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なぜ知らない街を歩き回るのは楽しいのか…脳科学的にみた「ストレス解消」に役立つ4つの行動

プレジデントオンライン / 2022年8月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ThomasVogel

なぜ知らない街を歩き回るのは楽しいのか。脳科学者の毛内拡さんは「私自身、気分が落ち込んだときに、近所の知らない街をひたすら歩き回ることがある。これは脳科学的にも『ストレス解消』として正しい行動といえる」という――。

※本稿は、毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHPエディターズ・グループ)の一部を再編集したものです。

■「立ち直りが早い人」と「遅い人」の違い

人によっては、嫌なことがあってもおいしいものを食べて一晩経つとケロッとしていることもあれば、いつまでもクヨクヨとして、なかなか立ち直れない人もいます。これもある意味では個性で、どちらが良いとはいえませんが、このような違いはどのようにして生まれてくるのでしょうか。

くじけない心の働きは、レジリエンスとして知られています。つまり、人はバネのように戻る力を持っているということです。

ストレス社会を乗り越えるための秘訣(ひけつ)として、レジリエンスを高めることが謳われていますが、このレジリエンスというのは脳のどのような働きなのでしょうか。その答えはまだはっきりとはわかっていません。

ストレスというと悪いもののように聞こえますが、決してそうではありません。一定であることを好む生物本来の原理からすれば、体が応答する必要のあるものはすべてストレスということになります。

■ちょっとしたトラブルが記憶に残る脳科学的理由

極端にいえば、光が見えるとか音が聞こえるというのもストレスという言い方をすることがあります。体はそれに即座に対応して、また何事もなかったかのように戻す、あるいは次にそれが来た時に素早く対処できるように体を作り替える「適応」を行ないます。

脳にしてみると、新しい環境や未知の刺激は、命の危険を伴いかねない“ストレス”の一種です。このような状況の時は、ノルアドレナリンの放出が高まり、脳をフル回転して、覚醒状態を高め、記憶を総動員して現在の状況に対応し、この状況をしっかりと学習して次に備えようと努めます。

総じて、脳が活性化状態になるということです。たとえば、初めて海外旅行に行った時に食べたものや、ちょっとしたトラブルに見舞われた時のことはいつまでも忘れずに記憶に残っているのも、このような脳の働きによるものです。

つまり、短期的なストレスは、脳にとって良いことなので、脳の健康のためにも、正常な発達のためにも、積極的に新しいものを求めて外に出ていくのがおすすめです。

■ストレスは長期化すると脳細胞が死滅してしまう

しかしながら、問題は、このストレスが長期的に続く場合です。

ストレスに立ち向かおうとする脳内物質は、先ほどご紹介したノルアドレナリンとステロイドホルモンの一種であるコルチゾールと呼ばれる、いわゆるストレスホルモンです。これは、全身を駆け巡り、さまざまな応答を引き起こして全力でストレスに対処しようとします。その結果、さまざまな身体的な不調が生じることになります。

特に厄介なのは、このコルチゾールが長期間作用するとどういうわけか脳細胞が死滅してしまうことです。そうすると、簡単には元には戻せない状態になってしまいます。

よく知られているストレス反応は、抑うつ状態というもので、気分がスッキリしない、朝起きられない、ネガティブな気分になるというものがあります。さらに、希死念慮、つまり自殺願望が伴うこともあります。これが数週間持続する場合には、うつ病と診断されることになるのです。

■抑うつ状態で分泌が減っている脳内物質とは

抑うつ状態には、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど多くの脳内物質が関与していますが、特に、うつ病患者でセロトニンの分泌に変化が生じていることから、セロトニンをターゲットにした対症療法が主流になっています。

毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHPエディターズ・グループ)
毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHPエディターズ・グループ)

クリニックに行くと処方される抗うつ薬や抗不安薬の主成分は、本来は脳の中で過剰のセロトニンを吸収する過程である「再取り込み」を阻害する、SSRIという薬です。うつ病患者では、セロトニン分泌量が減っていることから、SSRIを服用することで、相対的にセロトニン量を増やそうという考え方に基づいています。

しかし、SSRIが効かないタイプのうつ病が存在することや、SSRIが効果を発揮するまでに数週間から数カ月かかることから、単にセロトニン量を増やせば良いというわけではないことがわかってきています。

現在では、セロトニンとは別の側面から、うつの根本的治療法について世界中の研究者が取り組んでいます。

■「わざと道に迷う」気分が落ち込んだ時の対処法

私自身は、どちらかというと、嫌なことがあっても1日経つとケロッとしているタイプの人間ですが、それでも気分が落ち込んでどうしようもない時は、近所の知らない街をひたすら歩き回って、わざと道に迷う時間をとります。

アスファルト上の矢印
写真=iStock.com/Zbynek Pospisil
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zbynek Pospisil

家にたどり着いた時にはヘトヘトになりますが、知っている道に出た時の安堵感や達成感で、満たされた気持ちになります。

先の例でいうと、あえて別のストレスを与えることで、脳を活性化するということなのかもしれません。

それでもどうしようもない時は、過去に成功体験を共にした仲間と連絡を取り合って、実現可能性などはいったん置いておいて、突拍子もない将来の夢の話に花を咲かせます。

以上が私のストレス解消法ですが、これは脳科学的にみて理にかなっているのでしょうか。検証してみましょう。

■脳内物質の放出を高める4つの行動

脳内物質の観点からいうと、歩く・走る・咀嚼するなどのリズミカルな運動は、セロトニンの分泌を促すといわれています。

また、動物実験からは、迷路などの探索行動やエサを探す捕食行動をする時にアセチルコリンの放出が高まったり、シータ波が上昇したりするといわれています。

また、旅行のような新奇体験では、ノルアドレナリンが分泌されて、ストレス応答によって、記憶や学習能力を高める効果があると考えられます。

さらに、現実から離れて、夢や将来の計画を立てている時は、期待に胸が膨らんでいる状態、つまりドーパミンの放出が高まり、やる気が高まっている状態といえるでしょう。

【図表1】脳科学的にみたストレス解消に役立つ4つの行動
筆者作成

そう考えると、私は、知らず知らずのうちに、これらの脳内物質の放出を高めるような行動をとっていたということになります。納得です。

そういえば、チンパンジーの研究でとても興味深いものを目にしました。ある難しい課題をチンパンジーに与えると、そのチンパンジーは、過去に協力的だった仲間を選んで、また一緒にその課題に取り組もうとする傾向にあるのだそうです。

なんと、私もチンパンジーも考えることは一緒なのですね。

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毛内 拡(もうない・ひろむ)
脳神経科学者
1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員等を経て2018年よりお茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を行っている。主な著書に、第37回講談社科学出版賞受賞作『脳を司る「脳」』(講談社)、『ここまでわかった! 脳とこころ』(日本評論社)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHPエディターズ・グループ)など。趣味は道に迷うこと。

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(脳神経科学者 毛内 拡)

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