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結局、誰も葬儀には来なかった…「誠意を見せろ」と財産分与を迫る疎遠な親族を、法的に追い返すまで

プレジデントオンライン / 2022年6月25日 10時15分

筆者撮影

相続が起きたとき、疎遠な親族から「誠意を見せろ」と財産分与を迫られたらどうすればいいのか。医療・保健ジャーナリストの西内義雄さんは「司法書士など専門家に対応を頼むべきだ。当事者間の話し合いで解決することは難しい」という――。(後編/全2回)

■「財産は全て義母に」と書かれた遺言書が出てきた

(前編から続く)

話し合いから1カ月が経過した。この間、親族たちからの連絡はなく、今後も叔父夫婦の面倒を見る気がないことは明白だった。相続に関しては、少し執着が弱まったかもしれないが、まだ義母に対するあらぬ噂を立て続けることも予想され、筆者は何をすべきか考えていた。そんな時、義母から

「叔父さんの家を片付けていたら、手書きの遺言書が出てきた」

との一報が入った。内容を確認してもらうと、「自分たち夫婦の亡き後は、全ての財産を幸子(義母)に贈呈致します」と記されていた。念のため叔父に尋ねてもらうと、自分が書いたものだと認め、改めて財産は義母だけに遺したいと口にしたという。

【図表1】義母(幸子)の家系図

ただ、詳細を聞く限り、遺言書が自筆遺言証書として法的な効力を持つとは思えなかった。そこで筆者は、義母や叔父たちのためにも、親族たちが勝手な手出しをできないよう、必要な手続きを進めていこうと決意した。

幸い、九州と東京は離れていても、パソコンや電話、メールを駆使した入念な情報収集と準備はできそうだ。その上で現地に飛び、一気に片付けることにした。

■市役所や公証役場で情報収集

最初にしたことは、現地市役所の高齢者支援課への相談だ。日本全国、どこも同じ支援をしているわけではないので、どのような制度があるのか、特別な支援はあるのかなど、電話で問い合わせると、次の3つのポイントが示された。

・遺言書を正式なものにするには公証役場に相談を
・叔父たちの今後のため、早く特別養護老人ホームに申し込むこと
・財産管理は成年後見制度があるので、相談してみては

市役所の職員はこれらのアドバイスとともに、関係する連絡先を教えてくれた。また、何をするにも、義母と叔父の公的書類が複数必要になるため、来庁するときは義母も同伴のうえ来るようにとのことだった。立場上、誰かの肩入れはできないけれど、困っているなら情報提供は惜しみませんとも付け加えてくれた。

公証役場は各種の契約などで法的効力を発揮する公正証書を作成してくれるところだ。大まかな仕事内容は、日本公証人連合会のHP(https://www.koshonin.gr.jp/)で確認することができ、管轄する役場がどこにあるのか確認することができた。

こちらも電話で、「自筆遺言書があり書いた本人の意思も確認したが、法的効力に疑問を感じている」と相談したところ、「お話を聞く限り、法的に有効とは思えません。本人が希望されるなら、公正証書遺言を作成することをオススメします」との答えが返ってきた。

作成方法は、被相続人(遺言作成者本人)と公証人が対面で話をしながら進めること。その席に利害関係者以外の証人2名の立ち会いが必要だという。また、本人の外出が厳しい場合は、公証人が入所中の施設まで出張することも可能だった。

■公証役場の数は思いのほか少ない

他にも、本人の印鑑証明書と戸籍謄本。証人2名の認印+住所、氏名、生年月日、職業などのデータ。本人の使者として作成の相談をするのは義母になるため、義母の印鑑証明書と実印、住民票なども必要なことがわかった。

公証人は最後に、「本県には公証役場が3カ所しかなく、この役場の公証人は私ひとりなので、日程などは早めにご相談ください」と説明があった。その数の少なさに驚いた筆者だが、公証役場と叔父の施設は車で10分程度と近かったことは幸いだった。

■「施設をむげに追い出すようなことはしません」

次に、叔父が入所している施設の担当ケアマネージャーに公正証書遺言の件を説明したところ、「わかりました。公証人が来るなら場所を用意します。証人もこちらの職員2名が対応しましょう」と快諾してもらえた。一方で、

「特別養護老人ホームの申し込みは、できるだけ早くしてください。どこも待機者がたくさんいるため、何カ所でも、できる限り申し込んでほしいのです」

との要望があった。「ウチは老健なので、あくまで仮住まいです。原則3カ月で出てもらうことになりますが、ご親族が叔父さんのために努力してくださるのなら待ちます。むげに追い出すようなことはしません」と付け加えた。

こういう話をしっかりしてくれたことで、筆者は焦ることなく手続きを進めることができた。

家の費用を考える人
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■少子高齢化で成年後見制度の利用が増えている

成年後見制度は、電話相談で紹介された司法書士に連絡を取ることから始めた。ここは個人事務所としてホームページを持っていたため、最初の電話以降はメールでやり取りすることができた。主な内容は、

・申立人は義母になるため、叔父との続柄のわかる戸籍謄本や実印、認印、印鑑証明書などが必要
・叔父も同様の書類が必要
・制度を利用するためには医師の診断書が必要
・早いうちに叔父さん、義母と面談したい

など。司法書士によると、少子高齢化が進んでいる今、成年後見制度の利用が増え、この町でも希望者が増えているとのことだった。当人も現在担当している人が複数おり、あとひとりくらいが限界だろうとの話も出た。そのため、こちらも急いで進める必要があった。

こうして仕事の合間に一つひとつ準備を整え、診断書作成のため叔父を病院に連れて行く予約や、その足となる介護タクシーの予約を済ませた。公正証書遺言作成のための面談日を自身の現地滞在日に設定し、3日間の予定で九州に飛んだ。

ちなみに、司法書士と叔父の最初の面談だけは時間と場所を決め事前に済ませてもらった。

■公正証書遺言を作成するための怒涛の書類作成

ここからは時間との勝負だった。飛行機で最寄りの空港に着くとレンタカーを借り、すぐに実家へ。そして義母を乗せて向かったのは市役所。今後の手続きのため、義母と叔父関連の書類を大量に発行してもらった。

司法書士との打ち合わせは、事前の綿密なやり取りが功を奏し、あっさり終わった。最終的に成年後見人になってもらえるかどうかは家庭裁判所の判断になるが、問題はなさそうだった。なお成年後見人になってもらった場合の司法書士への報酬は、叔父の財産の中から家庭裁判所が決め、叔父の財産から支払われる。

続いて訪れたのは公証役場。まずは書類を提出し、翌日、叔父の入所する施設に出向いて公正証書遺言を作成することを確認した。また、気になっていた叔父自筆の遺言書を見てもらうと、やはり法的効力はないとのことだった。公正証書遺言の内容については、叔父と事前に話し、自筆文書を基に進める方針を確認した。

なお、公正証書遺言は原本、正本、謄本が各1部あり、原本は公証役場で保管。正本と謄本は遺言者が保管するのが一般的だが、自筆遺言書の内容と同じになるようなら、義母が保管することを公証人は提案した。こうして手続きは着々と進んでいった。

■公正証書遺言には「全財産を義母に」との文字が

翌日は診断書作成のための受診日。車いす生活になっている叔父のため、地元の介護タクシーで精神科のある病院への付き添い。医師は施設からの意見書を基に、いくつかの質問を繰り返していく。

結果、成年後見制度の利用が可能となり、診断書は後ほど司法書士に届けた。

病院から戻ると、今度は公正証書遺言の作成だ。施設に公証人がやって来ると、叔父と証人らはひとつの部屋に入り1時間ほど話を重ねた。後日、義母に正本を確認してもらうと、最初に見つけた自筆文書の通り、「全財産を義母に」となっていた。

実質2日でこれらの作業を終えた筆者は、残りの空き時間を使い、事前に取り寄せておいた近隣9カ所の特別養護老人ホームの資料と申込書を精査。今後の義母や義父のためにも、時間の許す限り各施設を回り、担当者と会い、叔父と義母、自分の関係を説明しながら、申込書を東京から送付することを伝えた。

手間はかかるが、実際に担当者と会っておけば、その後の話も通じやすいとの判断からだった。

■親族からの催促を簡単にいなす司法書士

さて、このような努力のかいあり、叔父の意思は正式な公正証書遺言にすることができた。お願いした司法書士も成年後見人として認められ、義母が預かっていた叔父らの通帳や印鑑などは、全て司法書士の管理下に置かれた。

義母の性格上、ふたりの面倒を見ていることに変わりはないものの、財産管理という重圧がなくなっただけでも精神的負担は減ったようだ。あとは、親族たちがおとなしくしていてくれればいいのだが、2カ月後のある日、義母からの電話で、まだ火種がくすぶっていることがわかった。

固定電話
写真=iStock.com/kudou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kudou

「久子から電話があり、また誠意を見せろと言い出している」

またか……。筆者は久子の執念にうんざりしつつも、すでに叔父の財産管理は義母の手から離れているため、司法書士に相談すると、

「よくある話です。わかりました、私から親族の方に連絡しましょう」

と申し出てくれた。

慣れているのか、すぐに対応してくれたようで、その後久子から義母に催促の電話はかかってこなくなった。

後日、どのような話をしたのか司法書士に尋ねると「私の身分を明らかにしたうえで、法律に基づき、叔父さんの財産は私が管理しており、正当な理由なくそれを動かすことはできないので、何か必要なことがあるなら、全て私に言ってくださいと伝えました」とのことだった。

義母が管理していると思っていた叔父の財産が、法律の専門家である司法書士に委ねられたことで、久子も戦意喪失したようだった。

同様のことは信夫絡みでも起きていた。こちらは、以前、未遂に終わった実家の電化製品の回収について、義母に「もう使っていないだろうから、俺がもらってやる」と言ってきたという。こちらも司法書士が連絡を入れたことで引き下がった。留飲が下がる思いの筆者だった。

■叔父夫婦の死後、財産は遺言書通り義母の元へ

その後、半年ほどして叔母、3年後に叔父が亡くなった。いずれも義母が葬儀を取り仕切った。親族たちにも連絡したが、誰も来ることはなかった。

司法書士から義母に戻された通帳には、この時点で合計約1000万円の預金が残されていた。遺言通りにそれを相続することは正当な権利である。

ちなみに、甥や姪には遺留分が認められないため、公正証書遺言の内容を覆すことはできない。それでも、念のため開示の連絡はしたが、誰も来ることはなかった。

こうして、義母の苦労は報われ、全額相続することができた。このお金は、義母や義父の老後・介護資金として役立ったことはいうまでもない。

介護や相続に関する手続きは、とかく複雑でややこしく、当事者たちが高齢の場合、自分たちで処理していくことは難しい。今回のケースのように、親族たちが感情論だけでもめていると、精神的にもつらいものがある。

だからこそ、その子供たちなど動ける人が正しい情報を集め、第三者・専門家の助けを上手に借りながら対処していくことが大切だ。そして、たとえ離れて暮らしていても、やろうと思えばかなり手助けができることも知っておくべきだろう。

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西内 義雄(にしうち・よしお)
医療・保健ジャーナリスト
1961年生まれ。専門は病気の予防などの保健分野。とくに保健師については全国47都道府県すべてで取材。東京大学医療政策人材養成講座/東京大学公共政策大学院医療政策・教育ユニット、医療政策実践コミュニティ修了生。高知県観光特使。

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(医療・保健ジャーナリスト 西内 義雄)

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