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自白を促す目的で男性兵士にも性的暴行を加える…ロシアの選別収容所で行われている恐ろしい拷問の数々

プレジデントオンライン / 2022年7月11日 15時15分

写真=SPUTNIK/時事通信フォト

■「きれいな鼻筋だね」ロシア兵に性行為を強要された

ロシア軍が侵攻したウクライナの各都市では、民間人の殺害や民家からの物品の強奪などが無数に報告されている。こうした事件に混じり、あまり大々的に報じられることのない隠れた被害事例に、ウクライナ市民をターゲットにした性的暴行がある。

まだ大学生ほどの年齢の少女や、2人の子をもつ母、そして時には少年や男性などが銃をもったロシア兵らに屈し、消えることのない心の傷を負っている。

米ワシントン・ポスト紙は、ロシア軍兵士に性的暴行を受けた19歳少女の例を報じている。記事によるとこの少女は、ロシア軍に支配された南東部マリウポリで地下の避難所に身を寄せていたところ、身分証確認の口実で訪れた兵士らに目をつけられたという。

記事によると日没が迫る頃、少女は飢えと氷点下の寒さに震えていた。頼りになるボーイフレンドがいるが、母の見舞いで外している。目出し帽をかぶった2人の兵士が地下室に押し入ってきたのは、その時だった。ロシア軍のチェチェン系兵士で、部隊の制服を自慢していたという。息は酒臭く、肩にはライフル銃が光る。

少女が身分証を提示するために立ち上がると、兵士のひとりが名前を聞いてきた。少女の頬に手を当て、鼻筋が美しいと褒めたという。彼女はのちに、同紙にこう打ち明けている。「心の奥底では、もう察していました」

兵士は嫌がる彼女を2階の空き部屋へと連れていき、かがませてソファに手をつかせると、行為を迫った。外では砲撃による轟音(ごうおん)がやまない。「したくないと答えました。でも、殺すといわれたんです」「そして、無言でもち上げられ、望むがままにされました」

地下室には男性も含めて多くの人々が避難していたが、銃をもつ兵士らを相手に抵抗などできなかったという。地下室に戻ったボーイフレンドがことの顛末(てんまつ)を知ったのは、すべてが終わった後のことだった。

■目の前で夫を殺され、レイプされた女性

暴行は首都近郊でも発生している。キーウ近くの村に住む43歳女性は、まだ息子ほどの年齢の19歳ロシア兵士に夫を殺され、性暴力を受けた。米ニューヨーク・タイムズ紙が報じている。

ロシア軍が首都近郊に迫っていた3月のとある晩、女性はノックの音を聞いた。3人の酔ったロシア兵が自宅に押し入ってきたという。立ちはだかった夫は、その場で射殺された。女性は銃を突きつけられたまま、隣人女性とともにロシア兵らの拠点へ連行され、そこで性的暴行を受けた。

彼女の手で女性を停止ジェスチャー
写真=iStock.com/gece33
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gece33

彼女が尋ねたところロシア兵は、祖国に17歳のガールフレンドがいると答えたという。ガールフレンドとは性的関係をもったことがないとも語っており、欲望のはけ口をこの女性に求めた模様だ。

同紙の取材に対し、女性は悔しさを滲(にじ)ませる。「彼は残忍で、私を女性でも母親でもなく、売春婦として扱いました」「私をレイプし、冷酷にも私の目の前で夫を殺したのです。プーチンと一緒に死ねばいいんです」

彼女は夫の撃たれた家を離れたが、いまもなお同じ村に住んでいる。小さな村で噂は巡り、彼女と彼女の夫に何が起きたのか、村じゅうが知っている。力なく彼女はつぶやく。「(事件のことを)考えなければ生きていけます。だけど、忘れることなんてできない」

断(た)っていたタバコに、また手が伸びるようになった。いまでは鎮静剤も欠かせない。「この戦争は、みんなの精神を壊したのです」

■公然と行われるレイプ行為

ロシア軍によるこうした性暴力は公然の秘密となっているのだろうか。

米議会が出資する放送局のラジオ・フリー・ヨーロッパは4月、ウクライナ当局が傍受したロシア軍による通話のなかに、本国の妻に対して堂々とレイプの許可を求めるものがあったと報じている。ウクライナ入りした若いロシア兵が祖国にいる妻に電話をかけ、集団暴行への参加をほのめかしたところ、妻は朗らかに「了解、許可します。でも避妊具は使ってね」と応じたという。

メリンダ・シモンズ駐ウクライナ英国大使は、レイプがロシア軍の武力行使手段の一部になっていると指摘も出ている。同記事によると、メリンダ・シモンズ駐ウクライナ英国大使は、次のように語っている。

「ウクライナにおける状況の全容はいまだ不明ですが、それ(レイプ行為)がロシアの武器庫の一部を担っていることは明らかです」「女性が自身の子供たちの目の前で犯され、少女たちは家族のいる場でそうされ、故意に服従させられているのです」

■ウクライナの少年や成人男性の被害も

被害者は女性が圧倒的多数を占めるが、なかには少年や成人男性らが被害者となるケースも起きている。英ガーディアン紙が5月に報じたところによると、紛争下の性暴力問題を担当するプラミラ・パッテン国連特別大使は記者会見で、「未検証ではありますが、ウクライナの男性および少年に対する性暴力事件の報告を複数受けています」と説明した。

過去の例をひもとけば2000年、ロシアの契約軍人らが派遣先のチェチェンにおいて、現地女性と男性の両方に性的暴行を加えていたことが非政府組織(NGO)による報告書を通じて明らかになっている。

法学誌『欧州国際法ジャーナル』が発表したブログ記事によると、男性を標的とした性的暴行は少なくとも選別収容所において、男性兵士の自白を促す目的で実施されていた模様だ。

選別収容所とは、一般市民と過激派思想の持ち主をふるい分けるための施設だ。現在のウクライナ侵攻に関してもロシア側が設営している。ロシアに避難するウクライナ市民を強制的に一時収容し、携帯のロックを解除させてメッセージの履歴を検閲するほか、時には拷問を加えるなどの手法で個人の信条を検査している。

軍服の兵士が遺跡の上に立つ
写真=iStock.com/Diy13
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Diy13

■被害報告は氷山の一角

これまでに知られている性犯罪被害の報告は、氷山の一角である可能性がある。事件の性質上、捜査当局に被害届を出したり、報道機関の取材に応じたりといった行動を起こしている被害者は、ごく一部にとどまるとみられる。

冒頭の19歳少女もワシントン・ポスト紙の取材に応じたが、正式な被害の申し立ては現時点で行っていないと述べた。「心の準備が整わないのです」と少女は語る。

実際に被害を届け出たとしても、犯人が捕まる公算は低い。ガーディアン紙は、かつてキーウ周辺にいたロシア兵加害者らが、軍の撤退に伴いすでにロシアに帰国したおそれがあると指摘している。

■問われるプーチンと軍幹部らの罪

だが、それでも勇気を振り絞り、忌まわしい経験を打ち明ける被害者たちもいる。

被害者ホットラインやウクライナ捜査当局に提供されるこうした事例は、非人道的な戦争犯罪の証拠になると期待されている。戦争犯罪には時効がないため、ロシア兵たちが犯した罪が赦(ゆる)される日は訪れない。

現実問題としては、個々の事件を国際法廷で裁くことは難しいだろう。だが豪ABCは、十分な証拠が集まれば、軍上層部やプーチンへの打撃となる可能性があるとの見解を報じている。

メルボルン大学のサラ・ミジャー講師(国際関係学)は同紙に、「戦争犯罪とは、故意の非人道的な扱いおよび民間人への重大な加害(など)を指し、これは軍の戦略として行われたか否かを問題としません」と説明している。「したがって、同軍の作戦中に構成員が行ったあらゆるレイプは、戦争犯罪の定義を満たすと考えられます」

ロシア軍がウクライナの地で及んだ蛮行が巡りめぐって、将来的にはプーチンとロシア軍幹部らの罪が問われる可能性も、皆無ではないようだ。

■大々的に報じられる戦況の裏側

ウクライナのロシア支配地域に残された弱い立場にある人々は、残虐行為に日々怯(おび)えている。物資不足で医療と医薬品が限定されるなか、望まぬ妊娠は切実な問題だ。

欧州国際法ジャーナルは、記事で「ロシア兵によるレイプなどで妊娠した女性がいる」と指摘している。中絶薬の流通が限られていることから、意図しない妊娠と出産を迫られる懸念がある。

また、ウクライナ難民の多くがポーランドへ越境しているとしたうえで、避難先では厳格な中絶禁止法が施行されているという。かといって出産を試みようにも、戦災によるストレス下では早産や死産のリスクを無視できない。

なお、加害者には一部、ウクライナ兵も含まれえるようだ。ワシントン・ポスト紙が6月8日に報じたところによると、ウクライナ国連人権監視団はこれまでに124件の性暴力被害の申し出を受理し、うち24件について確認が取れたと発表している。

24件のうち、ロシア兵または関連集団によるものが半数の12件を占め、犯人不詳が7件となった。一方で残りの5件は、ウクライナ兵による事件となっている。

日々のニュースで報じられる戦況の一方で、戦場となったウクライナで暮らす市民が性的暴行を受けている。これが戦争の実態なのだ。ウクライナでひとつの都市が陥落するたび、少なくない数の被害者が声を上げられずに新たに心の傷を負っているのかもしれない。

戦争で苦痛を強いられるのは、いつも弱い立場にいる人であることを忘れてはいけない。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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