突然の「メンタル不調」の相談に、上司がつい言ってしまう部下を余計に追い込むNGワード
プレジデントオンライン / 2022年7月25日 8時15分
■「言うべきではないこと」を言う上司は多い
「最近よく眠れないし、全然疲れが取れずまったく気力が出ないんです。メンタル不調なんじゃないかと思うんですが……」
部下からメンタル不調を打ち明けられたときには、どんな対応をするとよいのでしょうか。
上司にメンタル不調について相談するのは、相当な勇気が必要だったはずです。特に、精神状態や体調がよくないときですから、後ろ向きなことばかり考えてしまいドキドキしながら話しかけてきていると思います。上司には、そうした部下の思いを汲んで、丁寧に対応してほしいところですが、急なことに驚いて、本当は言うべきではないことを言ってしまう人がたくさんいます。
■NGワード①「頑張れ」
「メンタル不調の人を励ますのはよくない」ということは、以前に比べれば比較的知られるようになってきましたが、それでもまだ、つい「もう少し頑張ってみろ」「ここが踏ん張りどころだ。頑張れ」などと言ってしまう上司は少なくありません。
部下は、不調を押して、既に頑張っているのに、まだ「頑張れ」と言われてしまうわけです。「上司から見ると、自分はまだまだ頑張れていないのか」と自信を失い、さらに気分も落ち込んでしまいます。
そもそも本人は、「もうこれ以上は頑張れない」「意欲や気力が出てこない」ことに苦しんで相談しているのに、励まされると追い詰められてしまいます。
■NGワード②「気分転換に飲みに行こう」
コロナ禍で、飲み会や会食の機会は減りましたが、やはり気をつけたいのが「気分転換に飲みに行こう」です。誘った上司の方には悪気がなく、「ちょっと仕事から離れたところでリフレッシュしよう」「会社の外のほうが話しやすいのではないか」と気軽に誘ったのかもしれません。
しかし、メンタル不調だと、せっかく誘ってもらっても、楽しむだけのエネルギーがないので、余計に疲労感が増してしまいます。「少しでも元気になってほしい」「リフレッシュしてほしい」という上司の期待に応えられないので、罪悪感も抱えてしまいます。
同様に、家族から「旅行にでも行ってリフレッシュしよう」と誘うのもやめた方がいいでしょう。ほかの家族が楽しんでいても、自分は楽しめない。また、家族が自分を楽しませようとしてくれているのに応えられないのもつらくなります。
■NGワード③「休むのはいいけど、引き継ぎはしっかりやってね」
こう言う上司は本当に多く、当たり前のことを言っているつもりだと思います。言いたくなる気持ちもわかりますが、口にするまえに少し立ち止まって考えてみてほしいと思います。
メンタル不調だと、思考力や集中力が落ちます。元気な時ならすぐに終わる仕事でも、時間がかかってしまいますし、疲労感も大きくなります。上司が求める「しっかりした引き継ぎ」は、かなりの負担になり、症状を悪化させてしまうことになります。そのうえ、引き継ぎが終わるまで休めないプレッシャーも大きい。
精神科医が出す「休息が必要」という診断書は、「今日から休んでね」「明日から会社に行っちゃダメだよ」という気持ちで書いています。とはいえ立場上、すぐには休むことができなかったりするのは理解できます。でも、長くても2日が限度です。明日、明後日まではギリギリで許容できますが、その次の日からはしっかり休んでほしいのです。
それがあまり理解されていないことが多く、診断書が出てからも、引き継ぎが終わるまで2~3週間仕事に行き続ける人もたくさんいます。上司は、引き継ぎのことは心配しないで本人が休めるよう、できるだけ配慮して、速やかに休ませてあげられるようにしてください。
■話を聞くための時間と場所を確保する
上司は、部下からメンタル不調の相談を受けたとき、どのように対応したらよいのでしょうか。重要なポイントは2つあります。
1つ目は、じっくりと話を聞くための時間と場所を確保すること。そうすることで、「あなたの話をちゃんと聞きますよ」という姿勢を見せます。
ここをないがしろにしている人はとても多いです。つい、周りに人がいる自席で「詳しく聞かせて」と話を聞こうとしたり、「忙しいから今話して」と急かすようなそぶりを見せたりしてしまう。すると部下の方は、片手間に話を聞かれているように感じてしまい、「この人に相談しても意味がない」「期待できないな」と思ってしまいます。
こういった場合にはすぐ「今、会議室をとったから、そこで話そう」と伝え、場所と時間を確保して、受け入れる姿勢を目に見えるように示すことが大切です。
■聞き役に徹する
2つ目は「共感しながら聞く」ことです。これは、それほど難しいことではなく、ただ聞き役に徹するだけでよいのです。部下の話をさえぎらずに聞き「なるほどね」「そういう状況なんだね」「そんなふうに考えているんだね」と、否定しないで受け入れます。
つい、「自分は上司なんだから、教えたり導いたりするようなことを言わなくては」「せっかく“相談”してきてくれたんだからなにか助言をしないと」と考えてしまい「もう少し頑張れ」と励ましたり、「そんな時はこうするといいらしいぞ」とアドバイスしたりする人は多いのですが、避けましょう。もちろん「私が若い時も、ストレスで眠れなくなったことがあるけれど、こんな風に乗り越えた」などと説教するのはもってのほかです。
上司の役割は、部下の話をじっくり聞き、本人が自分の考えや気持ちを言葉にするのを手伝うことです。話すことで、部下の方は、自分の考えや気持ちを整理することができます。
ただ注意してほしいのが、必要以上に部下の気持ちに寄り添いすぎて、自分までしんどくなってしまうケースです。部下の悩みを自分で解決できそうにないと思ったら、すぐに産業医や外部の精神科医につないでほしいですね。
熱心な上司ほど、「部下のことは自分だけで解決しなければいけない」と抱え込んでしまうことが少なくありません。しかし、それは部下にとっても解決になりません。早めに産業医に相談するなど、専門家につないでほしいと思います。
■不調に気づきにくくなっている
部下のメンタル不調は、できれば上司がいち早く気づいてあげるとよいですが、実際はなかなか難しい。なぜなら、まず当事者である部下自身が、調子が悪くても気づかれないように隠そうとするので、なかなかわかりません。
また、通常であれば、パフォーマンスが落ちて残業が増えていたり、夜眠れないために居眠りが多くなったり、調子が悪そうだったりすれば「おかしいな」と思うかもしれませんが、テレワークだと、いくら具合が悪くても、期日までに成果物ができている限りは疑う余地がありません。このため、本人が病院に行って診断が出てから上司に相談するというパターンの方が、圧倒的に多いです。
そうなるとやはり、部下がメンタル不調を隠さずにすむ、具合が悪いときはすぐに上司に相談できるような雰囲気づくりが重要になります。相談を受けたり、少しでも調子が悪そうな様子があったりした場合には、場所と時間を確保してじっくり話を聞く姿勢を見せ、聞き役に徹して共感しながら話を聞いてあげてほしいと思います。
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産業医・精神科医
島根大学医学部を卒業後、様々な病院で内科・外科・救急科・皮膚科など、多岐の分野にわたるプライマリケアを学び、2年間の臨床研修を修了。その後は、産業医・精神科医・健診医の3つの役割を中心に活動している。産業医として毎月約30社を訪問。精神科医・健診医としての経験も活かし、健康障害や労災を未然に防ぐべく活動している。また、精神科医として大阪府内のクリニックにも勤務。
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)
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