではなく、投手陣の緊張を早めにほぐすために予定されていたものだったという。常識の枠にとらわれず、かつ論理的な“BIGBOSS流イノベーション”に今後も期待したいところだ。
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(書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」)
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