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「赤ワインは体にいい」は本当か…医師が示す酒好きには残念な研究結果

プレジデントオンライン / 2022年8月10日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rostislav_Sedlacek

お酒には体にいい、または体に悪いという、さまざまなウワサがある。内科医の名取宏さんは「お酒は体にいいとはいえない。きちんとリスクを承知したうえで飲んでほしい」という――。

■血液中の尿酸が多いと病気の原因に

とにかく暑いですね。みなさま、熱中症にお気をつけください。さて、こう暑いとビールが飲みたくなる人も多いでしょう。かくいう私も、よくビールを飲みます。家庭菜園で採れた枝豆でビールを一杯やるのは最高です。ただ一つだけ気がかりなことがあります。私の尿酸値は、わずかですが正常域を超えているのです。

尿酸は、プリン体という物質が分解されてできます。血液中の尿酸が多いとさまざまな病気の原因となります。有名なのは痛風ですね。関節に尿酸の結晶がたまって炎症が起きることで、関節が激しく痛みます。足の親指の付け根が好発部位ですが、足首や手首、膝や肘の関節にも起こることがあります。尿酸が原因の病気は痛風だけではなく、尿の通り道に尿酸の結晶ができると尿路結石です。慢性腎臓病や心血管疾患との関連も指摘されています。

昔から「ビールはプリン体を多く含んでいるから、高尿酸血症や痛風に悪い」と言われてきました。尿酸値が高い人は、ビールをあきらめるべきでしょうか。一方でビールは悪くないという説もあります。「プリン体は体内でも作られていて、食べ物や飲み物由来のプリン体は2~3割ほどに過ぎず、しかも重量あたりのプリン体の量は肉や魚のほうが多いから、ビールをあきらめる必要はない」というものです。どちらが正しいのでしょう。

■ビールが「痛風」に悪いのは本当か

さまざまな研究からわかるのは、ビールが痛風によくないのは否定しがたい事実であるということです。食品と高尿酸血症・痛風の関連を調べた多くの研究において、ビールをはじめとしたアルコール飲料と、高尿酸血症・痛風のリスクの上昇の関連が示されています。複数の研究を統合したメタ解析でも、尿酸値上昇への影響が最も大きかった食品はビールと、ウイスキーや焼酎、ウオッカなどの蒸留酒だとされています(※1)

蒸留酒には、ビールほどのプリン体は含まれていませんが、それでも尿酸値を上げます。時に「焼酎にはプリン体が含まれていないので、痛風でも大丈夫」といった話を聞きますが誤りです。さらにビールや蒸留酒に比べ、ワインは相対的にはマシですが、それでも高尿酸血症との関連はあります。アルコールそのものに、体内での尿酸合成を促進したり、排泄を阻害したりする作用があるからです。

このようにお酒の種類にかかわらずアルコールは高尿酸血症や痛風に悪影響を与えるものの、各ガイドラインでは必ずしも禁止されておらず、飲酒量を控えることや休肝日を設けることが推奨されています。適量はおおむね、ビールなら500mL以下、日本酒なら180mL以下です。ビールをあきらめなくてもよさそうです。

※1 Evaluation of the diet wide contribution to serum urate levels: meta-analysis of population based cohorts

■飲酒の楽しみvs痛風のリスク

ただし、適量のアルコールなら絶対に安全というわけではありません。適量であっても尿酸値が上がったり、痛風発作が起こったりすることもあるでしょう。高尿酸血症のことだけを考えると、アルコールは飲まないほうが無難です。私は、新型コロナの流行で飲食店がお酒を提供できない時期に、プリン体やアルコールを含まないノンアルコールビールを試したのですが、これもなかなかおいしいものです。企業努力によっていろいろと選択肢が増えるのはありがたいことです。ノンアルコール飲料に切り替えたほうが安心だろうとは思います。

でも、人生の目的は痛風にならないことだけではありません。飲酒の楽しみと痛風のリスクを天秤にかけ、飲酒の楽しみを取ってもいいでしょう。それは個人の選択です。正直に言いますと、私自身も週に2回の休肝日は設けているものの、飲酒量はときどき適量を超えることもあります。ただ、こういった価値観は、私が無症候性高尿酸血症にとどまっているから言っていられることかもしれず、もしも将来的に痛風発作を経験すれば、飲酒をしないほうがいいと考え方を変えるかもしれません。痛風発作の痛みは激しく、「風が吹いても痛い」のが「痛風」の由来だと言われているぐらいだからです。

グラスに注がれた複数種のおいしそうなクラフトビール
写真=iStock.com/Ridofranz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ridofranz

■「赤ワインは体にいい」説の真相

他にもお酒に関しては諸説があります。一時期「赤ワインは体によい」という説がはやりました。「フレンチパラドクス」といって、フランス人は動物性脂肪をたくさん摂取するわりに心血管系疾患が少ないという現象が知られています。そのためフランス人が多く消費する赤ワインに豊富に含まれるポリフェノールなどの抗酸化物質が心血管疾患に予防的に働くのではないか、という仮説が提唱されました。

まだ明確な結論は出ていませんが、少なくとも赤ワインをたくさん飲めば心血管疾患になりにくいという単純な話ではないのは確かです。適量の赤ワインを消費している人に心血管疾患が少ないという観察研究はあるものの、赤ワインが病気を予防しているとは限りません。たとえば、赤ワインを好む人に野菜や果物をよく食べる傾向があれば、赤ワインそのものに健康へのプラス効果がなくても、赤ワインを飲んでいる人に病気が少ないように見えます。観察研究には一定のバイアスが入るのは避けられません。

一方、薬の臨床試験のように、赤ワインを飲む群と飲まない対照群をランダムに分け、心血管疾患の発生率に差があるかどうかを調べることができれば、赤ワインの心血管系疾患への予防効果を検証できます。

■赤ワインと白ワインを比較した研究

食品のランダム化比較試験は少ないのですが、赤ワインと白ワインを比較した試験はあります。チェコ共和国の研究で、健康な成人157人をランダムに赤ワイン群と白ワイン群にわけ、1日200mL~300mLのワインを1年間飲んでもらい、HDLコレステロール値(いわゆる善玉コレステロール)などの動脈硬化の指標となる検査値を比較しました(※2)。対照群が白ワインなのは、アルコールではなく、白ワインには少ないけれども赤ワインには多く含まれるポリフェノールなどの物質の影響を知りたいからで、心血管疾患の発生率ではなく検査値で代理したのは疾患の発生は少なく小規模研究では差が見えにくいからです。

その結果、有意な差は観察されず、「赤ワインをたくさん飲めば心血管疾患になりにくい」という仮説に否定的でした。酒飲みとしては残念ですが、医師としては「1年間ぐらい赤ワインを飲んだところで、差が出るほどの健康へのプラス効果はなさそうだ」という新しい知見が得られたのはよかったと思います。また赤ワインの成分をサプリメントにして摂取するという臨床試験もいくつか行われていますが、これといった結果は出ていません。ほかのお酒と比べて赤ワインが体にいいとは言えないようです。

「赤ワインは体によい」という仮説もそうですが、「お酒の健康効果」に関する研究は、酒造メーカーなどがよく紹介しています。そのような研究があるのは事実ですし、企業努力の一貫として当然のことでしょう。でも消費者に届けられる情報が偏っている可能性があるため注意が必要です。

※2 Red or white wine consumption effect on atherosclerosis in healthy individuals (In Vino Veritas study)

あなたの好きな飲み物は?
写真=iStock.com/LauriPatterson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LauriPatterson

■お酒を「チャンポン」で飲むとダメ?

その他にも、お酒に関するランダム化比較試験には興味深いものが多いです。ビールの後に日本酒やハイボールを飲むといった、お酒を「チャンポン」で飲むと悪酔いしやすいと言われますが、ヨーロッパにも似た格言があるそうです。意訳すると「ワインもビールもいいが、両方はダメ」という感じでしょうか。飲む順番についても「ワインの前にビールを飲むと気分がよくなるが、ビールの前にワインを飲むと悪酔いする」という格言があります。なんと、これをランダム化比較試験で検証した研究があるのです。

ドイツの研究で、健康な成人105人がグループ1、グループ2、対照群の三群にランダムに分けられ、90人が試験を完了しました(15人は脱落などで解析から除外)(※3)。グループ1はビールを先にワインを後に飲む日があり、1週間以上を空け、ワインを先にビールを後に飲む日があります。グループ2は逆にワインを先にビールを後に飲む日があり、1週間以上を空け、ビールを先にワインを後に飲む日があります。対照群は、ワインだけを飲む日、ビールだけを飲む日があります。研究日には呼気のアルコールが一定濃度に達するまで飲み、翌日に8項目の複合スコア(喉の渇き、倦怠(けんたい)感、頭痛、めまい、吐き気、腹痛、頻脈、食欲不振)で評価した二日酔いの重症度を比較したのです。

その結果、有意差は観察できませんでした。つまりビールを先に飲もうが、ワインを先に飲もうが、はたまたチャンポンではなく単独で飲もうが、二日酔いの重症度に大きな影響はなかったのです。当たり前のようですが、こうして検証することは大事なことです。日本でこうした研究が行われるなら、被験者として医学の進歩に貢献したく思います。

※3 Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarm matched-triplet crossover trial of beer and wine

■そもそも酒は「百薬の長」ではない

昔から「酒は百薬の長」という言葉があるように、適量のお酒ならかえって体によいという説もあります。実際、過去の報告では、まったくお酒を飲まない人と比べて、少量のお酒を飲んでいる人のほうが死亡率が低いという研究もありました。しかしながら解釈には注意が必要で、低い死亡率の原因が適量飲酒とは限りません。たとえば、病気がちなために禁酒している人が研究対象に含まれると、見かけ上、非飲酒群の死亡率が上がり、適量飲酒が健康によいかのような誤った結果が出ます。

健康上の理由で禁酒している人をあらかじめ解析から取り除くなど、バイアスを減らすことで結果は変わります。最近、適量飲酒でも健康にプラスの効果は観察できないという大規模な研究が報告されました(※4)。専門家の間では議論があるところで、適量飲酒の効果は確実とは言えません。一方で適量を過ぎると体に悪いことは確実です。現在、飲酒していない人が、健康効果を期待してわざわざ少量の飲酒を始めるべきではありません。健康のことだけを考えると、お酒は飲まないほうが望ましいのです。

少量飲酒であってもリスクがあるかもしれないことを承知したうえで、私はお酒を飲んでいます。適量飲酒は体によいなんてことがなくても、私にとってはリスクに見合うだけのおいしさ、楽しさがお酒にはあります。お酒をできるだけ長く楽しむためにも、適量にとどめ、体重管理や運動などの他の健康習慣でカバーしようと思っています。

※4 Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016

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名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。

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(内科医 名取 宏)

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