自分に甘い人ほど群れたがる…『島耕作』の弘兼憲史が40年描き続けた人生で一番大事にしていること
プレジデントオンライン / 2022年7月25日 13時15分
※本稿は、弘兼憲史『捨てる練習』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「群れる」ことが嫌い
ぼくはずっと以前から、「群れる」ことが嫌いでした。それを強く意識するようになったのは、早稲田大学に入学して間もない頃です。
第2次世界大戦後のベビーブームの初年、1947(昭和22)年生まれのぼくが早稲田大学に入学したのは、1966(昭和41)年4月のこと。
その前年、アメリカ空軍が北ベトナムへの大規模爆撃「北爆」を開始したことで、ベトナム戦争に対する反戦運動が日本でも拡大しました。
それに加えて早稲田大学では、前年末に完成した学生会館の管理・運営問題で学校側と学生たちが対立したところに、学費値上げに反対する学生たちが決起。1968(昭和43)年に始まる全国的な学生運動「全共闘運動」の先駆けとなった「早大闘争」が高まりを見せていたのです。
ぼくの4年間の大学生活は、まさに「大学闘争真っ只中」でした。
■学生運動への違和感
そんな時代に大学生となったぼくは、誘われて学生運動の集会に参加したこともありました。そこで、強い違和感を覚えたのです。
当時のぼくは、政治に強い関心を持たない「ノンポリ」でしたが、彼らが主張する左翼的な思想、理想として語られていた共産主義が、どう考えても理屈に合わないと思ったのです。
自分なりに本も読み、勉強もしましたが、「国家が経済を統制すれば、民間の活力がなくなる」──という結論しか出てこなかった。彼らが「革命を起こす」といくら叫んでも、革命の必要性をまったく感じませんでした。
また、彼らは「ベトナム戦争反対」と言いながら、ヘルメットを被り、角材を武器にして“国家権力”と戦い、時には火炎瓶を使用していました。
戦争を暴力だと否定しながら、自分たちの暴力は肯定するというのは、果たしていかがなものか。そこに彼らの身勝手さを感じたのです。
■親の脛をかじる学生が「本当にやるべきこと」
さらに、学費値上げ反対運動についても、当時の日本は高度成長期にあって、所得も物価もどんどん上昇していました。
そんな時代に学費だけを「上げるな」というのは無理な相談だし、そもそも彼らの授業料のほとんどは親が払っているわけです。授業をボイコットして反対運動に精を出すより、授業をきちんと受けるべきだろうと考えていました。
結局彼らの大半は、親の脛(すね)をかじっている学生。自立もしていない学生が、天下国家について語る資格があるのか──。
エネルギーを持て余している若者たちが徒党を組んで、何かの目標に向かって進むという妙な連帯感を楽しんでいるだけではないかと、冷ややかに見ている自分がいました。
それ以来、ぼくは群れること、徒党を組むことを嫌うようになったのです。
■『課長 島耕作』誕生前夜
「群れない」というこの僕の考え方は、その後、作品にも色濃く反映されることになりました。
漫画家デビュー10年目、36歳になる年にぼくは、創刊したばかりの『コミックモーニング』から読み切り作品の依頼を受けました。
「何を描こうか……」と考えて思いついたのが、ごく普通のサラリーマンを主人公にした漫画──のちの『課長 島耕作』でした。
記念すべき第1話は、読み切りのつもりで描いた「カラーに口紅」というタイトルの短編でしたが、編集部がこの作品を気に入り、「係長 島耕作」というタイトルで雑誌に掲載しました。
その後、「面白いから、ぜひシリーズ化してください」との申し入れがあったので、ぼくは深く考えもせずに「いいですよ」と承諾し、「課長 島耕作」という名の不定期連載が始まりました。「カラーに口紅」の主人公である島係長が、エピソードの最後に課長に昇進していたことで、第2話のタイトルが「課長」となったのです。
■島耕作の行動規範
それがその後、40年近くも読み続けられ、ぼくの代表作と呼ばれる作品になるのですから、人生は面白いものだと感じます。

読み切りの短編として誕生した「島耕作」を主人公とする作品が、不定期連載を経て、本格的な連載になったとき、ぼくはオフィスラブをテーマにしたファンタジーから、シリアスなサラリーマン漫画へと舵(かじ)を切りました。
それまでリアルなサラリーマン漫画というジャンルはなかったし、なによりぼくの実体験が生かせる……と思い立ったのです。
そこでぼくは、物語を再構築するために、主人公である島耕作の“行動規範”を定めました。その第一に掲げたものこそ「群れない」だったのです。
■品性に欠けると群れをつくる
『論語』に次のような言葉があります。
君子、つまり徳のある人は、人と親しくしながらも同調はしない。小人、すなわち度量や品性に欠ける人は、すぐに同調するのに人と親しくはならない──。
社会人、それも企業に属する組織人である以上、周囲の人とうまく連携し、協調しなくてはいけません。しかし、自分の意見を捨てて相手に合わせるような“同調”は決してしない──ということです。
また、孔子はこうも言っています。
「周」は「あまねく」、「比す」には「べたべたする」という意味があります。つまり、徳のある人は公平に人と付き合うが、群れない。品性に欠けた人は、群れを作って公平に人と付き合わない──となります。
■人は「慰めてほしいから」群れる
なぜ、人は群れようとするのでしょう。人に甘えたいからではないでしょうか。
「同病相憐れむ」といいますが、辛いことや悲しいことがあったとき、人は群れて甘え合い、慰(なぐさ)め合おうとする。甘えたいから、慰めてほしいから、群れるのです。
そして、「相憐れむ」とか、「甘え合う」「慰め合う」というと、「お互いに」という感じがしますが、そうではありません。
実は一方的に「甘えたい」「慰めてほしい」と相手に要求しているのです。それが「同調圧力」になって、それでも思うようにならない相手は、群れから追い出そうとする。
結局、群れたがる人は、自分に甘く、人に厳しい。自分を厳しく見る目と、相手に対する優しさがないのです。
■「なんであいつはサボってばかりいるんだ」と思ったら…
自分も甘えないし、不用意に他人を甘やかすこともしない。「冷淡だ」「クールだ」と言われるかもしれませんが、「甘えない」「誤魔化さない」「流されない」という原則を守っていれば、さっぱりとした人付き合いができます。
そのためにはまず、他人に厳しく接するのではなく、他人と接している自分自身に厳しい目を向ける必要があります。
たとえば、仕事の中で、「自分は一生懸命やっているのに、なんであいつはサボってばかりいるんだ」と思ってしまうこともあるでしょう。
そんなとき、チームを組んで1つの仕事に取り組んでいるのなら厳しく注意すべきでしょうが、そうでないのなら放っておけばいいのです。
■他人を利用しない、他人に利用されない
自分自身に課していることを、他人に課してはいけない。他人に多くを求めてはいけない。ぼくはそう考えています。
重要なのは、「他人を利用しない。他人に利用されない」という鉄則を、肝に銘じておくことです。
「利用」とは「利益になるように用いる」という意味。他人を利用するということは、「自分の利益になるように他人を使う」「自分にはできないことを他人にやらせる」ということで、「自分にできることを他人にやらせる」ことにもつながります。他人にやらせたほうが楽だし、そのほうがうまくいくかもしれないからです。
そして、他人にやらせてうまくいくと、自分の力が2倍にも3倍にもなったように感じてしまう。自分は何もしていないのに、「やらせた」という快感がそんなうぬぼれを生むのです。

■利用してくる相手からは離れる
利用される側はどうでしょう。
それがウィンウィンになるのなら構いませんが、一方的に利用されていると感じるのなら、そんな相手との付き合いはすぐにでもやめるべきです。
たとえば、その相手が上司の場合でも、職域を越えたところで利用されているのであれば、遠慮せずに断ってください。
利用されることで、相手に貸しを作る、あるいは恩に着せることを狙っていたとしても、ほぼ間違いなく徒労に終わります。なぜなら、相手はあなたを道具として見ているだけで、感謝の気持ちなど持っていないからです。
あなたがうまく立ち回っても、相手はそれを自分の力だと錯覚するだけです。
■打算の関係、感謝の関係
「困ったときはお互いさま」「持ちつ持たれつ」といった関係はたしかにあります。ですが、他人を利用する、他人に利用されるという関係は、そんな助け合い精神とはほど遠い、お互いの打算の上に成り立っています。利用するほうもされるほうも、結局は自分の卑屈さに目をつぶっているのです。
最後にもう1つ。
他人を利用しないと思っていても、同じ職場の誰かに助けられていることもあるでしょう。気づかぬところで、誰かに支えてもらっていたということもあると思います。
そんなときには素直に、心からお礼を言ってください。あなたはその相手を、利用したわけではないのですから。
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漫画家
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に入社。74年に漫画家デビュー。作品に『人間交差点』『課長 島耕作』『黄昏流星群』など。島耕作シリーズは「モーニング」にて現在『会長 島耕作』として連載中。2007年紫綬褒章を受章。
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(漫画家 弘兼 憲史)
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