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写真、連絡先、予定、下書き…スマホからあらゆるデータを吸い出すTikTokを米国政府が危険視するワケ

プレジデントオンライン / 2022年8月8日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/5./15 WEST

■若者に浸透するTikTokの裏の顔

中国ByteDance(バイトダンス)社の動画アプリ「TikTok(ティックトック)」の勢いが止まらない。

ダンス動画や料理、コミカルな寸劇、そして「チャレンジ」と呼ばれる各種の流行企画など、バラエティー豊かな短編動画で若いユーザーを中心に人気を博している。

ブルームバーグは6月、TikTokが今年の収益を前年比3倍となる120億ドル(約1兆6000億円)にまで伸ばしており、「ソーシャルメディアにおけるFacebookの支配を脅かしている」と報じている。

特に9歳から20歳未満の少女たちを魅了しており、こうしたユーザーは「Facebookを開こうなどとは考えない」層だと記事は指摘する。

一度見始めると止まらない中毒性も魅力だ。アプリを開くと画面いっぱいにおすすめのショート動画が表示され、気に入らなければ上へスワイプすることで、キャッチーな音楽に乗せたショート動画が次から次へと表示される。

従来のソーシャルメディアは、フォローした友人同士の限られたコンテンツを主体としていた。TikTokではアルゴリズムがおすすめ動画をセレクトし、世界中のショート映像をテンポよく視聴できる点がうけているようだ。

米データ分析企業のdata.ai社によると、中国を除く世界ユーザーの月間平均TikTok視聴時間は、2018年からの3年間で実に4.7倍に増加した。現在ではユーザー1人あたり月に19時間以上利用しており、Instagramの利用時間を75%も上回る。

急拡大中の同アプリだが、ダークな一面があるとの指摘が絶えない。

■動画機能は「羊の皮をかぶったオオカミ」

米連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員は6月24日、AppleとGoogleに宛て、両社のアプリストアからTikTokを削除するよう求める書簡を送っている。氏はまた、TikTokが「国家安全保障上の重大な脅威」をもたらしているとの報道があると指摘した。FCC全体としての指示ではなくあくまで一委員としての書簡だが、スマホ業界を実質的に支配する2大ストアから駆逐すべきという大胆な提言だ。

カー委員はツイートを通じ、「TikTokはよくある動画アプリというわけではない。(動画アプリとしての姿は)羊の皮だ。機密データを大量に収集しており、新たな報告によるとそれらは、中国からアクセスされている」と指摘している。

同委員はまた、「TikTokはユーザーのダンス動画を監視しているだけではない」と述べ、具体的に収集されているデータを挙げた。それによると、「閲覧履歴、キー入力のパターン、生体認証の識別子、下書きメッセージ、メタデータに加え、(コピー&ペーストの際に)端末のクリップボードに保存される、文、画像、動画」が収集されているという。米政府の要職者や軍関係者などの個人携帯から、重要なデータが漏洩(ろうえい)するリスクも無視できない。

公平を期すため補足するならば、送信先として挙げられている「中国」にはやや語弊がある。NBCニューヨークは、中国政府がデータを閲覧しているわけではなく、運営元の中国ByteDance社による閲覧だと補足している。

ただし、米シンクタンクの大西洋評議会の研究員は米CNNに対し、中国政府は法令に基づき中国国内の民間企業にデータ提出を命じることが可能だと指摘している。同研究員は、この法制度が根源的な懸念を生んでいるのだと指摘する。

ネットでつながるグローバルなネットワークの概念
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■ユーザーの情報を執拗に集めている恐れ

英ガーディアン紙によると、米豪のサイバーセキュリティー企業であるインターネット2.0社は、TikTokが「過剰な」データを要求し、ユーザーが許可に同意しない場合は「執拗(しつよう)に」繰り返し許可を求めてくると指摘している。iPhoneに搭載のiOSでは一定のセキュリティー機構がこの動作をブロックしているが、データ収集はAndroid端末で顕著だという。

同社が分析したところTikTokは、ユーザーの連絡先リスト、カレンダー上のスケジュール、外部ハードディスクを含むデータなどをスキャンし、さらに1時間ごとに位置情報の取得も試みているという。こうしたデータの多くは、本来は動画閲覧という目的に必要ないものであり、個人情報の過剰な収集だとの批判がある。

米軍事ニュースサイトの「ミリタリー・タイムズ」は、収集されているデータのうち、特に位置情報が安全保障上の脅威になると指摘している。仮に一定数のアメリカの兵士たちが個人のスマホに同アプリをインストールし、収集した位置情報が中国政府に渡ったならば、アメリカ軍全体としての動向が国外に漏洩しかねないとの懸念だ。

■「中国からすべてがみえる」

今年6月には、米ニュースサイト「バズフィード」による報道が世間の注目を集めた。

記事によると、同サイトは中国ByteDance社内の会議を記録した音声ファイル80点を入手し、中国の技術者が実際にアメリカ人ユーザーのデータを閲覧していたことを突き止めたという。また、同社の信頼・安全チームのメンバーは、「中国からすべてがみえる」と発言していた模様だ。ほか、ある責任者は、北京には「マスター・エンジニア」と呼ばれる技術者がおり、「すべてにアクセスできる」状態になっていると発言した。

TikTokについては2020年、当時のトランプ大統領が中国への情報漏洩への懸念を示し、アメリカ製以外のソーシャルアプリの全面禁止をちらつかせていた。これ以来TikTok側は安全性を強調してきたが、これを裏切る行為が行われていたことになる。

CNNは8月2日、事態を重く見た複数の上院議員が行動を起こしはじめたと報じている。共和党の議員グループは、TikTokのCEOに対し質問状を送付している。さらに同グループはバズフィードによる報道について、「議員たちが長年疑ってきたとおり、TikTokとその親会社のByteDanceが、アメリカの顧客データの宝庫にアクセスできることを利用し、アメリカ人たちを監視してきたことを裏付ける」ものだとコメントした。

チップセットには中国の五星紅旗がプリントされている
写真=iStock.com/MF3d
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MF3d

TikTokは現在、プロジェクト・テキサスと呼ばれる計画を進めている。米国ユーザーのデータを、米オラクル社が提供するテキサス州のデータセンターで管理し、適切なデータアクセスをアピールするものだ。しかし、地理的にアメリカ国内で保管するようになったとしても、中国からのアクセスが可能である限り、なんら安全性の向上にはなっていないとの指摘がある。

■「おすすめ動画」で広がる中国の思想

TikTokにまつわる懸念は、データの国外「流出」だけではない。逆方向にあたる「流入」の動きとして、中国政府寄りの思想がアプリを通じ、アメリカ人ユーザーのあいだに浸透するおそれが指摘されている。

テッド・クルーズ米上院議員は2020年のツイートにて、「#TikTokはトロイの木馬だ。中国共産党はこれを通じ、アメリカ人が何をみるか、何を聞くか、そして究極的にはどう考えるかに影響を及ぼすことができる」と懸念を表明している。

TikTokは推奨アルゴリズムに基づき、ユーザーが見たいであろう動画を次々と提案する。このアルゴリズムが中国共産党指導部の指示によって改変されれば、特定の思想をもった動画をアメリカで流行させることも不可能ではない。

コンテンツの不正な推奨に関する懸念は、現実のものとなったようだ。バズフィードは7月27日の記事にて、ByteDance社の元従業員の証言を報じている。これによると、同社がかつて提供していた英語版ニュースアプリ「TopBuzz」にて、アメリカのユーザー向けに親中派のメッセージを配信し、トップ付近の目立つ位置に固定していた模様だ。

この操作は上部からの命令を受けてのものであり、相当な圧力がかかっていたようだ。記事中で従業員は、「率直なところ、断れるようなものではなかったです。やらなければ、誰かが刑務所に行くことになります」と語っている。香港のデモに関する報道など、特定のニュースを米国向けTopBuzzの配信から削除することもあったという。

ByteDanceは事実関係を強く否定しているが、バズフィードはこの一件がTikTokに関しても懸念を巻き起こすものだと指摘している。

■若者の「フェイスブック離れ」は重大リスク

中国企業が仕掛けるTikTokは、アメリカ発祥の既存のソーシャルメディアが勢いを失ったタイミングで躍進し、若いアメリカ人ユーザーたちの心をつかんだ。

対照的に、米Meta社が展開する2つのプラットフォームは迷走が続いている。Instagramは動画優先の表示方式を取り入れて既存ユーザーの不評を買い、Facebookは動画機能の「リール」を投入してTikTokの後追いをはじめた。これまで米国企業が握っていた市場を中国企業が掌握しはじめたことで、米政府内には相当な焦りがあることだろう。

米ワシントン・ポスト紙などが2月に報じたとおり、バイデン政権は外国政府に悪用されるおそれのあるアプリを対象に、政府の監査権限を強化すべく検討に入った。米商務省がアプリのソースコード提出を要求できるなど、監視の権限を拡大する方針だ。

ホワイトハウスの前で反戦抗議をする人々
写真=iStock.com/E4C
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/E4C

だが、すでに若者層に浸透したTikTokは、政策ツールとしても敵視できない存在となってきている。米テックメディアの「ヴァージ」は、バイデン氏を支持するNPOが4月、中間選挙をにらんだ若者への政策アピールのために独自のTikTokアカウントを開設したと報じている。米政府としても、若者にアプローチするうえですでに無視できないコミュニケーションのチャネルとなった。

軍の動向が漏洩する可能性があるなど、TikTokは「国家安全保障上の重大な脅威」とまで考えられるようになっている。だがバイデン政権としては、すでにアプリがアメリカに根を下ろしてしまった以上、完全な敵視もできないという歯痒(がゆ)い状況に置かれているようだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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