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「風邪をひいたら総合感冒薬」は時代遅れの間違いである…現役医師が「風邪薬は飲むな」と訴えるワケ

プレジデントオンライン / 2022年7月1日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AntonioGuillem

風邪を治すにはどうすればいいのか。耳鼻咽喉科医であり、外来感染症診療のスペシャリストである永田理希さんは「風邪症候群は、本来であれば自然治癒するものなので、風邪薬を飲む必要はない。とりわけ『総合感冒薬』と呼ばれる薬は、医師の処方薬であってもデメリットが多く、飲まないほうがいい」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、永田理希『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■保険適用の「総合感冒薬」も要注意

市販の風邪薬には十分な効果がないどころか、認知機能障害を起こす可能性や、喉の粘膜を傷つけるなどデメリットが多いことが知られています。では、保険適用の「総合感冒薬」についてはどうでしょうか(図表1)。

【図表1】保険適用総合感冒薬
出所=『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』

保険適用というのは、医師が処方箋として処方できる薬ということです。「総合感冒薬」とは、感冒(風邪)の諸症状に対する複数の薬が配合されている薬のことです。一般的なものはPL配合顆粒(かりゅう)、ピーエイ配合錠で、一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか。

薬の成分としては、風邪薬で眠気が出るイメージを刷り込むことになった第1世代抗ヒスタミン薬であるプロメタジンメチレンジサリチル酸塩(鼻炎止め目的)、解熱鎮痛薬アセトアミノフェン(体重10~15kg相当のかなり少ない量)、解熱鎮痛薬サリチルアミド、覚醒作用のある無水カフェイン60mg(コーヒー1杯に含まれる90mgより少ない)の4種が配合された感冒薬になります。

■海外では12歳未満への処方が2017年に禁止されている

他の保険適用総合感冒薬には、鎮咳効果の目的で気管支拡張薬、中枢性麻薬性鎮咳薬としてのジヒドロコデインリン酸塩などが追加されているものもあります。上記の成分は、効果よりもデメリットが勝るものとして知られています。

成人へのデメリットはもちろんのこと、米国をはじめとする海外では、12歳未満への処方が2017年に禁止されています。また、日本でも2019年に12歳未満への処方が禁止されました。海外では依存性が高いために禁止されている咳止め薬コデインが、日本では商品名に「コデ」とわざわざ入れて総合感冒薬として販売されています。

中でも総合6種を配合した感冒薬カフコデ®Nにはブロモバレリル尿素という成分が入っており、非常に危険な薬剤です。依存性の強い催眠鎮静薬であり、呼吸抑制作用も強く安全性が極めて低いもので、海外では発売が禁止されています。国内ではこの成分による急性、慢性ブロム中毒が起きています。ブロム中毒では、連続使用により体内蓄積され、中毒性も強く、倦怠(けんたい)感、吐き気、小脳失調、小脳症状、眼筋麻痺、脳幹症状などが起こります。

■風邪薬は「昭和時代の過去の遺物」

カフコデ®Nには、それ以外に主な成分であるコデイン(中枢性麻薬性鎮咳薬)、ごく少量の解熱鎮痛薬、第1世代抗ヒスタミン薬、気管支拡張薬2種と合計6種類の薬が入っています。今や効果がなく、デメリットが多いとされる薬剤ばかりが入っており、昭和時代の過去の遺物と言ってもよい薬なのです。

感染症診療についてアップデートしていない医療機関ではこのような薬が依然として処方されています。さらに、風邪という診断の際にはこれらの総合感冒薬に加えて、個々の対症療法風邪薬、風邪などのウイルス感染症には効果が期待できない抗菌薬(抗生物質)、抗菌薬の副作用の下痢予防のために整腸薬、多数の処方があるので胃薬……と多くの薬を追加処方されている例も見かけます。

風邪症候群は、本来であれば自然治癒するものです。それなのに、症状を軽減する効果どころかデメリットの多い薬剤を複数処方しているというリアルがあります。

■デメリットが多く、発売中止になった薬も

医師の処方箋がなくとも、ドラッグストアでは一般用医薬品の「総合感冒薬」を買うことができます。いわゆる市販の風邪薬です。

図表2に、市販の風邪薬の成分を示しました。市販の風邪薬というのは、成分の組み合わせや量を微妙に変えて、消費者にとってインパクトの大きい新たな商品名をつけて販売しているに過ぎません。同じ商品名で「のど風邪」用、「はな風邪」用、「せき風邪」用、「ねつ風邪」用などと銘打って売られているのは、その配合のバランスを微妙に変えているだけだったりします。

【図表2】薬局で買える一般医薬品総合感冒薬に含まれる各成分
出所=『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』

一昔前の医療業界では、「風邪には対症療法薬を!」というのが常識でした。しかし、2000年頃以降エビデンス(科学的根拠)に基づいた医療が求められるようになり、風邪薬の効果が再検証されました。

結果として、対症療法薬の個々の薬剤成分の効果や組み合わせには風邪症状を治したり軽減したりする効果はなく、使用によるデメリットがそれに勝るということが明らかになりました。これが令和時代の今の常識であり、発売中止となった薬も少なくありません。

■古い薬を集めて販売認可した薬とも言える

市販の風邪薬の1つ1つの成分は、安全性を優先するため病院で処方される総合感冒薬より少なめになっています。医療機関で処方される総合感冒薬の各成分ももともと非常に少ないものですが、市販薬はそれよりさらに少なくなっているのです。そのイメージをカバーするためなのか、多くの種類の成分を混合処方してあります。

また、副作用を抑えた比較的新しい成分の薬は、市販薬には認可されていない背景もあり、古い薬を集めて販売認可した薬と言ってもいいのかもしれません。

コロナ禍以降、「セルフメディケーション」がキーワードとなり、風邪にかかった際には病院を受診するのではなく、薬局で市販の風邪薬を買う傾向が強くなりました。国も税制や事業支援の政策として推進してきました。これは良い方向に向かっていると言えるのでしょうか。

■処方薬と市販薬のどちらもデメリットしかない

たとえば保険診療薬のPL顆粒と全く同量同成分の入った「パイロンPL顆粒Pro」という商品が2021年8月に市販されるようになりました。病院に行かずとも、同様の薬が手軽に手に入るのは患者さん側からすると助かるとの見方もできますが、ここまで説明してきた治療効果という面では疑問が残ります。

総合感冒薬自体が、風邪症状を軽減する効果のないことが明らかになっているからです。市販の風邪薬と病院処方の総合感冒薬はどちらがよく効くのか? という質問をよくされますが、前掲の薬の場合は、同量同成分なのですから、効果の大きさを比較する問いそのものに意味がありません。他の市販薬も同成分である限り同じです。しかもいずれの薬も、薬効がないうえに副作用はあるという残念な答えになります。

海外の多くの国ではすでに、6歳未満に総合感冒薬などの風邪薬の使用は警告・禁止しているケースがたくさんあります。米国では、小児や成人の風邪症状に対しての総合感冒薬、また18歳未満に対してはコデインを推奨していません。

■「金パブ」「Sブロ」と呼ばれている市販薬

近年、薬の「オーバードーズ(OD)」が問題視されています。ODとは、薬を一度に大量に内服することをいい、NHKでは「市販の薬を過剰に摂取することで、精神的苦痛から逃れる『オーバードーズ』に走る」若者が増えていることが報じられていました(NHK首都圏ナビ2021年7月1日)。

容器からテーブルにこぼれた白い薬
写真=iStock.com/Lorerock81
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Lorerock81

ここでは、ODをしてしまう人が大量内服するとされている風邪薬の危険性を説明しましょう。俗称として、「金パブ」、「Sブロ」と呼ばれている薬です。

「金パブ」というのは、パブロンゴールド®、「Sブロ」というのはエスエスブロン錠®のことを指します。共通して含まれる成分は、中枢性麻薬性鎮咳薬であるジヒドロコデインリン酸塩、気管支拡張薬であるメチルエフェドリン塩酸塩、第1世代抗ヒスタミン薬であるクロルフェニラミンマレイン酸塩の3つです。

■大量に内服することでトリップ状態になる

これら3つは、他の有名な総合感冒薬にも主配合成分として入っていることが多いものです。大量に内服することで夢うつつな感覚、いわゆるトリップ状態になるため、現実逃避のために使われてしまうのです。

商品によっては、第1世代抗ヒスタミン薬の成分が、クレマスチンフマル酸塩であったり、ジフェンヒドラミンだったりすることもあります。クレマスチンフマル酸塩は眠気が強く出るため、乗り物酔いの薬の主成分として配合されたりしますが、花粉症などのアレルギー性鼻炎薬にも含まれているものがあります。

ジフェンヒドラミンは、じんましんの薬としてのレスタミンコーワ糖衣錠®として販売されており、これを大量内服してもトリップ状態になり得ます。「レタス」という隠語で呼ばれているようです。ドリエル®などの睡眠改善薬として販売されている薬剤に使われている成分です。

■依存性や中毒性が強く効果は期待できない

永田理希『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』(ちくま新書)
永田理希『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』(ちくま新書)

気分を落ち着かせる鎮静薬として販売されているウット®という商品には、ジフェンヒドラミンのほかに、ブロモバレリル尿素も主成分に含まれています。この成分は、前述したように非常に依存性の強い催眠鎮静効果があり、呼吸抑制作用も強く安全性が極めて低いため、海外では発売禁止されているものです。

国内でも、この成分による急性・慢性ブロム中毒が起きています。保険適用の総合感冒薬カフコデ®Nには1回量に120mg含まれており、ウット®には83.3mg、1日3回の内服になります。同じ成分は、市販薬の解熱鎮痛薬ナロンエース®、歯痛・頭痛薬大正トンプク®にも、1回量に200mgが含まれています。

これらの成分は、適正量で数日の内服であれば問題ないことが多いのですが、これまで説明してきたように風邪症状を軽減、改善する効果は非常に乏しく、依存性・中毒性が強いものです。明らかにデメリットが勝るため、内服するべき風邪薬ではありません。

■合法的に手に入り、依存性は覚醒剤や大麻よりも高い

2014年6月に厚生労働大臣から「濫用等のおそれのある医薬品」が通達されました。エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、ブロムワレリル尿素、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリンの6成分です。

薬を提供する側(薬局や販売業者)に注意喚起するものですが、受け取る側も注意が必要です。依存性があっても販売数量に制限がされていない成分や商品は、これら以外にも多くあります。インターネット販売では制限なく購入できるリアルもあります。

これらの薬物は合法的に手に入る薬ですが、薬物依存への重症度は、覚醒剤や大麻より高いことが明らかになっています。2020年9月、厚生労働省から公表された医薬品販売制度実態把握調査の結果から、再使用率も高いことがわかっています。

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永田 理希(ながた・りき)
耳鼻咽喉科専門医
1999年、東邦大学医学部卒業。2006年、金沢大学大学院医学系研究科外科系卒、医学博士号取得。高岡厚生連病院、富山労災病院、福井県済生会病院に勤務。抗菌化学療法認定医、感染制御専門医、耳鼻咽喉科専門医。2006年より感染症予備校と称し、「感染症倶楽部」を創設。全国の医療従事者を対象に感染症生講演開催、全国へ出張・WEB講演も開催。2008年、石川県加賀市にて「希惺会 ながたクリニック」を開業。全国でも稀な「かぜ専門外来」を併設。2009年pdmインフルエンザ、COVID-19(2020年~)も含め、地域での新興感染症診療、北陸唯一の後遺症専門外来に率先して従事。2010年よりFacebookにて医療従事者向けの登録制感染症勉強グループを開設、感染症診療における正しい情報をシェアし、学び合える場を提供。2022年より抗生物質(抗菌薬)の正しい使い方の30分レクチャーを毎週水曜日8時にZoom生配信レクチャー【IC-FORCE】を全国の医師、研修医をはじめとする医療従事者500名に向け開催。著書に『Phaseで見極める!小児と成人の上気道感染症』、『Phaseで見極める!小児と成人の風邪の診かた&治しかた』(いずれも日本医事新報社)『間違いだらけの風邪診療 その薬、本当に効果がありますか?』(ちくま新書)などの単著書籍や、他共著などがある。

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(耳鼻咽喉科専門医 永田 理希)

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