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価格が安いのにはワケがある…現役医師が「私はジェネリック薬は飲まない」と断言するワケ

プレジデントオンライン / 2022年7月11日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Brenda Rocha Blossom

国は「ジェネリック薬(後発医薬品)」の利用を積極的に勧めている。新薬(先発医薬品)の特許が切れた後に製造・販売されるもので、有効成分は同じなのに価格が安いため、医療費抑制につながる。しかし、本当に先発薬の代わりになるのか。東京新聞の五味洋治論説委員がリポートする――。(第1回/全2回)

※本稿は、五味洋治『日本で治療薬が買えなくなる日』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■「一線で働いている人はほとんど信用してない」

先発と同じ成分で、安心して安く服用できるという認識が広がっているジェネリック薬。しかしジェネリックを使わないし、信用していないという医師がいるというので、知人を介して話を聞いた。今年60歳になった男性外科医で、関西の大学病院に勤務している。

——先生はがんのご専門と聞いています。

【F医師】ええ、医師の経験はもう30年以上です。胃がんと、食道がんを専門としています。患者さんの容体によっては夜中に呼び出されることもありますよ。病院内にベッドがあって、そこで寝ることもあります。医師の働き方改革から見たら、ぜんぜんダメ。うちの病院は引っかかるね、きっと。

——ジェネリック薬のいろいろな側面を伝えることができればと思って、お話を聞いていますけれども、先生はどんなご意見ですか。

【F医師】私はジェネリックに非常に批判的っていうか、まあ大きな病院でも一線で働いている人はほとんど信用してないですね。ジェネリック薬の選定については理事会サイドが決めてくるんで、あんまり文句は言えなくて。

ジェネリックはこれにしましたって言われたら分かりましたと言って使ってるんだけども、やっぱりジェネリックにパッと替えられると(患者さんも含め)みんな、嫌な顔してますね。

■「ジェネリック薬を飲んだあとに肝障害になった」

——勤務する病院では、使用率8割を目標にしていないのですか。

【F医師】うちの病院長は、無理に8割使わなくていいと言っています。7割ぐらいでいいと。私もちょっと血圧が高いんですけど、ジェネリックは飲まないですね。体質に合えばいいです。私の意見では(信用していいのは)7掛けくらいだと思ってます。3割はダメだと思います。クオリティっていうか品質にかなり問題があると思っているんです。

——個人的に、そのクオリティが低いという実感をされたことはありますか。

【F医師】僕は肝障害があります。ジェネリック薬を飲んだあとになりました。娘も同じ体質なんです、ロキソニンの後発品を使って、結局病院に入院しました。娘は薬剤師なんですけどね。

男性の解剖学
写真=iStock.com/Tharakorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tharakorn

——それでどうして数多く処方されているのでしょうか。

【F医師】はい、それはね。大きな病院の院内にいる薬剤師は分かっていても、(小規模な)調剤薬局の薬剤師は、厚労省が啓蒙してることを受け止めて、まあ、同等品である、効果も全部一緒であると理解されてますから。調剤の人はまあ値段は安いし、効果は一緒なのでやっぱり(患者さんに)勧めるわけです。その辺の温度差がかなり出ていると思います。

それに、薬価計算でも少しプラスされていて、ジェネリック薬に切り替えると得になるという面もあるようです。病院もジェネリック薬の使用が80%超えると、お金が入る仕組みがあるんです。

■先発薬に比べて混ぜ物の問題が多い

【F医師】うちの病院で3年ぐらい前にあったことです。手術する時に予防的な意味で、抗生物質を患者に使うんですよね。それで後発薬の同じロット(その薬が、いつ、どこで製造されたかを示す記号)番号の抗生物質を投与したら、2例がアナフィラキシー・ショック(発症後、極めて短い時間のうちに全身にあらわれるアレルギー症状)になりました。もちろん、その時点で手術は中止になりましたし、そのロットの抗生物質は引きあげになりましたよ。

ある抗がん剤では間質性肺炎(息切れ、発熱などを伴う肺炎)が3、4件連続で起きました。これはどう考えてもジェネリック薬に関係あるのではと思って、メーカーに問い合わせて、薬の資料を全部持って来てもらったこともあります。

——原因はなんだったのでしょうか。

【F医師】ジェネリック薬は、先発薬に比べて混ぜ物の問題が多いですよね。日本人の体質に合わないんじゃないかということも言われています。副作用の問題を扱っているNPO(民間非営利団体)があり、そこに私が報告を送ろうと思ったら、その薬は日本から撤収されてしまいました。

——どうして撤収したのでしょうか。

【F医師】業者の方も問題を分かっていたのではないでしょうか。副作用のモニタリングもしないまま、要するにふたをしちゃったんです。だから、そういうのはやっぱりジェネリックにはあるんですね。副作用が出たとしても、ちゃんと対応する。例えば同じロットの薬を使った場合の、患者の血中濃度を測って、ちゃんとレポートして来るのは、大手の沢井製薬ぐらいですね。

製品の成分も全部分析して2、3週間後に持ってきますね。この前問題を起こして新聞にも出たあるメーカーは、まあ無茶苦茶ですよ。何かあっても知らんぷり。売ってそのままの会社もあるってことです。

健康コストとインフレに関する新聞の見出しの切り抜き
写真=iStock.com/RapidEye
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RapidEye

■「80%普及」という厚労省の目標

——製薬会社も無理な急成長をしているのではないですか。

【F医師】生産ラインを増やしても、品質の管理が十分できてない。厚労省は早くから80%普及の目標を立てていました。私も厚労省側から意見を聞かれたことがありますが、絶対に不良品が出ると言ったんです。もう8年前のことですが、本当に事故が起きて死者が出ましたよね。

反対に「先生はどれぐらいの割合がいいですか」って聞かれたので「6割ぐらいがいいですが、8割はダメです」とはっきり警告したんですよ。当時は、普及は40%が適当だなんて言われてたんですよ。それを急に8割にするって言うから、もう絶対やめとけって言ったんです。

——どうして厚労省はそんなに急いだんでしょうか。

【F医師】まずは医療費の抑制だと思うんです。医療費は高騰していますから。やっぱりその抑制が一番メインだろうと思うんですけども。僕もこれよく分からないっていうか、噂なんですけどね、新しい天下り先をつくろうとしたのではないか。

大手のメーカーさんは、厚労省の役人の天下りを受けつけなくなっている。それで、ジェネリックの普及を図ればあちこちに新しい天下り先もできるし、医療費は抑えられるし、一石二鳥だったのかもしれません。

■「効く薬もあるし、基本的には安くていい」

——一般的に担当医が処方箋を書く時に後発禁止と書けば、ジェネリック薬は使えないそうですが。

【F医師】はは、僕はそうは書きません。それはね、僕はジェネリックを全部否定してるわけじゃないのでね。とはいえ、僕は個人的には7掛けぐらいかなって思っています。効く薬もあるし、基本的には安くていいです。ただ、8割普及の政策には、無理があるという意味です。僕はジェネリックの認可基準がおかしいんじゃないかと思ってるんです。時間があれば調べたいと思っています。

——実際に問題も起きました。どうすればいいでしょうか。

【F医師】これ、やっぱりパーセントを無理に上げないで、メーカーの品質管理を、もうちょっと努力させるってことでしょうかね。戦争が起きたウクライナや、中国やインドから原薬の粉末っていうか、材料が入って来ていることが多いんですよ。

例えば中国で内紛が起きるとか、インドで問題が起きたら、薬品の確保が難しくなるでしょう。8割普及させて、そういう国際的な問題が起きた時にどうするかっていうことです。全部先発品を使え、先発品のメーカーを儲けさせよ、と言うつもりはありませんけどね。

——患者さんの立場からしても、3割負担であり、安くて効能の高い薬をたくさんもらえれば安心だと、頼りすぎてる部分がある気がします。

【F医師】そもそも何種類以上か薬を処方すると、思わぬ副作用が出てしまいます。だからできるだけ薬の量を少なくする。できるだけ少ない薬量で、値段も安く抑えられて財政の改善にも貢献できるというのが、やっぱりベストでしょう。そういう意味でも、生活習慣病で飲む薬はできるだけ減らす努力っていうか、患者が努力しないといけませんよね。

私あんまり、(処方で)薬を出さないんですよ。胃がんの手術をしても薬を出さないことが多いんです。患者さんから「先生、薬ください」って言われる。だけど、いらんって言ってる。年配者の場合はしょうがないですけどね、若い人なら「あなた若いから自然に治ってきます、大丈夫ですよ」と言います(笑)。

約30分間、病院内でZOOMによるインタビューに応じてもらったが、別の予定があるというので、ここで打ち切りとなった。あくまで1人の医師の考え方だが、現場での感覚は貴重だ。あなたはどう考えるだろうか?

■「ジェネリックをオススメする」と答えた医師は3割以下

医学博士であり内科医でもある志賀貢さんは、医療に関する数多くの本を書いている著名人だ。その志賀さんが『医者はジェネリックを飲まない』(幻冬舎)という本を2019年に出している。ジェネリック薬を巡るさまざまな事件や、医師として考え方が書かれていて参考になる。志賀さんは、2019年にテレビ東京系で放送された「主治医が見つかる診療所」という番組のことを紹介している。

医師を対象に「ジェネリックをオススメするか、しないか」というアンケートがあった。回答した50人の医師たちのうち、オススメすると答えた医師は、わずか13人(26%)にすぎず、そしてオススメしないが12人、どちらともいえないが25人だった。「おそらく私も回答を求められたら、患者さんにはお勧めできない、と答えたに違いないと思います」(志賀さん)。

■降圧剤だけは、まず先発医薬品の服用を推薦する

現場で一定期間患者さんに投与され、その結果が広く共有されている先発薬に信頼を置いているためだ。もちろんジェネリック薬のメリットについても書いているが、この本の中では「血圧と心臓の薬は先発医薬品から始めよう」と呼びかけている。薬の価格はジェネリックの方が約半値以下なので、長期に服用する場合、負担額に大きな差が出るかもしれない。

五味洋治『日本で治療薬が買えなくなる日』(宝島社新書)
五味洋治『日本で治療薬が買えなくなる日』(宝島社新書)

しかし降圧剤だけは、まず先発医薬品の服用を推薦すると志賀さんは書いている。その理由は、先発医薬品と後発医薬品では大きく歴史が違うからだ。薬の安全性や安定性を考えると、やはり歴史のある先発医薬品が好ましい。長い間服用するだけに、心臓に関連する薬は価格で決めてはいけないということだ。

自分が服用する薬について信頼できる医師や薬剤師に相談することは必要だが、「医師にしろ、薬剤師にしろ、立場上、ジェネリック薬に関して本音で解説をしてくれるか疑問」と志賀さんは明かす。そして「ネットでも薬の情報は手に入るので、自分でもしっかり情報を得ておくことが必要だ」と強調する。参考にしたい。

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五味 洋治(ごみ・ようじ)
東京新聞論説委員
1958年長野県生まれ。82年早稲田大学第一文学部卒業。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年韓国延世大学校に語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大学に客員研究員として在籍。現在、論説委員。主に朝鮮半島問題を取材。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないのか』(創元社)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋)、『父・金正日と私 金正男独占告白』(文春文庫)、『女が動かす北朝鮮 金王朝三代「大奥」秘録』(文春新書)などがある。

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(東京新聞論説委員 五味 洋治)

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