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「体外受精の妊娠率70% vs. 33% ?」成功率を左右する子宮内フローラの整え方

プレジデントオンライン / 2022年8月7日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/image_jungle

国内における2019年の総出生数は86万5239人。そのうち体外受精で生まれた子どもは過去最多の6万598人。14人1人が体外受精で生まれている計算になる。体外受精の成否を分けるものは何なのか。山王病院の婦人科医、久須美真紀医師は、「子宮内の菌環境(子宮内フローラ)が乱れていると、体外受精の成功率が下がることがわかってきた」という――。

■無菌状態と考えられていた子宮にも「菌」が存在していた

これまで体外受精の成否を左右するのは、受精卵(胚)の質と考えられてきましたが、子宮内の菌環境(子宮内フローラ)も影響することがわかってきました。

2015年に発表された米ラトガース大学の研究によると、これまで無菌と考えられていた子宮内にラクトバチルスという乳酸桿菌が存在することが明らかに。さらに、2016年の米スタンフォード大学の研究では、子宮内フローラ(子宮内の菌の環境)の乱れによって、体外受精の成功率が下がることが発見されました。

われわれの患者さんでも体外受精で良好な受精卵(胚)を子宮に戻しても、なかなか妊娠に至らないケースがありました。子宮内膜に慢性子宮内膜炎があると、妊娠率が低下することがわかってきたのです。

慢性子宮内膜炎とは子宮内膜に軽度の炎症が持続的に起こる病態です(※)。原因ははっきり解明されていませんが、何らかの原因で子宮内の菌のバランスが乱れ、病原性の細菌が増殖することで起きると考えられています。子宮内膜を受精卵が着床できる状態に成熟することを阻害したり、病原性の細菌を倒すために免疫が活性化し、受精卵も「敵」とみなして攻撃してしまうことが、妊娠を妨げている可能性が指摘されています。

(※)子宮以外(卵巣や腹膜など)の場所に子宮内膜組織が増殖・剝離する「子宮内膜症」とは異なる

慢性子宮内膜炎は自覚症状がなく、内膜の組織を採取して炎症の有無を調べる検査をして初めて発覚するケースも多いのです。胚移植を2〜3回行っても妊娠に至らない人や以前の妊娠で前期破水して分娩までに時間が経過した人、産褥熱が出た人などは、次の妊活前に慢性子宮内膜炎の検査をすすめています。また、妊娠・出産を機に子宮内の菌環境がガラリと変わることも多いので、2人目不妊が気になる人も一度検査しておくと安心です。

■子宮内にラクトバチルスが多いほど妊娠率が高まる

子宮内の理想的な菌のバランスは、善玉菌であるラクトバチルスが90%以上を占めている状態と言われています。ラクトバチルスは細菌性膣炎や性感染症、慢性子宮内膜炎などを引き起こす細菌の活動を抑えて子宮内環境を整える役割があり、ラクトバチルスが多ければ多いほど妊娠しやすいのです。腸内フローラは多様性があるほど健康的とされていますが、子宮内フローラは、逆に多様性に乏しいほうがいいのです。

胎児の超音波写真
写真=iStock.com/Sofiia Petrova
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sofiia Petrova

実際、子宮内フローラの90%以上をラクトバチルスが占めている女性と、そうでない女性の妊娠率・生児獲得率を比べたデータがあります。妊娠率は子宮内フローラ正常群が70.6%、異常群が33.3%、生児獲得率は子宮内フローラ正常群が58.8%、異常群が6.7%と大きな開きがあります。

子宮内ラクトバチルスの妊娠・出産への影響

■不妊治療現場での子宮内フローラ検査の活用法

子宮内にどんな菌がどれくらいの割合でいるのかを調ベるのが、「子宮内フローラ検査」です。われわれもこの検査を取り入れていますが、医師が子宮体がん検査と同様の器具を使い、子宮内膜上の粘液を採取し、ゲノム検査会社に送って調べます。

子宮内はもともと菌自体の数が少ないため、これまで無菌状態だと考えられてきたのですが、この検査では解析が困難とされていた子宮内の菌叢を網羅的に調べることができます。

どんな菌がどれくらいの割合でいるのかが詳細にわかると、従来の検査ではわからなかった不妊原因がわかったり、着床に適した子宮内環境を整えたりする判断材料になります。また、慢性子宮内膜炎の治療で抗菌剤を使う際にも、菌の種類が特定できるので効きやすい抗菌剤が選択できるメリットもあります。

われわれの施設ではなかなか妊娠しにくい人に子宮内フローラ検査をおすすめしていますが、妊活前にスクリーニング検査として取り入れている施設もあるようです。

慢性子宮内膜炎検査と子宮内フローラ検査を併用するとさまざまな利点があります。慢性子宮内膜炎の検査は炎症の有無を調べる検査なので、炎症を引き起こした菌を特定することまではできません。よって、炎症があれば抗菌剤を投与しますが、そのときに善玉菌のラクトバチルスまで殺菌されてしまいます。

子宮内フローラ検査を行うと、良くない菌が認められたとしても、全体的な菌のバランスがそれほど悪くなければ、抗菌剤を使わず、ラクトバチルスの腟錠を入れたり、ラクトバチルスの餌となるラクトフェリンのサプリメントを摂取したりして、善玉菌を増やすアプローチで子宮内環境を整えることが可能になります。それによって、過剰な抗菌剤の投与を避けられるケースもあります。

■更年期以降になると子宮内フローラが乱れる

妊活領域以外では、更年期になってエストロゲンが不足すると、腟内のラクトバチルスが減ってしまうことがわかっています。ラクトバチルスは乳酸をつくり出して腟内を酸性に保ち、雑菌の侵入を防いでいますが、更年期以降になるとラクトバチルスが減って腟の自浄作用が低下し、細菌性腟炎が起こるケースも増えます。ニオイの原因にもなると考えられます。気になる人は、腟内の検体を自己採取して、子宮内フローラを予測するセルフ検査キットもあるので、そうしたものを活用してみてもいいでしょう。

多様な発酵食品
写真=iStock.com/SB
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SB

普段の生活では、腸活を行うと子宮内フローラも整うと言われています。食生活では発酵食品をとるように心がけ、ラクトフェリンのサプリメントなども活用するといいでしょう。

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久須美 真紀(くすみ・まき)
産婦人科医
山王病院 リプロダクション・婦人科内視鏡治療部門副部長兼培養室長。日本産科婦人科学会産婦人科専門医。

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(産婦人科医 久須美 真紀 構成=中島夕子)

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