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「離乳食の開始を遅らせてもアレルギー予防はできない」小児科医が警鐘を鳴らす、危険な「育児デマ」

プレジデントオンライン / 2022年8月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrey Zhuravlev

ちまたに広まる医療情報と同じく、育児情報も玉石混交だ。小児科医の森戸やすみさんは「育児デマに困っているお母さん、お父さんがたくさんいる。正しい情報を届けたい」という――。

■育児の正しい情報を伝えたい

世の中には医療や健康に関する情報があふれていますが、医学的根拠のあるものとないものが混在しています。迷信が広まったり、根拠のない健康法が生まれては消えたり、そしてリバイバルしたりすることも。「長生きしたいなら○○をしなさい」「健康になりたいなら○○をするな」と相反することが言われたり、本になって書店に並んだりもします。根拠のない「健康法」や「治療法」のなかでも命に関わるものに対しては、心ある医師が警鐘を鳴らしたり、消費者庁や厚生労働省が法律に基づく措置命令を出したり、注意喚起をしたりしている状況です。

実は育児に関する情報(小児医療を含む)も同じような感じです。医学的根拠のある育児情報もありますが、根拠の定かではないものも多々あります。根拠のない育児情報のなかには、古くから伝わる民間療法や言い伝えなどの迷信もあれば、ビジネスのために新しく作り出された育児法もあるようです。前者には「ハイハイをするほど足腰が強くなる」など、後者には「オーガニック食品はアレルギーを起こさない」などがあります。前者のようにさほど害がないものもありますが、後者のように健康被害が出かねない困ったものもあるわけです。

私は小児科医として日々診療するなかで、そういった医学的根拠のない育児デマに悩まされている多くのお母さんやお父さんに出会い、「その説は嘘ですよ。気にしなくて大丈夫です」などと説明してきました。さらに、あまりに度々そういう機会があるので、具体的な育児デマを挙げて解説し、正しい育児情報を伝えるためのブログを書いていたところ、こうして書籍やウェブの記事を書いたりするようになったのです。そこで、今回は改めて子育て関連のデマの話をしようと思います。

■育児デマは子供を危険にさらす

では、なぜ育児デマは問題なのでしょうか? まず何よりも子供を危険にさらすからです。例えば「子供の食物アレルギーを予防するには、離乳食の開始時期を遅らせるといい」という説があります。でも赤ちゃんが生後5〜6カ月ごろになると、母乳や育児用ミルクだけでは栄養が足りなくなるため、その頃には離乳食を始める必要があります。それに離乳食を遅らせてもアレルギーを予防することはできません。

さらに「代表的アレルゲンは遅く与えたほうがいい」という説もありますが、これも間違い。そもそも日本で食物アレルギーの原因になることの多い卵、乳製品、小麦、ピーナッツ、蕎麦などは「心配だからもう少し大きくなってからにしよう」と考える保護者が多いようです。ところが、実は代表的アレルゲンなどの特定の食物を除去することで食物アレルギーを防ぐことはできないというのが、現在のコンセンサスです。それよりもアレルギーの原因となる物質が皮膚から入らないよう、顔や体に食べ物がついたら小まめに拭く、肌荒れがあったら早く治すことが大切です。そして食事では、アレルギー反応が出なければ多彩な食品を摂るようにしましょう(※1)

とにかく子供はバランスのよい食事を十分に摂る必要があります。例えば、「ヴィーガン食は子供にもよい」という説もありますが、子供が完全菜食を行うと、ビタミンB12欠乏症によって嘔吐(おうと)や汎血球減少症が起こったり、ビタミンB欠乏症によって「くる病」になったり、精神神経発達に異常を来したり、低栄養状態になったりするリスクがあるからよくありません。つまり根拠のない除去食は手間がかかるうえ、子供の健康を損ねるリスクがあります。

※1 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター「アレルギーについて」

■育児デマは親に無駄な負担をかける

さらに育児デマは、親の心身の負担を増やします。例えば、赤ちゃんが母乳を飲みたがらない、母乳の分泌量が足りない場合に「お母さんの食事が悪くて母乳がまずいから飲みたがらないんだ」と暴言を吐かれたり、「母乳がよく出るように和の粗食にしなさい」などと強く勧められたという話を聞いたことがありませんか? 本当によく聞く話なのですが、この説には根拠がありません。母親が摂った食事がそのまま母乳になるわけではありませんし、まずい母乳の判定基準は不明です。粗食を食べたら母乳がよく出るということもありません。医療者の中にも、こういう医学的根拠のない「指導」をする人がいるのは問題だと思いますが、母乳がどうやってできるのか、どうしたら分泌量が増えるのかを知らないで言っているのでしょう(※2)

「特定の食べ物を摂ると母乳の量が増える」という説も同様に、医学的な根拠はありません。日本では古くから餅や鯉を食べると母乳が増えると言われていたようですが迷信です。最近では「ハーブティーを飲むといい」と薬機法違反ギリギリの宣伝をしている会社がありますが、母乳を増やすと認められているハーブはありません。水分を多く摂ることには意味があるので、好きなものを飲みましょう。ただし、カフェインとアルコールは控えめにしてください。

このような医学的根拠のない不正確な情報は、親の子育てを大変にします。ただでさえ育児で大変なのに、なんの意味もない努力をしては徒労ですし、ますますしんどくなるでしょう。追い詰められるお母さんやお父さんもいるかもしれません。それなのに、こうした医学的に根拠のない言い伝えやデマが広まるのは、なぜでしょうか。

※2 プレジデントオンライン「『母乳の質』という言葉が出てきたら、そのサイトの質を疑うべき」(2020年4月2日)

家の廊下で赤ちゃんを抱き上げる落ち込んだ父親
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■根拠のない説が広まってしまう理由

一つは、育児デマを信じた人がよかれと思って、他の人に伝えるせいでしょう。特にどういうわけか、若いお母さんにはいろいろ教えてあげたくなる人がいるようです。街中で見知らぬ人から「子供には靴下を履かせないとダメ」などと声をかけられた経験のある女性は多いものです。逆に「子供は風の子。冬でも薄着が一番だから、靴下は脱がせなさい。暑いから」と言われることもあります。こうした求めてもいない、また根拠のないアドバイスは迷惑ですね。通りすがりに「母乳?」と挨拶のように声をかける人も実在します。母乳育児をしているかどうかを知ったところで、どうするのでしょうか。もしかしたら、その人の信じる「母乳をたくさん出す方法」を教えたいのかもしれませんが、やはり迷惑ですね。最近はSNSでも、根拠のない育児情報が発信されることもあります。

二つ目は、育児雑誌や育児書、育児サイトなどにおかしな情報が載せられるせいでしょう。例えば、どの時期に、どのような離乳食を与えたらいいかということについても、検証されることなく医学的視点のない「専門家」が監修して記事になっていることがあります。ある育児雑誌には、厚労省や多くの小児科医は勧めない「10倍がゆ」の作り方や食べさせ方などが載っていて大変残念です。同じ育児雑誌では「空間除菌」をうたう商品が勧められていたこともあり、驚愕(きょうがく)しました。空間除菌の商品については、製薬会社が宣伝するような効果が認められないため、消費者庁から景品表示法に基づく措置命令が出されています(※3)

※3 プレジデントオンライン「景表法違反の『クレベリン』も雑貨なら合法…根拠のない『健康に良い商品』の販売を止められない根本原因」(2022年7月1日)

■大量の情報が氾濫するインフォデミック

三つ目は、インターネット上に大量の情報が氾濫した状態「インフォデミック」が起こるためです。特に「危険だ」という情報は、見聞きした人が善意や義務感に後押しされるため、根拠があやふやだったり誤解だったりしても広まりやすいのが特徴です。そうなると正確な情報にたどり着くのが困難になり、手間や時間などのコストがかかってしまいます。

新型コロナワクチンに関しても、このインフォデミックが起こったのは記憶に新しいところです。新しいものへの不安から「子供には新型コロナワクチンの効果はないし、むしろ危険だから打たないほうがいい」というデマがSNSで広まりました。新型コロナワクチンは、子供が接種した場合も感染予防効果と重症化予防効果がありますし、危険性は否定されています(※4)。ただ、もともと子供は重症化することが少ないため、リスクとベネフィットを考えて受けましょう、ということです。

【図表1】インフォデミックが起きるまで

四つめに、デマをビジネスにつなげている人、ビジネスのためにデマを広めている人が存在するためです。「医療に頼らず病気を治せる」という触れ込みで、自分の商品やサービスを売る人がたくさんいます。2015年には自称祈禱(きとう)師の男性が1型糖尿病の子供の母親に「インスリンは毒」「従わなければ助からない」などと言ってインスリンを投与させずに死亡させ、最高裁判所が殺人と認定しました(※5)。そのように「ステロイド、ビタミンK2、薬全般、ワクチン、母子手帳などはよくない。あなたたちは騙されている。代わりにこの商品(サービス)を買いなさい」と勧めるビジネスは多数あります。今はSNSでコミュニティーをつくり、イベントやセミナーを開催して集客し、物を売ったり民間資格を取らせたりしてマネタイズしていることもあるので注意が必要です。

※4 厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A 小児接種(5〜11歳)」
※5 朝日新聞デジタル「糖尿病男児にインスリン投与させず 最高裁が殺人と認定」(2020年8月25日)

■総務省「ニセ・誤情報に騙されないために」

こういった根拠のない言い伝えやウワサ、おかしな情報や指導、インフォデミック、悪い健康ビジネスは、どうしたらなくしていけるでしょうか。総務省が「上手にネットと付き合おう!」というサイト内で、ニセ・誤情報に関する啓発教育教材「インターネットとの向き合い方~ニセ・誤情報に騙されないために」を公開しました。すごくためになる内容なので、ぜひ読んでみてください。

総務省「上手にネットと付き合おう!」
画像=総務省「上手にネットと付き合おう!」

ここでは、なぜ私たちが間違った情報に騙されてしまうのか、理由として以下の6つを挙げています。

「人は信じたいものを選んでしまう」
「ニセ・誤情報には信じたくなる要素がたくさんある」
「ニセ・誤情報には人に教えたくなる要素がある」
「ニセ・誤情報には誰でも騙される」
「ニセ・誤情報はすばやく拡散してしまう」
「ネットのアルゴリズムやディープフェイクがニセ・誤情報を加速させている」

その通りですね。誰しも思い当たりそうなエピソードとともに、イラスト付きでわかりやすく解説されています。

そして騙されないためには「情報源はある?」「その分野の専門家?」「他ではどう言われている?」「その画像は本物?」という基本的なことをチェックするように伝えています。こういったことを実行するだけでも、情報の真偽を見分けるためにとても役立つでしょう。

さらに「医療・健康情報は安易に拡散しない」とあります。育児に関することも同様ですね。確信が持てない情報、根拠がわからない情報を周囲に広めることは控えましょう。それだけでも少しはデマが減って、安全に子育てしやすくなるだろうと思います。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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