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自転車、野菜、ストロベリー、手押し…普通の人には意味不明だが「薬物乱用者」にはわかる危険な言葉

プレジデントオンライン / 2022年8月2日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

なぜ薬物犯罪はなくならないのか。元厚生労働省麻薬取締部部長の瀬戸晴海さんは、「ネットでは、未成年者を含め誰もが気軽に薬物を購入できる。SNSや掲示板では、摘発をかいくぐるため、親世代には意味のわからない隠語や絵文字を使った売買が行われている」という。その実態を瀬戸さんの新著『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)より紹介する――。(3回目)

■Twitterで繰り広げられる薬物売買の実態

ネットにおける密売の実態について、いくつか分かりやすい写真(一部加工済み)をお見せしながら解説しましょう。まずは写真1をご覧ください。

【写真1】ツイッターのスクリーンショット
【写真1】(『スマホで薬物を買う子どもたち』より)

これはツイッター上に掲載された、オーソドックスな大麻の販売広告です。「野菜・手押し」で検索すると、こういった広告が無数に登場します。先頭に「#(ハッシュタグ)」を付けて検索するとよりピンポイントで広告にたどり着きます。まずは、このメッセージを読み解いてみましょう。

一見して分かるのは、投稿されたメッセージのなかに、「大麻」や「マリファナ」という直接的な表現が存在しないことです。ご覧の通り、すべて隠語で記されています。

最上段の〈smoke○○〉は、この業者のアカウント名(出品者名)。その下に〈テレグラムまでお願いします〉とあります。続いて、テレグラムのID〈ID@smoke……〉が記されている。最近では、あえてテレグラムという言葉も使わずに、IDのみ付記する場合もあります。

こうした取引において秘匿性の高いアプリでやり取りすることはすでに常識となっており、薬物売買に慣れた客はこのメッセージを見るだけですべてを理解できるわけです。

■「ストロベリー」、「AK47」が意味すること

それ以降の内容について触れていきましょう。〈ストロベリーog〉とは大麻のブランド銘柄を指し、欧米のプロ栽培者(グロアー)によって品種改良された大麻の一種です。学術的に命名されたものではありませんが、大麻業界ではひとつの品種名として知れ渡っています。

この「ストロベリーog」以外にも、大麻には「ブルーベリー」「オレンジクッシュ」「マスタークッシュ」「ハワイアントップ」「シルバーヘイズ」「スーパーレモンヘイズ」「ホワイトウィドウ」「パイナップル」「ゴリラグルー」「M3」「AK47」など、非常に多くの“ブランド品”が存在します。

こうしたブランド品は、いずれも、大麻草に含まれる幻覚成分「THC(テトラヒドロカンナビノール)」の含有濃度が高くなるよう改良されたもの。

ただ、使用した際のリラックス感や陶酔感をもたらす効果には少しずつ違いがあるようです。喩えるなら、トマトや柑橘類の改良に近いでしょうか。農家ではより風味が良く、甘みや旨味の高いものが研究・開発されていますが、これは大麻の栽培においても同様なのです。

余談ですが、「AK47(エーケーフォーティーセブン)」という大麻の名称は、旧ソビエトの自動小銃「カラシニコフAK47」に由来するとされます。自動小銃の強烈な威力にあやかってネーミングされたと聞きますが、それだけ幻覚やリラックス効果が強い大麻ということでしょう。うまく名付けてはいるものの、よく考えれば恐ろしい名称です。

さらに下に記載された〈リキッドlong〉というのは、近年、アメリカなどから頻繁に密輸される、精製した大麻オイルの別称です。カートリッジに充填(じゅうてん)されて販売され、電子パイプ(ヴェポライザー)で吸煙するのが一般的です。これは効き目が強烈な上、大麻特有の匂いもほとんどなく、それこそ、隣で吸煙されても一般的な電子タバコと判別がつかない厄介な代物です。「long」とあるのは、ロングカートリッジを販売しているという意味でしょう。

■急性中毒に陥るものも売られている

大麻オイルと似たものとして「ワックス」が挙げられます。皆さんも、自宅で鍋料理をする際や、キャンプでの調理に“簡易コンロ”を使うことがあると思います。そこで用いるカセットガスボンベに込められているのがブタンガスです。これを使用してTHCを濃縮したというものが「ワックス」と呼ばれます。「ワックス」は粘状で、精製度を上げれば蜂蜜色になるところから「ブタン・ハニー・オイル(BHO)」とも呼ばれます。

さらに、「エディブル(edible)マリファナ」と呼ばれる食用大麻もあり、チョコレートなどの中に高濃度のTHCが混ぜられている。このチョコ1枚をたいらげると急性中毒で意識混濁してしまうほど危険なものです。

また、投稿メッセージには〈罰〉という言葉もあります。これはMDMA錠剤のこと。2019年に著名な女優がこれを所持していたことで逮捕されたのは記憶に新しいところかと思います。

MDMAはエクスタシー、XTC、エックス、X、錠剤、タマ、モリー(粉末状でカプセル入りのもの)、バツ(Xをカタカナに読み替えて)、×(バツを記号に読み替えて)、罰(バツを漢字に読み替えて)などの隠語で呼ばれることが多く、ここでは「罰」が使われています。

また、MDMAにはさまざまなブランドのロゴマークが(もちろん、無許可で)刻印され、その名称で呼ばれることも珍しくありません。たとえば〈“三菱”入荷しました〉との投稿があれば、「(スリーダイヤ)」のロゴが刻印されたMDMAを販売していることになります。

ゲームのキャラクターが彫られることもあり、最近では「スーパーマリオ」シリーズに登場する人気キャラの「ワリオ」型のMDMAが出回っています。その横の〈ブルーベリー〉は先述したように、ブランド大麻のひとつ。そして、〈手押し〉は“手渡し”という意味で、地域を限定して配達・直取引が可能ということを示しています。

■違法薬物の受け取りは郵送も可

大麻ではなく、「覚醒剤」の販売広告では、写真2のように、隠語の「アイス」が使われます。

【写真2】スクリーンショット
【写真2】(『スマホで薬物を買う子どもたち』より)

たとえば、〈グラム 35000円〉と書かれていれば「1グラムで3万5000円」、〈ハーフ 20000円〉なら「0.5グラムで2万円」を意味します。〈道具ハーフから1本サービス(2本目から1000円頂きます)〉の場合は、〈0.5グラム購入の方には注射器1本サービスします。2本目からは1本1000円で販売します〉ということです。

覚醒剤の注射使用には、医療機器であるプラスチック製の使い捨て1cc用の注射器が使われます。これが卸ルートのなかで横流しされ、覚醒剤と一緒に1本1000円前後で販売されている。

注射器を指す隠語は「道具」のほか、「ポンプ」や「p(ポンプのp)」といった隠語が使われます。〈都内、新宿中心〉などの地名は、〈配達(手押し)〉可能地域を指しています。〈郵送も可〉は読んで字の如しで、客に代金の振込口座を教えた後、入金を確認してから指定先にブツを郵送することもできるということです。

密売に用いられる口座は大半が借名口座(他人名義の口座)。郵便は局留めも可能で、宅配便の場合は営業所留めにも応じるはずです。

■薬物乱用者しか知らない絵文字の意味

写真3に目を転じると、そこにはさまざまな“絵文字”が並んでいます。

【写真3】スクリーンショット
【写真3】(『スマホで薬物を買う子どもたち』より)

これが最近のトレンドです。左端の「(アイスクリーム)」は覚醒剤。つまりは、「覚醒剤=アイス」の隠語にひっかけた絵文字なのです。それでは、その隣の「(自転車)」が何を指すか分かりますか。

自転車は俗に「チャリンコ」あるいは「チャリ」と呼ばれます。そして、ここで言う「チャリ」とはコカインの隠語。ハリウッド俳優のチャーリー・シーンがコカイン所持容疑で逮捕されたことに由来するとされます。要は、チャーリーからチャリという語呂合わせなのですが、本人が聞いたらショックを受けるかもしれません。

同じく、「(鼻)」もコカインの隠語です。コカインは鼻孔から吸引する“スニッフィング”が主流なので、この絵文字がシンボリックに使われているのでしょう。

また、「(虹)」は、幻覚剤・LSDのこと。視界が極彩色のサイケデリックな世界に包まれることから虹の絵文字が用いられます。LSDは、その溶液を染み込ませた約6ミリ四方の紙片が流通しているため、「紙」という隠語も使われ、「(紙)」で表示されることもあります。その右横の「(ブロッコリー)」は「野菜」の意味で、大麻を指します。たまに「八百屋」という単語も目にしますが、これは“野菜を販売する業者”、つまりは大麻の密売人です。

MDMA(錠剤)は、「(バツ)」が表示され、粉末型のMDMAは「(カプセル)」。大麻リキッドは、液体の入ったボトルを意味する「(試験管)」や「(蜜つぼ)」が使われます。「(キノコ)」はマジックマッシュルーム(幻覚キノコ)で、注射器の場合はそのものズバリ「(注射器)」をよく見かけます。

このように、ネット上の隠語や絵文字は日々複雑化し、密売人との連絡にはほとんどの場合、テレグラムなどの秘匿アプリが使われます。私たち中高年にはとても解読できない記号でも、デジタルネイティブの若者たちはすぐに理解してしまう。

■密売人は「押し」の言葉で検索している

もう1枚、写真を紹介します。これは客からの投稿です。

【写真4】スクリーンショット
【写真4】(『スマホで薬物を買う子どもたち』より)

〈8月31日に都内 千代田区辺りで、お野菜手押し出来る方探してます!〉〈都内で、信用高いpさんいましたらご紹介くださいませ‼〉と書かれていますね。

ここまでの内容をご理解頂いた読者の皆さんであれば、〈8月31日、千代田区内で大麻を手渡し(直取引)してくれる人を探しています〉〈都内で信用できる密売人さんを紹介してください〉という意味になることは容易に想像がつくはずです。

「pさん」とはプッシャー(pusher)、つまり密売人を指します。アメリカを筆頭に英語圏で使われるスラングで、『Pusher(麻薬密売人)』というタイトルの犯罪映画をご存知の方もいるかもしれません。

■取引が行われるのは駅前や、コンビニの駐車場

これ以外に、〈今、渋谷のモアイ像です、30分以内に罰と野菜、押していただけるpさんいませんか〉〈六本木にいます。チャリのpさん押してください〉〈業販(卸販売)押してくれる野菜のpさんいませんか。毎週金曜日100g引けます〉といった投稿も。

「手押し」は略して「押し」とも呼ばれ、ツイッターをくまなくチェックしている密売人たちは、こうした書き込みを見つけては商売用の携帯電話の番号を伝えたり、テレグラムなどに誘導したりします。

その後、客と商談を進めながら“ブツ”の配達に出向くわけです。携帯電話で連絡する場合、密売人たちが使用しているのは商売用の「とばし携帯(他人名義)」であることは言うまでもありません。

瀬戸晴海『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)
瀬戸晴海『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮新書)

薬物の取引といえば、繁華街の路地裏に強面(こわもて)の売人がやってきて、辺りを気にしながらコソコソと取引するイメージが強いと思います。

けれども実際には、どこにでもいる大学生のような若者が「どうも~」といった感じでやってきます。「はい、どうぞ。それとこれ、サービスね。じゃ、またお願いしま~す」。

一方、客の側も現金を渡しながら「サンキュー、また頼むかも」と簡単な会話を交わすだけで取引は終了です。

取引場所は駅前や、コンビニの駐車場など千差万別ですが、私たちが逮捕した密売人のなかには、麻薬取締部の斜向かいの路上で堂々と取引していた者もいました。

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瀬戸 晴海(せと・はるうみ)
元関東信越厚生局麻薬取締部部長
1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒業。1980年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。薬物犯罪捜査の第一線で活躍し、九州部長等を歴任。2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。2018年3月に退官。2013年、2015年に人事院総裁賞受賞。

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(元関東信越厚生局麻薬取締部部長 瀬戸 晴海)

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